コミックナタリー Power Push - 九井諒子「ダンジョン飯」
“美味しそう”を伝えるプロ・食品サンプル職人が大サソリに挑む! 架空の魔物料理をどう作る?
食品サンプル屋の仕事は単にサンプルを作るだけではない
──それではここから、実際にこちらのサンプルを作った、中田さんに話を伺います。改めてイワサキ・ビーアイという会社についてお聞きしたいんですけど、非常に歴史のある会社なんですよね。
中田 食品サンプルがいつ始まったかは明確ではなくて、大正末期から昭和初期のだいたい同じ時期に、同時多発的にいろんな職人さんが始めたと聞いております。弊社の創業者の岩崎瀧三はそんな中、昭和7年に今の会社の前身となる岩崎製作所を創業したそうです。
──岩崎さんはどういったきっかけで食品サンプル作りを始めたんでしょうか。
中田 少年時代に、提灯のロウソクを交換する際に偶然、水たまりにロウがこぼれたらしいんですよ。そのときにロウが水面に広がって花のような模様が浮かんだのを見たのがきっかけで興味を持った、という話を聞いております。
──なるほど! 溶けたロウを水の中に広げてレタスを作るっていう食品サンプル作りのレポート、テレビとかで見たことあります。
担当編集 でも最初の打ち合わせのときに聞いたんですけど、あのロウでのレタス作りって今は体験用にやってるだけらしいですよ。
中田 そうですね。ロウは熱に弱くて、直射日光で溶けたりすることもあるので商品には使ってないです。今は樹脂がメインですね。ちなみに創業者の岩崎が一番最初に作った食品サンプル第1号は、奥様の作ったオムレツがモデルらしいです。
──いい話ですね(笑)。
中田 また日本に食品サンプルという文化を国内で広めたのも、岩崎製作所だと聞いております。というのは、食品サンプルをお店に売るのではなくて、レンタル制度を取り入れたんですよ。
──なるほど、買うより安いし、時期によって入れ替えもできるし。
中田 あとは定期的にお店に行って、破損とかも修繕するんです。そうやってお店の人と関係を深めていくわけですね。
──へえー、富山の薬売りみたいですね。そのときに「次にどういうのをディスプレイしたらいいですか」って相談もできますしね。
中田 そうですね。単純なサンプル作りだけでなくて、お店の繁盛のお手伝いをする仕事なんですよ。
──そうやって食品サンプルの需要を高めていった結果、その文化が日本に定着していった、と。イワサキ・ビーアイさんはテレビでも何度か紹介されてるそうですね。
中田 工場にクジラの大きなレプリカがあるので、その取材をしていただいたりしてますね。ウレタンやアクリル樹脂で作ったもので、実物大なので15メートルぐらいあります。
──実物大のクジラ! それは何のために作ったんですか?
中田 亡くなった先代会長の趣味ですね(笑)。景気がいいときの。要は「サンプル屋の技術はここまでできるよ」っていう技術をアピールするためのもの。こういうやつなんですけど(と、写真を見せる)。
担当編集 私たちも打ち合わせにいったときに見させてもらいましたけど、すごかったです。
──これはどうやって作ったんですか? 食品と違って、実物から型を取れないですよね。
中田 まず最初に舞台の大道具をやってる方が大雑把な形を作って、あとは弊社で細かい作業を、図鑑とかを見ながらやりました。運んだりするために16分割にして作って、それから組み立てました。
「タモリ倶楽部」でも紹介された「社内製作技術コンクール」
──食品サンプル以外のこともやられてるんですね。今回はマンガに出てくる食材を作るという依頼でしたけど、こういう架空の物を作ったことは?
中田 私はないですね。あ、でもウチの会社は、社内製作技術コンクールっていうのをやってるんですけど……。
担当編集 それは「タモリ倶楽部」でも紹介されてましたね。
中田 そのときに想像の世界の料理を作る人もいます。例えば魚1匹を丸ごと乗せたお寿司とか。
──そのコンテストは社内の人しか見れないんですか? もったいないですね。
中田 8月に東京スカイツリーのソラマチにあるショップで展示もありますよ。
──ショップがあるんですね。
中田 合羽橋と、横浜の赤レンガ倉庫にもありますね。そこでおみやげ用のオリジナルグッズも売ってます。
担当編集 スライスチーズとかベーコンの形をしたしおりを売ってるんですよ。これ、いただいたんですけど(と実物を見せる)。
──リアルですね! 本に挟んでるとこを知らない人に見られたらギョッとされそう(笑)。
担当編集 九井さんもベーコンのしおりを気に入ってました。
中田 ショップに行っていただければ味海苔のしおりとか、お寿司のマグネットとか、自分で食品サンプルを作れるキットとかいろいろあります。
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