TYPE-MOON世界は他人がいくら設定を詰め込んでも壊れないおもちゃ箱
──おふたりには、「Fate」作品の小説を書く楽しさをお聞きしたいと思っていて。
虚淵 どれだけ突飛な思い付きをしたところで、受け止めてくれるだけのバッファがあるところでしょうか。オリジナルの展開だったら盛り込むのに二の足を踏むような、度胸のある派手さとかが「Fate」の世界観には馴染むんですよね。
──「Zero」ですと具体的には?
虚淵 黄金の舟に乗ったギルガメッシュと、バーサーカーの戦闘機が空中戦をするとか(笑)。
三田 あれは派手でしたね。
──しかもその下でキャスターのどでかい海魔とほかのサーヴァントも戦っていました。
虚淵 普通の小説でこのプロットを書いたら「寝言も大概にせいよ!」って思うんだけど、「Fate」だとできちゃう。あとはライダーの宝具「王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)」とか。征服王、英雄王、騎士王の三竦みになるっていう指標は奈須さんからもらっていて、いろいろまとめていったんです。そのときにライダーの宝具はサーヴァントがサーヴァントを呼ぶ構造だって聞いていたので、あんな感じに……ちょっと派手になりすぎましたけども。
──ライダーの宝具「王の軍勢」はかつてライダーとともに戦場を駆け抜けた数多くの英霊たちを連続召喚する、ランクEXの対軍宝具。「Zero」内でも「常軌を逸している」と表現されていました。
虚淵 ただ、それでもパワーバランスが崩れないんですよ。「王の軍勢」を一掃しうる宝具がある。派手なギミックを仕込んでも、そのカウンターになりうるギミックがすでに世界に存在する。だから作る側の自由度の高さは、コツさえ掴めば半端ない。本当に世界観に寄りかかって身を委ねて書くという思い切りさえ持てれば、もう好き放題やれる。それは「Fate」の小説を書く楽しさです。
三田 僕は“好き放題”とはまた違うんですが、TYPE-MOONさんの世界にある単語レベル、数行レベルの設定を自分自身で詰めていく、そしてそれを受け止めてもらえる、というのは楽しいもので。例えば「魔眼収集列車(『魔法使いの夜』の際の表記)」なんて、設定としてあったのはほとんど名前だけなんです。肝心の「魔眼オークション」で何をしているのかは、初出の「魔法使いの夜」の段階では全然なかった。それを「事件簿」の舞台として使ってみたくて、第3の事件である「魔眼蒐集列車」のときにきのこの秘蔵してる設定をもらって、こちらからも盛り込ませてもらったものを受け止めてもらった。スピンオフ作品を書く創作者にとって、こんな幸せなことは少ないと思います。
虚淵 詰めたら面白くなりそうなネタを、奈須さんはなんであんなにいっぱい用意してるんでしょうね。
三田 それ、不思議なんですよね。しかも普通は「魔眼収集列車」なんておいしい設定を出したら使うだろって思うんですけど、きのこは使うことにそこまでこだわらない。そこも魅力なんですよね、TYPE-MOON世界は他人がいくら設定を詰め込んでも壊れないおもちゃ箱のようです。
「FGO」のイベントは「事件簿」について何も知らなくても楽しめる
──先ほどからちょこちょこ話に出ていた「FGO」のお話も聞いていきたいのですが……まず、ちょっと遅くなってしまいましたが三田さん、諸葛孔明の召喚成功おめでとうございます!
三田 ありがとうございます! いや、長かったですねー。
──「FGO」がリリースされてから3年、諸葛孔明ピックアップガチャのたびに挑戦されては敗れている姿はもう名物に近かったかと。三田さんが諸葛孔明を引けたときは、Twitter上でもお祭り騒ぎでしたね。RTといいねを合わせると20万くらい反応があって、海外の人からもお祝いのリプがたくさん……。
長かった! ほんのちょっぴりだけ長いFGOチュートリアルだった! 正直これ、本当にこないのではと思った時間も、少しだけあった! 待ったよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!(配信から遊んでて初めての呼符到来が君とは!) pic.twitter.com/llGesrCiJ6
— 三田誠/2月8日、『よすがシナリオパレェド』二巻発売 (@makoto_sanda) 2018年9月11日
三田 世界トレンド3位とかになってて(笑)。
──ここまで盛り上がった要因ってなんだと思いますか?
