薫(DIR EN GREY)×坂本眞一|DIR EN GREYと「イノサン」に通じる揺るぎない信念 「美醜」「死」「痛み」を表現する理由

中学生の頃まではマンガ家になりたいと思ってた(薫)

──坂本先生との共通点といえば、薫さんも絵を描かれていて。来年1月下旬には初の個展「ノウテイカラノ」が開催されます。

「ノウテイカラノ」および薫が描くキャラクター・クリム&ゾン(krim&zon)の展示イベント「krim&zon展」のビジュアル。

坂本 音楽も作れて、絵も描けるって、すごいですよね。

 そんなそんな! 絵を描くのは好きで、中学生の頃まではマンガ家になりたいと思ってたんですよ。授業中も勉強しないで、ずっと絵を描いていて。

坂本 そうだったんですね!

 はい。ギターを弾き始めてからはイラスト程度だったんですが、数年前から手の不調(右手の機能障害)があって、そのリハビリのために絵を描くようになったんです。要は力を抜いて、自然に手を動かす練習なんですけど、テーマを決めて何枚か描いていくうちに、いつの間にか個展を開くことになって。「えらいことになったな」と思ってます(笑)。

坂本 薫さんのInstagramにアップされている絵を拝見しましたが、プロ顔負けの作品で。個展ではどんな絵が並ぶのか楽しみです。

薫(DIR EN GREY)

 ありがとうございます。絵を描くのは好きだし、いろいろと気付くこともあって。なんとなく自分の中にイメージがあって、そこに向かって線や色を乗せていきながら形にする作業は、曲を作ることに似ているんですよね。最初は「ちょっとでも失敗したら、そこで終わり」と難しく考えていたんですが、「意外とそうでもないな」ということもわかってきて。想定とは違う線を描いてしまっても、それをアレンジすれば、また違う感じになっていくというか。時間をかけて、丁寧に育てていけば、想像以上のものができあがることもあるので。

坂本 イレギュラーな要素が味になることは、確かにありますね。いまはデジタルで制作しているので、簡単に直せてしまうし、イレギュラーなものを排除しがちなんですけど、それだけだと予想外のことは起きづらくて。音楽もそうじゃないですか?

 まさにその通りですね。もちろん楽器は弾いてますけど、曲を形にするのはすべてコンピューターの中で行っているので。昔はメンバー全員でスタジオに入って曲を作って、レコーディングスタジオで演奏して録音していたから、その場で「そのフレーズ、こうしてみたら?」と言い合えたし、想像を超えるようなマジックが起きることもあったんです。今はそれぞれの作業になっていて、効率は上がりましたけど、なかなかミラクルが起きないんですよね。デジタルに移行したことにはいい部分、悪い部分の両方がありますけど、最近は「デジタルの中にいかにアナログの要素を取り入れるか」ということを意識していますね。

デジタルで描きながら「アナログ感を出す」という意識(坂本)

DIR EN GREY「The Insulated World」完全生産限定盤ジャケット

坂本 新しいアルバム(「The Insulated World」)からも、そういう意図が感じられました。「アナログ感を出す」という意識は自分にもありますね。デジタルの流れに飲み込まれるのではなく、歪んだ感じだったり、ズレみたいなものを取り込みたいし、ライブ感のある線を描きたいので。とにかく整理整頓しすぎないことは大事だと思います。

 そうですね。自分たちも曲の途中であえてテンポを変えたり、イレギュラーな要素を意識的に加えることもあって。あとは「5人で作った」ということが感じられないと意味がないんですよね。ボーカルであれば違いがわかりやすいですけど、「楽器なんか、誰が弾いていても同じ」ということにならないためには、自分らしさをしっかり乗せることが必要なので。そういえば坂本先生は以前、「夜中に1人で絵を描いているときが一番楽しい」って言ってましたよね。そうやって自分の世界にグッと入り込む時間を持っている人じゃないと、作品は作れないと思うんですよ。

坂本眞一

坂本 そうかもしれないですね。さっきも言いましたけど、僕はもともと社会に迎合して、まわりの人とうまくやっていけるタイプではないんです。「マンガは1人でやれる」と思って始めたところもあるんですけど、実際にはアシスタントもいるし、担当の編集さんとのやり取りもあって、決して1人で描いているわけではなくて。ただ夜中に1人で絵に没頭する時間は、描き手としての喜びを一番感じられるし、やっぱり楽しいんです。「自分を超えていきたい」という気持ちもありますね。連載を続ける中で「次はもっといい絵を描きたい」という思いはずっとあるので……。

