劇場版の前に、世界の根幹を揺るがすことが起きていた
──本作は非常に密度の濃い作品ですが、それでも実現しなかった展開や描ききれなかった裏設定などがあれば教えてください。
そういったネタについては、パンフレットのインタビューでたくさんお話しさせていただいたので、ぜひそちらを読んでいただきたいのですが(笑)。1つお話しするなら、最初、自分としてはベルの憧憬の相手であるアイズはパーティに加えたいと考えていたんです。あと、レフィーヤも。(この時点での)アイズの能力はベルたちの中では抜きんでているので、普通の冒険であれば「アイズだけいればいいんじゃない?」となってしまうから連れて行きづらいんですね。でも、今回は敵のアンタレスがとんでもなく強いので、アイズがいようと、ロキ・ファミリアがいようと絶対にかなわない。だから、アイズが一緒でも戦闘が盛り上がるというか……。負ければすごく絶望的な状況になるし、そこから再び立ち上がるアイズも熱いじゃないですか。ところがスタッフの皆さんは、「今回はアイズは留守番でいいです。僕たちはヘスティアが観たいんだ!」って(笑)。
──「アイズには『オラトリア(ソード・オラトリア)』があるでしょう」と?
まさにそのとおりで、「アイズには外伝があるでしょう? これは本編のフィルムなんですから」と説得されました(笑)。だから、アイズファンの皆さんと、アイズ役の大西沙織さんがもしこのインタビューを読んでいたら、出番が少ないことについてのお怒りは、スタッフさんのほうへお願いします。「自分はアイズをベルのパーティに組み込もうと、最後まで戦った」ということをお伝えしたいです!
──逆に、水瀬さんに怒られそうですが(笑)。
あはは(笑)。でも、水瀬さんと大西さんはすごく仲良しなので、一緒のシーンが増えたら喜んでくれたんじゃないでしょうか? ただ、今回は最終的にきれいなトライアングルに収まったので、ここにアイズが加わっていたらノイズになっていたかもしれないので、とても悩ましいですね。
──確かに、トリプルヒロインになると、さすがに尺不足だったかもしれませんね。それにしても、アンタレスは、ロキ・ファミリアがいても絶対に勝てないほど、強いモンスターなのですね。
「神の力を使い放題」というのは、それくらいチートな設定なんです。アンタレスが神の力をまだ使いこなせていないのと、月の「アルテミスの矢」に力を回しているから戦闘が成立しているようなもので。本来ならベルたちなんて、デコピン一発で死んでしまいます。
──それだけの力を持ったアルテミスを体内に取り込んだということは、元のアンタレス単体でも、とんでもなく強かったのですか?
「なぜアルテミスが取り込まれてしまったのか?」というところも、実はかなり原作の(今後の)ネタバレに触れているところがあって。この劇場版のアバンで描かれた場面の前に、アルテミスも予期していなかった、世界の根幹を揺るがすくらいのことが起きてしまったんですよ。アンタレス自体がそれくらいのイレギュラーを引き起こす爆弾だったんです。
──「アンタレスとゴライアスは、どちらが強いのですか?」と質問するつもりだったのですが、全然レベルが違いそうですね。
それについては、「なぜゴライアスとアンタレスは黒いのか? ほかに黒いモンスターって何がいたっけ?」とだけ言っておきます。後で、GA文庫さんから雷が落ちるかもしれませんが(笑)。
──本作をリピートするとき、注目するとより楽しめるポイントなどがあれば教えてください。
1つは作品の裏主人公であるヘルメスですね。ぜひ2回目は、彼の細かな表情の変化なども追いながら観ていただきたいです。あと、原作ではヘルメスと、ウラノスのギルド、ガネーシャのトライアングルが暗躍……とは言いませんけど、けっこうな爆弾を背負って裏で動いているのですが。今回もウラノスとガネーシャはヘルメスと同様に真相を知っていて。世界を揺るがす大事件のために、あの手この手を使って裏でがんばっているんです。だから「この3人は真相を知っているんだ」という視点で改めて観ると、面白いかもしれないです。ラストのウラノスとフェルズが会話するところは、アフレコのとき、キャストさんに注文というかお願いをしながら演じていただいたので、注目してほしいシーンの1つです。
小説の中でも、いつかベルとアルテミスの物語を描きたい
──「ダンまち」はベルが英雄を目指す成長譚ですが、今回の冒険はベルにとってどのような意味を持つ物語になるのでしょうか?
