「ロマンス暴風域」のサトミンは、柄本さんに演じてほしい(鳥飼)
──鳥飼さんはもともと柄本さんのファンだったということですが。何か好きになった作品なりきっかけは覚えておられますか?
鳥飼 それが、ほとんど記憶にないんですよ。気が付いたらもう、頭の中にいた感じ。柄本さんってたぶん、知らないうちにすっと人の脳内に入ってきますよね?
柄本 いやあ、それは自分ではわからないです(笑)。
鳥飼 すみません、失礼なことばっかり言って。
柄本 いえいえ。ちなみに鳥飼さんはマンガで男性のキャラクターを描かれるとき、実際の役者をモデルにすることってあるんですか?
鳥飼 あります、あります(笑)。最初は考えてなかったのに、途中である役者さんのイメージに寄っていくパターンもあるし。もっと具体的に、重要な場面でキャラクターを動かす際に「この役者さんの挙動だったらどうなるだろう」って脳内でシミュレートしてみたり。そういうことはめちゃくちゃ考えますね。
──これまでの作品で、柄本さんのイメージを借りたことは?
鳥飼 それ、考えてみたんです。当て込んで描いた経験はないですけど、「実写化するならこの役を演じてほしい」というキャラクターは、正直たくさんいますね。
柄本 え、どんなキャラですか?
鳥飼 せっかくだから言っていいですか?(笑) 今SPA!という週刊誌で連載している「ロマンス暴風域」という作品がありまして。その主人公の……。
柄本 ああ、サトミン! 風俗嬢にガチ恋しちゃう若い美術教師ですね。
鳥飼 え、読んでくださったんですか?
柄本 はい。すっごく面白くて。早く2巻が読みたいと思いました。ああいう恋愛って男性からすると憧れですよね。男性っていうか、むしろ俺? 自分の妄想がぜんぶ詰まっちゃってるマンガだなって。それくらい共感したんですよ。
鳥飼 本当に? うれしいです!!
柄本 要は、それまでの人生でまったくモテてこなかった男の子が、風俗店で運命的な恋をするわけじゃないですか。で、風俗嬢と客のLINEのやりとりが、いつしか動物園のデートにまで発展して。その日の別れ際、非常階段の踊り場でキスするでしょう。
鳥飼 はい。
柄本 あんなの最高ですよね(笑)。その後、2人はキス以上の関係に進んでいくわけですけど。でも、あのときのキスのほうが絶対いいんですよ。
鳥飼 そう、あのキスのほうがエロいんですよね!
柄本 俺も今までの人生、まったくもってモテてこなかったですし(笑)。だからこのマンガが、自分の過去の妄想を認めてくれてる気がして……。完全に主人公の佐藤くんに寄り添いながら読んでました。ただ1巻の終盤からだんだんサトミンが暴走しだすんですよね。恋した風俗嬢の自宅に行っちゃったりして。
鳥飼 そうなんです。実は「ロマンス暴風域」は、とある友人の経験がベースになってる話で。連載を始めた当初は、そういう展開になるって予想してなかった。でもキャラクターって、やっぱり描いていくうちに複雑化していくんですよ。
柄本 ああ、なるほど。
鳥飼 思いもよらなかった方向に走り出しちゃうこともあるし……。だから、もし作品を実写にしていただくチャンスがあったりするなら、自分が想定していたキャラクターをちょっとはみ出してくれそうな方がいいなって思うんです。
柄本 僕自身はもう結婚して子供もいるけれど、こういうメチャメチャ振り回される恋愛は演じてみたい。「もう死んでもいいっ!」って思うような(笑)。
鳥飼 付いてくれている男性の編集さんも、同じことを言ってくれてます(笑)。あと最近では、「先生の白い嘘」という作品がいちばん長く描いた連載で。このなかに、早藤という男性キャラクターが出てくるんですね。もし実写化されるんだったら、その人なんかも演じていただけるといいなあって。
──「先生の白い嘘」の主人公は、過去にレイプ被害にあった原美鈴という高校教師。その経験から、女性であることを深く嫌悪するようになってしまった彼女が本当に向き合うべき相手に気付き、自分を回復するまでの苦闘が描かれます。美鈴の親友のフィアンセである早藤は、彼女を傷付け、その後もずっと苦しめ続けるキャラクターですね。
鳥飼 そう。完全な鬼畜キャラなんですけど、ルックスがいいのでモテちゃう。女性をレイプすることに悦びを感じる一方で、自分に都合のいい女子と普通の結婚もしようとしていて……。最初は外面と内面が使い分けられる、“筋肉系のハイスペック男子”みたいな設定で描き始めたんです。ただ、連載開始当初はそういうわかりやすい箱に入れてみるんですけど、やっぱり続けていくうちに、それだけじゃ収まらない部分が出てきて。
柄本 へええ。
鳥飼 後半になると、最初は想定してなかった早藤くんの過去とか、実は心に抱えていた女性嫌悪や恐怖心みたいなものがワッと噴き出してきて。最後は鬱になって、自殺の方向にまで行っちゃうんですね。
柄本 それって、最初の時点で大まかな構想くらいはあるんですか? それとも描いていくうちに、自然とそうなっちゃった?
