コミックナタリー Power Push - 「ファイアパンチ」藤本タツキインタビュー
着想は「アンパンマン」? 「売れるマンガ」を描く戦略とは
意味のあるグロ描写を
──先ほど「戦略的にマンガを描く」とおっしゃいましたが、具体的にはどのようなことを考えているんでしょう。
戦略的に描いている部分がわかってしまうと、読者の方に作品を純粋に楽しんでもらえるのかなという心配もあるんですけど(笑)、たとえばシリアスな会話の中にギャグっぽい描写を入れたりするところですかね。
──それはどういった意図で?
「ファイアパンチ」は復讐劇になっているんですが、主人公の復讐心を描き続けると作品がすごく暗くなってしまうので。間を持たせられるんじゃないかと思って、シリアスなシーンにもコメディっぽい要素を挟み込んでいます。
──人の焼死体をリアルに描いたり、人肉食のシーンがあったりと、「ファイアパンチ」には残忍な描写も多いですよね。先生の中で「ここまで描いても大丈夫」という線引きはありますか。
結構自由にやらせてもらっていますね。「ファイアパンチ」の前に、スクエアに連載用ネームを1本提出していたんですが、そのとき描いていた作品は自分の中で制限をかけていたんです。
──制限とはどういった?
グロテスクな描写なんかを抑えるようにと。結局そのネームはボツになったんですが、自分の持っているものを全部出さないと面白い作品は描けないんじゃないかと思って。今アシスタントで来ていただいている方が、僕よりみんな年上で、話しているとマンガとか映画に関する知識がすごいんです。僕はただでさえ引き出しが少ないのに、出し惜しみしていたら、視野の狭い話になってしまうなと思っていますね。「ファイアパンチ」に関して言うと、自分の中からポンっと出てきた描写を、そのまま描かせてもらっているので、ありがたいです。
──グロテスクな描写は作品を作るうえで重要な要素だと。
そうですね。でもグロ描写も、グロければいい、ただグロ描写を描きたいと思っているわけではなくて、意識してやっているものなんです。僕はきれいな部分とか、優しいものを描くなら残酷な部分を描かないといけないと思っていて。そのほうが優しい部分に触れたときに、映えるじゃないですか。「ファイアパンチ」では1巻で汚い世界を描いていますが、それは今後の展開への布石なんです。
物語のジャンルが変わるような作品を描きたい
──布石ということは、1巻で読者が「ファイアパンチ」に抱いたイメージとは異なるものが今後描かれると。
そうです。言える範囲で言ってしまうと1巻ラストの第8話では、2巻へのヒキとして、アグニを使って映画を撮ろうとするキャラクターが出てきます(※このインタビューの収録は、第8話の公開前に行われた)。
──えっ、映画ですか。
僕は物語が展開される中で、ジャンルが変わるというか、読者が事前に予想していた展開からまったく別の方向へ進んでいくマンガを作りたいと思っているんです。映画なら「ゴーン・ガール」、アニメでいうと「魔法少女まどか☆マギカ」「がっこうぐらし!」「ハイスクール・フリート」なんかがそうですかね。それが成功しているのかはわからないですけど、どれも話題になっているじゃないですか。話題を作るうえで、そういう試みは必要だなと思って。「ファイアパンチ」は今後3回か4回、ジャンルが変わります。
──1巻のラストでヒキを作るというのも、戦略的に考えて?
ええ。単行本の最後で衝撃的な展開があると、次の巻も買いたくなると思うんです。なので多少話の展開が強引でもいいから、1巻の最後にそういう展開を持ってこようという話を担当さんとずっとしていました。
──話題を作るためにほかにも考えていることはありますか?
話題ということではないですが、富野由悠季さんの「機動戦士ガンダム」シリーズによくあるような、善だと思っていたキャラクターが、何かに触れて悪になっていくというような、キャラの内面を変化させていくのが面白いと思っているので、そういう試みはしていきたいです。よくアニメやマンガで「このキャラにはこういう行動はとってほしくない」ってファンから声が上がることがありますけど、それは「変化が怖い」ってことなんじゃないかと思っていて。そういう変化に対してすごくハマる人もいれば、絶対に受け付けないって人もいると思うので心配な部分ではありますが、「ファイアパンチ」では自分が面白いと思うことは全部やりたいと思っているので、キャラをどんどん変化させていきます。
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- 藤本タツキ「ファイアパンチ(1)」
- 藤本タツキ「ファイアパンチ(1)」
- 2016年7月4日発売 / 集英社 / 432円
- 2016年7月18日発売 / 集英社 / Kindle版 / 400円
「氷の魔女」によって世界は雪と飢餓と狂気に覆われ、凍えた民は炎を求めた。再生能力の祝福を持つ少年アグニと妹のルナ、身寄りのない兄妹を待ち受ける非情な運命とは…!? 衝撃のダークファンタジー、開幕!!
藤本タツキ(フジモトタツキ)
秋田県出身。第9回クラウン新人漫画賞にて、「恋は盲目」で佳作を受賞。同作が2014年に、ジャンプSQ.19 Vol.13(集英社)に掲載されデビューを果たす。その後ジャンプスクエア(集英社)、ジャンプSQ.19で「シカク」「予言のナユタ」「人魚ラプソディ」などの読み切りを発表し、2016年4月より「ファイアパンチ」を少年ジャンプ+にて連載。同作は連載開始直後からWeb上で話題を集めている。
©藤本タツキ/集英社