コミックナタリー PowerPush - きらたかし「凸凹 DEKOBOKO」

「赤灯えれじい」作者のニューヒロインはバイクレースに打ち込む少女

きらたかしインタビュー

大学時代からの趣味を作品にしてみたかった

──ここからは、きら先生が「凸凹 DEKOBOKO」へかける思いをより深く語っていただこうと思います。

きら はい、よろしくお願いします。

──まず作品を描こうと思ったきっかけを教えてください。

勇希のお父さんが登場するシーン。

きら 僕は大学生の頃から趣味でエンデューロというレースに参加していたので、いつかマンガで描いてみたいという気持ちはあったんです。でも、ネタ的にちょっと連載は無理っぽかったので、読み切りでどうかなと。ちなみに、最初は中年のサラリーマンの人とかが、休日やお小遣いをやりくりしながらレースに参加するっていう部分の面白さを描くつもりだったので、勇希ではなく、彼女のお父さんが主人公の話でした。

──途中で主人公が交代したわけですか?

きら ええ。声をかけていただいたイブニングさんと打ち合わせをするうち、「せっかくだから単行本を出せるぐらいに描きましょうよ」という感じで、ボリュームが増していったんですね。となると、主人公はおっさんより少女のほうがいいんじゃないか、という話になって……。

──娘の勇希ちゃんが主人公になったわけですね。

きら だいぶ設定を変更してしまったので、連載前は戸惑いましたけど。身近なネタとして描くつもりが、主人公の年齢も性別も自分と違ってしまった上、ライダーとしての走りも「天才肌」ということになり、自分とはかけ離れたところへ行ってしまったので。

きらたかしの代表作となる「ケッチン」1巻。

──きら先生のバイクマンガと言えば「ケッチン」が有名ですが、より専門的なレースという分野へ、あえて踏み込んだ理由は何ですか?

きら 「ケッチン」をやっていて思ったのは、バイクが好きでバイクものをやっているんだけど、どうしても基本に青春恋愛ものという路線があるため、結局はどっち付かずになってしまうということ。今回は、どうせレースをやるんだから、思いっきりバイクをメインに描こうと思いました。バイクレースものと言えば、誰もが思い浮かべる「バリバリ伝説」という神がかり的な作品があるので、今まで自信もなかったし、手を出すのが億劫な部分があったんですけど、もうとにかく短くてもいいから自分の描きたいことを詰め込んでやってみようと。

細かく描き込まれた迫力あるレースシーン。

──長年、エンデューロをやっている人間として「自分が描かなければ誰が描くんだ!」という責任感もあったりしますか?

きら それは…………ちょっとあります(笑)。

──バイクや背景への丁寧な描き込み、レースシーンの迫力溢れる演出など、今作は特に先生の強いこだわりを感じます。

きら 「ケッチン」の頃は、デジタル処理をかなり使いながらバイクを描いていたんですけど、それだと写実的にはできるんですけど、アクションをさせたときに動きが固くなってしまう。だから、基本的に今回は手描きにこだわっています。レース場の背景などにしても、なかなかアシスタントさんにはニュアンスが伝えにくいので、最終的には自分で描かないと仕方ないという感じになっちゃってますね。

大好きなレースの魅力を全開で伝えていきたい

きらたかし「赤灯えれじい」15巻

──登場人物についてですが、主人公の勇希ちゃんは、「赤灯えれじい」のチーコと何となく性格が似ていますよね?

きら かなり似ています。たぶん僕自身が、ツンデレっぽい不器用な女性が好きなので、描いている間に自然と彼女たちのような性格になるんだと思います。

──顔を合わせるとつい言い争ってしまうという勇希ちゃんと清志くんの関係も、「赤灯えれじい」のチーコとサトシの関係を彷彿とさせます。

きら やっぱり自分のベースとして、そういう関係が好きだ、というのがあるんでしょうね。ただ「赤灯えれじい」の頃から一貫しているのは、自分の都合で登場人物たちを動かさないようにすること。僕の作業は、あくまで目の前にいる人たちを観察しているだけというか、他人の生活をのぞき見しながら絵にしている、というような意識ですね。

──「赤灯えれじい」「ケッチン」と違い、今作は女の子が主人公ということで、特に描きにくい部分などはありますか?

きら 描いているときは特別に意識することはないんですけど、読み返してみると前2作に比べ、ユーモアを入れるスペースがあまりないかなと。もっと言うと、「赤灯えれじい」「ケッチン」には結構エッチなシーンが入っていて、自分でもウリのひとつだと思っていましたけど、今回はそういった要素は排除しています。青年誌で連載していながら、作品のノリは限りなく少年マンガに近いと思いますね。

きらたかし

──今後のストーリーについて、先生のなかではどの程度できあがっていますか?

きら いやホントに、もともと読切で描こうと思っていた企画が、気が付いたら連載になっていたという話なので……。もうあまり先のことは考えず、目の前にある1話1話をとにかく可能な限り、濃いめに描くことだけを考えている感じです。

──最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

きら レースものということで、ちょっと特殊な作品ですけど、今まで僕の作品を見ていただいていた方については、ぜひこの「凸凹 DEKOBOKO」も楽しんでもらえればと思います。僕の作品を知らないという方については、何とか「凸凹 DEKOBOKO」をきっかけにして、前2作を読んでもらえるように頑張りたいです。とにかく自分の大好きなジャンルを選んで始めたことですので、描き残しのないように、レースの魅力を全開で伝えていければと思います。

きらたかし「凸凹 DEKOBOKO」1巻 / 2014年10月23日発売 / 648円 / 講談社

三原勇希、中学1年生女子。関西在住で子供の頃からの趣味はオフロードバイク。父の転勤で関東に引っ越すことが決まった彼女は地元で最後のレースに臨む。幼馴染でライバルでもある伊藤清志に淡い恋心を抱き戸惑う彼女は「このレースであいつに勝ったら好きって言おう」と秘かに決意するが。「赤灯えれじい」「ケッチン」で丁寧な人物描写と恋愛模様を描いたきらたかしが送る青春バイク&恋愛ストーリー。

きらたかし
きらたかし

1970年、44歳。兵庫県宝塚市出身。2003年に「赤灯えれじい」で、ちばてつや賞ヤング部門大賞受賞し、2004年よりヤングマガジン(講談社)にて連載を開始する。2009年には同誌にて「ケッチン」を連載。オートバイ好きとして知られる。そのほか著作に「単車野郎」など。