ドラマとマンガが同時進行する「デスゲームで待ってる」原案のヨーロッパ企画・上田誠が、脚本・諏訪雅、作画・愛須メノウと鼎談 (2/3)

ドラマ第1話はマンガをそのまま脚本化

諏訪 さっき、愛須先生はドラマの脚本をベースにマンガを描かれているとおっしゃっていましたけど、第1話に関しては逆でしたよね。マンガの第1話が上がってきたのがめっちゃ早かったんで、ドラマの1話はかなりそれを参考に書かせてもらいました。

上田 だいぶマンガに忠実でしたよね、第1話は。

諏訪 マンガのセリフを1回全部書き起こして、それを脚本にまとめた感じでした。冒頭はほとんどキャラクターの紹介になるんで、具体的なシーンとしてはいろんな作り方があり得るんですよ。「どんなんでもいいんだよなあ……」と考えていたところに、それが全部いい感じにマンガになって出てきたんで、「これこれ!」ってそのまま書きました(笑)。

愛須 うれしいです! 原案のプロットをいただいた段階で、割とすぐに「第1話はこんな感じかな」と頭の中でまとまったんです。それと、担当編集さんから「早めに上げよう」と言われてもいたので(笑)、がんばってすぐに描きました。

「デスゲームで待ってる」より。幼い頃からテレビが好きだった主人公・戸村匠真は、憧れの放送作家として働いているが……。

「デスゲームで待ってる」より。幼い頃からテレビが好きだった主人公・戸村匠真は、憧れの放送作家として働いているが……。

諏訪 あと僕は最初、物語のトーンを掴みかねていたんですよ。コメディではないし、とはいえ登場人物たちは冗談みたいなことばかりしゃべってるし。それもやっぱりマンガの第1話を見て、「なるほど、こういうトーンか」ってスッと掴めたのがかなり大きかったです。

愛須 初めての商業連載ということもあって、私もそこは本当に手探りで。まず上田さんが過去に手がけられた映画を何本か観させていただいて、空気感を掴みつつ塩梅を探っていった感じです。いきなりシリアスからギャグに急ハンドルを切るんじゃなくて、ちょっとひと呼吸置いてから移行することは心がけました。

上田 世の中にないジャンルだから、参考にできる作品もそんなにないと思うんで。トーンの設定からして難しいですよね。

上田誠、愛須メノウ。

上田誠、愛須メノウ。

愛須 私は読んでいて違和感になるもの、読者が引っかかりそうなところを徹底的に排除したいタイプなので、ネームにはだいぶ頭を悩ませました。ストレスなくページをめくり続けられるよう、いろいろ試行錯誤しながら構成を工夫しましたね。

上田 実際、ページをめくる手が止まらなかったです(笑)。

諏訪 めっちゃ展開が早くて「おー、もうここまで来た!」みたいな。マンガ1話でここまでスピーディに密度高く描けるもんなんや、って驚きましたね。「連載も10話で全部終わらす気なんかな」って思うくらい(笑)。

X本エックスもとの造形は正解やなって

上田 僕は群像劇を作るタイプなので、登場人物も多いじゃないですか。ドラマや演劇の場合はどんなに登場人物が多くても役者の人数を増やしさえすれば成立するんですけど、マンガだと1人ひとりキャラクターを作らないといけないから、相当大変だったんじゃないですか?

愛須 確かに数は多いんですけど、キャラクターの描き分け自体は得意と言いますか、意識的に取り組んできたことではあるんです。なのでそこまで苦ではなかったですね。この作品は現代ものなので、奇抜すぎない程度に特徴を持たせることは意識しました。ただ、私が好きで描いてきたのはどちらかというと現代ものよりもファンタジー系だったりはするんですけど……。

上田 なるほど。どうりでX本エックスもとのデザインとか、異様に力が入ってるなと思いました(笑)。あそこだけファンタジーの匂いがするというか、リアリティのトーンから一気に変わるのが面白かったです。

諏訪 あれはX本エックスもとの造形として正解やなって思いましたね。

X本は戸村が所属することになるデスゲーム制作会社「ドリーミア」のクライアント。

X本は戸村が所属することになるデスゲーム制作会社「ドリーミア」のクライアント。

愛須 X本エックスもとを褒めていただけるのはすごくうれしいです(笑)。覆面のマークのことですよね。私はもともと手をモチーフにしたロゴデザインとかがすごく好きなんです。「20世紀少年」のともだちとか、ああいう感じがいいなと思って。

上田 ほかのキャラクターにしても、善悪の塩梅が絶妙ですよね。いい奴なのか悪い奴なのかが記号的に描かれていないから、見た目では敵か味方かわからないようになっている。この作品はそもそも主人公がダークヒーロー的というか、善悪が逆転しているようなところがあるんで、キャラ造形にはかなり気を使うんじゃないかと思うんですよね。

諏訪 しかも、ドラマのキャストを踏まえたビジュアルというわけでもないんですよね。ちゃんとオリジナルでデザインしてあの絶妙なバランスはすごいなと思いました。例えば矢栗とかって、ドラマだとTKOの木下隆行さんが演じられているんですけど、マンガではまったく違う見た目なのにちゃんと矢栗じゃないですか。

八栗は「やぐりんアラモード」という芸名で活動するピン芸人。明るいキャラだが天狗になりがちで、ADやスタッフに対して常にモラハラ、パワハラを行っていた。

八栗は「やぐりんアラモード」という芸名で活動するピン芸人。明るいキャラだが天狗になりがちで、ADやスタッフに対して常にモラハラ、パワハラを行っていた。

上田 ドラマや映画ではそもそも存在している人間をキャスティングするわけなので、悪役に見えちゃうかどうかってあまり気にしなくていいんですよ。でもマンガだとどうしても描き手の意図が絵に出てしまうものだと思いますし、読者にどう読み取らせるかをかなり計算しながら描かれてるんだろうなあと。

