負の感情が名作を生み出すと思う
──続いてティム・バートン監督についてもお話を。彼の作品はお好きですか?
好きです。けっこう観てますね。最初に観たのは「シザーハンズ」かな。あとは「(ティム・バートンの)コープス・ブライド」と「スウィーニー・トッド(フリート街の悪魔の理髪師)」がすごく好きです。(ティム・バートンが製作として参加した)「ナイトメアー(・ビフォア・クリスマス)」が好きな人のほうが多いと思うんですけど、ティム・バートンのストップモーションアニメで一番の傑作は絶対「コープス・ブライド」ですよ。
──余談ですけど、「BEASTARS」のレゴシの名前の由来が俳優のベラ・ルゴシだということが1巻のあとがきに書いてありましたよね。かなり古い俳優をご存じだな、と思ったんですが、もしかしてティム・バートン監督の映画「エド・ウッド」でベラ・ルゴシが描かれていることに関係しているんでしょうか?
そうですね、ベラ・ルゴシのことは「エド・ウッド」で知りました。エド・ウッドはけっこうひどい監督だったんだけど、ティム・バートンが作品にしてくれたことで私もいろいろ映画を観る裾野が広がったというか。「エド・ウッド」がきっかけでほかのエド・ウッドの映画もいくつか観ましたよ。
──ティム・バートン作品のどういうところが好きですか?
彼の映画を観たみんなが感じることだとは思うんですけど、独創的であること。あとは残酷なことを平気でするところが好きですね。血がたくさん出るのに映像はきれいで。ジョニー・デップの出演作で彼が一番美しく映っているのは「シザーハンズ」だと思っています。
──「シザーハンズ」が顕著だと思うんですけど、ティム・バートン監督は幼少期に変わり者扱いされていて、映画でも彼が少年時代に感じた疎外感や孤独が表現されている、というような評価をよく受けてますよね。
いやあ、クリエイターというか、ものを作る人たちは負の感情をぶつけてくる人が多いんですよ、絶対に(笑)。やっぱり反骨精神や負の感情から生まれたものこそが名作になりうるかなとも思うし、それでいいかなって思ってます。
──「BEASTARS」って肉食動物と草食動物が共存する中で食肉という概念が存在している世界観だとか、異種族間の恋だとか、さまざまな重いテーマが内包された作品ですよね。だから読んでいると「作者はまだ20代で若いのに、どんな人生経験を積んだらこんなマンガを描けるんだ」と感じるんです。板垣さんもティム・バートンのように、鬱屈した部分を作品にぶつけたりするものなんでしょうか。
いやいや、私は割と普通の人間だから、そういうのはないですね(笑)。
──(笑)。確かにトークショーなど含めて何度か取材させてもらった限りの印象では、いい意味で普通の、明るい方という印象しかなくて、おかしな言い方ですが、ルサンチマン的なものを感じないなと思ってたんです。例えばですが、「ずっと絵ばかり描いていて変わり者扱いされてた」といった経験もない?
どうなんだろう……? 変わり者扱いはされてたと思うけど、私の場合は「まあそうだよね」「私、変わってるよな」って受け入れてたと思います(笑)。
──なるほど……。マンガと作者が違うのは当たり前なんですが、読者の想像、あるいは「こうあってほしい」という安易で勝手な願望も込みで「こんな重いマンガを描いてる作者はどんな苦労を……」といろいろ想像してしまいがちなんですが、特にそういうこともなく(笑)。
いじめられたとかそういう経験はないんですけど、単純にいろんなことを全部、すごく斜めな視点から見る癖はあると思います。いつも「世の中はどうしてこんな汚いんだ」と思いながら眠りについてますから(笑)。そういう意味での負のパワーはあるかな。でもそれぐらいの怒りはみんなあると思いますよ。
「自分を肯定する」って、それを貫くのは簡単なことじゃない
──「BEASTARS」の主人公・レゴシは、心は優しいのにオオカミとしての肉食の本能に悩むというキャラクターで、最近の展開ではある理由で学校も退学しました。「ダンボ」と「BEASTARS」は、動物が主人公ということ以外にも共通したテーマがあるように思えます。生まれ持った個性に悩んでいる人や、社会からはみ出してしまった人に対して「そのままでいい」と言ってくれるような。
そうですね。「自分を肯定しろ」みたいなメッセージは同じかもしれないです。
──周りと違ってても自分のままでいいという。
「ダンボ」では、安っぽい言い方かもしれないけど「自分の個性を活かす」ってことが肯定的に描かれてますよね。だからダンボに対して「君は耳で飛んでるときが一番輝いているんだ、幸せになってくれ」と思いながら観てはいたんですけど……正直、観ててそこがつらくもあったんですよね。人それぞれが持っているいろんな能力の五角形のグラフがあったとして、その一番尖ってる部分を活かして生きることがいいことだとされてるじゃないですか、一般的に。すごくかわいく生まれたらアイドルになるとか、サッカーがうまかったらサッカー選手になるとか。でも自分の得意なことで頭角を現せば現すほど、周りがめんどくさくなってくること、あるよなーって(笑)。
