1988年に公開された映画「AKIRA」。原作者である大友克洋自らが監督を務め、3年の製作期間と10億円の制作費という、当時としては考えられないほどの時間と労力を費やされたこの作品は、今なお世界中で高い評価を受けるSFアニメだ。その「AKIRA」が、2020年に4Kリマスター版として蘇った。35mmマスターポジフィルムから4Kスキャンした映像に加え、音楽監督・山城祥二の指揮のもとで5.1ch音源のリミックスも実施されている。
コミックナタリーでは「Panasonic presents デジナタ」連載の一環として、「AKIRA」をこれまで30回以上、VHSやLDなどのさまざまなメディアで観たという石黒正数にインタビュー。「AKIRA」の4Kリマスター版を、PanasonicのBlu-ray / DVDレコーダー「4Kチューナー内蔵 全自動ディーガ DMR-4X1000」と、「4K有機ELビエラ HZ2000」の組み合わせで鑑賞してもらい、その感想を聞いた。また石黒が「いまだに逃れられない」と表現する、「AKIRA」および大友克洋から受けた影響についても語ってもらっている。
取材 / 淵上龍一 文 / 松本真一 撮影 / 曽我美芽
Panasonic「4Kチューナー内蔵 全自動ディーガ DMR-4X1000」
「新4K衛星放送」チューナーを2基内蔵したBlu-rayレコーダー。4K放送の2番組同時録画や、ハイビジョン放送の番組を最大8チャンネル×28日間分を“ぜんぶ自動録画”することが可能で、地上デジタル放送のドラマ・アニメを最大90日間自動消去されないように“おとりおき”することもできる。独自の高画質技術で、美しい色彩とその場にいるような臨場感を表現。また、スマートフォンで番組を録画・視聴できる「おうちクラウド」機能も搭載されている。
Panasonic「4K有機ELビエラ HZ2000」
4K有機ELパネルを採用した4Kビエラの最新モデル。自社設計・組み立ての「Dynamicハイコントラスト有機ELディスプレイ」は、深い黒が締まる“高コントラスト”、色の鮮やかさを再現できる“広色域”、細部までくっきり映る“高精細”の3つが特徴で、4K映像を最大限に楽しむことができる。また天井から音が降りそそぐ立体音響「イネーブルド スピーカー」は、映画館のような臨場感ある音を再現できる。
始まってすぐに、「これまでの『AKIRA』で一番きれい」と感じた
──以前実施した、「天国大魔境」1巻発売記念のインタビュー(参照:「天国大魔境」特集 石黒正数インタビュー)では、「AKIRA」の話になりましたよね。中学生時代にレンタルビデオ屋で借りて観て、「一生この作品の影響から逃れられないんだろうな」と感じたほどの衝撃を受けたと。
それが13歳のときで、今年43歳なのでちょうど30年前です。ビニールのテーブルクロスが敷いてあった、昭和っぽいキッチンのブラウン管テレビで親父と観た「AKIRA」を、30年後に仕事で観ることになるとはね。
──その後は何回ぐらい観られたんですか?
少なくとも確実に30回は観てます。ビデオだけじゃなくてレーザーディスクも買ったし、DVDは最初に出たBOXも、1枚にまとまったやつも買いました。とにかく全部買ってますし、買ったら絶対に観ます。それに中学時代は、CDをかけるような感覚でビデオを流しっぱなしにしてました。
──じゃあ「少なくとも30回」というのはちゃんと観た回数で、BGM的に流した回数だけならもっと。
数え切れないです。音だけカセットテープに録音して、授業中にこっそりイヤホンで聴いていたこともあるので、セリフも全部覚えてますよ。
──では、この4Kリマスター版も購入済みですか?
発売された以上は買わないと、とは思ってますけど、4Kを観られる環境がないのでまだ買ってないんですよ。それにこれ、ちょうど「『AKIRA』の呪いを解こう」と思ってる時期に発売されたし。
──「AKIRA」の呪いを解く?