鳥飼 物語の大まかな着地点は、なんとなくイメージしてますね。ただ、彼が自分を殺す方向に走り出しちゃうのは、まったく考えてませんでした。こういう表現は語弊があるかもしれないけど、途中から絶対そっちのほうが面白いという気がしてきて……。それこそ「素敵なダイナマイトスキャンダル」の末井さんじゃないですけど、どこか虚無を抱え込んだキャラクターっていうのかな。そういう雰囲気で柄本さんに演じてもらえたら、私自身がすごく観てみたいなって。そう思ったんです。
柄本 うれしいな。ありがとうございます。
鳥飼 俳優さんも同じように、ご自分が演じている役が勝手にどんどん走り出しちゃうことってありますか?
柄本 うーん、どうだろう……。映画って実は短いカットの積み重ねで。しかも最後に編集行程も入るから。少なくとも僕の場合、演じながら自分の意志を超えて役が変わっていっちゃうケースは、そんなにはないかな。むしろ舞台のほうがある気がしますね。
鳥飼 ああ、そうなんだ。やっぱり舞台は“生もの”だから?
柄本 そうですね。もちろん“生もの”といっても、全体の流れはきちんと固まってるんですよ。稽古期間を通じて演出家の方とやりとりしながら、1つひとつの場面の連なりを確認してある。だけど実際に舞台に立ったとき、たとえばある台詞について「あ、こんなふうに言えばよかったんだ」って、急に自分なりの解釈がひらめく瞬間ってあるんですよ。頭の中で瞬時にバチバチッと数式が浮かぶ感覚で。稽古で積み上げてきたのとはまるで違う方向にお芝居が転がっていく。そういうときは演じていて本当に楽しいです。まあ、何百回に1回あるかないかの割合ですけど。
鳥飼 へええ、面白いですねえ。
柄本 ただね、その場合は翌日の公演が地獄のようにつらい。
鳥飼 そっか、前日の残像を追いかけちゃうんだ。
柄本 はい。無意識のうちによかった記憶をなぞろうとするから、セリフも身体の動きもワンテンポ遅れるんですね。そうなると悲惨なことになる。
鳥飼 レースゲームの「グランツーリスモ」みたいですね。前回プレイしたときのゴーストが見えるから、それが邪魔でうまく走れない、みたいな(笑)。
柄本 まさにそんな感じです(笑)。
- 「素敵なダイナマイトスキャンダル」
- 2018年3月17日(土)公開
- ストーリー
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岡山の田舎町に生まれ育った末井昭は、7歳のときに母・富子が隣家の息子とダイナマイトで心中し、衝撃的な死に触れる。18歳で田舎を飛び出した末井は、工場勤務、キャバレーの看板描きやイラストレーターを経験し、エロ雑誌の世界へと足を踏み入れる。末井はさまざまな表現者や仲間たちに囲まれ編集者として日々奮闘し、妻や愛人の間を揺れ動きながら一時代を築いていく。
- スタッフ / キャスト
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- 監督・脚本:冨永昌敬
- 原作:末井昭「素敵なダイナマイトスキャンダル」(ちくま文庫刊)
- 出演:柄本佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重豊、村上淳、尾野真千子ほか
- 音楽:菊地成孔、小田朋美
- 主題歌:尾野真千子と末井昭「山の音」
©2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会
- 柄本佑(エモトタスク)
- 1986年12月16日生まれ、東京都出身。2003年公開の映画「美しい夏キリシマ」で主演デビュー。同作で第77回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞などを受賞する。主な主演作に映画「17歳の風景~少年は何を見たのか」「今日子と修一の場合」、テレビドラマ「シリーズ青春が終わった日 ぼくもいくさに征くのだけれど~竹内浩三・戦時下の詩と生」「生むと生まれるそれからのこと」「おかしな男-渥美清・寅さん夜明け前」「コック刑事の晩餐会」「ROAD TO EDEN」など。公開待機作として主演映画「きみの鳥はうたえる」「LOVERS ON BORDERS」が控える。
- 鳥飼茜(トリカイアカネ)
- 大阪府出身。2004年に別冊少女フレンド DX ジュリエット(講談社)でデビュー。「ドラマチック」「わかってないのはわたしだけ」を発表する。2010年に青年誌初連載作品「おはようおかえり」をモーニング・ツー(講談社)で開始。代表作に「おんなのいえ」「先生の白い嘘」「地獄のガールフレンド」など。現在は「ロマンス暴風域」を週刊SPA!(扶桑社)、「前略、前進の君」をMaybe!(小学館)で、「マンダリン・ジプシーキャットの籠城」をダ・ヴィンチ(KADOKAWA)で連載中。
スタイリング(柄本佑):林道雄
衣装協力(柄本佑):ジョンスメドレー
2018年3月20日更新