コミックナタリー PowerPush - 月刊COMICリュウ

COMICリュウ発の女流作家、3人同時デビュー マンガ界新世代の潮流となる才能たちが原点を語り合う

吾妻作品で最初に大好きになったのは「オリンポスのポロン」(堤谷)

──絵柄について、具体的にどなたの影響を受けていますか?

堤谷 真っ先に思い浮かぶのは、手塚治虫先生と吾妻ひでお先生ですかね。「ブラック・ジャック」が家に全部あって、それをずーっと読んでたのもあったんですけど。あとは成松先生と同じような感じで、小学校の図書館に手塚先生の作品がぶわーって置いてあって。それを読み浸っていました。

成松 手塚先生の作品だと、どれが一番好きでしたか?

堤谷 私も「火の鳥」すごく好きでしたけど……一番好きだったのは「七色いんこ」です。

成松 えっ、そうなんですか! すごいですね。図書館に本当に全部あったんですね!

──吾妻作品も家や学校にあったんですか?

吾妻ひでお「オリンポスのポロン」1巻

堤谷 いや、なかったですね。絵だけは見たことあって、すごく可愛いなーと思ってはいたんですが。高校ぐらいの時に「オリンポスのポロン」を読んで。ポロンちゃん親子が大好きでした。あとその頃から大島弓子先生とか山岸凉子先生とかをすごく読むようになって、そこからシンプルな絵柄に引き寄せられていきましたね。

脇田 なるほど……。私は中学生の時に大友克洋先生の「童夢」を読んで、もうむっちゃカッコいい!ってなって、いつかはあんなの描けたらいいなと思っています。今は全然違うんですけど(笑)。

成松 私は最近だと……やっぱり顔の表情が出るように、頭身の高い絵を描こうと思って。そう意識してネームを描くようになって、読むものも変わっていきましたね。最近でいうと例えば、森田まさのり先生のあの顔の作り方とか。今どきの若い人がする顔や表情の付け方に特徴がある人を参考にしてます。

負のエネルギーを、いかに物語に昇華できるか(堤谷)

脇田 皆さん、親元を離れられて描かれてるんですよね。寂しくなったりしないですか?

堤谷 確かにちょっと寂しいので、犬を飼おうと思ってます。

脇田 いいなー。私も猫飼いたい。

成松 えっ脇田先生、猫飼ってないんですか! 猫のマンガ描かれてるのに。

脇田 あ、そうなんです。これ言わんほうがいいんかな……(笑)。猫好きだったんですけど、ずっと飼えなくて。

成松 どんな感じで猫マンガになったんですか?

脇田茜「『猫がいない』短編集 凪を探して」の口絵。

脇田 私も担当さんも猫がすごく好きで。その頃「猫が行方不明」っていうフランス映画の話とか、あと最近の小説で「世界から猫が消えたなら」っていうのがあって。それで「“猫が出てこない”とか面白そう」ってポロっと。じゃあそこから何か考えてみましょうと。

堤谷 飼ってらっしゃるのかと思ってました、すごい上手だから。

脇田 ホントですか? いろいろ猫カフェを回ったりもしたんですよ。あと猫がたくさんいることで有名な島に行って取材したりしました。猫カフェの猫ってね、まったくやる気ないんです。その点、島に生きてる猫はめちゃめちゃ寄ってくるんですよね!

──成松先生も連作短編集でのデビューですが、それはどういった経緯で。

成松幸世「さよなら金太郎 伊達家の人々」の「フレーム問題」より。

成松 あれはですね……。あれは全くなにも考えていなくて。「さよなら金太郎」の初めのほうに入っている「フレーム問題」という読み切りがあるんですが、あれは最初、メガネにテーマを絞って描くという企画でやってたんですよ。

堤谷 「フレーム問題」って、「さよなら金太郎」のお父さんのお話ですよね。

成松 そうそう。で、そこで家族が出てきたから、じゃあそれを使って描いてみてよと。そこから行き当たりばったりで毎回毎回描いていたんです。でも楽しかった。やっぱり編集さんていう、第三の目が入るとぜんぜん違うんです。

堤谷 やっぱこう、自分のためだけじゃなくて、空気の入れ替えみたいな感じの視点があるとすごくありがたいですよね。

成松 「人生は二日だけ」に貫かれてるテーマ的なものはあるんですか?

堤谷 そうですね。なんかわりと全部根底にあるものはすごい、負のエネルギーなんですけど(笑)。すごくマイナスなエネルギーから作っても、それをいかに読者に意識させないで物語に昇華できるかっていうのが課題だったので。それをずっと考えてやりましたね。

持ち込んでボコボコにされるのも財産です!(脇田)

──それぞれ、単行本作業も詰まっている頃かと思うんですが……各々デビュー単行本の、読みどころ的な部分はどこでしょう。

成松幸世

成松 最初の方と最後の方で見比べてもらうと、私は全然描けないところからやっぱり成長したな、と思うので。キャラクターの顔の描き方だとか。あと各エピソードごとに解説みたいなページを入れたので、雑誌で読んでいた方もぜひ!

