カイマンは高木渉さんがいい
──林田さんはアニメ化が決まったとき、どういった感想を抱きましたか?
私はネガティブな人間なので、やっぱり不安だなっていう思いがあって。でも現実的なところもありまして、「1回アニメにして林田球の名前を売っておかないとな」と(笑)。
──あはは(笑)。
マンガ家として、これからやっていけるのか不安な時期でもあったんです。私は自分の好きなものしか描けないし。いままでもアニメ化のお話は何度かあったんですが、今回は「ドロヘ」が終わる時期とも合うし、ちょうどいいなあと思いました。だからお声がけいただいてからトントン拍子で決まりましたね。
──「ドロヘドロ」ってグロい要素もある作品ですよね。それをアニメでどう描くのかは、ファンが気になるところだと思います。
そうですよね。私もなかなか教えてもらえなくて。
──それはグロい要素をどの程度しっかり描くのかってことですか?
そうです。「切断面は?」「切断面は一体どうなったでしょうか?」ってたびたび東宝のプロデューサーに質問して(笑)。
──プロデューサーさんはなんと?
「おっぱいは出ますから」って。
──質問と答えが食い違ってる(笑)。
私も「ん?」って思ったんですが、どっちも大事だなって。
──1話と2話を観ましたが、松村が八つ裂きにされるシーンや人間を虫に変える魔法使いとの戦いもちゃんと描かれていましたね。直接的な描写というよりは、凝った演出で状況がわかるよう配慮がなされていて、私はスプラッタが苦手なんですがあまり気にならずに観られました。
切断されてるとか皮が剥がれたとかもわかるし、ちゃんとグロいなって思いました。最初の会議で「問題は多いんですが、グロいところをカットすると逃げたと思われてがっかりされるから、やったほうがいいと思います」と伝えていて、意図を汲んでくださった。もしかしたらテレビ放送、円盤と形態によって異なる部分もあるんじゃないかと思いますが、その辺は「ドロヘ」ファンの皆さんもわかってくれるだろうと。
──マンガの「ドロヘドロ」はけっこうスプラッタな描写があるのに嫌悪感が少ないというか、ポップなコメディ感があります。キャラクターたちの軽妙な会話がその雰囲気に一役買っていると思いますが、アニメでのキャラクター同士の掛け合いはいかがでしたか?
リズミカルでよかったです。マンガでも会話はトントントントンとテンポよくなるように自分なりに気にしていて。ただアフレコに2回見学に行かせてもらったんですが、自分の書いたセリフを読まれた瞬間に、ぶわああああっと汗びっしょりになってしまって。
──それはなぜ?
恥ずかしくて(笑)。20年前に考えたセリフですからね、もう今の自分では書けないという気持ちもありますし。だんだん慣れて、声優さんの演技のすごさに見入ってました。
──声優のキャスティングに関して、ご希望はありましたか?
私は「カイマンは高木渉さんがいい」ってお伝えしていました。実は「ドロヘドロ」の本当に初期の頃、小さいアニメを作ろうという企画が一度立ち上がったんです。結局頓挫したんですけど、そのとき「声優は誰がいいですか?」と聞かれていろいろ探した中で高木さんがいいなって思って。それ以来、ファンとして高木さんが出ている作品は観たりしていて、やっぱりカイマンは高木渉さんがいいなあと思ってました。キャスティングはオーディションだったんですが、音源を聞いたときに圧倒的に高木さんのインパクトが強くて。
──林田さんの想像するカイマンの声と、高木さんの声が似ていたということですか?
そうではなく、カイマンに必要な明るさや、外見に反してコミカルな部分を表現してもらうのにぴったりという感じ。オーディションの最初の挨拶から鷲掴みにされました。キャスティングは音源を聞いて、一応希望を出してあとは監督にお任せする感じでしたが、キャストの皆さんどなたもぴったりでした。
OPの「Welcome トゥ 混沌」がずっと頭に回ってる
──林田さんは音楽がお好きなイメージがありますが、「ドロヘドロ」執筆中はどんな音楽を流していましたか?
