バゼット登場回の反響の大きさに驚き
──6巻に収録されているエピソードで、おふたりが特に気に入っているのはどれですか?
TAa 私は「ふわふわかに玉」回です。藤ねえを描くのが楽しくて、隙あらば出したいと思っていて。
──あはは(笑)。かに玉回は藤ねえが高校生のときのお話ですね。
TAa はい。原作からネタをお借りして描くことはたびたびあるんですが、かに玉回は「Fate/stay night」で藤ねえがかに玉をお好み焼き丼に変貌させるってシーンが元なんです。最初はギャグにするつもりだったんですが、二転三転してしっとりとした話になりました。
只野 あの回、切嗣も出てきてすごくよかったです……。
TAa ありがとうございます! 時々過去の回想エピソードがあるのですが、原作ゲームに出てきた設定や、過去に公式が出した本などに記載の設定からヒントを得て、お話にしています。TYPE-MOONさんに確認してもらいつつ、あくまで私の解釈で。藤ねえと士郎、そして切嗣の関係性が好きなので、それが描けてうれしくて、気に入っている回です。
只野 私はレシピで言うと「ふわとろ親子丼」。たぶん、レシピ通りに作ると本当にふわとろになると思うので、ぜひ。親子丼が固くなっちゃうっていうのをよく聞くので、どうすればいいかポイントを書かせていただきました。マンガもすごく面白かった回です。
──士郎、一成、慎二の同級生3人とランサーがメインになるという珍しい男子回でしたね。
TAa やったことない組み合わせだったので、面白いかなと思いまして。
只野 最高でした。それにバゼットさんが出てきた「喫茶店のナポリタン」回も好きです。バゼットさん、ナポリタンを「美味しい」とは一言も言ってないんですよね。もくもくと食べて、でもちゃんと一瞬美味しそうな表情を見せる。バゼットさんらしさを崩さず、いいなあーって思いました。
TAa バゼットさんはそのエピソードで初登場だったんですが、エピソードが公開されたときにSNSでかなり盛り上がったらしく、その反響の大きさに私も驚きました。
──バゼットさんは「hollow」のキャラクターですが、やっぱり知ってる読者も多いんですね。ちなみに「衛宮ごはん」の読者は、「Fate/stay night」を履修済みの人ばかりなんでしょうか?
TAa それがアニメになったくらいから、「衛宮ごはん」から入ったという人がぐんと増えたようでして。まさか「衛宮ごはん」から「Fate」を知るがいるとはまったく想定していなかったので、びっくりしました。
──そういえば以前、虚淵玄さんにインタビューしたとき(参照:「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿」特集 三田誠×虚淵玄対談)、「意外と『Fate/Zero』から『Fate』を知ったって方もいらっしゃる」と驚いてました。「『Fate/Zero』は『Fate/stay night』ネタで遊んだ話だったので、それを前提で読んでもらわないとわからない表現が多々あった」と。
TAa まさにそうなんです。ちょっとネタバレというか、凛と桜が姉妹って普通に描いちゃってますし。
──2人が姉妹というのは公然の秘密でしたもんね。
TAa アニメ「衛宮ごはん」と劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」第1章の合同イベントが2018年にあったんですが、まだ姉妹だと明かされていない[Heaven's Feel]のすぐ後に「衛宮ごはん」の8話のチャーハン回が上映されて。
──よりによって姉妹がメインのチャーハン回(笑)。
TAa 桜が凛に「姉さん」って(笑)。いいのかな、みたいな気持ちはありました。
──アニメで桜役の下屋(則子)さんと凛役の植田(佳奈)さんにお話を聞いたとき(参照:劇場版「『Fate/stay night [Heaven's Feel]』Ⅲ.spring song」特集 下屋則子×川澄綾子×植田佳奈座談会)、「衛宮ごはん」から姉妹だということを「言って大丈夫になった」とおっしゃっていたので、ちょうどいいきっかけだったのかもしれません。
奈須きのこと武内崇に料理を振る舞うとしたら……?
──もし奈須きのこさんと武内崇さんに、レシピ本の中から料理を振る舞うとしたら、どの料理を選びますか?
只野 柿のオードブルでしょうか。
TAa あ、いいですね!
只野 実は「hollow」に「柿のサラダか和え物、柿の包み揚げ、柿のベーコン巻き」というセリフがあって、それが元ネタなんです。このイメージでどうでしょう?というのをお聞きできたら嬉しいですね。
──只野さんも本当に「Fate」にお詳しいですね。どういうきっかけで「Fate」にハマったんでしょうか?
只野 実は映画版の「Fate/stay night - UNLIMITED BLADE WORKS」なんです。
──2010年にスタジオディーンが作った劇場アニメですね。
只野 はい。「Fate」をまったく知らなかったんですが、友人から「来場者特典がほしいからついてきてほしい」と言われ、一緒に観に行ったんです。怒涛の展開でしたが興味が湧いてゲームの「Fate/stay night」を買い、一気に「hollow」までプレイしました。「hollow」に一番グッときました。
──只野さんはまさに「衛宮ごはん」の料理監修にぴったりの人材ですね。おふたりが今後、出したいキャラクターはいますか?
