北崎拓「このSを、見よ!」が、“バブリー系エンタメバンド”エナツの祟りの新曲「無敵シュプレヒコール~このSを、聴け!~」とコラボ。ジャケットとMVに、作品の画像が使われている。「このSを、見よ!」の連載期間は、2009年から2013年まで。今あえてこの作品を選び、曲名まで被せたコラボをすることを不思議に思う人もいるかもしれない。しかしバンドのリーダーである江夏亜祐は、一番好きなマンガが「このSを、見よ!」であり、これまで各所で「自分が書く歌詞の世界観は北崎作品と似ている」と公言してきたという。今回のコラボはそんな江夏が、SNSを通じて北崎に愛を叫んだ結果、実現したのだ。
コラボを記念し、コミックナタリーでは江夏と北崎の対談を実施。2人が揃うと、やはり自然と「やっぱり人間の根源は恋愛」という話題に。さらに「恋愛をテーマにするなら、入り口は明るく楽しく」というエンターテインメント論にまで発展した。
取材・文 / 松本真一 撮影 / 南阿沙美
2010年に活動を開始した“バブリー系エンタメバンド”。ド派手なビジュアルとパフォーマンスで注目を集め、過去にはテレビ番組でビートたけしに命名された「ジュリアナの祟り」を名乗っていたことでも知られる。新曲「無敵シュプレヒコール~このSを、聴け!~」は、10月からTOKYO MXで放送中のバラエティ番組「さらば青春の光のモルック勝ったら10万円!」のオープニングテーマとして採用された。なお音楽ナタリーではリーダーにしてドラム担当の江夏亜祐と、ボーカル担当・蕪木蓮のインタビューを公開中。彼らのこれまでの詳しい経歴などについては、音楽ナタリーのインタビューも参考にしてほしい。
北崎拓による、男女の恋愛と不思議な要素を絡めた「クピドの悪戯」シリーズの1つ。全15巻が発売中。ケーキ職人・鵜守田倫のお尻には妙な形のアザがある。幼い頃にそれを笑われて以来、アザは彼のコンプレックスとなり、22歳となった今まで女性と関係を持つことができなかった。しかしこのアザの正体は、目にした女性を欲情させてしまう不思議な力を持つ“スティグマ”であることが発覚。倫は果たして初恋の相手・千鶴ちゃんにその力を使うことができるのか。
「北崎マンガを読めば僕の歌詞の世界観がわかる」(江夏)
──エナツの祟りの新曲「無敵シュプレヒコール〜このSを、聴け!〜」と北崎さんの「このSを、見よ!」とのコラボは、江夏さんが北崎作品の大ファンということから始まったそうで。
江夏亜祐 はい。北崎作品の中でも、「このSを、見よ!」が一番好きなんです。
北崎拓 ありがとうございます。
──音楽ナタリーのインタビューでも話されてましたけど、作品との出会いが強烈ですよね。
江夏 20歳の頃ですかね、あるライブ会場でダイブをしたときに、鉄パイプが左のお尻に刺さる事故があったんですよ。背骨まで貫通して、髄膜炎になるんじゃないかっていうぐらいの大きなケガで、手術で左のお尻に大きな穴を開けて。退院したあとに、ビッグコミックスピリッツをめくってたら「このSを、見よ!」が載ってて、「似たような話があるな」って。
──「このSを、見よ!」は、主人公の倫くんの左のお尻にある、スティグマと呼ばれるアザが物語の重要な要素になりますからね。
江夏 それに僕のお尻の手術をしてくれたのも、ヒロインの千鶴ちゃんと同じく女医さんだったんです(笑)。
北崎 なるほど(笑)。
江夏 それで絵もきれいだったから読んでるうちに、自分が書いてる歌詞の恋愛観とすごく似ていて、心地いいなと感じたんですね。そこから「クピドの悪戯」シリーズや、昔の作品まで読ませていただきました。僕、ファンの人にもバンドのメンバーにも「北崎先生のマンガを読むと僕の音楽の世界観はわかりやすいと思うよ」って言ってますからね。
──北崎さんが現在、夜サンデーで連載中の「月に溺れるかぐや姫~あなたのもとへ還る前に~」も読まれてますか?
江夏 もちろん読んでます。今までは「このSを、見よ!」が一番好きで、次が「さくらんぼシンドローム」だったんですけど。今は「かぐや姫」が「さくらんぼシンドローム」を抜きかけてますね。最新話を読むには課金しないといけないんですけど、アナログ人間なので、そういう課金のやり方も今まではわかってなかったんですよ。でもバンドのメンバーに教えてもらって、そのために初めてマンガ配信サイトにアカウント登録しましたから。
北崎 本当にありがたいですねえ……。
江夏 「月に溺れるかぐや姫」は、主人公の輝くんが受験に失敗して、卒業旅行で出逢った人妻の香夜さんとエッチな関係になって、輝くんが東京に帰ってきたら、香夜さんが実はお兄ちゃんのお嫁さんだったことがわかるっていうところから話が始まるじゃないですか。そういう、現実ではなかなかありえない出逢いがあって。僕にも若い頃に似たような経験があるんですよ。
北崎 えっ!
