コミックナタリー PowerPush - ファイブスター物語

あなたを永野護ワールドへと誘う 西島大介&さやわかのF.S.S.入門

神に対して人類はどう接するべきか

さやわか では最後に、そんな神に対して、我々人類ができることは何か? という話をします。たとえば永野さんに対して読者が細部を見て「ここはこうではない」とか指摘することもありますよね。

さやわか(左)、西島大介(右)。

西島 僕はそういう読み方はつまんないと思うんだ。たとえば「F.S.S.」をミリタリー的に読むと、戦車の描き方がミリタリーマンガとしてはどうなの? とか、プログレファンにしてみたら、ジャーマンプログレの名前とか使ってるけどほんとにわかってるの? とか言う人がいると思うんだよね。あとはロボットアニメのファンとかが「こんな細いデザインのロボットが動かせるわけないじゃん」とか。しかしそれは神のやっていることを、人間たちの勝手な理屈で解釈して批判してるだけだと思うんだよ。そんな批判をするよりは、もっと永野さんが驚くようなことをするといいんじゃないかな。たとえばミリタリーマニアだったら、新しい兵器を作るとか。

さやわか いや、それは限りなく犯罪に近いよ(笑)。

西島 でも、そういうことをやれば、永野さんも「おお! 負けてられない! 僕もマンガに採用してみよう」とか考えると思う。神もね、やっぱりちょっと人間のやることに嫉妬するんですよね。それもまた、アマテラスがジョーカー星団の人々を見る視点と完全に同じではありますが。

さやわか なるほど。つまり我々が神に対してすべきなのは「神に世界を飽きさせないこと」なわけですね。永野さんはクラブカルチャーがヤバい! と思えばマンガに取り入れるし、「バーチャファイター」が流行ればポリゴンすげえ! と思ってデザイン画に取り入れる。現実に触発されて「じゃあ僕も負けずにマンガを描くぞ」っていうモチベーションが上がる。つまり現実に面白いことが起こっていないとマンガを描いてくれないわけだ。

西島 だから人類にとっては、永野さんの世界に取り入れてもらえたら勝ちですね。「次のファティマスーツのデザインにきゃりーぱみゅぱみゅを入れたいな」と思わせたら、きゃりーぱみゅぱみゅの勝ち。「きゃりーぱみゅぱみゅが、永野護にマンガを描かせた!」ということになる。そうやって神を飽きさせないために現実を面白くしていくしか、我々にできることはないんですよ。応援のお便りとか送ってもあんまり意味ないと思う。たとえばね、AKB48とかが永野さんにちゃんと刺激を与えていれば今すぐ連載再開して、「48人のファティマチーム」とかがステージで踊り出したはずなんですよ。でも、それほどの刺激をまだ与えてないんだろうね。

マンガがあってよかった

さやわか しかし西島くんも「DJまほうつかい」として音楽活動してるし、興味の幅が広いし、永野さんに似たところがあるのかもね。あと「たまたまマンガを表現として選んでいる」というところも似ている。

 

西島 そうだね。僕もちょっとだけ神様パワーが使えるから。マンガ雑誌に載らずに早川書房からデビューするくらいのことはできたわけですよ。あと、読者から愛されもせず常に作者の方が上から目線でしゃべってるところは似てるのかもね(笑)。雑誌で音楽紹介とかするし。でも、僕も永野さんも結局、自分の思想をアウトプットするのにマンガにするのが向いてるんだよね。そもそも僕のマンガ「ディエンビエンフー」は「F.S.S.」に影響を受けてる。ベトナム戦争の話なんですけど、巻末に年表もある。で、物語もラストシーンから始まるんですよ。1965年から73年まで続く戦争のラストをまず描いてから始まる。これ完全に「F.S.S.」のパクリ。

さやわか 気軽に「パクリ」とか言うと必要以上に騒ぐ人がいるからやめたほうがいいよ!(笑)

西島 あとはまあ僕もちょっとしたダイバーパワー使えるから、掲載誌・月刊IKKI(小学館)の連載もずっと休載してるんですよ~。

さやわか それ、いばることじゃないけどね(笑)。

西島 でも「ディエンビエンフー」はIKKIで連載する前、1巻だけ角川から出た別バージョンがあるんだけど、自分の本に「ニュータイプ100%コミックス」ってロゴが入ったときはやっぱり震えたからね。うれしかった。神と同じステージに立てたんだ、って。

