ゴブリンスレイヤーと比較すると、イアルマスは……
──蝸牛くもさんといえば「ゴブリンスレイヤー」、というマンガ・アニメファンも多いと思います。いち読者として、「ゴブリンスレイヤー」のハードでシリアスな世界観に近いものが、「ブレバス」にもあるような印象を受けたのですが、ゴブリンスレイヤーさんとイアルマスを並べたときに、ご自身で違うなと思うのはどういうところですか。
蝸牛 そうですね。ゴブスレさんとイアルマスで比較したら、イアルマスのほうが絶対強いです(笑)。ついでに言ったらイアルマスは完全にエンジョイ勢なんですよね。奴はもう楽しんで冒険してるので、そのへんの差はあるかな。ゴブスレさんは楽しむ余裕がない人なので。あとイアルマスは強いけど、だからといって1人で全部できちゃう話にはしないようにしようっていうのはありますね。
──so-binさんと楓月さんは、「ブレバス」の魅力はどんな部分だと感じていらっしゃいますか?
so-bin ストイックなところがいいですよね。ダンジョンに潜って、ひたすら探索するっていう。そういうの俺たち好きじゃないですか?
楓月 そうですね(笑)。
so-bin 男臭くていいなって思います。でもシリアス一辺倒じゃなくて、ところどころにギャグが入っていたりとか、ちゃんと読みやすい。今くもさんもおっしゃいましたけど、イアルマスが割とエンジョイしてるなってのも伝わってくるんですよね。そういうキャラ付けがしっかりしてる。
蝸牛 結局「『ウィザードリィ』面白いよ!」って言ってるだけなんで(笑)。「ウィザードリィ」はこういうことをやるゲームで、こういうところが面白いんだよっていうのを、なるべく知らない人にもわかるように書かなきゃいけないなっていう意識はありますね。知っていればなんとなく想像がつく、知らなくてもまあ楽しめるくらいがちょうどいいラインというか、目指すバランスかなと思っているんで、そのへんがちゃんと書けてるんであればよかったです。
楓月 そのバランス感が絶妙だなって思いますね。「ウィザードリィ」を知らなくても当然面白く読めるんですけど、知れば知るほど拾えるネタが増えて、より味が増すというか。より美味しくいただけるみたいな。
so-bin イアルマスが迷宮を進むとき、コインを投げるじゃないですか。あれも実際「ウィザードリィ」にある動きなんですか?
蝸牛 あれはまったく別の作品のオマージュ……というかパロディなんですけど(笑)、まあでも1人で探索するとなると、かなり慎重に動かないとやばいので。
so-bin それはトラップとかがあるから?
蝸牛 ありますね。回る床だったり落とし穴だったり……。イアルマスはかなり強いんですけど、だからといって“俺TUEEE”みたいに、1人で余裕たっぷりに冒険していたら、それは「ウィザードリィ」じゃない。実際「ウィザードリィ」は、高レベルなキャラで探索していても、やばいときはやばいので(笑)。
楓月 僕もゲームをプレイしたので、そのやばさがわかります(笑)。
蝸牛 そういうことを考えると、単独行動のイアルマスがとりわけ慎重に動いているということは、きちんと表現しておかないといけないなと。
so-bin 彼はあんまり、おっかなびっくりはしてないですけどね(笑)。でも、そこらへんの玄人感はいいなって思いました。
原作者としてのディレクションは、主にキャラクターの感情面
──マンガ版はまだまだ始まったばかりですが、描いていて力が入ったシーンはありますか。
楓月 第1話の冒頭ですかね。「囁き── 祈り── 詠唱── 念じよ」って、やっぱり「ブレバス」が「ウィザードリィ」だってことを象徴するシーンかなと。入りの部分だし、しっかりがんばりたいなと思って描きました。
──これで蘇生が失敗するとは、「ウィザードリィ」を知らない人はきっと思わないですよね(笑)。“失敗”と言ったらアイネさんに怒られちゃうかもしれないですけど。
楓月 あはは(笑)。でもそれこそが「ウィザードリィ」みたいな。
蝸牛 「ウィザードリィ」を書くとなったら、古参のファンの方々に「こんなもんは『ウィザードリィ』じゃねえ!」って言われないようにしないといけないので(笑)。
──描いていて楽しいキャラはいますか?
楓月 絵として動かして楽しいのはガーベイジかな。あとアイネさん。第1話ではアイネさんをけっこうコミカルに描かせてもらったんですが、これがありなのかなしなのか、ちょっと不安だったんですよ。表情をどこまで崩していいのかがわからなくて。おっかなびっくり提出したところもあるんですが、いかがでした?
蝸牛 いや、全然問題ないです(笑)。マンガについては自分は門外漢なので、キャラクターの感情面で……例えば、本当は怒っている場面だけど笑っていたら「違いますよ」って言うかもしれないんですけど、そういうところ以外は基本おまかせですね。
so-bin それは「ブレバス」だけじゃなくて、「ゴブスレ」とかでもそうなんですか?
蝸牛 「ゴブスレ」もそうですね。感情面でちょっと違うから直してくださいってお願いすることはありますけど、基本はおまかせで。毎回ネームが上がってくるたび、「一番最初に自分の作品のマンガが読めるぞ」みたいな感覚でニコニコ楽しませてもらっています。
so-bin ファンタジーマンガって作画カロリーが高いイメージなんですよ。装備とかも描くの面倒くさいじゃないですか。
楓月 そうですね(笑)。資料を集めたり、そういうのも大変なので。
so-bin イラストはなんとなくで大丈夫なところもあるんですけど(笑)、マンガってたぶんもっとカッチリやらないといけないんじゃないかと思っていて。
楓月 そうですね。どうやってマンガに落とし込めばいいんだろうって頭を抱える部分も確かにあって。それはso-binさんのデザインだったり、作品の設定だったり……。でもわからないことを編集さん経由でくもさんにお聞きすると、すごくレスポンスが速いんですよね。例えばダンジョンの入り口がどんなふうになっているのか、わからなくてお聞きしたときも、資料をつけて返してくださって。
蝸牛 なるはやで返すよう、努力はしています(笑)。
──それはもう、くもさんの頭の中にはイメージがあって?
蝸牛 いえ、そうじゃないですね。聞かれてから調べて、資料を探して返していることがほとんどです。仮に自分の頭の中でイメージがある場合であっても、それを説明するにあたっては絵を見せたほうが早かったりもするので。聞かれてから、考えてなかったなって決めるところもありますし。ただ毎回細かく戻しすぎても面倒くさい原作者になるよなって思うので、その塩梅をおっかなびっくり探っています(笑)。
──でも小説でははっきりわからなかったところを、うやむやにせず、原作側の意図を確認して伝えてもらえるのは、読者としてはありがたいです。
楓月 やっぱり自分もこの世界が好きなので、楽しく描かせてもらっています。
蝸牛 そのうち地平線いっぱいのモンスターの軍勢とか……。
楓月 えっ……。
蝸牛 “想像を絶する一撃!!”とか書いておまかせすることになると思うので、よろしくお願いします(笑)。
楓月 (笑)。そのときはスタッフ一同でがんばって乗り越えようと思います。
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小説2巻の見どころは、大きくて大きい子