江夏 旅先で声をかけられた女の子がいて仲良くなって、旅行から帰ってきたら、その子が知り合いの彼女だったっていう。だからマンガの導入部から大好きになったんですよ。「北崎先生は俺のことを描いてるのか?」って。
北崎 あはは(笑)。
──「このSを、見よ!」のお尻の件に続いて、北崎作品みたいな経験を(笑)。
江夏 「月に溺れるかぐや姫」は毎回本当に話のヒキがすごくて、隔週連載だからいつも「えっ、続きは2週間後!?」って悶々としてますよ。
なんでこの方が僕のマンガを……?(北崎)
──そして江夏さんがTwitterなどでも「『このSを、見よ』が一番好き」「北崎先生の作品がドラマやアニメになったら主題歌をやりたい」とずっと言い続けてたことがきっかけで、交流が生まれて。
俺が人生で一番好きな漫画
— 江夏亜祐¥エナツの祟り(exジュリアナの祟り)6.20渋谷公会堂ワンマン (@ayuing_tatari) May 9, 2016
このSを見よ!
が マンガわん
てアプリで何話か無料で読めるらしいよ
北崎拓さんの
クピドの悪戯シリーズは
世界観が凄く好き
この漫画が実写化とかアニメ化とかするなら
絶対に俺が主題歌書きたい♂#このSを見よ!#北崎拓#ジュリアナの祟り
北崎 こういうジャンルの違うクリエイターさんから、好きだと言われたらうれしいですよね。でも失礼ですけど、最初はエナツの祟りというバンドのことは存じ上げなかったので、YouTubeなどで曲を拝聴するわけですよ。そしたら最初は、「なんでこの方が僕のマンガを好きだと言ってくださるんだろう……?」と思いました。
──確かに外見も派手だし、ふざけているように見えるし、「僕のマンガと全然違うじゃないか」と。
北崎 そうですね(笑)。だから最初は、「自分のやってることと全然違うからこそ逆に楽しめる」みたいな感じなのかな、と思ったんです。でも江夏さんは「北崎先生のマンガの世界観と僕の歌詞には共通点を感じる」と言ってくださった。だから、こういったクリエイターさんの目線から見て、自分のマンガはどう見えてるんだろう?と共通点を探す感じで、いくつも曲を聴いたんです。それでだんだんわかったんですけど、エナツの祟りの曲調やファッションは、きらびやかなテイストを押し出してるじゃないですか。でも歌詞を紐解いてみると、基本的にはバラードなんです。アップテンポな曲であっても。
江夏 「アップテンポな曲でも歌詞がバラードだよね」というのは以前にも直接言っていただいて、あんまり自分でそういうことは考えたことなかったんですけど、「確かにそうだな」と自分の中でしっくりきました。音楽におけるバラードって、一般的にゆっくりな曲は多いですけど、言葉の定義としてはそうじゃなければいけないってことはないらしいんです。だからこれからは「アップテンポバラード」の作曲家としてやっていこう、と思えたというか。「ありがたい言葉をもらったな」と思ってます。
北崎 それに江夏さんの歌詞は真面目に一途な恋愛について書いていて、そのうえで面白おかしく自分を煽るというのかな。自分のマンガも、基本的には真面目というか、暗いマンガというか。最終的に「これは恋とか愛のお話なんですよ」と持っていくわけなんですけど、導入部は明るく楽しく、「エッチなマンガだから見てみてよ」みたいな感じにしてるんですよ。
──それこそ「このSを、見よ!」は「男の子のお尻に不思議なマークがあって、それを見た女の子は欲情してしまう」というエロマンガみたいな導入なのに、それで倫くんがセックスしまくるわけではないですもんね。むしろ「この力を好きな子に使っていいのか」と悩む、真面目な話で。
北崎 そういう、「真面目な愛の話だけど、入り口は明るく楽しく」というアプローチは共通点として感じていただけたのかなと。
──あと単純に、恋愛をテーマとした作品が多いというのも共通してますよね。
江夏 僕は9割9分、恋愛のことしか歌詞に書かないです。
北崎 そうですね、僕も「ますらお」シリーズは歴史ものだったりしますけど、恋愛ものは多いですね。
──恋愛におけるエピソードや男女のやり取りは、自分の実体験だけで描くには限界があると思うんですが、周囲に取材などはされているんですか?
北崎 僕はしないですね。もちろん作中の人物が就いている仕事などについては取材します。今描いている「月に溺れるかぐや姫」は主人公が浪人生なので、大学生の息子に大学の話をちょっと聞いたぐらいで。「こういう仕事をしてる人はどういう恋愛なんだろう」って、その人が属している社会を想像するぐらいですかね。同じ性格の人間でも、こっちの社会で暮らしたらこうなったんじゃないかな、みたいなことをシミュレーションするだけで、いろいろ描ける気はします。
──確かに「月に溺れるかぐや姫」なんて「一夜限りの関係を持った女性が、たまたま義兄の奥さんだった」というお話ですから、なかなかそういう経験がある人に話は聞けないですもんね。
北崎 そうそう、取材しようがない(笑)。
江夏 僕の場合は、若い頃から恋愛相談を受けることが多いんですよ。バイト先の友達に一途な子がいたから応援したくなって、僕がその子の好きな相手とのデートをセッティングしてあげたら「結果、こうなりました」って報告を受けて、そこから「そのときはこういう感情だったんだろうな」って、イマジネーションを膨らませて曲を作ったこともありますし。今もファンの子に「自分の恋愛について手紙とかで送ってください」って言って、そういうのを読ませていただくこともあります。
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童貞の頃の感情を振り返ると、やっぱり面白い(北崎)