映画「曇天に笑う」唐々煙インタビュー|逆境でも笑っていられる強い人間を描く

中島かずきの背中から学んだセリフ回し

──「曇天に笑う」シリーズのさまざまなメディアミックス作品を見ると、改めて原作の魅力を感じます。アクションはもちろんですが、セリフが非常に印象的ですね。

「曇天に笑う」第1話より。天火から「足手まといはいらねぇ」と突き放された空丸と宙太郎だったが、罪人捕獲のため家を抜け出す。

メディアミックス展開のお声がけをいただけるのは、何よりも、読者の方が面白いと言って、支えてくださっているからだと思います。セリフについては、舞台化の際に「とても舞台にしやすいセリフです」と言っていただけたのを覚えています。

──ご自身では「舞台化しやすいセリフ」を書ける理由はどういった部分にあると思いますか?

デビュー作の「takeru –SUSANOH~魔性の剣より-」は劇団☆新感線の舞台のコミカライズだったんです。劇団☆新感線の魅力の1つは、中島かずきさんの脚本です。舞台を原作にして漫画を描いていく中で、中島さんから「決めゼリフの入れ方」を学んだように思います。

唐々煙のデビュー作「takeru –SUSANOH~魔性の剣より-」1巻。©︎Kazuki Nakashima/KarakaraKemuri/MAG Garden

──具体的に中島さんからいろいろなアドバイスがあったんでしょうか。

何か言葉をもらったというよりは、「劇団☆新感線の作品から感じ取ろう」というように、中島さんの脚本を読み込んでセリフ回しを背中から学ぶという感じでしたね。ありがたいことに原作シナリオをコミカライズ用に書き直していただけたんです。中島さんのシナリオは、セリフを読んでいるだけでキャラクターの行動が浮かび上がってくるんです。そんな中島さんの言葉に向き合っているうちに、「自分の作品もキャラが動き出して話し出すような会話やセリフを作りたい」という思いが強くなっていきました。

作品の始まりはセリフから

──唐々煙先生が、作品を描くうえでこだわる1番のポイントは、やはりセリフになるんでしょうか。

そうですね。心掛けているのは、テンポや緩急のある会話にすること。ネーム作業に入る前も、まずセリフから考えます。

──どのようにして1話分のセリフを作りあげていくのでしょうか。

「曇天に笑う」第12話より。とある事情によって拘束された天火は絞首刑に処されることになる。

まず書きたいセリフを思い浮かべて、紙に書き出します。そこから「このセリフが言われる状況はどんなものだろう」「このキャラはどんな思いでこのセリフを言っているのだろう」「これを言われたら他のキャラはどんな反応をするのだろう」と展開や心情を考えていくんです。セリフはキャラクターが会話して自然に生まれることもありますが、ふとしたきっかけや何気ない瞬間に浮かんでくることも多いので、携帯のメモ帳にいろいろとメモしていますね。ときどきメモが消えてしまって、キャラクターに「何を言おうとしていたんだ!」と聞きたくなることもあって……(笑)。ちなみにセリフから考えるのは視聴者としても同じで、映画を観ているときも「この人はなんでこんなことを話したんだろう」といつも想像してしまいます。その想像から発展して、作品に使いたいセリフが生まれることもありますね。

──映画がお好きなんですね。どんなジャンルを観ることが多いですか?

なんだろう……作業中の“お供”として映画や映像を観ることも多いのでジャンルはさまざまですが、アクションやサスペンスは多いかもしれません。最近だと幽霊船と化した大型客船で殺人鬼と対峙するスリラー映画「トライアングル」が面白かったです。無限ループものでした。

映画「曇天に笑う」より。古川雄輝演じる安倍蒼世を中心に組織された、大蛇討伐を目的とする部隊・犲。

映画「曇天に笑う」より。古川雄輝演じる安倍蒼世を中心に組織された、大蛇討伐を目的とする部隊・犲。

──そうして生まれたセリフを、どうやってマンガの形にしていくのでしょうか。「プロットをワープロで書く」「最初からネームを描いてしまう」など、作家さんによって方法はさまざまですよね。

文章でまとめることはほとんどしないですね。ラストまでの大筋の展開を決めて、セリフから生まれていったストーリーをもとに、担当編集と各話のストーリーを口頭で打ち合わせします。その後に3行くらいのあらすじにまとめて。そこからネームに移って、あとはひたすら作画作業ですね。絵を描くうえでは、表情や構図を大事にすることを心掛けています。

