石山さやかさん、ブルボン小林さんからのご質問です
──次の質問者は「サザンウィンドウ・サザンドア」の石山さやか(石山さやか (@shiya07) | Twitter)さんから。
石山さやか
質問その1「おふたりとも細やかに心情描写をされるので、そういう表現を描くために普段から気を付けていることをお聞きしたいです」
──これは具体的なシーンを挙げたほうがお話がしやすいと思うのですが、例えば「メタモルフォーゼの縁側」でうららが雪さんに自己紹介をするシーン。うららが名乗ったあと「似合わないですよね」って、心の中で自分の名前を少し恥ずかしがる描写が、キャラクターの心情をすごく繊細に描いているなと感じました。
鶴谷 言い方は悪いですけど、うららちゃんはちょっと名前負けしてる子にしようと思って。自己イメージと名前がちょっとズレてるっていうのは、割と最初からやりたいと思ってたネタですね。
──そういうやり取り自体を思いついたきっかけみたいなのは?
鶴谷 この子は、うららっていう名前とずっと付き合ってきたので「や、うららってキャラじゃないんですけど、うららって名前なんですよね」って、たぶんいつも考えてると思うんですよ。謎の前置きとか、別に向こうは求めてないのに変な予防線を張っちゃうみたいなことを自分もしちゃうことがあるので。自己紹介のときにいつも感じてるぎこちなさみたいなのを、マンガでもやりたかったのかなあ。
──「凪のお暇」では、水族館で凪と慎二が同じイワシの群れを見ているのに、全然違うことを考えているシーンがありますよね。2人の気持ちのすれ違う様子と景色が重なって、すごく印象的でした。
コナリ あれは、実際に水族館でイワシを見ているときに思いついたんですよね。みんなイワシをジーッと見ているのだけど、私が思ってる感想とこの隣の人が同じことを思ってるとは限らないよなって。普段ぼんやり思ってることが、やっぱりマンガには出ますね。
──そういう思い付きって、メモを取ったりはしないんでしょうか。
コナリ 忘れちゃいそうなときは書いたりしますね。でも、その場にある紙に書いちゃうからあとから見て「なんだっけこれ」ってなることがよくある。ネタ帳とか作ってる?
鶴谷 私はネームをノートに書いてるので、そのノートの端っことかに書いたりしてます。今日も持って来てるのだけど、例えばこれはベネッセのサイトで公開されてた高2と高3のスケジュール。だいたい何月にテストがあってーとかいうことが書いてあるので、うららを描く参考になるかと思って。
コナリ 人のメモ見るの面白いね。ネームも見ていい? これは、あーー!
鶴谷 いやいや。絵は入ってないしグッシャグシャのネームですよ。ミサトちゃんのネームも見ていい? わ、すごい丁寧。きれい。
コナリ いやいやいや。でもネームのときのほうが、原稿に描いたときより全然いい顔してたみたいなことはあるかも……。
石山さやか
質問その2「仕事の合間の気分転換にどんなことをしてますか?」
鶴谷 私は料理ですかね。これはオカヤさんからの受け売りなんですけど、なんか、簡単に達成感が得られるからいいといつも聞いていて。「マンガが終わりが見えないときでも、料理は作ればできあがるし食べたら美味しい」とオカヤさんが言っていたので、実践してみて、本当だなって実感しています。
コナリ 昔作ってくれたカレーも美味しかったもんね。
鶴谷 ありがとう。カレーのこと、ずっと覚えててくれて。
コナリ 私はTikTokを見てます。高校生のマンガを描くことになったときに見てみたらすごいハマっちゃって。TikTokの中でも流行ってる踊りのターンとかメイクがあったりして、すごい面白いんですよね。
──「凪のお暇」は凪の節約料理も見てて楽しいですが、コナリさんはお料理は?