三田 Twitterでも書いてるんですけど、なるべくライトユーザー目線で遊びたいので、課金額をユーザーの中央値に合わせてるんですよ。みんななんとなくそこに自分を重ねてくれたんじゃないですかね。ただ、それにしても出なかったなー……。
──オカルトなんですが、「FGO」のガチャには高レアが出やすいとされる宗教というか、神頼みがありますよね。サーヴァントの強化が大成功したときにガチャを回す“大成功教”や目当てのサーヴァントに縁の品を用意する“触媒教”のような。その中で、サーヴァントの絵や文章を“書いたら出る教”はけっこう有名だと思うんですが、その教義に則ると三田さんはトップクラスに書いてる。でも、本当に出なかった。
虚淵 「事件簿」が完結したときに出る、っていう仮説もあったんですよ。
三田 それだとできすぎだからそれまでに出てほしかったですし、アニメ化発表までには出てくれ!と祈っていました。
──「Fate/Zero」の復刻コラボイベントで出たのも、縁を感じますね。
虚淵 そのタイミングだったの?
三田 そうです。そこで久々に孔明の単独ピックアップがあって。
虚淵 僕、復刻のためにケイネスさんの店番のセリフ新しく書きました。
──あのセリフ、虚淵さんが書いたんですね。婚約者のソラウへの思いを端々に感じて、ユーザーの間でもケイネス先生が話題になっていました。
虚淵 なんかケイネスさん、愛されキャラなんですよね。いまだにバレンタインにチョコレートをいただきますよ。
三田 不思議ですよね。ufotableにもたくさん届くらしいです。
虚淵 一番虫が好かないキャラになると思いきや、女子人気がすごい。徹底して外道なくせに、最後までソラウのことを大事にしたからなんですかね。
小説を読めば「FGO」イベントやアニメが2倍楽しめる
──「事件簿」が文庫化されて手に取りやすくなり、より多くの人の目にとまる機会があると思います。最後に、まだ「事件簿」を未読の方にオススメポイントを教えていただけますでしょうか。
虚淵 オススメポイントかー……ロード時間がない。
三田 強いセリフだ……。
──「FGO」はロード時間がありますからね(笑)。
虚淵 まあでも、小説を読む時間って現代だと本当に贅沢で優雅な時間だと思います。紙の本を手に持って読む、ゆったり流れる時間はまた格別です。それに「FGO」とのコラボやアニメ化で「事件簿」を知った人に、ぜひエルメロイⅡ世のイケメンさと魔術オタクぶりを堪能してほしいですね。これだけ膨大な情報量が一気にぶつけられる読書体験って、なかなかほかでは味わえないと思いますよ。
──そうですね、私も「アドラ」を読んだときは、まず最初にエルメロイⅡ世の天使の知識に圧倒されました。
三田 そこは仕掛けの部分なんです。オカルトミステリーものでは京極堂シリーズとかで顕著ですが、ミステリーに慣れてる方はそういった雑学をサクッと読み進められるし、慣れてない方はエルメロイⅡ世のしゃべりでなんとなく付き合ってもらえる。そうやって、最初にこの物語ではこういうことやるからね、と少しハードルをあげておこうと。2巻以降も同じぐらい情報を入れてるんですが、たぶん急に読みやすくなったように感じられるかと思います。あ、「事件簿」については電子書籍でもよく読んでもらってますよ(笑)。
虚淵 やっぱりそういう雑学がどんどん蓄えられていくのは、ミステリー小説を読む醍醐味だと思うんです。本筋とは違う知的欲求が刺激されていって、知見が広がっていく快感は小説独特のものだと思いますね。
三田 アニメだとそういった部分は切らざるを得なかったり、映像の面白さに昇華したりしますからね。僕としては、「事件簿」コラボイベントをプレイした方には、そういう密度の部分や、「ここがこうつながるのか!」というミステリー的などんでん返しな部分を、原作でも味わっていただければと思ってます。また「FGO」やアニメで作品を知っていただいた方に、文庫になったから手に取りやすいし、原作を読むとコラボやアニメが2倍楽しめる、というのは伝えたい。もちろん独立したお話なので、小説として楽しんでもらえたらうれしいです。
- 「ロード・エルメロイⅡ世
の事件簿」ってどういう話? - ロード・エルメロイⅡ世とその内弟子・グレイが、魔術師たちが引き起こす事件を解決していくミステリー。超常現象を起こせる魔術師が事件の容疑者のため、通常のミステリーとは異なりフーダニット(誰がやったか)とハウダニット(どうやってやったか)は重視されず、ホワイダニット(どうしてやったか)を解き明かすことで事件の謎に迫る。
- 「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿」のメインキャラは?
