サイコミ(Cygames)がマンガ賞「2018サイコミ新人賞」を立ち上げ、現在作品の募集を行っている。ジャンルを問わない「漫画部門」に加え、ネーム・小説・シナリオなど自由な形式で投稿可能な「原作部門」も用意。商業未発表の作品であれば同人誌やWebで公開済みのものでもOKと、多くの作家志望者に門戸が開かれている。
「2018サイコミ新人賞」にはどのような期待が込められているのか、コミックナタリーはサイコミの葛西歩編集長を取材。そこで語られたのは、既存のマンガ新人賞への疑問と「作家にとって魅力的な媒体でありたい」というサイコミの目指すビジョンだった。
取材・文 / 籠生堅太 写真 / 稲垣謙一
世の中に数多くあるマンガ新人賞、その中でサイコミにできること
──「2018サイコミ新人賞」には大賞賞金300万円に加え、1年間毎月30万円、希望者には東京近辺への引っ越し費用の支給など、従来の新人賞ではあまり見られなかった副賞が用意されています。これは投稿者にとって非常に魅力的なサポートだと感じました。
「2018サイコミ新人賞」の賞金と副賞は、
公式サイトでチェック
ありがとうございます。高額賞金や豪華な副賞の付くマンガ新人賞は世の中にたくさんあるんですが、その中でサイコミらしい、今までとは違う新人賞というのは何かを考えました。新人賞に編集部が求めること、マンガ家さんが求めることは多種多様ですが、今回の新人賞では「マンガ家さんが自分自身のマンガと向き合える環境を作ってあげること」に比重を置きました。
──学生賞受賞者には、ネームなど連載準備のための制作物にも原稿料を支払うということですが。
受賞して、そこからいざ掲載・連載を目指したとしても、金銭面や環境面で限界が生じることが多々あります。生活のためアルバイトせざるを得なかったり。もちろんそこから学べることもありますが、それに伴って自分のマンガのことを考える時間が減ってしまう、というケースをたくさん見てきまして、その改善方法を編集部としてずっと考えていました。
──ただ賞金を払うのではなく、作品制作の時間を作るためのお金を渡したいと。
そうですね。自分のマンガと向き合う時間を作ってもらうため、編集者とマンガを作り込む時間を作ってもらうため、ということです。そういうサポートを強化しようというのが、今回の新人賞の狙いのひとつです。
──東京への引っ越し費用を負担するという一文も目を引きました。作画がデジタルに移行したり、通信インフラが整ったり、地方でもマンガ家として活動ができるという状況は、ここ数年でかなり進んだと思います。それでも東京に来てもらうメリットというのは?
一番は、編集者と密な打ち合わせができることでしょうか。作品を作るということに関しては、作家さんの感性が非常に重要です。そこを引き伸ばすためのサポートに全力を注げる編集部でありたいと思っています。そのために作家と編集者がすぐ会える距離にいること、顔を合わせて打ち合わせをするメリットは大きいと考えています。ですが、もちろん地方に住んでいる作家さんと信頼関係が築けないというわけではありませんし、サイコミにも遠方にお住まいで活躍されているマンガ家さんがたくさんいます。無理に上京を薦めるわけではありませんが、あくまで選択肢のひとつですよね。
──作家さんが上京を望まれるのであれば、それをサポートする体制があると。
そうですね。あとメリットでいえば、東京のほうがエンタテインメントや情報量が多い。たとえば新宿に行けば、衣食住、映画、書店、そのほかなんでも揃ってますよね。「マンガを描くうえで取材は重要」って皆さん頭では理解していて実際に行動したくても、時間や金銭的な都合でできないうえに、今はテレビでもネットでも、いくらでも情報が手に入りますから、それで満足してしまうケースも多いんですよ。でも歌舞伎町のネオンの眩しさとか、渋谷の雑踏とか、そういうものをリアルで体験することにも重きをおいてほしい。リアルの体感はそのままマンガの表現に生かせますから。その意味でも、僕自身は東京とか東京近郊に来てもらう価値はあるかと思っています。
マンガ家と原作者どちらも非常に重要、そこに優劣は存在しない
──サポート面のほかに「2018サイコミ新人賞」の魅力というのは。
これは新人賞に限った話ではないのですが、サイコミはチャンスの多い媒体だと思っています。たとえば既存のマンガ賞って受賞以降の流れがある程度決まっているんです。賞金を出します、担当が付きます、一緒に読み切りを目指してがんばりましょう、読み切り載りました、人気があれば連載……そういう黄金パターンがあって、そこからなかなか外れられない。けれどこの流れが必ずしも正解ではないですよね。
