Cygamesが運営するマンガ配信サービス・サイコミでは、週刊ペースの連載タイトルを多数揃えている。「グランブルーファンタジー」など、緻密な絵や壮大な世界観を誇る作品をハイペースで掲載し続けられる理由は、作画チームを社内に設け、徹底して作業分担を行うという独特の制作体制にある。
そのサイコミ作画チームが新たに人員を募集しており、2月には採用セミナーも開催される。コミックナタリーでは作画チームリーダー・中山卓にインタビューを行い、分業でマンガ制作をする醍醐味を聞いた。「マンガを描くことを仕事にしたい人には最適な環境」という、新しいクリエイティブの現場を紹介する。
取材・文 / はるのおと
上下関係なく、作業を分担するフラットなチーム
──まず中山さん自身について伺います。サイコミに参加されるまでの経緯を教えてください。
20年くらい、フリーでマンガやイラストを描いていました。その頃にお世話になっていた編集者さんが、Cygamesが漫画事業部を立ち上げるタイミングで入社されまして、その部署の作画スタッフとしてお呼びがかかったのが、2年前くらい。オファーの時に言われた「従来のマンガの作り方にこだわらず、チームで制作する」という内容が興味深かったので引き受けました。
──その頃にはもう、サイコミの制作体制ができあがりつつあったと。
いや、まだ作家さんと編集さんが1人ずついただけです(笑)。
──それでは、中山さんが今の「集団で作画」するという体制を作ってきたのでしょうか。
結果としてはそうですね。僕は当初、作画チームのチーフという立場で入ったんですが「ウマ娘 プリティーダービー -ハルウララがんばる!」ではネームも担当していました。実際に仕事をしながら、役割を模索していたような感じです。今の体制を作っていく中で、だんだんとチーム作りのほうに業務がシフトしていって。最近はリーダーとして、スケジュールの管理だったり、スタッフの配置だったり、新人さんの採用担当だったり……そういったマネジメント的な仕事をしています。
──現在の作画チームはどういう体制なんでしょうか?
僕を入れてメンバーは13人。連載中の作品で主に作画チームが描いているのは「グランブルーファンタジー」「SHADOWVERSE ありさデュエルバース」の2タイトルで、それに未発表の新連載にも関わっています。これらの作品を最高のクオリティを保ちながら週刊連載するには、1作品あたり4人は必要です。それを基本に、状況に応じて人数を増やすとか、そういったフレキシブルな対応をしています。
──作画チームには、どんな方々がいるのでしょうか?
元々作家やアシスタントだった人が多いのですが、中には入社して初めてマンガを描いたという人もいます。今は男性が多く、20代から30代が中心。44歳の自分が平均年齢を上げています(笑)。
──その威厳があるからこそ全体を統括できる、ということで。中山さんの場合、ご自身が作家としてアシスタントを雇っての集団作業なども経験されていると思いますが、その頃と現在の体制はどんな違いがありますか?
マンガ家とアシスタントは、基本的には雇用関係です。そのため、どうしても上下関係が生まれてしまい、意見が言いにくいこともあるかもしれません。サイコミは1つの会社の中で、チームで分業している間柄なので、関係がフラットなのが大きな違いだと思います。また、分業制は、メンバーの得意な部分を組み合わせていくことで1+1を2以上にできるのが利点です。得意な作業と苦手な作業がある中でも、自分のすべき作業や得意な作業に集中してクオリティを追求することができる環境だと思いますね。
──お話を聞いてると、あまりマンガの制作現場っぽくないですね。
元々Cygamesがゲーム会社だというのが影響していると思います。ゲーム開発では分業が当たり前なので、サイコミにもそのノウハウが生かされています。マンガ制作の世界でも、アメコミは分業化が進んでいて、脚本・作画・着色など1つの作品を複数のクリエイターが手がけています。サイコミのマンガ制作は、それに近いものがあると思いますね。あとは、編集部員が同じ部署にいるのもサイコミの特徴です。
──それは便利そうですね。
席が近いので、気になることがあればすぐに打ち合わせや相談ができるのは制作現場としてはとてもありがたいですね。
複雑な騎空艇をスラスラ描ける人に、人物をお願いする必要はない
──今日は「グランブルーファンタジー」を例に、具体的な制作工程を見せていただけるということで。
はい。まずネームの担当者からネームを受け取り、それを元に作画チームでどんな風に絵を入れていくか相談をします。作業工程は一般のマンガとそこまで変わりませんが、例えばこの第1話36・37ページの見開きだと、キャラクターとモンスターは作画チーム内でもそれぞれ得意な人間が描いています。
──なるほど。分業のメリットですね。
それでお互いに描き上がったものを合体させる。調整が必要になった場合も、描いた人が目の前にいるのですぐに相談できます。
──分業制なら、分野ごとの得手不得手も補い合うことができそうですね。
生き物を描くのは苦手だけど複雑な騎空艇はスラスラ描けるという人に、人物の作画をお願いする必要はありませんよね。1人で描いていると、苦手なことも自分で全部やらなくてはいけないけれど、そういった分担ができるのはクオリティを高める上でも大きいです。
──「グランブルーファンタジー」を作画する際に気を付けているポイントは何でしょうか?
原作ゲームのイメージを崩さないことですね。できる限りゲームの再現はしますし、わからないことがあれば、同じ建物にゲーム制作陣がいるので、すぐに質問しています。
──たとえば世界観の設定とか「この服の後ろどうなっているの?」とかそういうレベルまで?
そうです。ただ、僕は入社する前から「グランブルーファンタジー」のゲームが好きでよく遊んでいたんです。仕事とはいえ、キャラクターが今後どんな動きを見せるのか、どんな秘密があるのか、まだ世に出ていない情報を先に知ってしまうことは、純粋なファンという立場からすると、ちょっと複雑な気持ちもありました(笑)。
次のページ »
新連載ラッシュが止まらない、サイコミは今「第2次創刊期」