一瞬のシーンに詰め込まれたこだわり
──制作で印象に残っているエピソードはありますか?
シュウ ジャンヌ・ダルク〔オルタ〕が都市を燃やしているシーンがあるのですが、そのシーンのレイアウト修正をしている際に、ふと「燃やされている都市をパリと仮定して、それはどの時代の、どんなパリなんだろう」と考えました。ちょうどそのシーンの原画担当がフランス出身のヴィンセントという方で、パリの歴史に詳しかったんです。疑問をレイアウトに書き込むと、ヴィンセントがものすごい長文のメールで疑問に対する回答や資料を送ってくれました。パリの歴史や、ジャンヌ・オルタがどこにどんなふうに立てばこのシーンが成立するのかを勉強させてもらい、とてもいい経験になりましたね。
──最終的にジャンヌ・オルタが燃やしている都市はどう設定されたのでしょうか?
シュウ パリは歴史上何度も壊され、再建が繰り返されているのですが、1870年にパリ全体の姿がオスマン様式に大きく変わるような改築が行われました。「FGO」でジャンヌ・オルタが登場した第一特異点の1431年という時代設定も踏まえて、最終的に改築される前の中世的な建築のパリをモデルにしています。エッフェル塔もない時代で、ノートルダム大聖堂だけを描きました。そのシーンは一瞬なうえ、夜なので景色も見づらくこだわりは感じにくいと思うのですが、それくらい細かな部分まで考えて制作しているんですよ(笑)。
──じっくり拝見させていただきます。福島さんはいかがですか?
福島 エピソードというよりはシュウさんというクリエイターのバイタリティが印象的です。中国と日本を行き来してチェックをされたりと、大変な中でも確認や日々のやりとりの対応をしてくださって、シュウさんでなければこのようなフィルムはできないと思いました。作品作りに対するアプローチや熱量も勉強させていただきましたね。あと、僕は今回のようなグローバルな制作体制は初めてだったので、文化や言語が異なる海外のクリエイターとのやりとりもいい経験になりました。
──TYPE-MOONさんとのやりとりで印象に残ったフィードバックなどはありますか?
福島 実は、大きくはなく、お任せいただいたと言いますか。シュウさんに依頼したことを伝え、アニプレックスさんと相談して決めた登場キャラクターやコンセプト、映像の進捗は都度チェックいただいているのですが、基本的に「OKです、楽しみにしています」という連絡だけで。信頼していただいているのか、制作についてはお任せいただきました。
──厚い信頼があったんですね。
シュウ・福島 ありがたいです。
アニプレックススタッフ 制作途中の映像を見た時点でも、武内崇さんと奈須きのこさんが「3分半で観られる映画だな」とコメントされていたとのことですよ。
もの悲しいメロディから生まれた英雄たちの葬式
──「Memorial Movie 2023」の楽曲であるHana Hopeさんの「flowers」への印象はいかがですか?
シュウ 「flowers」を聴いて得たインスピレーションは大きいですね。最初はHana Hopeさんが楽曲を担当されるという文字情報だけをいただいたのですが、文字から想像できることは限られるので、声を聞いてイメージを膨らませました。Hana Hopeさんの声は儚いというか、もの悲しい印象がありましたね。その後「flowers」のメロディを聞いて、すでに完成したコンテのコンセプトやシーンの順番を変更しました。例を挙げると、映像の冒頭で流れる最初のメロディがとても悲しげだったので調整を加えています。描かれている偉人たちそれぞれの葬式は、音楽から着想を得ました。ほかにも、音楽の魅力を最大化し、観た人に感動してもらうためにいろいろな挑戦をしています。カット番号が本当にめちゃくちゃになっているんですけど、曲と映像がお互いに効果を高めあうさまが見たかった結果なんです。
──一度音が消える演出も、シュウ監督のアイデアなんでしょうか。
シュウ はい。2回目のクライマックスをより盛り上げるために音を遮断し、画面の色も減らしています。映像を観る方には、この演出のときに落ち着いてもらい、クライマックスを迎える心の準備をしていただければと思います。
福島 楽曲も今回の映像用に編集していただきました。
──シュウ監督はストーリーアニメ以外にもミュージックビデオを多数手がけられていますが、ストーリーものの制作とはどんな違いがあるのでしょうか。
シュウ ミュージックビデオがストーリーアニメと根本的に異なる点は、テンポの速さと尺の短さです。アニメでは物語が重要ですが、ミュージックビデオは物語がなくてもいいんです。音楽の流れや時間の中に、観る人が求める爽快感を盛り込むようにしています。爽快感を感じる情報は、色、テンポ、シーンの切り替わりなどさまざまですが、色で例えると、最初は寒色で寂しい雰囲気を出して、その後に暖色で爽快感を与えるといった感じです。個人的には、ミュージックビデオは情報を操る一種の技術のようなものと捉えています。
──「Memorial Movie 2023」は物語性もあり、音楽に合わせて映像が展開するので、ストーリーアニメとミュージックビデオ両方の要素を併せ持っているんですね。
シュウ そうですね。今回のようにメッセージ性を持たせたい場合や、映像が終わった後にちょっとした余韻を感じてほしいときにドラマ性を扱うイメージです。ミュージックビデオと一口に言ってもジャンルは幅広いですし、ミュージックビデオに限ったことではありませんが将来的にはもっと表現の幅を広げたいと思っています。
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描きたかったカルナの美しい一面