好きな曲を流したり、シーンによって曲を変えたり。キャラの内面というかドラマチックなシーンを描かなきゃいけないときは日本の流行りの曲とかアニソンとか、ゲーム音楽を聴いてました。ぐちゃぐちゃした変なシーンとかグロいシーンとかは気分を上げるために、そういうのに合った曲を。
──どういう曲ですか(笑)。
暗かったり、速くて雑音みたいなのとか(笑)。執筆中はずっと音楽を聴いてますが、アップテンポで音がいっぱい重なってる曲が好きなんです。ちょっと話は変わるんですけど、私は10代の頃からアメコミを集めていて。英語が読めるわけじゃないので、物語ではなく絵がとても重要なんです。好みの絵ならなんでもいいので、ジャケ買いして好きな絵を集めてます。音楽もそれと同じで、好きな音を探していて。
──アメコミ……つまりマンガには絵やストーリーなどさまざまな要素がありますが、林田さんが求めているのは「好みの絵」。音楽でも、曲を構成する要素の中から「好みの音」を探していると?
そう、ドンピシャに好きな音を探してます。絵も音も「ここは好きだけどここはちょっと惜しいなあ」ってこともあったり。
──ユニークな探し方ですね。なんとなく、「ドロヘドロ」からビジュアル的にSlipknotのようなヘヴィメタルがお好きなのかと想像していましたが、ジャンルではなく好きな音を求めている。
もちろん速いのとか重いのとか暗いのとかいろんなメタル系の音楽も聴きますが、流行ってる曲も普通に聴きますし、本当に広範囲に好みの音を探してる感じです。
──アニメ「ドロヘドロ」では音楽に関して何かリクエストはしましたか?
東宝のプロデューサーさんに「ガッチガチのメタル曲にはしないでください」とだけお願いしました。
──そういう、ビジュアルと直結したイメージで固められたくなかった?
それもあります。それに、「ドロヘドロ」の主題歌で英語の歌詞の激しいメタルっぽい音楽が流れたりすると、「思った通りそういう系の話なのか」っていう先入観で、視聴者を狭めてしまうかなという不安もありました。
──アニメ「ドロヘドロ」の主題歌、劇伴など音楽プロデュースは、「Fairy gone フェアリーゴーン」や「灰と幻想のグリムガル」で知られる(K)NoW_NAME(ノウネイム)が担当しています。オープニングの「Welcome トゥ 混沌」はお聴きになりましたか?
はい、すごくよかったです。最近この曲がずっと頭に回ってて、発売されたらiPhoneに入れようと思っています(笑)。
──最初はロック調でキャッチーな印象を受けますが、ギターのリフがノイジーで印象的なのに対してコミカルなSEなどいろいろな要素が混ざっていて。まさに「ドロヘドロ」っぽい曲だと思いました。
そうなんです、耳に残る感じでとっつきやすい。全体的にテンポが速くて、民族音楽だったりホラーっぽい感じもあったり、私の好きな要素がいっぱい入っていて。とても好みな曲です。
──エンディング曲も、林田さんはお聴きになりましたか?
イントロでまず心を掴まれました。こっちもすぐにメロディを覚えやすくてとてもいいですよ! オープニングとエンディングの絵コンテも見せてもらったんですがアイデアが豊富で、一切手を抜くことなく楽しんでやってくれてるのが伝わってくるんですよ。その映像も面白いのでぜひ観てほしいですね。
──最後に、「ドロヘドロ」のアニメを楽しみにしている人にメッセージをお願いします。
観て楽しんでほしいです。実際、悔しいくらいに「ドロヘ」を表現してくれたので、マンガより密度が高い。アニメの「ドロヘ」を好きになった人が、「じゃあマンガも読んでみよう」ってなったときにがっかりしてしまうんじゃないかという、うれしい不安すらあります。
──メッセージありがとうございました! ……実はずっと聞きたかったことがありまして……本当に最後の質問なんですが、林田さんは餃子がお好きなんですか?
好きですよ、嫌いなわけない(笑)。20年くらい前の話で恐縮なんですが、自由が丘にあった餃子センターの大葉餃子が好物で、それを「ドロヘドロ」に出しました。食べたいけどすぐ食べに行けないものをマンガに出すっていう(笑)。
──絵に描いたモチならぬ“絵に描いた餃子”!ということは、今は(連載中の)「大ダーク」に出てくるみぼすぱん(ミートボールスパゲティパン)が食べたいんでしょうか?
そうですね。ギトギトしたのが食べたい(笑)。
2020年2月10日更新