写真時代(白夜書房)、月刊NEW self(セルフ出版)などエロ雑誌の編集長を務め、昭和後期のサブカルチャーを牽引した末井昭の自伝的エッセイ「素敵なダイナマイトスキャンダル」が実写映画化。3月17日に公開されることを記念して、コミックナタリー、音楽ナタリー、映画ナタリーでは特集を展開する。
コミックナタリーでは主演の柄本佑と、原作のファンで映画にも推薦コメントを寄せている鳥飼茜の対談をセッティング。女性が社会の中で感じる生きづらさや、恋愛につきまとう面倒なことなど現代的なテーマをマンガの中で扱う鳥飼の目に、男性本位な時代を描いた本作はどのように映ったのか。柄本が語る映画の舞台裏とともに、その感想を聞いた。
取材・文 / 大谷隆之 撮影 / 佐藤類
人生誰しも同じく、生まれ来て死ぬまでの大いなる茶番だ(鳥飼)
──おふたりは今日が初対面なんですね。
鳥飼茜 はい。前々から個人的にファンだったんですけど、こうやってお目にかかるのは初めてで……。「素敵なダイナマイトスキャンダル」、いろいろと面白かったです!
柄本佑 ホントですか! うれしいな。
鳥飼 まず思ったのは、めっちゃおっぱいが出てくるなと(笑)。スクリーンにこんなにも女性のおっぱいが映る作品って、昨今めずらしいですよね。
柄本 そうですねえ(笑)。なにせ、伝説のエロ雑誌編集者が主人公ですから。
鳥飼 女の人のヌードもさることながら、劇中、主人公の末井(昭)さんが作っている雑誌がたくさん出てくるじゃないですか。そのドギツさというか、誌面から漂ってくる昭和の匂いみたいなものが、私には強烈すぎて。
柄本 NEW selfとか写真時代とか。すごいですよね、あの昭和感。
鳥飼 個人的には、子供の頃にテレビでやってた、深夜のお色気番組をちょっと思い出したりしました。男の人がヘラヘラとはっちゃけてるんだけど、でも、同時に醒めてる雰囲気もあって……。全体ではどこか茶番に見えちゃう感じ。
柄本 ああ、それ、すごくわかります。
──そういえば鳥飼さんは本作への推薦コメントでも「人生誰しも同じく、生まれ来て死ぬまでの大いなる茶番だ」と書いておられましたね。どうせ茶番なら「遊んで怪我して、派手に爆発したらどうなのって、末井さんに挑発されてしまった」と。
鳥飼 そうなんです。私、この映画を拝見する前から、末井さんの著書は何冊か読んでいたんですね。一度、それについて仕事場で話し込んだことがあって。
柄本 へええ、どんな話をしたんですか?
鳥飼 末井さんって、今は仙人みたいな雰囲気もあったりするけど、昔は女の子の裸を商売のネタにしていて。ご自分も不倫したり、めちゃめちゃ遊んでたわけですよね。うちのアシスタントは全員女性なんだけど、「そういうのってどう思う?」って。
柄本 うん。
鳥飼 で、そのとき出た結論が「総じて茶番だよね」というものだったんです。たぶんご本人も悪ふざけくらいのつもりで、茶番がいきすぎてしまった結果として、許されない行為になっていったんじゃないかなと。
柄本 なるほど。女性から見ると、きっとそうなりますよね(笑)。
鳥飼 でも性別にかかわらず、そういう茶番的な部分っていうのは誰の人生にだってあるだろうし。末井さんの場合、「どうせ茶番なら」からの振り切り方がすごいでしょ。
柄本 確かに。
鳥飼 そこが清々しいのかなって。今回、映画を観て改めて感じました。
──たとえば菊地成孔さんが演じる“荒木さん”(写真家・荒木経惟がモデル)と一緒にヌード撮影をするシーンなど、まさにそんな感じがしますね。適当なことを言って素人モデルをノセている主人公の、あのなんともいえない表情が……。
鳥飼 そうそう(笑)。浮かれているように見えて、自分を突き放している気配もある。なんか身体の半分は別の場所にいるみたいな表情を、ずっとされているんですよね。
柄本 そんなふうに見えるんですね。今の話と直接つながるかどうかはわからないですけど、今回、冨永(昌敬)監督からは「この映画は、途中までは“ザ・青春映画”。後半はミステリーにしたいんです」って言われたんですよ。
鳥飼 へええ、ミステリーなんだ!