マイナスの状況でも強い人間を描きたい

──現在連載中の「煉獄に笑う」は「曇天に笑う」から時代を遡り、戦国時代が舞台に。天火や蒼世たちの先祖に当たるキャラクターが描かれており、中心となる人物は曇家の双子と石田佐吉(三成)ですが、もちろん安倍や芦屋一族も登場します。意外なキャラクターが思いも寄らない立ち位置で出てきて驚きました。

「煉獄に笑う」より。曇神社八代目当主・曇芭恋のカラーカット。

「煉獄に笑う」では脇役もきちんと描きたいなと思っていて、例えば伊賀の忍集団「八它烏」についても生き様や背景を描いていくつもりです。お話自体は伊賀の乱に差し掛かり、佳境に入っています。

──「煉獄に笑う」は「曇天に笑う 外伝」とほぼ同時に連載が始まりましたが、どういった経緯で始まったのでしょうか?

当初はやるつもりがなかったのですが、「曇天に笑う」の連載が終わる少し前、アニメ化が決まった時期に担当編集の「次は戦国時代を舞台にした大蛇の物語をやりましょう!」という熱意から、続編をやることとその時代背景が決定しました(笑)。さらに「滋賀、近江といったら石田三成(佐吉)、主人公でいきましょう」「曇家とのバディもので」と話しているうちに固まってきて。読み切りで描いた曇家のキャラクターは1人で、「曇天に笑う」は三兄弟。なら今度は2人──ということで、男女の双子がメインになりました。曇の双子と佐吉の3人で、「煉獄に笑う」の三兄弟という感じですね。

──「曇天に笑う」の三兄弟を知っていると、芭恋と阿国の双子には驚かされますね。近江国の人々から疎まれていて、一見敵勢力にも見えるような読めない行動ばかりをする。でも読み進めていくと、実はその行動に意味があったことが明らかになります。

最初にもお話したように、作中での立ち位置や境遇がマイナスからのスタートでも、心に大事なものを抱いて笑っていられるような、逆境であがいている人が好きなんです。「曇天に笑う」では、曇り空の下でも笑う天火や、絶望から彼なりの幸せを見つけた嘉神でしょうか。「煉獄に笑う」では双子がその位置にいます。「マイナスの状況下でも強い人間を描きたい」というのが、シリーズを通して思っていることですね。

映画「曇天に笑う」より。肩を揃えて笑う曇三兄弟。

映画「曇天に笑う」より。肩を揃えて笑う曇三兄弟。

──ありがとうございます! 最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願いします。

いつも応援してくださることが、本当に励みになっています。映画はいろいろな感想があると思いますが、「曇天に笑う」の広がりを一緒に楽しんでいただけるとうれしいです。

唐々煙の描き下ろしイラストも到着!

唐々煙描き下ろしによる、「曇天に笑う」曇三兄弟のイラスト。
「曇天に笑う」
2018年3月21日(水・祝)全国公開
「曇天に笑う」
ストーリー

明治維新後の滋賀県・琵琶湖畔。曇神社の当主・曇天火は、2人の弟とともに町を守っていた。300年に一度災いをもたらす力を持った大蛇(オロチ)が復活すると言われ、世の中が乱れ始めたとき、三兄弟は平和を守るために立ち上がる。しかし彼らの前には、大蛇の力を手に入れて政府転覆を企てる忍者集団・風魔一族が。曇三兄弟、風魔一族、そして大蛇討伐を使命とする精鋭部隊・犲(やまいぬ)による三つ巴の戦いが始まる。

スタッフ

監督:本広克行
原作:唐々煙「曇天に笑う」(マッグガーデン刊)
脚本:高橋悠也
音楽:菅野祐悟
主題歌:サカナクション「陽炎」

キャスト

曇天火:福士蒼汰
曇空丸:中山優馬
安倍蒼世:古川雄輝
金城白子:桐山漣(※漣はさんずいに連が正式表記)
鷹峯誠一郎:大東駿介
永山蓮:小関裕太
武田楽鳥:市川知宏
犬飼善蔵:加治将樹
曇宙太郎:若山耀人
岩倉具視:東山紀之

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唐々煙(カラカラケムリ)
唐々煙
滋賀県出身。劇団☆新感線の舞台をコミカライズした「takeru –SUSANOH~魔性の剣より-」で2005年にデビュー。2011年から2013年まで月刊コミック アヴァルス(マッグガーデン)にて連載された「曇天に笑う」は、2014年にアニメ化、2015年に舞台化された。さらに2017年より3部作での劇場アニメの公開がスタートし、2018年には実写映画も公開される。現在月刊コミックガーデン(マッグガーデン)にて「曇天に笑う」の前日譚にあたる「煉獄に笑う」を連載している。

2018年3月23日更新