コミックナタリー PowerPush - サラ イネス「誰も寝てはならぬ」
祝・完結! ベールに包まれた全貌を明かす キャリア初の17000字ロングインタビュー
「誰寝」のエンディングは、「甘い生活」のパロディ
──エンディングは、まさにそのええ仲がどうこうなるようなならないような、たまらない感じでした。解決しないままというか。
あれはね、割と最初から決めてたんですけど、フェリーニの「甘い生活」って映画の、あれのエンディングのパロディでした。
──ああ! なるほど!
波がザーッと鳴ってて、マストロヤンニと女の子が喋ってるんだけど聞こえない、という。ほんとは千葉かどっかの海岸に連れてってそれをやりたかったんだけど、連れ出すとなるとまた話がややこしくなるんで(笑)。どうしようかなって思ってたら、やかましいいうたら町中でも、赤坂でも秋になったら赤坂祭りやってるから、祭りがやかましくて声聞こえへんようになるからそうしようか、って。
──すごく合点が行きました。サラさん映画もお好きですよね。
言うほど観てないですよ。
──「豆ゴハン」の頃から、登場人物で誰々はアヌーク・エーメ似だとか、ちょいちょい映画ネタあったじゃないですか。
あれはね、関テレさんとかでバブルの時に夜中に毎週、ほんとにマニアックな映画をやってたんですよ。あとWOWOWが無料放送だった頃、版権が安そうーなイギリスのマイナー映画とかをね、ずっと流してたんですよ。そういうのをね、卒業してずっと家にいてヒマでしたから、ずっと観てたのかな。いまそんなに観ないですけど。
──お好きな監督とか。
困るな、わかんないですけど、でもだいたいが50年代から60年代のヨーロッパ映画が好きですよ、フェリーニの映画とか。出てくる女の人がみんな綺麗だから。カトリーヌ・ドヌーヴとかアヌーク・エーメとか出てきて、どこを切っても絵になる撮り方をしてるので、好きですね。
次回作は、見知ってない業界をちゃんと取材してみたい
──さて、ファンとしては次回作のゆくえも気になるところなのですが、構想みたいなものがありましたら、伺えますか。
遠回りな話になってしまうかもしれないんですが……。自分がマンガ家だって意識したのが、去年くらいだったんですね。20年以上この仕事してるのに、ようやく気がついて。もともとストーリーも考えられなかったし、続けられると思ってもいなかったし、ほかの絵の仕事をしたかったとか考えたことはいくらでもありましたよ。だって、そもそもちょっと来てくれへんかみたいな感じで連れてこられてマンガ描き始めたんですから。
──ほんとはイラストレーターで、という思いが。
自信も持てなかったし。肩書き、マンガ家って言わずイラストレーターってずっと名乗ってましたから。どこでイラストの仕事してんねんって言われてたけど(笑)。でも20年、食べてけるくらいお金もらってやってけてるってことは、これは私マンガ家なんだろうって思うようになって。去年、ようやく(笑)。そうしたら次はちゃんと、それに見合ったようなきっちりした仕事をせなイカンなと思って。
──状況を受け入れた上で。
で、まあさっき自分の見聞きしたことだけで話を作るって言いましたけど、自分の中から引きずり出せるネタもなくなったところなので、これはちょっとご協力願ってちゃんと取材をして、下調べをして描いてみたいなと。
──その題材となる業界というのは。
まだ何も決まってないんだけど、音楽の世界の話をすこし描いてみたいと思ってます。若いミュージシャンが成り上がっていくとかだったら「BECK」を読んでいただくとして(笑)、日常の話が続く相変わらずのパターンだとは思うんですけどね。ま、あんまり言うても、その通りのモノになるのか保証しかねるんで止めときます。ハッキリしてるんは、ストーリーものではナイということですね。
──心底、心待ちにしています。
面倒なんでなるべく楽器は描かんで済むような内容にするつもりです(笑)。
あらすじ
イラストレーターのハルキちゃんと、デザイン事務所社長のゴロちゃん。エエ年こいた大阪男が、東京は赤坂のオフィス「寺」を舞台に、愉快な仲間たちと繰り広げるボケ&ツッコミの応酬!? どこまでも続くゆる~い空気に、アナタも身を任せてみませんか?
サラ イネス(さら いねす)
オートスポーツ(三栄書房)の読者ページに投稿していたイラストが編集者の目に留まり、イラストレーターとして活動を開始。1989年、サラ・イイネス名義でモーニングパーティ増刊(講談社)にて連載開始した「水玉生活」でデビュー。続いてモーニング(講談社)で「大阪豆ゴハン」を1992年から1998年まで連載した。スクリーントーンを使わない手描きにこだわった独特の作画と、ありふれた日常を描く感性に定評がある。その後モーニングにて「誰も寝てはならぬ」を8年連載し、2011年12月に完結した。現在は次回作に向けて準備中。