おそらく、一気に英雄に近づいてしまうのでしょうね。もう、英雄の物語に憧れる少年ではいられなくなる、その契機の物語になるだろうと思います。だから、インタビュー前編でもお話ししたとおり、この時間軸でやってはいけない物語なんです(笑)。難しいかもしれないですが、この「オリオンの矢」の小説を書ける機会があるならば、絶対に11巻よりも後の時間軸の物語として出させていただくと思います。
──小説版「オリオンの矢」もぜひ読んでみたいです。
どのような形で実現できるかは分からないですが、「ダンまち」のシリーズを書き続ける中で、いつかベルとアルテミスの物語を描きたい。そのくらい、ベルとアルテミスの絆は大切にしたいと思っています。
──最初のプロットがボツになったことから生まれたアルテミスというキャラクターが、そこまで強い思い入れのある存在となったのですね。
不思議ですよね。でも、ふと降ってきたアイデアが物語の根幹に関わってきたり、新しい景色を見せてくれたりすることは、“クリエイターあるある”かもしれません。自分は、アルテミスのおかげで、本当にたくさんのものを見せてもらいました。ヘスティアの友だち思いなところだったり、ベルの激しい感情だったり、自分のエゴを貫いたヘルメスだったり。だから、アルテミスは自分にとっても忘れられないキャラクターなんです。メインヒロインの1人に加えてあげたかったくらいで、「なぜ手放してしまった?」みたいな感覚もあります(笑)。それは、もちろん、キャストの坂本さんのお力でもあって。「また坂本さんのアルテミスを見たい」というエゴが出てしまうくらいに心揺さぶられました。今は「アルテミスありがとう。絶対に待ってろー!」という気持ちです。
──最後に、原作読者の皆さんに向けて、今後の「ダンまち」シリーズの展望などを、伺える範囲で聞かせてください。
実は「ダンまち」本編もようやく折返し地点になるのですが……。これもGA文庫の編集さんに怒られるかもしれないのですが、ちょっとネタバレしちゃおうかな(笑)。
──ぜひお願いします!
本編の中で「ゼウス」と「ヘラ」という、かなり重要なキーワードが出てきているのですが。もしかしたら「ヘラ」に関しては、今、書いているベルの物語ではなく、その後の別の物語で出てくることになるかもしれません。予定は未定なのですが、ベルの物語が終わるとき、「ごめんなさい。あれだけ伏線を張っておいて、ヘラは今回は出ません」ということになっているかも、とだけ先に言っておきます(笑)。
──それだけ、この世界観で描きたい物語が増えているということですか?
まさに、そうですね。今回の「オリオンの矢」もそうなのですが、現在進行形で「ダンまち」の世界が加速度的に広がりつつあるので。スマートフォン向けゲームアプリの「ダンまち~メモリア・フレーゼ~」もあれば、新しい外伝の「ファミリア・クロニクル」も始めました。このインタビューの最初にお話ししたことの繰り返しにはなるのですが、自分は「ダンまち」シリーズを終わらせたくないんです。いろいろな状況が許す限り、「ダンまち」で、いろいろなキャラを通して、いろいろな世界を書き続けたいと思っています。「ヘスティアの不滅の炎に誓って、自分は書き続けよう」というぐらいの気持ちはあります(笑)。ファンの皆さんはぜひ、今後も楽しみにしていただければうれしいです。