TAa キャラに合ったメニューやお話がうまく浮かんだら、出したいキャラは何人かいるんですが……。
只野 やっぱり、ご飯と絡めて描きづらいキャラクターはいますよね。
TAa そうですね。自分でも納得できる状況で出せればな……とは思っていて。「衛宮ごはん」では原作の雰囲気からだいぶ柔らかくなってるなとは思いつつも、キャラクターのイメージを壊さないように描くことを念頭に置いています。ただ、やっぱり料理マンガなので、角が取れてはいるのですが……。
只野 個人的に言峰が好きなので出てくるとうれしいです。あと、難しいかもしれませんがいつでも臓硯を待っています(笑)。
TAa あはは、考えてはいるんですが(笑)。
TAaの優しい作風とマッチした描き下ろしサイレントマンガ
──レシピ本には描き下ろしマンガの「DAYS」も収録されています。只野さんに読んだ感想をお伺いできれば。
只野 「DAYS」はセリフのない、サイレントマンガなんですよね。マンガって感情移入ができるとか、熱くなるとか作家さんによっていろいろ特徴があると思うんですが、TAaさんのマンガって優しい空気感が伝わってくるところが特徴だと思っています。サイレントマンガだとセリフがないぶん、より空気感がダイレクトに伝わってくる。何よりセリフはないけど、ちゃんとキャラクターたちの声が聞こえてくる。TAaさんの優しい作風にいつも本当に「尊い……」と思いながら読んでいますが、「DAYS」もやっぱり好きだなあ……としみじみ思いました。
TAa ……照れますね、これは(笑)。編集さんとの打ち合わせで「静かなマンガもいいかもね」という話になり、今回はサイレントマンガにしてみようと決めました。セリフがないってけっこう難しかったんですが……只野さんにそう言っていただけてありがたいです。
──アーチャーとキャスターが同時に手に取ろうとするラスト1個の卵パック、アニメのオープニングを思い出しました。
TAa まさに意識してます。アニメでは凛でしたが、あのシーン、かわいいなあと思って。
──ちょうどお話も出たので、アニメ「衛宮さんちの今日のごはん」についても伺えればと思います。アニメは2017年末の「Fate Project 大晦日 TV スペシャル」から約1年かけて全13話が配信されました。2016年に「衛宮ごはん」の連載がスタートしたので、アニメ化までスピーディでしたね。
TAa いやもう、初めてアニメ化と聞いたときは本当にドッキリ企画かなって。しかも私はアニメ「Fate/Zero」から「Fate」を知ったんです。最終回を観た後に、続きが気になっちゃってその場で通販サイトでゲームの「Fate/stay night」をポチって。そのまま「hollow」へ行き、あっという間にハマってしまって。アニメ「Fate/Zero」を作っていたのはufotableさんなので、まさかそのufotableさんにアニメ化してもらえるなんて……。
只野 料理シーン、本当にすごかったですね。
TAa そうそう、ガラスのボウル越しの手も動いてたり、チャーハンを炒めるときにお米の粒が細かく動いてたり。果てしない作業だなと思いながら感動しっぱなしでした。料理の音は、実際に作ったときの音を録音して使ってるらしくて。
只野 こだわりがすごいんですよね。TAaさんの絵を忠実に再現しているのも素敵で。「あ、TAaさんの絵が動いてる!」って感動がありました。
TAa 本当にそうなんです。キャラクターデザインは内村(瞳子)さんなんですが、最初に見せてもらったキャラの設定画も直すところが全然なくて、はじめから完璧でした。私が描く服のシワの特徴みたいな細かいところも全部拾ってくださって。アニメは主線を茶色で表現していて、柔らかい雰囲気に仕上げてくださったのもうれしかったです。
──アニメ7話の「さらりと頂く冷やし茶漬け」、ビーチバレーのシーンがちょっとした聖杯戦争のようなアクションでした(笑)。
TAa めちゃくちゃ動いてましたね、ufotableさんの本領発揮というか。マンガで1コマしか描いていないシーンをあそこまで広げてもらえると思ってなくて。
──そういえば、マンガの「衛宮ごはん」は初期の頃1つのエピソードが10ページから12ページくらいでしたが、途中からページ数も増えて、キャラクター同士の交流や心情・風景描写といった料理シーン以外の描写も増えてきています。これには何か理由が?
TAa 実を言うと、2巻の途中まで会社員をしながら描いていたんです。なので10ページ前後が限界ギリギリでした。今は専業作家になり、アシスタントさんもいるので、ページを増やせるようになりまして。それに、料理を食べて終わるだけの構成だと話がその後広がらないので、ストーリーの部分も充実させられるように意識しています。
──なるほど、そういう理由だったんですね。最後に、「衛宮ごはん」に関して次の目標や夢はありますか?
TAa もし叶うのであれば、また新しいアニメを観てみたいという気持ちがあります。贅沢な夢なのですが。連載を始めた当初は、1巻が出れば御の字だなって思っていたんです。それを読者の皆さんが応援してくださったおかげで、まだまだ続けられています。本当にありがたいです。しかもアニメ化もしていただき、ゲーム化も進行中で、個人的には心残りはありません……という感じです。
只野 私は料理に関してでしたら、みんなが士郎みたいに料理がうまくなること……でしょうか。
──士郎並みはハードルが高い(笑)。
只野 (笑)。士郎までとはいかなくても、料理をしているときに「『衛宮ごはん』でこんなこと言ってたな」って料理に関する豆知識を思い出してもらえたらうれしいです。
──生鮭を見て「これ見たことあるぞ!」って進研ゼミみたいになって、塩を振って生臭さを消そうとする人が現れたり。
TAa あ、でもマンガを読んで料理してみたって人もけっこういらっしゃるので、それに近づいているはずです。
只野 そうそう。「衛宮ごはん」が料理をしようってきっかけになればうれしいですね。
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stay homeのお供に「衛宮さんちのレシピ本」