「DOUBLE DECKER! ダグ&キリル」第3回 古田丈司監督インタビュー|小ネタのすべてをつぎ込んだ「ダブデカ」ワールドの制作秘話 “知らないおじさん”……ではなく、監督が選んだ5つの名場面は?

古田監督が選ぶ
「ダブデカ」を知らない人にも観てほしい
こだわりの場面ベスト5

──ここからはやりたい放題だった特別編「ソウ・シュウヘン」内のコーナー「知らないおじさんが8倍速で観て適当に選んだ もう一度観たいあの場面ベスト10」にちなみ、「『ダブデカ』を知らない人にも観てほしいこだわりの場面ベスト5」を選んでいただきます。

先に断っておくと、あの特別編は鈴木智尋さんが全部構成してくださったので、完全に鈴木節です。第1話から何でもありの作品にしておいてよかったです(笑)。それでこだわりの場面ベスト5ということですが……まず笑えるという意味では第1話の「ダダッダッダダン」のシーンですね。

BEST SCENE 1

第1話「二つの太陽にほえろ!」より。素っ裸で敵に立ち向かうキリル。

ダダッダッダダンのシーン

──キリル自身がタイムトラベラーだと言い張ってから、犯人と間違えられて捕まるまでの流れですね。

あのシーンはいろいろと面倒だったんです。キリルが素っ裸だとわからなければいけないし、サイラスがコートを着てなきゃいけないけど、それがバレてはいけないし……と、画面を工夫しなければいけなくて苦労しました。でも最終的には音響効果さんがいろいろと遊んでくださった結果、みんなで笑いながらダビングして(笑)。おかげで「『ダブデカ』ってこうだよな」と思えるシーンになりました。

──ある種「ダブデカ」の方向性が定まったシーンだったんですね。2つ目は?

衝撃度では、第6話のラストでミラの性別が判明するシーンでしょうか。あの段階のミラはあまり自分の性別を気にしていなかったんでしょうけど、みんなが意外に驚いたことに気付いて、以降はたぶん個室トイレに入ってるんじゃないでしょうか(笑)。

BEST SCENE 2

第6話「密着リスヴァレッタ警察24時!」より。ミラを姉と信じて疑うことのなかったキリルだが、なぜか男子トイレで遭遇してしまいこの表情。

ミラの性別が判明するシーン

──普通のアニメならもう少しドラマティックな明かされ方をしそうな設定ですよ(笑)。

「こんなひどいバラシ方があるんだ」というね。あとは第8話「踊る!学園捜査線!」の最後にSEVEN-Oのみんなでダンスパーティをするところは「ダブデカ」の世界観を表してる感じがして好きですね。男女関係なくみんな平等。キリルの光属性が、マックスを過去の因縁から癒やしてくれたし。

BEST SCENE 3

マックスの切ない過去が描かれた第8話「踊る!学園捜査線!」より。事件が解決し、ダンスパーティを楽しむSEVEN-Oの面々。

みんなでダンスパーティをするSEVEN-O

──キリル自体は自分を光属性だとわかっていなさそうなところが、嫌味じゃなくていいですよね。

それも気付かないくらいまっすぐなバカだからいいんでしょうね。キリル関連だと第9話の最後の肩車も、うまくアクションを描けたと思います。「なんで肩車?」ってツッコミたくなりますけどね(笑)。

BEST SCENE 4

第9話「ドントスィンクフィールソーグッド!」より。囚われのダグを救出しに来たキリル。

ダグを肩車で助けるキリル

──タイトルにも使われているダブルデッカー(=2階建てバス)という言葉を見事に表現していました。

そのシーンでもそうですし、この作品では街中のシーンで2階建てバスを描いたり、デリックのバーをバスにしたりして、できるだけ2階建て要素を入れました。あと1つは……僕が一番好きなのは、第13話でクーパーのもとへ来たザベルが「(上下に手を動かしながら)こういうやつで来た」と言うシーン。「ダブデカ」のシナリオってボリュームが多いから、普段は削ることばかりなんですよ。「こういうやつで来た」はカットできる要素ではあるし、鈴木さんからも「削っていいです」と言われていたけど、「『ダブデカ』はこれがなきゃ駄目だ」と思いねじ込みました(笑)。

BEST SCENE 5

第13話「そして誰もいなくならなかった!」より。クーパーに「貴様、どうやってここへ!?」と聞かれたザベルが「こういうやつ(トロッコ)で来た」と説明するシーン。クーパーも「こういうやつ(トロッコ)か」と同じ動きで繰り返す。

「こういうやつで来た」

──こだわりの5シーンが決定しました、ありがとうございます。ほかにもそういった監督がねじ込んだシーンはありますか?

