コミックナタリー PowerPush - 「映画ドラえもん」35周年

とよ田みのる&石黒正数が語る「私とドラえもん」

「鉄人兵団」はSFが日常風景の中にあるのがゾクゾクする

──石黒先生が「映画ドラえもん」で一番好きな作品はどれでしょうか?

「映画ドラえもん のび太と鉄人兵団」ポスタービジュアル ©藤子プロ・小学館・テレビ朝日 1986

「のび太と鉄人兵団」ですね。「鉄人兵団」は、舞台が自分の町なんですよ。ジャングルとか、ほかの星には行かない。鏡面世界ではあるものの、風景がいつもの町なんです。そこにロボットがガチャガチャ音をたててやって来たり、それをパトロールしたりする、あの感じがもうたまらない。

──遠くや過去、未来に行けるのが「ドラえもん」の魅力のひとつだと思うんですけど、そうではなく、あえて生々しいところに。それってなぜなんでしょう?

SFが日常風景の中にあるのが、個人的にすごくゾクゾクするところなんです。鏡面世界には誰もいないんですけど、そこでロボット集団を迎え撃って対決することになる。襲撃してくる前日の晩の感じとか、もうたまらないです。空き地でキャンプしたり、寝付けないから、おもちゃ屋とか本屋とかに行ってきて好きなものを持ってきて夜を過ごしたり。ドラえもんとずっと寝ずに作戦を考えたり。あの緊張感もすごく好きですね。僕がもし「鉄人兵団」をリメイクするなら、開戦前夜までをめちゃくちゃ長くします。

──「鉄人兵団」は1986年公開ですね。当時は映画館で観たのでしょうか?

いや、たぶんビデオになってからですね。あとはマンガで。

アニメの追加シーンや声優選びを「映画ドラえもん」で初めて意識

──ほかにも記憶に残っている映画シリーズはありますか?

「のび太の恐竜」で、のび太が恐竜のたまごを見つけてきたときに腹踊りをするんですよ(笑)。ものすごいなめらかに、たまごをお腹に入れて踊るんです。それは原作にはなくて、アニメだけのシーンだったと思うんですけど。

──へえ!

子供ながらに、あれが初めてアニメと原作の違いみたいなものを意識したシーンでしたね。「あれ、のび太がうねうね踊るこのシーン、マンガになかったぞ!」って。もうめちゃくちゃ調子に乗って踊るんです。「ほれ見たことか」みたいな。あそこが超面白かったなー。やっぱり原作になかったシーンっていうのがアニメにあると覚えてるんですよ。

──それはありなほうですか? 忠実にやったほうがよいという派もあると思うんですけど。

演出としてプラスになってれば、断然あり派です。原作のまんまでいいんだったら、マンガ読んでればいいじゃないですか。「鉄人兵団」でも最後、アニメではエンディングのシーンでリルルがフワーと教室を覗いたり、ずっと飛んで行くシーンが加えられてるんですけど、あれもすごくよかったですね。

──マンガだと1コマ、2コマとか、サラッと流れるところですね。

「映画ドラえもん のび太のパラレル西遊記」ポスタービジュアル ©藤子プロ・小学館・テレビ朝日 1988

映画オリジナルで言ったら「のび太のパラレル西遊記」は原作がないですけど、あれもうまいことできてるんですよ。1988年、ゲームがすごく流行ってた時代に公開された作品ですが、ゲームの世界から妖怪やら中身が出てきちゃったっていう設定で、町に五重の塔みたいなのが建っちゃったりして。「のび太とアニマル惑星(プラネット)」にもアニメオリジナルの演出がありましたね。ニムゲのボスが実はイケメンっていう。

──ははは(笑)。

あとは「のび太と竜の騎士」を観たときに、バンホーの声がすごくかっこよくて。あのときは子供ながらに声優選びというものをナチュラルに意識しましたね。原作でバンホーって結構頭身が高くて、このキャラにスネ夫みたいな声だったら、似合わないと思ったと思うんです。でもアニメには甲高い声や面白い声がつくものだって勝手に諦めてたんですけど、ビデオで観てみたらすごいかっこいい声だったので「わかってんじゃねえか!」って(笑)。