- 陰気な君主であるロード・エルメロイⅡ世と、墓守の少女・グレイの2人が、このミステリーの探偵役と助手役。戦闘能力が高いグレイの素顔はある伝説上の人物にそっくりであり、鳥籠に入れたしゃべる魔術礼装・アッドを常に携帯。平凡な魔術師であるエルメロイⅡ世の役に立ちたいと願っている少女だ。
- 刊行されている物語は?
- 「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿」のエピソードは全部で5つ。TYPE-MOON BOOKSから全10巻(10巻は近日発売)で刊行され、4月24日よりKADOKAWAから文庫版の刊行がスタート。5巻まで5カ月連続で刊行されることが決定している。各事件のあらすじは下記の通り。
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- 「剥離城アドラ」(角川文庫版1巻:2019年4月24日発売)
- ロード・エルメロイⅡ世が挑む、最初の事件
魔術世界の中心にして、貴い神秘を蔵する魔術協会の総本山・時計塔。この時計塔において現代魔術科の君主であるエルメロイⅡ世は、とある事情から剥離城アドラでの遺産相続騒動に巻き込まれる。城中にちりばめられた数多の天使、そして招待者たちそれぞれに与えられた〈天使名〉の謎を解いた者だけが、剥離城アドラの「遺産」を引き継げるというのだ。だが、それは決して単なる謎解きではなく、時計塔に所属する高位の魔術師たちにとってすら、あまりにも幻想的で悲愴な事件の始まりであった。
東冬によるコミカライズ1~3巻に収録。
- 「双貌塔イゼルマ」(角川文庫版2巻:2019年5月24日発売、3巻:2019年6月24日発売)
- “究極の美”をめぐる惨劇、エルメロイ教室の双璧も大活躍
双貌塔イゼルマに住まう、双子の姫。至高の美を持つとされる黄金姫・白銀姫のお披露目に、エルメロイⅡ世の義妹であるライネス・エルメロイ・アーチゾルテも参加することとなった。時計塔の社交会となれば派閥抗争もありえると、ボディガードとしてグレイを連れて行ったライネスだが、そこで起こった事件は彼女の想像をも超えていた。この惨劇を、ロード・エルメロイⅡ世はいかに紐解くか。
東冬によるコミカライズがヤングエース(KADOKAWA)で連載中。
- 「魔眼蒐集列車(レール・ツェッペリン)」(角川文庫版4巻:2019年7月24日発売、5巻:2019年8月24日発売)
- オルガマリー、そしてエルメロイⅡ世の真の敵が登場する魔眼オークション
魔眼のオークション、そして魔眼の移植が行われる魔眼蒐集列車は、欧州の森をいまなお走り続ける伝説。とある招待状によって巻き込まれたロード・エルメロイⅡ世は、天体科(アニムスフィア)の一族たるオルガマリーたちとともに、魔眼オークションに参加することに。しかし、エルメロイⅡ世にとっての目的はオークションにあらず。彼の誇りとも言える、奪われた聖遺物を取り戻すことだった。魔眼を欲する者と、魔眼を疎む者。秘中の秘たる「虹」の位階の魔眼とは。
- 「アトラスの契約」
- これは第零幕、エルメロイⅡ世とグレイの出会いの物語
ついに、物語は「彼女」の故郷に至る。半年前、ライネスとロード・エルメロイⅡ世は、第五次聖杯戦争で勝利する手がかりを得るため、とある辺境の墓地を訪ねていた。だが、一見平凡な墓地と村には奇妙な掟と謎が秘められており、そこで遭遇した事件と人々が、後々までふたりを縛り付けることとなったのだ。黒い聖母。ブラックモアの名を継ぐ一族。灰色のフードで顔を隠した、寡黙な墓守の少女。そして、時計塔と並び称される魔術協会のひとつ──アトラス院の院長が姿を現したとき、事件は真に変転する。
- 「冠位決議(グランド・ロール)」
- 英霊、冠位人形師、霊墓アルビオン…エルメロイⅡ世の最後の事件
