コミックナタリー PowerPush - ファイブスター物語
あなたを永野護ワールドへと誘う 西島大介&さやわかのF.S.S.入門
永野護が起こす奇蹟の数々
西島 まず、「F.S.S.」はマンガ誌に載っていない。「ニュータイプ」というアニメ誌に連載し続けていて、しかもなぜか20年以上も続いている。これは、ひらめき☆マンガ学校的にすごく大事なポイントなんです。昔ながらのやり方でマンガ家になるには、マンガ誌に持ち込んだり賞を獲って、アシスタントを経験して、読み切りが載って、連載して、ついには単行本が出る……というようなコースをたどると思うんですよ。でも永野さんはそんなことはしない。「ニュータイプ」に連載するんです。
さやわか 連載する雑誌を神として選び、神の力で掲載するページを創造しているというか……。まあ要するにかなり強引な形で載ってるんです。そういうマンガがほかになかったわけじゃないけど、これはさらに20年以上も続いてしまう。
西島 永野さんはさらに自分専用の原稿用紙まで持ってるんです。普通、マンガというのは文具屋さんで売ってるプロ用原稿用紙みたいなやつに描くんです。だけど永野さんは神だから、原稿用紙の規格を自分で作っちゃってるんだよね。その原稿用紙、自分でデザインしてるんです。判型がまずおかしくて、普通のA4とかB4とかではない。「自分の描きたいサイズに描くための原稿用紙」なんだよね。普通のマンガ家志望者だったら編集さんに「ちゃんとした原稿用紙に描いてよね」って言われて、内容も読まれずに門前払いされるとこです。だけど永野さんは神だから、いいんだよ。要するに「ニュータイプ」はもちろん、マンガというものを成り立たせる「法」を、自ら書き換えている。これは強大な能力です。
さやわか しかもですね、永野さんは自分で連載を止められるんですよ。普通のマンガ雑誌だと作者の意のままに連載を止めるなんて不可能なんですが、永野さんは「連載、ちょっと止めようかな」と思ったらピタッと止められる。これはもはや時間操作の能力と言っていい。
西島 あれは完全に神の業だね!ダイバーパワーで時を止めてる!
──はははは(何言ってるんだろうこの人たち……)。
西島 まあ「ちょっと連載を休みます」というマンガ家もいないことはないけどね。神に近いマンガ家もいるけど、やっぱり永野さんに比べるとまだ人間ですよ。
さやわか 神だから、人間の常識にとらわれない。気まぐれなわけですね。あと永野さんが特徴的なのは、自分で世界を作り出して、それを自分ひとりでワールドシェアしてるところだね。どんどん世界を作っては書き足して、自分の世界を拡張していく。「東方Project」みたいな、今どき人気のワールドシェア的なものって、普通は誰かが作った世界観をみんなが二次創作して広がっていくんですよ。だけど永野さんは自分ひとりで作ってて、正解が自分の中にしかない。だから二次創作がすごくしにくいんですよ。
創造主たる神の悲しみが描かれている
西島 こないだ発売された「ファイブスター物語 トレーサー Ex.1」っていうファンブックに僕もマンガを依頼されたんですけど、ぜんぜん描けなくて。ギリギリ頑張って神に歯向かおうとして描いたのが「すえぞう」っていうドラゴンの幼生のキャラがスカイツリーを見上げて「ヤクト・ミラージュより大きいな」って思うとか、それぐらいしか描けなかった(笑)。普通の作品のファンブックって例えばサブエピソードを描いたり、思いっきりパロディとかBLとか描いたりできると思うんだけど、「F.S.S.」はその正反対なんだよね。別のエピソードを勝手に書き足せないムードがある。
さやわか 永野さんだけが創造できる世界なので、「そんなこと起きないよ」って永野さんが思ったら、それは起きない。
西島 ただ、創造主として世界を作った永野さん自身も、その世界に抗えないところがあるんだよね。マンガ家って「自分で創りだした世界、自分で創りだしたキャラクターをどうして殺さなきゃいけないのだろう」っていう気持ちになるときがあるんですよ。恐らく永野さんもそうだと思う。さっきアマテラスは永野護だって言ったけど、「F.S.S.」の物語ってまさにそういう内容なんだよね。アマテラスは神の力を持っていて何でもできる。にもかかわらず戦争は起きるし人は次々に死んでいく。そのときアマテラスが抱く絶望は、創造主である永野さんの寂しさと同じだと思う。「F.S.S.」という物語には、その悲しみが一貫して込められているように感じますね。
さやわか そういえば、意外に大事なこととしては、永野さんがアマテラスだとするとヒロインのラキシスは奥さんである川村万梨阿さんだよね。
西島 完全にそうだよね。「F.S.S.」が劇場アニメ化された時は声優だってやってるし。自分の作品がアニメ化されて声優と結婚するのは「バクマン。」的にも究極の夢です。永野さんは神だから、マンガ家の叶えたい願いはすべて叶えてる!