俺がどんなにグッズを集めたところで、世界一収集してる奴にはかなわないって薄々気付き始めて。「いい加減にこの呪いは断ち切らねば」って思った時期があったんですよ。大友克洋先生は言わば親みたいなものなので、反抗期が来た(笑)。
──では先ほど観ていただいたのが、4Kリマスター版の初見だったんですね。「4K有機ELビエラ HZ2000」と「全自動ディーガ」を使用しての鑑賞でしたが、いかがでしたか?
率直に今まで観た中で一番きれいでした。過去「AKIRA」を観た中でもっとも劇的にはっきり見えた体験が、LD-BOX版にS端子を使ったときだったんです。3枚組の両面に20分ずつぐらいに分けて収録されてて、「とにかくこれ以上きれいな『AKIRA』はない」という触れ込みで発売されたものだったんですけど、それを超えていましたね。おそらくこれ以上の「AKIRA」を観ようと思ったら劇場しかない。しかもちゃんとした劇場じゃないとこれは超えられないですよね。
──具体的に、どのあたりできれいだと感じましたか。
もう、始まってすぐですね。街を上空からナメていくシーンで「絵だってわかるじゃん!」って。絵なのは当たり前なんですけど。
──要するに、セル画をカメラで映したものだという質感までがわかると。
そうそう。セル画の主線の、太さや濃さが均一じゃない感じまで見えて、「これってCGじゃありえないよな」っていうことまで感じられる。ほかにも背景を塗った筆の跡とかも見えましたからね。LDのときもそういうのが感じられてぎょっとしたんですけど、今回は一層はっきり見えました。
「こんな背景もあったんだな」って初めて気が付いた
──具体的によかったシーンも教えていただけますか。
全部よかったんですけど、やっぱり最初のバイクチェイスシーンは最高ですね。日本の景気がよかった時代に、こんなにお金をかけて、全部手描きで作って。最高のセンスでカッコいいチェイスシーンを観て、「おそらく日本で今後、このアニメを超えるものは出てこないだろう」と。今までも当然そう思ってましたけど、改めて確信しました。
──よかったシーンと重複するかもしれないですが、これからこの環境で観る人に「ここを注目して観るといい」という点があれば。
今までのソフトだと背景の黒く潰れていたところが、すごくはっきり見えるようになっているので、そこですかね。影になって暗くなっているシーンでも壁の質感がわかるように描いてあったり、下水のシーンでも配線がいっぱいあったり。夜のバイクのシーンでも、背景のいろんな部分が描き込んであるんだなと。
──「AKIRA」の見どころとしては、街の背景美術の緻密さという点が挙げられると思います。ビエラの中でもこの「4K有機ELビエラ HZ2000」は高コントラストで黒がはっきり締まって見えて、ぼやけた映像もくっきり見える「Dynamic ハイコントラスト 有機ELディスプレイ」が特徴なので、作品との相性がいいのかなと。
全然ぼやけなかったです。さっきも言いましたけど、本当にセル画を1枚1枚見てるようなクオリティで楽しめました。監督にしてみたら、「ここまで見えてほしくない」ってとこまで見えてるんじゃないかなと。普通はある程度、光でボケてくれるのを計算して撮ってると思うので。描き込んだものは全部見えてるんじゃないですかね。
──「AKIRA 4Kリマスターセット」は、「NEO TOKYO本来の姿が映し出される!」と謳ってます。都市のシーンの背景や夜景の描き込みのすごさまで鮮明に見えることは、従来のソフトとの大きな違いではないかと。
そうですね。あと背景といえば、クラウンに襲われた鉄雄とカオリを助けるシーン。あそこは背景の一部が一色で描かれてたんだなっていうのは初めて気が付きました。
──ちょっと観てみましょうか。……あ、本当だ。モノクロっぽくなってますね。
「AKIRA」にはこんな背景もあったんだなと。コンビナートだから空気が煙っている表現なのかな。
──背景のディテールで言えば、「4K有機ELビエラ HZ2000」の特徴として、明るい部分はより明るく、暗い部分は暗く、コントラストがはっきりと表現できるというのもあります。ごちゃごちゃしたシーンでも、手前にあるものはより手前に、逆に奥にあるものはより奥に見えて、奥行きがわかりやすく見えるのではないかと。
そうか、枠線がはっきり見える分、枠線がないものが下がって見えるのか。なるほどね。
これほど知ってる曲なのにまだ知らない音が鳴るのか
──ちなみにこれまで何度も「AKIRA」を観た中で、お気に入りのシーンというと?