コナリ つるちゃんやオカヤさんみたいな凝ったやつは全然。でも貧乏飯は昔から好きで「凪のお暇」は最初、節約術とか小ネタをいっぱい入れるマンガにしようと思ってたんです。それで節約が好きな子ってどんな子かな? 貧乏なのかな?って、キャラクターのバックボーンを考えていくうちにお話ができてきて、節約より人間ドラマがメインになっていった感じですね。
ブルボン小林
質問その1「月に何作くらいマンガを読みますか。継続して楽しみにしている連載はなにかありますか」
──続いて、ブルボン小林さん(ブルボン小林 (@bonkoba) | Twitter)からのご質問。ブルボンさんの「ザ・マンガホニャララ21世紀の漫画論」帯には、鶴谷さんとコナリさんの「私たちも、マンガホニャララで紹介してもらうのが夢でした!」というコメントが載っていましたね。
鶴谷 去年は下北沢の本屋B&Bで、ブルボンさんと一緒にトークショーもさせていただきました。そこに、ミサトちゃんや石山さんも来てたんだよね。マンガは、雑誌で読んでるのはコミックビーム(KADOKAWA)と月刊!スピリッツ(小学館)、あと(月刊)アフタヌーン(講談社)とか……。
コナリ アフタヌーン! 「スキップとローファー」(高松美咲)面白いよね。
鶴谷 最高。あれはいい。
コナリ いい。
──もはや好きなものについては、阿吽の呼吸ですね。コナリさんは雑誌で読まれてるものはありますか。
コナリ 最近「モトカレマニア」っていうKissでやってる瀧波ユカリさんのマンガに爆ハマリして。最新話が読みたすぎて雑誌を買いました。
鶴谷 それね。ハマってる証拠だね。
コナリ:待ってらんねえ!みたいなね。
ブルボン小林
質問その2「子供の頃(より少し大きくなってからでも)、特に好きだったアニメは?」
コナリ 「らんま1/2」です。シャンプーがとにかく好きで、まずフォルムがかわいい。お団子なのに、どうしてそこから髪が垂れているの? そしてそこで結んでって髪の毛長いなっ! 完璧じゃん!みたいな。性格も好きで、好きな男を愛し抜くためにほかの女はぶっ殺すっていう精神。あの気性の荒い感じとか、好き!ってなる。
鶴谷 私は、これ言っちゃうと「それはみんなそうじゃん?」って思われそうなんですけど、やっぱりジブリですかね。
──ジブリの中でもいろいろ好みが分かれると思いますが、とりわけ好きなものは。
鶴谷 そういう答え、取材的にあったほうがいいですよね。でも全部が血肉になってるので、選べない。ああいうすべてに目が行き届いている創作を小さいときにたくさん見せてもらったことが、宝だと思ってます。背景1つ取っても、森の成り立ちから考えて描かれていたり、この街はこういう場所だからここに団地があってとか、食べものはこういうときに食べるのはこういうものでとか、こういう文化で育ったからこういう服を着ているとか。そういう考証が半端ないものを普通に見てたっていうのが、すごくよかったなって。
コナリ この間「ハウルの動く城」を観たらすっごく面白かった。
鶴谷 あれも、声優がキムタクだね。
コナリ キムタクが声優してるっていうので話題になってたから先入観はあったんですけど、見たら全然キムタクじゃない。ちゃんとハウルだ。と思ってどっぷりハマれましたね。
お母さんに感じる嫌さは、部活の先輩に通じる
──ちょっとマンガのほうに話を戻して、それぞれの今後の見どころなどは。
コナリ 最新5巻の見どころは、凪のライバル・円(まどか)登場です。絶妙に読者がイヤな気持ちになる子になってるんじゃないかと。恋のライバルがいい子だったらすっごくモヤモヤするだろうなと思って。性格がいい、顔がいい、仕事もできる! こんな子に凪は勝てるのか!?