さやわか まさに現人神ですよ!
一同 わははははは!
神様、ありがとう!
西島 つまり「F.S.S.」は、神が「たまたまマンガを描いてくださっている」という状態なんだよね。本来は史実だけがあるので、マンガになっている「F.S.S.」単行本は、史実を神がわざわざわかりやすく翻訳してくれてるということなんです。したがって「F.S.S.」の単行本と、「F.S.S. DESIGNS」っていう設定集は、価値が一緒なんだよね。マンガが本編で設定資料集がオマケというわけではない。
さやわか なるほど。神にとってみれば、自分の頭の中にある世界は単なる「史実」なので、僕たち人間にわかりやすい形にしてくれる必要はない。
西島 「こういうことが起きる世界ですよ」っていうのは全部、年表に書いてあるんだしね。だから、これをマンガに翻訳するのがめんどくさいやって思ったらやめちゃうと思うんだよね。まあ、現に時々休んでるし。
さやわか いやいや、休んでるわけじゃないよ(笑)。時々、時間を止めてるだけ!
一同 ははははは……。
西島 うん。時止めるのもいいけど。そろそろミラー(分身)使ってマジェスティックスタンド編どんどん描いてほしいです。しかし仮に永野さんがパタッと描かなくなっちゃって、この世からいなくなったとしても──いや、神だからもともとこの世にはいない存在なんですけど──我々は年表や神の残した記録の断片から、物語を推測することはできるんだよね。しかし今は続きを描いてくださってるわけだから「神様、ありがとう」と言うべきですよ。普通のマンガ家は「読者の皆さんありがとう」って言うけど、永野さんの場合は逆だね。連載を再開してくれたりしたら、もうすごくありがたい……(笑)。
- 永野護「ファイブスター物語」
- 5つの星からなる星団の歴史と、モーターヘッドと呼ばれる戦闘兵器を駆る騎士・ヘッドライナーたちの活躍を描いたSFファンタジー。既刊12巻分の内容を雑誌掲載時の構成で再編集したリブート版は、目下7巻まで刊行中。
- 永野護「ファイブスター物語 トレーサー Ex.1」 / 2012年10月10日発売 / 1260円 / 角川書店
- ジョーカー星団史上初、永野護公認のファンブックついに登場!人気クリエイター、ミュージシャン、役者、芸人がイラスト、インタビューなどで「F.S.S.」の世界を語りつくす!
- 劇場アニメ「花の詩女 ゴティックメード」 / 2012年11月1日公開
- 永野護が監督する劇場アニメ。2012年11月1日(木)より角川シネマ新宿、シネマサンシャイン池袋ほかで上映開始。
永野護(ながのまもる)
デザイナーとして「重戦機エルガイム」をはじめ、数々のアニメ、ゲーム作品などにデザインを提供。1986年から月刊ニュータイプ(角川書店)で「ファイブスター物語」を連載開始。同作は数多くのファンを獲得し、現在も連載中。2012年11月1日に、初監督した劇場ロボットアニメーション「花の詩女 ゴティックメード」が公開を控えている。
- 西島大介「西島大介のひらめき☆マンガ学校 マンガを描くのではない。そこにある何かを、そっとマンガと呼んであげればいい。」
- 表紙
- 2010年6月1日発売 / 1365円 / 講談社
- 講談社BOXが主催するマンガ家養成企画として2009年にスタート。マンガ家の西島大介、ライターのさやわかが講師を務め、公募で集めた生徒全員をマンガ家にすることを目標に授業を行なっている。「そこにある何かを、そっとマンガと呼んであげればいい」を合言葉に、マンガという概念を拡張中。授業内容をまとめた単行本1巻が発売されており、第2巻も今秋刊行予定。
- 西島大介「Young,Alive,in Love」1巻 / 2012年10月10日発売 / 630円 / 集英社
- “あの日”から僕らは何か変わったのだろうか──。三つの巨大な湯沸し器が100年間稼働している東京都M市。ガイガー・アプリで放射能を測定するマコトと幽霊が視えるオカルト少女マナ。「視えないもの」が降り注ぐ街で、二人は恋に落ちた!大切なのは除染それとも除霊?西島大介が描くポスト3.11のLOVE&POP開幕!!