ありすぎて困るな……。俺が一番好きなのは、1回収容された鉄雄が抜け出して、カオリがいる寮に会いに行くシーンがあるじゃないですか。
──カオリが洗濯してるシーンですよね。横で女の子が電話してて……。
そうそう! その女の子が電話してるシーンが好きなんですよ。
──えっ、カオリじゃなくて、電話で「寮母のババアがうるさくて出られないのよ」みたいなことを言ってる子ですか?
あの子がかわいい(笑)。電話で「そうそう、あのヤギみたいな顔した」「あのババアうるさいのよね。メエメエメエメエ」って。めちゃくちゃ性格が悪そうなあの子が、めちゃくちゃかわいいんですよ。
──(笑)。「お気に入りのシーンを、この環境で改めて観てどう感じましたか」という質問をしようかと考えていたんですが、「4Kだとかわいく見えた」とかなさそうですよね。ほぼモブだし……。
いやいや、かわいく見えましたね。なんせモブなんで、引きの画だとこれまでははっきり見えなかったんですよ。それが今回は最高のクオリティで見れたのがうれしかったです。あと金田に「おじさん」って呼ばれて「俺はまだ25だし、結婚もしてないんだ!」って怒るおっさんいるじゃないですか。あいつはどれだけきれいな画質で観ても25歳は無理があると改めて思いました(笑)。
──いい画質でもおっさん(笑)。これまで映像面のお話を中心にお話を聞きましたが、音の部分はどうでしたか?
すげえよかったです。「ここに音楽を使ってたんだ」って気付くことが何カ所もありました。あれ、なんでなのかな?
──普通のテレビはスピーカーが前にあるんですが、このビエラは背面に付いているのが特徴なんです。そこから出た音を1回壁などに反響させることで、部屋全体を包み込む効果があるんですよ。
そうか、それが原因ですね。セリフは前方から、曲は後ろから別々に聞こえる感じがしました。「別々に聞こえる」と言うと、マッチしてないみたいに聞こえるので言い回しが難しいんですけど、セリフに集中してても音楽が聞こえるというのかな。音の解像度が上がったというか。
──ホームシアターに凝ってる人は、スピーカーを部屋のいろんな場所に置いたり、場所にこだわったりすると思うんですけど、ビエラはこれ1台でホームシアターのような音響効果を得られるのがポイントになってます。
へえー。うん、その効果は実感できましたよ。
──「AKIRA」といえば芸能山城組による劇伴も有名だと思いますが、ファンにとってはやはり音楽も重要な要素ですか。
もちろん人によると思いますけど、俺にはものすごく重要ですね。「AKIRA」の影響で芸能山城組のCDも何枚も買いましたし。エンディングで使われてる金田のテーマ、100回以上は聴いているはずなんですけど、今日この環境で聴くと、今まで聴こえてなかった音に気付く。これほど知ってる曲なのにまだ知らない音が鳴るのかと驚きます。いやあ、いいなあ。ビエラとディーガ、このセットで欲しいですね。
──買い替えのタイミングがあればぜひ。今、ご自宅のテレビ視聴環境はどんな感じですか?
20年ぐらい前に買った小さいテレビなんですよね。だからこれぐらいの大きさのテレビを置ける部屋があればなあ。
──今日は「4K有機ELビエラ HZ2000」の65インチでご覧いただいてますが、ラインナップとしては55インチもあります。
いや、せっかくなんで大きいほうがいいですね。この環境でいろんなものを観たいですよ。
──どんな作品を観たいですか? ちなみに過去の関連特集では、押井守監督に「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」を観てもらったこともあります(参照:デジナタ連載「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」押井守インタビュー)。
「攻殻」もいいけど、押井監督だと「御先祖様万々歳!」とかもよさそうですよね。あれも何回も観たな。あと大友先生のアニメだと「老人Z」とか。
──細かいメカ描写があったり、物が壊れたりするSF系は相性がよさそうです。
うん、いろんなものがはっきり見えるからいいですよね。
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「AKIRA」を読んで、描いてるマンガのタッチが変わった
2020年12月16日更新