コミックナタリー PowerPush - きらたかし「凸凹 DEKOBOKO」

「赤灯えれじい」作者のニューヒロインはバイクレースに打ち込む少女

女子中学生の気持ちは、完全に妄想で描いている

──「凸凹 DEKOBOKO」という作品を見て、三原さんはどんな感想を持ちましたか?

第2話より、バイクレースでの勇希と、彼女がひっそり想いを寄せる清志。

三原 1話目は、いきなりレースのシーンで始まって、レースのシーンで終わって……。最初は正直、全然わからなかったんですよ。「これがバイクレースか……」みたいな。すごく迫力があって、激しさも伝わってくる一方で、主人公が中学校1年生の女の子ということに、ちょっと驚いたりして。そういう世界があること自体を知らなかったので、「早く続きが読みたい」という気持ちでした。レースのことをもっと知れば、より細かいところに「うおー!」ってなるんだろうなあと。

きら 実際にレースをやっている人たちからも、少し言われたんですよ。「経験者ならわかる描写がいっぱい出てくるけど、普通の雑誌にこんな感じで載っけて大丈夫なの?」と。まあでも、自分としては最初に「この作品はレースものだよ」ということを見せておきたかったので。

三原 3話目ぐらいから主人公である勇希ちゃんの人間性が、ちょっとずつ見えてくるんですよね。一緒にレースをやっている伊藤清志くんのことが気になる彼女に対して、同じ“三原勇希”としては「男の子のことなんか考えずに頑張りなよ!」って言いたくなりましたけど。お姉ちゃん目線で見てしまって、心配になっちゃうんですよ。

勇希はなかなか素直になれない性格。

──主人公の勇希ちゃんは、少し不器用な女の子ですからね。

三原 うまく自分から素直になれない子ですよね。私も不器用ですけど……どっちかって言うと超素直というか、良くも悪くもあまり嘘をつけない感じなので、勇希ちゃんを見ながら「そんな無理しなくていいのに」と思うこともあります。

──きら先生は、女子中学生の気持ちをどんな風に捉えていますか?

きら いやもう、完全に妄想で描いているというか……(笑)。自分の中学校時代は、女子とロクに会話もできないようなタイプで、どっちかって言うとマンガの恋愛世界に浸っていたほうなんで。でも、当時だったら逆に妄想し過ぎちゃって、ストーリーとして描けなかったかも。さすがにこれだけ年齢を重ねてくると、妄想と経験を合わせつつ、何となくバランスを取りながら、あの頃の雰囲気をマンガで出せるようになりましたけど。

三原 なるほど。

きら 少女マンガで恋愛を描く方って若くしてデビューされていることが多いでしょう。きっと女性作家さんの場合、若いうちに自分のタイムリーな感情を出すほうが、表現も瑞々しくなっていいんだと思う。でも男の場合は少し経験を積んで、自分を客観的に見られるようになってからのほうが、むしろ若い子たちの恋愛とかも描けるのかなあ、と今は思いますね。

LINEを出しても、なぜか「昭和の香りがする」

──ほかに若い人たちを描く上で、何か気を付けている点はありますか?

LINEを使って関西の友人とやり取りする勇希。

きら 何だろう……。例えば、表面的に使っている言葉やケータイの有無など、生活のディテールは僕の中学時代と現在はだいぶ違うと思いますけど、何と言うか……心のやりとりみたいな、本質に関わる部分は基本的に変わらないのかなっていう気持ちはスゴくありますね。

三原 「凸凹 DEKOBOKO」には LINEのようなツールも出てくるし、細かいところもリアルで面白いですよ。

きら 一応、ギリギリ読者の方々にツッコまれない程度には、今どきのアイテムみたいなものを「赤灯えれじい」の頃から出してはいるんですけど、なぜか僕の描くマンガはずーっと「昭和の香りがする」って言われるんですよね(笑)。

──現実のバイクレースにも、勇希ちゃんのような女の子は参加していますか?

きら います……ね。全日本のモトクロスにもレディースがありますし、速い子は男よりも断然速いですよ。

事故に遭ってからなかなかバイクに乗らない勇希。

三原 先生はもし娘さんがいたら、バイクレースをやらせたいですか?

きら やらせたい。ケガは本気で心配だけどね。でも男に比べると、女の子は思春期に辞めちゃうパターンがかなり多いんだよ。中学生ぐらいでムチャクチャ速かったのに、高校卒業ぐらいで辞めちゃうとか。

三原 そうなんですか……なぜですかね。あ、でも私も小さい頃からピアノをやっていましたけど、思春期に一旦、離れましたよ。

きら 僕も小学校の頃からお絵描き教室とかに行ってたけど、やっぱり中学生のときに一度、気持ちが切れたことがある。気が弱くて「辞めます」とは言えずに、ダラーっと続けてはいたけど。

三原 その後、いつマンガを描こうと思ったんですか?

きらたかし

きら やっぱり高校生ぐらいになると、また何か気持ちがひと段落するんだよね。中学生の3年間ぐらいって、どうしても人格が大きくぶれたり変わるものなのかも。

三原 わかります。勇希ちゃんも中学1年生だから、きっと同じなのかな。

きら たぶん相当、頭のなかでややこしいことになってるんだろうなあ、とは思うんだけど。そこら辺はもう、文章にすると嘘っぽくなっちゃうので、なるべく勇希の態度で伝えられればいいなと。

きらたかし「凸凹 DEKOBOKO」1巻 / 2014年10月23日発売 / 648円 / 講談社

三原勇希、中学1年生女子。関西在住で子供の頃からの趣味はオフロードバイク。父の転勤で関東に引っ越すことが決まった彼女は地元で最後のレースに臨む。幼馴染でライバルでもある伊藤清志に淡い恋心を抱き戸惑う彼女は「このレースであいつに勝ったら好きって言おう」と秘かに決意するが。「赤灯えれじい」「ケッチン」で丁寧な人物描写と恋愛模様を描いたきらたかしが送る青春バイク&恋愛ストーリー。

きらたかし
きらたかし

1970年、44歳。兵庫県宝塚市出身。2003年に「赤灯えれじい」で、ちばてつや賞ヤング部門大賞受賞し、2004年よりヤングマガジン(講談社)にて連載を開始する。2009年には同誌にて「ケッチン」を連載。オートバイ好きとして知られる。そのほか著作に「単車野郎」など。

三原勇希(ミハラユウキ)

1990年4月4日生まれ、24歳。ファッションモデル、タレント。大阪府出身。趣味はファッション、音楽、ライブ鑑賞、ランニング。特技はピアノ、絶対音感。テレビ神奈川の音楽情報番組「sakusaku」の4代目メインMC。現在、TOKYO MXにて放送中の「テリー伊藤のトラブルハンター」にMC出演中。