──顔がいいために、仕事をちゃんとやっているのに顔で成功してるんだろって周りに言われちゃうところとか、読んでて円には同情してしまいます。
コナリ 円は天然のぶりっ子だから、そこが攻撃される隙になっちゃってるんですよ。悪口を言う格好の標的。女子アナみたいな服を着てるとか、謎のマウントを取られる感じ。
鶴谷 すごくいいキャラだね、この子。この子がいっぱい読めると思うと超楽しみ。
コナリ この子、走る時に(擬音が)「ぽててっ」っていうの。ムカつく! ボコボコにしたい!(笑)
──凪には、お母さんという大きな壁もその先に待っていますよね。
コナリ 凪のお母さんについては、「毒親」みたいな言葉ではカテゴライズできないぼんやりとした親の嫌さ、みたいなのを描けたらと思っています。暴力を振るったりとか具体的なことはないけど、実家に帰るときに緊張する絶妙な嫌さみたいなものを。お母さんって、ちょっと部活に似てると思うんですよね。お母さんのお母さん、そのお母さんのお母さんってずっといるじゃないですか。部活も先輩の先輩がずっといて、先輩にどういう扱いを受けて来たかとかで、自分が先輩の代になったとき後輩にどういう態度をするか決まるじゃないですか。その構造、まんまお母さんに当てはまるなって。
──下の世代である凪が、お母さんの呪縛にどう立ち向かうのか。
コナリ あんまり先のことを話すと、読む楽しみがなくなっちゃうので。果たして本当の敵は誰なのか、っていうところを気にしてもらえたら。
鶴谷 「メタモルフォーゼの縁側」の見どころは、なんですかね。みんな気にしてるかもしれませんが、うららちゃんが果たしてマンガを描く人になるのかどうか、とか?
──お話の展開は、最後まで決めてあるんですか?
鶴谷 うっすらとは。ずっと続けたい作品というよりは、表現したいものが描けたら終わりと思っているので、そんなに長くはならないと思っています。そうだ、1つ山場になるのは、雪さんとうららちゃんが一緒にビッグサイトに行くとされている“約5ヶ月後の晴れた日”の話ですね。
──受験勉強のあるうららが、冬コミに一緒に行く約束を断ってしまったときに出てきた「私と市野井さんが初めて二人でビッグサイトの地に立ったのは 冬コミではなく この日から約5ヶ月後の晴れた日のことだった」というモノローグの話ですね。
鶴谷 ミサトちゃんと一緒で、先のことはあまり話せないですけど。そこはマンガの中でも予告しているポイントなので、楽しみにしておいてもらえたら。
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自分で自分の好きなものを否定するとかは、しなくていい
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ふと立ち寄った書店で老婦人が手にしたのは1冊のBLコミックス。75歳にしてBLを知った老婦人と書店員の女子高生が織りなすのは穏やかで優しい、しかし心がさざめく日々でした。
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場の空気を読みすぎて、他人に合わせて無理した結果、過呼吸で倒れた大島凪。仕事も辞めて引っ越して、モラハラ彼氏からも逃げ出して、新しい日々、始めます。共感の声続々の、大島凪28歳の人生リセットコメディ!
最新5巻では、新たなバイト先で今までとはまるで違う人間関係を築き始めた凪。一方、凪への想いを引きずる元彼・慎二の前にも、かわいい後輩が現れて……? 単行本でしか読めないスピンオフも2本収録。
- 鶴谷香央理(ツルタニカオリ)
- 1982年富山県生まれ。2007年に「おおきな台所」でデビューし、同作品で第52回ちばてつや賞準大賞を獲得する。「メタモルフォーゼの縁側」が初めての単行本。初連載作品の「don't like this」もリイド社より発売中。
- コナリミサト
- 7月22日生まれ。ファッション雑誌のCUTiE(宝島社)で「ヘチマミルク」の連載をきっかけにデビュー。既刊に「珈琲いかがでしょう」(マッグガーデン)、「恋する二日酔い」(イーストプレス)など。月刊エレガンスイブ(秋田書店)で「凪のお暇」連載中。