──確かに。大作の構想があって、すぐにでも連載したいという作家さんには、読み切りの期間というのは歯がゆいものがあるかもしれません。
読み切りを描くことで学べることもたくさんありますから、今回の新人賞で受賞したとしても、まず読み切りということもあります。ただ「まず読み切り」じゃない、別のアプローチもあるんじゃないかな、と。面白い作品なんだったら、読み切りをすっとばして、いきなり連載を始めたっていいですし。そういう選択肢がサイコミにはあります。受賞した方はぜひ受身なだけではなく、積極的な提案をしていただきたいですね。もちろん編集部としてできること、できないことはありますが、チャレンジできる環境なので。これはマンガ家さんだけでなく、編集者にも言えることですが。
──選択肢が多いといえば、原作部門はシナリオ、ネーム、小説と投稿可能な形態が多いですよね。既存の新人賞だと、ネーム部門、シナリオ部門と独立していることも多いと思うのですが。
以前のインタビュー(参照:サイコミ編集長インタビュー)でも申し上げましたが、サイコミでは必要に応じてマンガの分業制を進めていこうと考えていますので、原作を書ける人は歓迎したいです。ですので、「漫画部門」と「原作部門」で大賞賞金に差をつけませんでした。
──確かに一般的なマンガ賞では、原作部門はマンガ部門よりも賞金が低く設定されているイメージがあります。
分業制のことを考えていくと、スピード感とクオリティを高めていくためには、マンガ家と原作者のどちらも非常に重要なんです。そこに優劣は存在しません。それぞれ得意な分野ってあると思うんですよね。たとえばモンスターを考えるのが得意であるとか、構成力が優れているとか、武器とか鎧が上手に描けるとか、キャラクターがめちゃくちゃかわいいだとか。今回の新人賞では、そういうところも見てみたいと思っています。だからなるべく多くの人が参加できるように、門戸は広く開けておこうと。もちろんストーリーも、ネームも、作画も1人でこなす、これまでのスタイルの方も募集しています。
──自分の武器がある新人作家さんにこそ来てもらいたい、ということでしょうか。
そういう方も大歓迎です。マンガとして自分で完成していると思うものを投稿してほしいと思います。ただ、応募規定には則ってください(笑)。
──チャンスが多いということの証左なのかもしれませんが、サイコミのマンガ賞は、きちんと連載に繋がっていますよね。連載中の「来世(また)のお越しを!」「君と僕のホールシェア」は、昨年開催されたマンガ賞「連載争奪マンガGP」(ノミネート作品の1話~3話までを無料公開し、読者投票により連載作品を決めるというルールで2017年に開催されたサイコミのマンガ賞)の参加作品です。
どちらの作品も「面白かった」の一言につきます。「来世のお越しを!」は「マンガGP」のグランプリ作品なので連載は確約されていたのですが、もう1作の「君と僕のホールシェア」は編集部内でも読者からも非常に反応がよく、これは連載しようということになりました。なので今回の新人賞についてもですが、大賞を獲る以外にも、十分に連載に繋がるチャンスはあると思っていただきたいです。
──得意分野という意味では、絵は抜群にいいけれど、ネームは苦手という人もいると思います。そのときにサイコミの分業制という考えや、Cygamesが持っているゲームのコミカライズといった選択肢があることもうれしいですね。
そうですね。たとえば今回の新人賞でも、「漫画部門」に参加していただいた方と「原作部門」に参加していただいた方にタッグを組んでいただくということもあると思います。コミカライズについては自社のゲームだけではなく、劇場アニメーション「さよならの朝に約束の花をかざろう」の連載なども始まりました。今後もサイコミではいろんな武器を持った作家さんが活躍できる場面が増えていくと思います。
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「漫画部門」「原作部門」ともにジャンル・形式は不問、大賞賞金はどちらも300万円。そのほかにも必要な機材、毎月の生活費、東京近郊への引越し代の支給など、マンガ執筆のために必要なサポートを予定!
2018年5月31日(木)23:59締め切り
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