 自分もずっと1人で作っているし、夜中にグッと集中することが多いんです。日中はスタッフとの打ち合わせだったり、確認しなくちゃいけないことがあって。それがひと通り済んで、自分と向き合えるのが夜中なので。創作意欲がどんどん湧いてきて、いきなりメンバーにデモを送ることもありますね。絵もそうだけど、1人で黙々とやるのが好きなんですよね、昔から。

──その時点ではリスナーのことは考えていないんですか?

「イノサン」1巻 ©︎坂本眞一/集英社

 いや、そんなことはないですよ。「どう聴いてもらうか?」みたいなことは意識しているし、自分たちの場合は、まずほかのメンバーに「カッコいい」と思ってもらわないと始まらないので。

坂本 僕も当然、読み手のことは意識しているし、読者に面白いものを提供したいという気持ちはいつもあるんですが、自分自身の主張、言いたいことはしっかり提示するようにしています。既存の価値観や常識に流されないで、「こうだ!」ということは言っていかないと、自分の作品ではなくなってしまうので。

DIR EN GREYの音楽は1枚の絵画を観ているような感覚がある(坂本)

──作品性、モノ作りに対する考え方を含めて、坂本さんと薫さんは共通する部分が多いですね。

「イノサン」7巻より。ミュージカル風の演出を取り入れたシーン。©︎坂本眞一/集英社

坂本 そうですね。ただ、僕は音楽という表現に嫉妬することもあるんですよ。マンガを描いているときに「このシーンでこういう曲を流すことできたら、もっと自分の意図が伝わるだろうな」と思うことがあって。マンガの世界にもデジタルの波がどんどん押し寄せているので、将来的にはそういうことも可能になるかもしれないですが。ライブという場所があるのもうらやましいです。観客の目の前で楽曲を披露して、ダイレクトに反応を感じられるわけじゃないですか。そういう機会はまったくないですからね、マンガ家には。

 リリースした音源はずっとそのままですが、ライブではどんどん変わっていきますからね。そもそもライブがなければバンドもやっていないし、ライブで演奏するために曲を作ってるので。

坂本 作品ごとに変化しているのもすごいと思います。ビジュアルも音楽も、新作が出るたびに驚かされるし、1枚の絵画を観ているような感覚があって。しかも、額縁の外にまで世界が広がっているんですよね。その世界の中にどっぷり浸かっていると、どこまでもトリップできるというか。夜中に1人で描いてるときも、DIR EN GREYの曲を聴いていることが多いんです。

 え、そうなんですか?

坂本 はい。特に凄惨な場面や、キャラクターの感情が激しく動くシーンでは、DIR EN GREYの曲を聴くとペンが進みますね。ミュージックビデオを流すのはよくないんですけどね。ずっと見入ってしまって、ぜんぜん描けないので(笑)。

対談終了後、坂本眞一の仕事場でデジタル作画を体験する薫(DIR EN GREY)。
イベント情報
薫個展「ノウテイカラノ」「krim & zon展」
  • 2019年1月31日(木)~2月3日(日) 東京都 TEMPORARY CONTEMPORARY
  • [第1部]11:30~12:30

    [第2部]13:00~14:00

    [第3部]14:30~15:30

    [第4部]16:00~17:00

    [第5部]17:30~18:30

ツアー情報
DIR EN GREY「TOUR18 FOLLOWERS」
(※公式ファンクラブ「a knot」 & ONLINE会員限定)
  • 2018年12月19日(水) 愛知県 Zepp Nagoya
  • 2018年12月24日(月・振休) 大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2018年12月25日(火) 大阪府 Zepp Osaka Bayside
DIR EN GREY「TOUR19 The Insulated World」
  • 2019年3月15日(金) 神奈川県 CLUB CITTA'(※ファンクラブ会員限定公演)
  • 2019年3月20日(水) 東京都 Zepp Tokyo(※アルバム発売記念ライブ)
  • 2019年3月29日(金) 宮城県 東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)
  • 2019年3月31日(日) 北海道 Zepp Sapporo
  • 2019年4月4日(木) 福岡県 Zepp Fukuoka