──周りが「得意なことをやれ」って空気になっちゃうのが怖いということですか。
そう。周りにはやし立てられながらも自分の特徴を活かして生きていくことが幸せとされるという、宿命みたいなものはめんどくさいな、というのはちょっと考えました。特技を活かすことがすべていいほうに転ぶとは限らないですから。
──なるほど……。
その周りの期待が大きくなっていく中でも、自分がしっかりしてなきゃ「特技を活かさないと」っていうプレッシャーで潰れてしまいますよ。だからこそ、ダンボは「お母さんに会いたい」っていう意思を貫いたからすごいなと思って観てましたね。「神様はそれに耐えうる人にしか試練を与えない」みたいな、ちょっとファンタジーな考え方もありますけど。ダンボの意思だけじゃなくて周りも重要ですよね。もしかしたらダンボの周りに何人ものいい人がいなければ、もっとひどい見世物としての人生を送っていたかもしれないし……(笑)。
──「自分を肯定する」ってよく言われる、耳障りのいいフレーズではあるし、間違ったことではないんですけど、それを貫くのは簡単なことじゃないんだなと改めて思いました。ちゃんとやりきったダンボは偉いですね。子供なのに。
それにダンボは自分の耳が大きすぎることを早いうちに肯定できてよかったですよね。子供の頃にバカにされ続けてたら、もっとすごいコンプレックスになってたと思うので。
──最後に映画「ダンボ」のおすすめポイントを教えてください。
そうですね、映画を観て最初は「あれ? ストーリーとかダンボの描写とか、アニメーションとは全然違うんだな」ってびっくりしたんですよ。でも観終えたら、アニメーション版と伝えたいことは同じなんだなと感じられました。
──さっき言った、「自分の個性を活かす」というテーマがアニメと実写で共通しているということですね。
そう。あとは親子の絆といった部分もそうですね。オリジナルのストーリーがある作品の実写化って、演出や手法、ストーリーが変わっても、作品のテーマ、伝えたいことが同じであることが一番重要ですから。「実写版」って聞いただけで警戒する人も多いとは思うんですが、アニメーション版の「ダンボ」を愛している人も、いったん別物だと思って観てもらえたらいいな。そうすれば最終的に「アニメーションと一緒だった」と納得できる面白さになってると思います。
- 「ダンボ」
- 2019年3月29日(金)全国公開
- ストーリー
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アメリカ各地で興行の旅を続ける落ちぶれたサーカス団で生まれた象のダンボ。ダンボは、サーカスの新たな看板スターとしてショーに出るが、大きすぎる耳のせいで観客の笑い者にされてしまう。ある日、サーカスの元看板スターだったホルトの子供たちが、ダンボと遊んでいると、大きな耳でダンボが飛べることを発見する。その“空飛ぶ子象”の噂を聞き付けた大興行師のヴァンデヴァーは、サーカス団をだましてダンボを手に入れようとたくらみ、愛する母と引き離してしまう。ダンボの姿に勇気付けられたサーカス団の仲間たちは、母象の救出に挑む。大空を舞うダンボが、世界中に“勇気”を運ぶファンタジーアドベンチャー。
- スタッフ
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監督:ティム・バートン
脚本:アーレン・クルーガー
音楽:ダニー・エルフマン
音楽監修:マイク・ハイアム
- キャスト
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ホルト:コリン・ファレル
ヴァンデヴァー:マイケル・キートン
メディチ:ダニー・デヴィート
コレット:エヴァ・グリーン
- 日本語吹替版キャスト
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ホルト:西島秀俊
ヴァンデヴァー:井上和彦
メディチ:浦山迅
コレット:沢城みゆき
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- 板垣巴留(イタガキパル)
- 2016年3月、週刊少年チャンピオン(秋田書店)にて4号連続の読み切り作「BEAST COMPLEX」でデビュー。読み切りの好評を受け、同年9月に「BEASTARS」を連載開始した。「BEASTARS」「BEAST COMPLEX」ともに、草食動物と肉食動物が共生する世界を描いている。2017年、「BEASTARS」で宝島社が刊行する「このマンガがすごい!2018」オトコ編で第2位を獲得。2018年には同作が第11回マンガ大賞、第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第22回手塚治虫文化賞新生賞、第42回講談社漫画賞少年部門を受賞した。2019年10月からは「BEASTARS」のアニメが放送される。