今回のオープニングテーマは“どっしりとしたテイスト”に
──井口さんがアニメ「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」シリーズの主題歌を担当するのは、TVシリーズと劇場版を合わせて今回で5度目になります。第3期のオープニングテーマとなる「over and over」はシドの明希さんが作詞・作曲を手がけていますが、まず楽曲提供を受けることになった経緯を聞かせてください。
もともと私がシドさんの音楽がすごく好きだったんです。それで、「ダンまち」のオープニングにもなる曲を誰にお願いしようかという話になったときに、私から真っ先に明希さんの名前を挙げさせていただきました。「難しいかな……」とも思っていたのですが、快諾していただけて! 楽曲提供をされていることも多くはなかったので、とても貴重な機会をいただけて本当にうれしく思っています。
──井口さん自らのご提案だったんですね。まさに念願が叶ったタッグというわけですが、明希さんから上がった楽曲を最初に聴いたときの印象はどうでしたか?
お話を受けていただけたことも奇跡だってくらいうれしかったんですけど、実際に上がってきた「over and over」を聴いたら、もうすごくカッコよくて! どんな曲が上がってきてもうれしかったと思うんですけど、それを超えてきたみたいな。「ダンまち」にもぴったりだと思いましたし、明希さんらしさもあって、そして、その明希さんらしさを表現するために、私にとっても新たな挑戦となる要素のある楽曲だなと感じて。初めて聴いたときから、技術的な難しさはあるだろうけど、「早く歌いたい」と強く思った楽曲でした。
──「ダンまち」にもぴったりだというお話がありましたが、歴代の「ダンまち」の楽曲と比べるとかなりテイストは異なる印象を受けました。
第3期の物語では、作品の雰囲気もこれまで以上にハードで重たいものになって、ベルくんが過去のシリーズとは違う意味で窮地に立たされるんですよね。「over and over」では、そんな第3期の雰囲気を明希さんがシナリオも読み込んだ上で、汲んでくださって。歌詞やメロディも原作の大森藤ノ先生にもチェックしていただいてるんです。これまでの主題歌のような「冒険が始まる!」というキラキラした爽やかな雰囲気よりは、成長したベルくんだからこそ取る行動や、周りの人たちの思いとか、そういう要素が入ったどっしりとしたテイストの楽曲になったなと思います。
──確かに、歌詞にある「この世界が僕を拒んだとしても」や「苦しみもがいて歩いたこの日々」といったフレーズは、3期のストーリーを表すのにぴったりだと思いました。
そうですね。それでも希望は忘れずに、何度でも何度でも立ち上がって、がんばっていく。そんな前向きなところもあって、今回の物語にとても合っているなと思います。
「変わることって、楽しいことなんだな」
──また今回の楽曲では挑戦となる要素があったとおっしゃっていましたが、具体的にどんな挑戦をされたか聞かせてください。
実は「over and over」は私の音域からするとキーが低いところで楽曲が始まっているんですよ。曲作りの段階では、もう少しキーが高いバージョンで歌うことも検討したんです。でも明希さんが作ってくださった楽曲のカッコよさは、低いキーでこそ活かされると思ったので、挑戦にはなったんですが、敢えて「キーを変えずに歌いたいです」とお願いしました。なので、サビももちろん好きなんですけど、AメロとBメロの低い入り方は個人的に気に入っています。
──そんな「over and over」も収録されている最新アルバム「clearly」では、この曲をはじめ、さまざまなアーティストと初タッグを組んだ楽曲が7曲収録されています。「over and over」だけでなく、今回のアルバム制作自体もまた井口さんにとって新たな挑戦の連続だったと思うのですが、その経験を通じての変化はありましたか。
私は今まで自分のことを「現状維持派の人間だな」って思っていたんです。新しいことに挑戦するよりも、今あることや、今までのご縁を大事にしたいというか。でも今回どの収録曲でも新しい試みをしていて、その中で明希さんをはじめ憧れていた方々と一緒にお仕事できたことが、すごく幸せだったんです。「変わることって、楽しいことなんだな」と気付けたことは、大きな変化だったかもしれないですね。
──挑戦することで、さまざまな出会いがあったんですね。
だから「over and over」はいろんな意味で「新たな出会い」の曲なのかなと。アニメ第3期では、ベルくんもウィーネと出会って人生がまた大きく変わっていくと思うんですけど、私自身もアルバム制作でたくさんのクリエイターの方と関わらせていただいたことで、今まで自分が触れてこなかった音楽に出会えました。私の中では、すごく踏み出した新しい一歩になったなあと思います。
「ダンまち」とともに歩んできたから出会えた「over and over」
──逆に、これまで井口さんは歴代のオープニングテーマを担当していたり、声優としても千草役で参加されていたりと、ずっと「ダンまち」に携わってこられましたよね。振り返ってみて、第1期の頃から制作現場や、作品との井口さん自身の関わり方など、変わった点はありますか。
ベルくん役の松岡禎丞くんはとてもカッコいい、頼もしい座長になってくれましたよね。それから「ダンまち」第1期で担当させていただいたオープニングテーマ「Hey World」は「冒険が始まる!」というワクワク感のある曲ですが、このときは私自身もアーティスト活動を始めて数年だったので、「これからどんどん成長していくぞ」とワクワクしていたんです。そんな第1期から今まで、ベルくんたちも私も一緒にいろんなことを経験してきていて。現場の声優さんたちの空気感とか、作品愛なんかも肌で感じているつもりなので、そういったみんなの思いも背負って、今歌えているように思います。
──アニメのオープニングを観ながら、そういった「ダンまち」の歴史や、変化も感じてほしいですね。
そうですね。第3期から「ダンまち」に参加するのではなくて、これまでTVシリーズ、劇場版、アプリ、ゲームと主題歌をずっと担当させていただいて、今だからこそ出会えた楽曲が「over and over」だなって思います。
──最後になりますが、これからアニメを観て楽曲を聴くファンに改めてメッセージをお願いします。
昨今の状況で放送時期が少しずれてしまって、皆さん待ち遠しかったと思うのですが、その気持ちはキャストの方々も私も同じでした。お待たせしましたが、ぜひベルくんとウィーネの新しい出会いや、ベルくんが何度でも希望を捨てずに挑戦していく姿を見ていただきたいです。やっぱりアニメあっての主題歌だと思うので、映像がどのように合わさるのか、そして毎週みんながわくわくする中で「これから始まるぞ」っていう胸ときめく楽曲に少しでもなれていたらいいなと思います。「なんでこんなにオープニングがハードな雰囲気なんだろう?」とか、「なんでこんなに怖い顔してるんだろう?」とか、いろんな「?」を抱きつつ、謎が徐々に明かされていく展開を楽しんでください。
- 井口裕香(イグチユカ)
- 7月11日生まれ。東京都出身。大沢事務所所属。主な出演作に「とある魔術の禁書目録」(インデックス役)、「偽物語」(阿良々木月火役)、「ガールズ&パンツァー」(冷泉麻子役)、「本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません」(マイン役)など。2013年2月にはソロアーティストとしても活動をスタート。「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」シリーズでは、歴代オープニングテーマをはじめ、劇場版やゲームでも主題歌を担当しているほか、本編にもヒタチ・千草役で出演している。8月に約4年ぶりとなる3rdアルバム「cleary」をリリースした。
次のページ »
sajou no hana(EDアーティスト)インタビュー