第6話で、ダグが「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」という故事を引用してもキリルは知らなくて、「えんじゃくんとこうこくんか……」というくだりとか。あれも「削っていいですよ」と言われていたんですけどね。ほかにもザベルは好きです。第5話「A・クロイド殺し!」の最後は映画の「ユージュアル・サスペクツ」っぽくしてみたり。

──そうした、映画ファンが観たらニヤリとするネタも仕込んでいるんですね。

そうですね。例えば第2話「さらば、オカッパ刑事!」に登場する刑務所はアルカトラズ刑務所をイメージしているんですけど、犯人のキャラクターとして、同じ刑務所を舞台にした映画「告発」の要素を引っ張ってきたりとか。2話の最後でキリルがトラヴィスの部屋に向かうカットも、「トレインスポッティング」のラストで手前に歩いてきてタイトルが出る流れを意識しています。毎回そういう小ネタをつぎ込んでいったので、僕のネタストックはゼロになりました(笑)。

「EXTRA」で注目してほしいポイント

──最後に新作エピソードとなる「EXTRA」の話を伺います。全3話ですが、それぞれの見どころを教えてください。まずは、すでに配信されている「七人の刑事の日常!」から。

「EXTRA」の第1話となる「七人の刑事の日常!」より。

「七人の刑事の日常!」はダグの昔の同僚が出てきてキリル大ピンチ、という話ですね。SEVEN-Oメンバーの配属の経緯が語られますが、個人的にはソフィーちゃんの面接の話が好きなんですよ。ソフィーちゃんって本編だと何を考えているかよくわからないキャラクターだったけど、これを観れば「ああ、やっぱそうだったんだ」と思ってもらえるはずです。

──3月10日に配信される「インファナル・アンフェア!」はいかがでしょうか? キリルが変装して大富豪のパーティーに潜入するという話です。

キリルの恋がまた始まってしまうかもしれません(笑)。あとこの話のために霧雨アンダーテイカーさんに曲を書き下ろしてもらっていまして、それが流れるシーンを楽しみにしてほしいです。

古田丈司監督

──4月10日配信の「刑事カリアゲ 湯けむり殺人事件簿!」では、SEVEN-Oの面々が温泉で事件に巻き込まれます。

本編で殉職したコピーのほうのユリが行きたかった温泉にみんなで行くんですけど、ファンの皆さんが観たいシーンがあるかどうかはお楽しみということで……(笑)。「ダブデカ」ファンはほぼ男女比1対1らしいのですが、それぞれ喜んでもらえるようなシーンを入れています。

──新作エピソードが3本あって1本くらいはシリアスなものもあるかと思っていましたが、全部気楽に観られそうなエピソードなのが「ダブデカ」らしいです。

シリアスな話は本編で一旦区切ったので(笑)。「EXTRA」でどんな話をするかは、鈴木さんと吉田さんにやりたい話のプロットをいくつか出していただいて、そこから選んだんです。その際に「できるだけ本編の内容にちゃんとリンクさせよう」というのを意識しました。例えば本編の第1話でキリルが大家の婆さんに脅されている理由もわかるし、デリックが店で出そうとしていたデリックスペシャル2の話もあるし、彼の恋の行方もわかるかもしれません(笑)。あとトラヴィスですね。本編の最後のやらかしで下がった彼の株が、どうなるか……まあ下がりっぱなしかもしれないですけど(笑)。そんな感じで割と本編と絡む話も多いので、余裕があれば本編を見直してから観ていただくとより楽しんでもらえると思います。

古田丈司監督

2019年5月14日更新