──子供ながらに。

石黒正数「それでも町は廻っている」13巻

声優が決まって一喜一憂みたいな、いまのアニメの見方ってあるじゃないですか。あれの一番最初の感覚がバンホーの声だったような気がします。追加のオリジナルシーンだったり、声優選びだったり、アニメ化するにあたって大事なことだと思うんですよ。それを「映画ドラえもん」で勉強しました。勝手に(笑)。

──ちなみにご自身の「それでも町は廻っている」がアニメ化されたときはどうでした? 自分の中で鳴っている声ってあると思うんですが。

そうですね。ありましたし、できる限りの説明をしました。スタッフさんもプロなので、ほとんど僕の頭の中で鳴ってる声を用意してくれましたよ。いやあ、すげえなって思いました。

劣等感の強い人生だったので、のび太にことさら感情移入

──「映画ドラえもん」で好きなキャラクターはいますか? ゲストキャラでも、メインキャラでも。

あー、「のび太の宇宙小戦争(リトル・スター・ウォーズ)」の大統領なんか好きですね。小さくて子供のくせにすげえ一丁前な口を利くところがかわいいし。あとは人格はないに等しいですけど、「のび太の海底鬼岩城」のポセイドンも好きです。あれって海底の国が攻撃されたときに自動で核ミサイルを発射するっていう、単なる報復装置なんですよ。それが海底火山に反応して核を発射しそうになるからドラえもんたちが止めに行くっていう、めちゃくちゃ渋い話で。設定がたまらないですね。

──ああ、なるほど。

……うーん、でもやっぱりのび太が好きかな。やはり僕は劣等感の強い人生だったので、ことさら感情移入しますね。「リトル・スター・ウォーズ」でスネ夫とジャイアンが出木杉を交えて映画を撮ってて、面白いことをやってるんですよ。でものび太はヒロインであるしずかちゃんとドラえもんの道具を持ってしても、それを持っていないスネ夫チームのほうが羨ましいんです。あの感じ、ものすごくよくて。できない子の目線ですね、あれは。

──いま公開中の「のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」もご覧いただいたかと思うのですが、いかがでしたか?

「映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」ポスタービジュアル ©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2015

のび太たちが映画を撮影してる体で騒動に巻き込まれていくのは、なかなかFイズムを感じ取れてよかったかなと思います。あとそれぞれの特技を伸ばせるヒーロースーツをみんなが着るんですけど、自分の特技はなんだろうって一瞬迷うところが現代っぽくてよかったですね。「個性を伸ばしなさい」って言われても、自分の個性がまだ何かわかってないっていう。

──ドラえもんなんて、あんなに便利なロボットなのに、特技は石頭でしたね(笑)。

たぶんちびっ子だったらあのシーンで「じゃあ自分の特技はなんだろう?」って考えると思います。そういうきっかけになるのはいいですよね。ちゃんと子供向けに作られているなと思いました。

Contents Index

とよ田みのるインタビュー
石黒正数インタビュー
「映画ドラえもん」全35作品を一挙配信
映画ドラえもん×ビデオパス 「映画ドラえもん」全35作品を「ビデオパス」で独占配信中!
「映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」2015年3月7日(土)全国ロードショー
「映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」

ある日、テレビのヒーローに憧れたのび太は、みんなでヒーロー映画を作ろうと言い出す。ドラえもんは、ひみつ道具〈バーガー監督〉を出して、のび太たちが「銀河防衛隊」というヒーローになって宇宙の平和を守るという映画を撮影し始めた。ところがその時、地球に不時着していたポックル星人のアロンに、本物のヒーローと間違われて一緒に宇宙へ行くことになってしまう……。ポックル星は一見楽しそうな星に見えたが、実は宇宙海賊のある恐ろしい計画が進行していた。このままではポックル星が滅んでしまう。ドラえもんたち「銀河防衛隊」は、本物のヒーローになって、ポックル星を救うことができるのか!?

石黒正数(イシグロマサカズ)
石黒正数

1977年福井県生まれ。2000年、アフタヌーン秋の四季大賞にて「ヒーロー」が四季賞を受賞し、同作がアフタヌーンシーズン増刊(講談社)に掲載されデビュー。何気ない日常の風景からドラマを紡ぐ、ストーリーテリングの手腕で好評を得ている。代表作に「それでも町は廻っている」「木曜日のフルット」「ネムルバカ」「外天楼」など。


2015年3月13日更新