「わかる」もあれば「わからない」もある
──田中さんはドラマで、“うつヌケ”した人たちの話を聞いていく進行役を演じられていますが、演じるうえで大事にされていた部分はどこでしょう。
田中直樹 僕は先生の分身なので、自分も10年うつと戦って、トンネルを“ヌケ”た役なんですね。ドラマにもいろんなケースの方が登場しますけど、話を聞いていて「わかる」「それは自分も一緒だ、理解できる」っていう部分もあれば、「わからない」「そんな気持ちになることもあるのか」と驚くこともある。トンネルの入り方もヌケ方も、本当に百人百様なので、うつを経験したことがあるといっても、全部が全部わかるわけではないんです。その立ち位置の違いは意識しましたね。
田中圭一 マンガ家として自分の作品が映像化されるという経験をされた方は数多いるでしょうけど、その作品の主人公がマンガ家自身で、それを俳優の方に演じてもらうというケースは、すごく稀ですよね(笑)。マンガの中にいる田中圭一くんはひとつのキャラクターですから、私とまったくイコールかというと、そうでもないんですけど。
──先生、田中さんにご自身の役を演じていただいた感想はどうですか。
田中圭一 田中直樹さんはキャラクターとしての田中圭一くんと雰囲気が近いんで、すごくいい感じに映像化してもらったなと感じました。原作の、芝生の上にこたつがあって……という雰囲気も再現されていて。役者さんやスタッフの方のスキルの高さプラス、原作をちゃんと映像化しようという意気込みを感じましたね。
──ドラマになることで、マンガとはまた違う層に作品が届くかと思うのですが、どういった方に観ていただきたいですか?
田中圭一 やはり実際うつに苦しんでる方とか、周囲にうつで苦しんでる人がいる方でしょうか。ドラマ化が決まったことで、それ自体をまたニュースにしていただけたりもしましたし、HuluでもCMを流してくださるそうなので、作品を知らない方に「なんだろう?」と興味を持っていただける機会が増えた。ドラマをきっかけに、マンガを読む習慣がない方が原作を手にとってくださったり、周囲にいるうつの人に「こういう作品があるよ」と知らせてくださったりしたらありがたいですね。
田中直樹 僕自身、この作品に出会う前はどこか他人事でしたけど、うつってすごく身近な問題ですよね。誰の中にもうつの種はあると思いますけど、ドラマを観ていろいろなケースを知ってもらえば、気分が落ち込んだときに予防線を張れたり、対処法を見つけられたりすると思います。肩の力が抜けたり、ちょっと生きるのが楽になったり、自分のことを好きになれたり、愛せたりするような作品だと思います。そう思って観てもらえるとうれしいです。
「うつヌケ」の続編を描く気分にはなりません
──先生はマンガの中に、気温差が激しい3月・5月・11月に気持ちが落ち込んでしまう。だけど、そのからくりに気付いたことで、うつとの向き合い方がわかってきた……と描かれていますよね。もうすぐ11月がやってきますが、実際に気温差が激しい日はどのような対処をされているんですか。
田中圭一 うつヌケしてからだいぶ経ちましたんで、年々しんどい気持ちは軽くなってきていて。なぜ軽くなっているかというと、今おっしゃられたように、11月は気温の変動が激しいってわかっているし、週間天気予報で「おっ、今週は寒暖差がすごそうだ」って知っておくと、気持ちが落ち込んだり、ネガティブな思考になったりすることが予想できるじゃないですか。そうすると暗い気分になったときに、はたと気が付くんです。今自分は、何かに憤っていたり、思い悩んだりしているわけじゃなく、気温の差がこの嫌な気持ちを作り出してるだけなんだ、って。そうするとすごく楽になります。たとえばニュースを見て嫌なことを考えたとしても、寒暖差が落ち着いてる時期にこのニュースを見たら、こんな嫌な考え方をしなかっただろうなって思える。そうしたらそれは、自分の本心じゃないですよね。それが自分の対処法です。
──うつを重くしている要因を突き止めたことが、先生にとって大きかったんですね。
田中圭一 私の場合、あとは睡眠時間ですね。睡眠をちゃんととれれば気持ちが戻るので、心がささくれだってるときは大体睡眠が足りてないんだなって思います。別に徹夜してるわけじゃないんですよ、5時間しか寝れていない日が続くとやっぱりよくない。7時間睡眠が3日続くと、気持ちが落ち着いてくるんです。
──田中さんはお風呂がリラックス空間だと伺いましたが、ほかにも気分が落ち込んだときにリフレッシュするための方法はありますか?
田中直樹 あります、あります。僕は街に出てインテリア雑貨なんかを見たりするのが好きですね。それで部屋の中の雰囲気をちょっと変えたり。お店を見て回るだけでも楽しいですし、外に出るだけでも気分が大きく変わりますね。
──気持ちを切り替えるための方法も、人の数だけありそうですね。ドラマ「うつヌケ」が新たな取材に基づいたオリジナルエピソードだったように、まだまだいろんな“うつヌケ”経験者のお話を聞くことができるのかなと思ったのですが、マンガの続編を出されるご予定はないんですか。
田中圭一 それがね、(「うつヌケ」の出版元である)KADOKAWAじゃない編集さんに口の悪い人がいて、「田中さん、もう1回うつになって、もう1回ヌケたら、2冊目をウチで出しませんか?」って言うんですよ(笑)。その人には「いい加減にしろー!」なんて答えたんですが、さすがに10年間苦しんで、それをもとに作り上げた1冊が「うつヌケ」なので、ヒットはしたんですけど、おいそれと続編を描く気分にはなりませんね。今は違う取材マンガを描いていますし、「うつヌケ」あたりから、いろいろなものを取材して、それを面白くマンガにまとめるっていうことに手応えを感じてもいますので、できたら田中圭一の描く別の取材マンガを、今後も楽しみにしていただけたらと思います。年内にはKADOKAWAさんから、「若ゲのいたり」というゲームクリエイター取材マンガが出ますので(笑)。
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