脇田 そうですね、あの、私も掲載時と違うところが何カ所かありますし、あとおまけカットもがんばって描いたので。ぜひ買って楽しんでいただけたらなと思います。

堤谷 えっと、私は、すごく絵柄で先入観を持たれるタイプのマンガなので。ちゃんとマンガを描いているんだということを、言いたいです(笑)。あと単行本で確認してもらいたい、シークレットがありますということで。

堤谷菜央「人生は二日だけ」より。

脇田 わー、なんだろう。

堤谷 はい、単行本を買って調べて下さい。ある文字列が、全部のエピソードにわたって入っているんです。お楽しみです。

──ウォーリーをさがせ!みたいな感じですね(笑)。では最後に、このインタビューを読んで、皆さんにこれから続きたいと思った方へのメッセージなどありましたら。

成松 そうですね……とりあえず、とにかく最初の入り口は何でも、それこそ同人誌でもいいから。気軽に編集部に持って行ったらいいと思います。そこからはもう、編集さんと話していくうちじゃないと絶対に出てこないから。1人で悶えながら描くよりも、絶対見てもらって話しているほうが、いい方に変わっていくので。

堤谷 なんか、恥ずかしいモノを持っていけばいいと思います。結局恥を捨てて自分の内面を出していかないと、読んでる方も楽しくないので。

成松 人の恥ずかしいところって面白いですもん。それが喜ばれたりしますものね。

脇田 えっと、考えたんですけど、とにかくひとつ作品ができたら、どんだけ下手くそでもいいから持ち込んだらいいと思います。ボコボコにされるかもしれないんですけど、それも財産やと思うので。それで本当にダメだって思わないでがんばれば、いい作品が描けると思うので!

成松 特にCOMICリュウは何でも描けますし、読み切りもたくさん載せてくれますし。投稿したい方にはすごくおすすめな環境だと思います。

脇田 最後にめっちゃ上手いPRですね!(笑)

座談会の様子。
堤谷菜央「人生は二日だけ」/ 2014年2月13日発売 / 651円 / 徳間書店
堤谷菜央「人生は二日だけ」
作品紹介

人工的に作り出した赤ん坊を売って大儲けしようとする女性科学者。しかし彼女の男友達(ゲイ)は自分が赤ん坊を育てると言い出す……。

啓示と救いに満ちた衝撃のデビュー作「バースデイ」をはじめ、情緒不安定な従姉に振り回されるヘタレ青年の物語「ライト ナイト ライト」、ロリータの純愛「金りんごちゃんの恋」、死んだ兄に憑かれた女子高生を描く「兎の生る木」、火星の海底プラントが舞台のSF「BIANCA」、冴えない青年の前に突然現れた謎の幼女との不思議な同居生活を描いた表題作「人生は二日だけ」……。珠玉の6作品を収録した記念すべきデビューコミックス!

成松幸世「さよなら金太郎 伊達家の人々」 / 2014年2月13日発売 / 651円 / 徳間書店
成松幸世「さよなら金太郎 伊達家の人々」
作品紹介

龍神賞選考会において選考委員から絶賛された、希代の感性を誇る期待の新鋭・成松幸世が満を持して放つ初コミックス!

とある地方都市にすむ伊達さん一家
厳格だが、やたらと眼鏡を失くすパパ
天真爛漫でおっとりしている優しいママ
気は強いが一寸天然のお姉さん・エリ
一途だけれど心優しい弟の心
四人が織り成す感動のドラマを一冊に凝縮してお届けします!!

脇田茜「『猫がいない』短編集 凪を探して」 / 2014年2月13日発売 / 651円 / 徳間書店
脇田茜「『猫がいない』短編集 凪を探して」
作品紹介

猫が出てこない猫マンガ
もう一度、あの猫に会いたい……

いなくなってしまった猫
昔飼っていた猫
島での猫探し……

愛しい「猫」を通して
5人の女性の心の機微を
優しく丁寧に、大胆な演出をもって描き出す
珠玉のオムニバス短編集

リュウ期待の新人ストーリーテラー
脇田茜ファーストコミックス

猫×クリエイターWEBマガジン
ilove.cat推薦!

堤谷菜央(つつみたになお)
堤谷菜央

2012年、月刊COMICリュウ(徳間書店)の新人賞・龍神賞にて、応募作品「バースデイ」が審査員の吾妻ひでお、安彦良和に絶賛され、リュウ創刊以来初となる金龍賞を受賞。同作品が月刊COMICリュウ2013年2月号に掲載されてデビューを飾る。以降、精力的に読み切り作品を発表。2014年に初単行本「人生は二日だけ」を刊行。

成松幸世(なりまつさちよ)
成松幸世

九州出身・東京在住。大学入学を機に上京し、マンガ研究会に所属。卒業後は同人誌などで活躍し、2012年に月刊COMICリュウ(徳間書店)の新人賞・龍神賞にて「紙の上」「芙蓉の人」「ユークリッド」の3作で銀龍賞を受賞。その後、読み切り「フレーム問題」にてデビューし今日に至る。2014年に「さよなら金太郎 伊達家の人々」を刊行。

脇田茜(わきたあかね)
脇田茜

京都在住。2012年冬、第12回龍神賞にて銀龍賞を受賞し本格デビュー。受賞作「コピー」では、イラストレーターを夢見る女性のとある一日をイマジネーションあふれる様々なタッチで描写し、高い評価を受けた。好きな食べ物は餃子。「『猫がいない』短編集 凪を探して」が初の単行本となる。