愛須 どうですかね……。例えば矢栗だったら「コンビを解散してピン芸人になって、食いつなぐためにどんな仕事でも受けてMCもやっている」という人物像を踏まえて、実在の芸人さんの画像を検索しながら「この芸人さんとこの芸人さんをくっつけたらそういう人っぽくなりそう」と考えながら作りました。キャラクターはだいたいそんな感じで、いろんなところから持ってきてくっつける感じで作ってますね。なので「記号的なキャラクターにならないように」とかは、実はそんなに意識していないかもしれないです(笑)。

上田諏訪 へえええー。

自分の置かれている環境に置き換えて、共感できるところがあったらいいな

上田 そんな感じで、同じ原案であってもドラマとマンガで違ったものになるのが今回の企画の一番面白いところじゃないですかね。1話目に関しては割と共通する部分も多いんですけど、そこから先はけっこうそれぞれの道を歩み始める。どちらかがどちらかの原作という形ではないので、「この原作を踏まえて、こっちではこうアレンジしました」というものとはまた違う楽しみ方ができるんじゃないかなと思います。同じ材料でもまったく違う料理ができるみたいな感じで、ドラマとマンガが不思議な関係で成り立っている。

諏訪 それはありますね。さっきも話しましたけど「デスゲームの描写はマンガにお任せして、こっちはこっちのできることをやりましょう」みたいなやり方ができるのは同時並行だからこそだと思います。

愛須 マンガを描いていてもそこが楽しいです。かっちりとできあがった原作ドラマをコミカライズするのとはまったく違うので、マンガのほうで一から自由に作りあげる部分もありつつ、ドラマの脚本を踏襲して描く部分もあったりとか。パズルみたいで、組み合わせるのがすごく大変ではあるんですけど、それが楽しくもあります。

左から上田誠、愛須メノウ、諏訪雅。

左から上田誠、愛須メノウ、諏訪雅。

上田 愛須先生にとってはこれがデビュー作なんですよね。やっぱりデビュー作って特別なものだと思いますし、それに関わらせてもらえたことがすごくうれしいです。

諏訪 うんうん、それはそうですね。

愛須 こちらこそです……!

上田 ドラマはドラマの得意技で、マンガはマンガの得意技で膨らませていっているので、同じタネが別々の環境で響き合いながら育っていく様子を楽しんでもらえたらと思いますね。ぜひ両方を観ていただきたいです。と言っても僕自身まだ先を見てないんで、どうなるかわからない部分も多いんですけど。

諏訪 絶賛制作中なんで、全貌はまだ誰も把握できていないという(笑)。

上田 まあマンガにせよドラマにせよ、“デスゲームの裏側を描いた復讐もの”というもの自体が世の中にあまりないと思うんで、シンプルにこの特殊な世界観をまずは楽しんでもらいたいです。

愛須 出てくるキャラクターがみんな個性豊かですし、第1話からけっこうたくさんの人物が登場するので、私としてはそれぞれがどんなふうに物語に絡んでいくのかを楽しんでいただきたいです。「この嫌なやつがどう罰せられていくのか」みたいなところを(笑)。

諏訪 主人公の戸村はデスゲーム業界という裏社会的な組織に身を投じることになるんですけど、そこで表社会では出会えなかったようなかけがえのない仲間と巡り会うわけです。社会的に認められていない業界に来て初めて人として認めてもらえるっていう、その矛盾もこのドラマの面白いところだと思いますね。観る人が自分の置かれている環境に置き換えて、共感できるところがあったらいいなと。破滅的な職場や業界でも、そこでいい出会いがあるかもしれないですから(笑)。

上田 デスゲーム業界なんて、絶対にいい業界ではないですからね。組織の存在自体に矛盾をはらんでいるというか、そこに葛藤が生じるのがこの作品のいいところだと思います。正義の鉄槌を下す復讐とかじゃないんで(笑)。

左から上田誠、愛須メノウ、諏訪雅。

左から上田誠、愛須メノウ、諏訪雅。

プロフィール

上田誠(ウエダマコト)

1979年11月4日生まれ、京都府出身。劇作家、演出家、脚本家。ヨーロッパ企画代表で、すべての公演の脚本と演出を担当。2010年放送のTVアニメ「四畳半神話大系」で脚本を担当し、同作は「第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門」の大賞を受賞。2017年には脚本を務めたアニメ映画「夜は短し歩けよ乙女」が「日本アカデミー賞最優秀アニメーション賞」に輝いた。劇団の舞台や映画、ドラマの脚本、テレビ番組やラジオ番組の企画構成も幅広く手がける。

諏訪雅(スワマサシ)

1976年8月26日生まれ、奈良県出身。ヨーロッパ企画所属の俳優。脚本、演出、映像監督、舞台演出、パンフ編集も務める。2021年放送の「探偵☆星鴨」ではシリーズ脚本を担当。「諏訪ミュージカル」シリーズや、2022年上演の舞台「チコちゃんに叱られる! On STAGE」では脚本演出と作詞を担当した。

愛須メノウ(アイスメノウ)

「デスゲームで待ってる」のマンガ版連載で商業デビュー。一次創作活動サークル・聖クオリア学園(𝐐𝐮𝐚𝐥𝐢𝐚)のメインビジュアルも担当している。