不気味に蠢動するハートレスの足跡を辿るべく、調査していたエルメロイⅡ世とグレイのもとにもたらされたのは、冠位決議(グランド・ロール)の知らせであった。何人もの君主と代行たちが集まるという会議に、エルメロイⅡ世も召集されることに。しかし、このたび掲げられた問題は、貴族主義派、民主主義派の双方を揺さぶり、魔術協会全体を混乱に陥れる陰謀の渦そのものだった。時計塔の地下に広がる大迷宮と、その生還者。謎の連続失踪事件。そしていずれ劣らぬ時計塔の支配者たち。「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿」、最後の舞台の幕がいま開く。
- 漫画:東冬、原作:三田誠/TYPE-MOON、キャラクター原案:坂本みねぢ、ネーム構成:TENGEN
ロード・エルメロイⅡ世の事件簿① - 発売中 / KADOKAWA
- 漫画:東冬、原作:三田誠/TYPE-MOON、キャラクター原案:坂本みねぢ、ネーム構成:TENGEN
ロード・エルメロイⅡ世の事件簿② - 発売中 / KADOKAWA
- 漫画:東冬、原作:三田誠/TYPE-MOON、キャラクター原案:坂本みねぢ、ネーム構成:TENGEN
ロード・エルメロイⅡ世の事件簿③ - 発売中 / KADOKAWA
魔術協会の総本山「時計塔」においてロードに叙されているエルメロイⅡ世は、義妹のライネスから依頼を受け「剥離城アドラ」の遺産相続に立ち会うことに。弟子のグレイを伴い訪れた城で、悲愴な事件が始まる。東冬によるコミカライズ。
- 著者:三田誠、イラスト:坂本みねぢ、原作:TYPE-MOON
ロード・エルメロイⅡ世の事件簿1「case.剥離城アドラ」 - 発売中 / KADOKAWA
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小説 821円
「Fate」シリーズに連なる“あの男”の物語が待望の文庫化!
時計塔においてロードに叙されているエルメロイⅡ世は、剥離城アドラの遺産相続に立ち会うため、弟子のグレイをともない城へと向かう。そこで待ち受けていたのは悲愴なる殺人事件だった……。
- 著者:三田誠、イラスト:坂本みねぢ、原作:TYPE-MOON
ロード・エルメロイⅡ世の事件簿2「case.双貌塔イゼルマ(上)」 - 2019年5月24日発売 / KADOKAWA
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小説 691円
魔術における究極の美とは何か? 待望の文庫版第2弾!
双貌塔イゼルマに住まう至高の美を持つ黄金姫・白銀姫のお披露目に、エルメロイⅡ世の義妹であるライネスも参加することとなった。三大貴族、冠位の魔術師、魔術と美、幻想と陰謀とが交錯する第2幕開演。
- 三田誠(サンダマコト)
- TVアニメ化された「レンタルマギカ」ほか「クロスレ×ガリア」など、ライトノベルの執筆を中心に活躍。近年では、TRPGのリプレイ形式創作物「レッドドラゴン」のフィクション・マスター、オリジナルマンガ「Bestia ベスティア」の原作、「魔法使いの嫁」のスピンオフマンガ「魔術師の青」の原作など、多岐にわたり活躍している。
- 虚淵玄(ウロブチゲン)
- 1972年12月20日生まれ、東京都出身。ニトロプラス所属のシナリオライター、小説家。PCゲーム「Phantom PHANTOM OF INFERNO」で企画、シナリオ、ディレクションを務めデビュー。小説「Fate/Zero」、アニメ「ブラスレイター」(シリーズ構成・脚本)、「魔法少女まどか☆マギカ」(シリーズ構成・脚本)、「楽園追放 -Expelled from Paradise-」(脚本)、「PSYCHO-PASS サイコパス」(脚本)、特撮ドラマ「仮面ライダー鎧武/ガイム」(脚本)、アニメーション映画「GODZILLA」(ストーリー原案・脚本)など代表作多数。原案・脚本・総監修を務めている日台合同映像企画の布袋劇「Thunderbolt Fantasy Project」では、新作「Thunderbolt Fantasy 西幽玹歌」と第3期の制作が決定している。
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