さやわか 「神」って言っても単なるファンが「僕の神様」って言ってるのと意味が違うんだよね。わかりにくい(笑)。

西島は当日、自前のTシャツに即興で「滅」の字を書き込みカイエンのコスプレで講義を行った。

西島 まあだから永野護が「ゴティックメード」を作ってる間はマンガ描かないのを批判する人もいると思うんだけど、僕は気持ちわかりますよ。僕もモーニング・ツー(講談社)で連載するより前、初めて依頼された仕事はアニメだったからね。パラパラマンガだけど、これ僕なりの「ゴティックメード」。こだわりの作画でしょ。神は気まぐれだから何したっていいんですよ(笑)。いや、ところが今回改めて「F.S.S.」を読み直してみたらさ……、「何これ、すっげー面白いじゃん!」って思ったんだよね。やっぱ、永野さんのマンガっていいなって思った。だからアニメもいいけど、読者としてはやっぱりマンガを描いてほしくなるよね。それを自分に当てはめて考えてみると、僕もそろそろ「ディエンビエンフー」を再開しなきゃなと思ったよ(笑)。やっぱりマンガが一番、自分に合ってる表現なんだよね。永野さんもマンガがあったからこそ、自分の世界をわかりやすく世に出せるし、僕らも面白いマンガを読むことができる。神様にとっても、人類にとっても、マンガっていう表現形式があって本当によかったよね。

さやわか おお、いい話っぽいまとめだ。というところで、本日は閉講!

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永野護「ファイブスター物語」
5つの星からなる星団の歴史と、モーターヘッドと呼ばれる戦闘兵器を駆る騎士・ヘッドライナーたちの活躍を描いたSFファンタジー。既刊12巻分の内容を雑誌掲載時の構成で再編集したリブート版は、目下7巻まで刊行中。
永野護「ファイブスター物語 トレーサー Ex.1」 / 2012年10月10日発売 / 1260円 / 角川書店
ジョーカー星団史上初、永野護公認のファンブックついに登場!人気クリエイター、ミュージシャン、役者、芸人がイラスト、インタビューなどで「F.S.S.」の世界を語りつくす!
劇場アニメ「花の詩女 ゴティックメード」 / 2012年11月1日公開
永野護が監督する劇場アニメ。2012年11月1日(木)より角川シネマ新宿、シネマサンシャイン池袋ほかで上映開始。
永野護(ながのまもる)

デザイナーとして「重戦機エルガイム」をはじめ、数々のアニメ、ゲーム作品などにデザインを提供。1986年から月刊ニュータイプ(角川書店)で「ファイブスター物語」を連載開始。同作は数多くのファンを獲得し、現在も連載中。2012年11月1日に、初監督した劇場ロボットアニメーション「花の詩女 ゴティックメード」が公開を控えている。

西島大介「西島大介のひらめき☆マンガ学校 マンガを描くのではない。そこにある何かを、そっとマンガと呼んであげればいい。」
表紙
2010年6月1日発売 / 1365円 / 講談社
講談社BOXが主催するマンガ家養成企画として2009年にスタート。マンガ家の西島大介、ライターのさやわかが講師を務め、公募で集めた生徒全員をマンガ家にすることを目標に授業を行なっている。「そこにある何かを、そっとマンガと呼んであげればいい」を合言葉に、マンガという概念を拡張中。授業内容をまとめた単行本1巻が発売されており、第2巻も今秋刊行予定。
西島大介「Young,Alive,in Love」1巻 / 2012年10月10日発売 / 630円 / 集英社
“あの日”から僕らは何か変わったのだろうか──。三つの巨大な湯沸し器が100年間稼働している東京都M市。ガイガー・アプリで放射能を測定するマコトと幽霊が視えるオカルト少女マナ。「視えないもの」が降り注ぐ街で、二人は恋に落ちた!大切なのは除染それとも除霊?西島大介が描くポスト3.11のLOVE&POP開幕!!