柄本 映画の中の末井さんは、故郷の岡山を飛び出して、まず工場に就職しますよね。そこからピンクキャバレーの看板を描きながら自己表現に悩んだりしつつ……。やがて人に誘われてエロ雑誌の編集を始める。そこまでの前半部は、普通に感情移入ができる青年のキャラクターなんです。僕もそんなふうに演じていて。
鳥飼 うん、うん。
柄本 でも、創刊した雑誌が次々に売れてね。警視庁に何度も呼ばれながらも過激なページを作っていく後半は、監督的には「主人公がどんどん怪物的になっていく感じを出したい」と。要は、何を考えているのかわからない人になっていくので、演技もそういうふうにやってほしいと(笑)。
鳥飼 先物取引にはまって大借金を抱えちゃったり。あと、意味もなく道ばたに小銭をばらまいちゃったりね。
柄本 あの小銭を投げ捨てながら歩くのは、実際のエピソードなんですって。末井さんご本人に聞いたら、その時期に消費税が導入されてお釣りが増えて、「ポケットが重くて面倒だったんだよね」って。
鳥飼 ちょっとわかるかも。でも、本当にやっちゃうのは普通じゃないですよね。
柄本 でも演技でやるぶんには気持ちがよかったですよ。実生活では絶対に経験できないことなので(笑)。
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女装をして、ブラジャーを外すときに妙に恥ずかしかった(柄本)
- 「素敵なダイナマイトスキャンダル」
- 2018年3月17日(土)公開
- ストーリー
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岡山の田舎町に生まれ育った末井昭は、7歳のときに母・富子が隣家の息子とダイナマイトで心中し、衝撃的な死に触れる。18歳で田舎を飛び出した末井は、工場勤務、キャバレーの看板描きやイラストレーターを経験し、エロ雑誌の世界へと足を踏み入れる。末井はさまざまな表現者や仲間たちに囲まれ編集者として日々奮闘し、妻や愛人の間を揺れ動きながら一時代を築いていく。
- スタッフ / キャスト
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- 監督・脚本:冨永昌敬
- 原作:末井昭「素敵なダイナマイトスキャンダル」(ちくま文庫刊)
- 出演:柄本佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重豊、村上淳、尾野真千子ほか
- 音楽:菊地成孔、小田朋美
- 主題歌:尾野真千子と末井昭「山の音」
©2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会
- 柄本佑(エモトタスク)
- 1986年12月16日生まれ、東京都出身。2003年公開の映画「美しい夏キリシマ」で主演デビュー。同作で第77回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞などを受賞する。主な主演作に映画「17歳の風景~少年は何を見たのか」「今日子と修一の場合」、テレビドラマ「シリーズ青春が終わった日 ぼくもいくさに征くのだけれど~竹内浩三・戦時下の詩と生」「生むと生まれるそれからのこと」「おかしな男-渥美清・寅さん夜明け前」「コック刑事の晩餐会」「ROAD TO EDEN」など。公開待機作として主演映画「きみの鳥はうたえる」「LOVERS ON BORDERS」が控える。
- 鳥飼茜(トリカイアカネ)
- 大阪府出身。2004年に別冊少女フレンド DX ジュリエット(講談社)でデビュー。「ドラマチック」「わかってないのはわたしだけ」を発表する。2010年に青年誌初連載作品「おはようおかえり」をモーニング・ツー(講談社)で開始。代表作に「おんなのいえ」「先生の白い嘘」「地獄のガールフレンド」など。現在は「ロマンス暴風域」を週刊SPA!(扶桑社)、「前略、前進の君」をMaybe!(小学館)で、「マンダリン・ジプシーキャットの籠城」をダ・ヴィンチ(KADOKAWA)で連載中。
スタイリング(柄本佑):林道雄
衣装協力(柄本佑):ジョンスメドレー
2018年3月20日更新