「第2回comicoチャレンジGP」特集 comico編集長・武者正昭×田中圭一対談|「クリエイターが報われるプラットフォームに」 新生comico、縦スクロールマンガへの挑戦者を大募集

「第2回comicoチャレンジGP」の一番のウリは“広がり”(武者)

──「第2回comicoチャレンジGP」について伺います。マンガの新人賞が数多くある中で、ウリは何でしょうか?

武者 comicoは非常に大きなプラットフォームで、読者が圧倒的に多い点です。受賞して人気が出れば韓国や台湾、タイ、スペイン語圏、インドネシアといった海外への展開もあるので、さらに広がる。受賞時の賞金だけでなく、そういう大きな夢を見られるのがウリだと思います。お金ももちろん大事ですけど、クリエイターにとって人に見られることが一番うれしいことでしょうから。

「スキはぐ。」スペイン語版より。comicoの作品の一部は海外でも展開されている。

「スキはぐ。」スペイン語版

田中 大事なモチベーションですよ。すごくクオリティが高いのにあまり知られていないマンガってたまにあって、作者さんがめちゃくちゃかわいそう。特に近年はマンガのレベルがものすごく高くなっていて、「これ20年前だったら絶対ミリオンいくよね」みたいな作品も10万部しか売れていないなんてこともある。

武者 マンガは進化し続けていますよね。どこかで止まると思っていたけど、全然止まらない。本当に最近はクオリティが神がかっている作品も珍しくないのに、紙の雑誌のパワーが落ちているせいで、作家さんが正当な報酬を得られていないじゃないですか。切ない話ですよ。だから作品が多くの人に見られて、きちんとお金がもらえる。comicoをそういうクリエイターが報われるようなプラットフォームにするのが僕のミッションだと思います。

田中 もっと多くの人にたくさんマンガを読んでもらいたいですよね。

──そういう意味では、「第2回comicoチャレンジGP」の応募条件でプロ・アマ問わずと明記しているのもいいですよね。現役のプロがさらに自分の作品を読んでもらうために、応募してもいい。

武者正昭

武者 ぜひ新しい気持ちでチャレンジしてほしいですね。縦スクロールのフルカラーをやってみたら意外とそれが性に合うかもしれませんし。

──見開きマンガの世界でやってきて、comicoで初めて縦スクロールマンガを描き始めたという作家さんも多いと思います。編集者から見て、その違いに戸惑いを感じている様子はありますか?

武者 画面内に入るコマの数やサイズ感、ドラマの内容と見せ方は少し慣れが必要かもしれません。ただ慣れてくると、皆さん間の表現はすごくよくなりますね。見開きのマンガより、縦スクロールマンガのほうが時間の経過や余白を表現しやすいようです。

──応募は年齢も問わずということですが、comicoの作家さんって何歳くらいの方が多いのでしょう。

田中 高校生でデビューされた方もいましたよね。

武者 いましたね。全体的に若いです。でも40代で描いている人もいるし、年齢は関係ない。30歳になってから会社を辞めてマンガを描き始めた人もいれば、13、4歳でデビューする人もいる業界ですから。結局、マンガは面白けりゃなんでもいいんですよ。

田中 できあがったものだけがすべてですね。マンガ家の人格なんて二の次だから(笑)。

「突飛なアイデアを思いついた!」と酔ってちゃいけない(田中)

──最後に、「第2回comicoチャレンジGP」でデビューし、その後も人気作になるための秘訣を探らせてください。田中さんは、Web上で人気が出るマンガについてどう思われますか?

田中 最近はTwitterでマンガをアップする人が日に日に増えてきて、レッドオーシャンだと感じています。でもお気に入りの数やRT数が多いからといって、それが本になったときに売れるかといわれたらそんなことは全然ない。「面白い」と思われるだけで消費されていくマンガと、「これは絶対に本で欲しい」と思われるマンガってやっぱり違いがあるんです。Twitterで何十万人もフォロワーがいるミュージシャンがいて、彼がライブをやったらお客さんが100人も来なかったという話があって。つまりフォロワーの多くは面白い発言をするミュージシャンの見物人であって、ファンではなかった。

──では作品のファンを増やすために必要な条件は?

田中 これは昔から言われていることだけど、やっぱり愛されるキャラクターが必須なんですよ。Twitterで見かける日常系のあるある系オムニバスで、毎回主人公が変わっているようなものは、バズったからと言って安易に単行本にすると危険でしょう。

ミイラのミーくんと、その飼い主である柏木空を軸にしたほのぼのコメディ「ミイラの飼い方」。2018年にはTVアニメも放送された。

「ミイラの飼い方」

武者 comicoだと「ミイラの飼い方」のミーくんがわかりやすいですよね。見てるだけでかわいいから、ずっと愛されている。

田中 犬や猫はたくさんいるけど、ミイラは新しいですよね。もう1点、キャラクター同士の絡みの存在も重要だと思っています。例えば「こぐまのケーキ屋さん」は単行本が38万部ぐらい売れたと言いますが、同じようにTwitter上で人気があって、仕事から帰ってきたOLが読んで和むような楽しまれ方をしている作品でも、書籍化されたときに売れないものもあります。この理由はなんなのかを学生たちと議論したところ、キャラクターたちによる絡みがあるかないかの違いだと気付きました。ただキャラクターが読者に向かってしゃべっているだけのような作品だと、マンガとしてはウケないという。

comicoのランキング上位には、複数のキャラクターが描かれたアイコンが並ぶ。

武者 突き詰めれば、人間は物語に興味があるんですよ。だからそれを紡ぎ出すキャラクターの関係性はとても大事で、愛し合ったり憎み合ったりさせることで読者の感情を揺さぶれる。「ドラえもん」なんて、のび太が何か困ったらドラえもんに泣きついてひみつ道具を使って解決するという展開がわかってるけど面白い。結局は魅力的なキャラクターを作り、それを組み合わせてどう物語るかがヒットの鍵なんでしょう。

奥から田中圭一、武者正昭。

田中 「ドラえもん」のいつもの展開に読者が安心するという話がありましたけど、「あずまんが大王」もまさにそうで。4コママンガって最後にオチがあって笑えるものだと思っていたのに、あのマンガが流行った2000年当時、キャラクターが今日もそのキャラクターである……「大阪ちゃんが今日も大阪ちゃんだった」という安心を読者が求めて読んでいることに気付いたんです。だから奇をてらって「ドラえもんが絶対しないことをいきなりやったら面白いだろう」みたいな考えはまずい。

武者 突拍子もない変なことをやったら読者は怒りますよね。

左から武者正昭、田中圭一。

田中 編集さんと打ち合わせをしていても「こんなジャンル誰もやってないよね」とか「こういう設定は今までにない、イケる!」とかよくなるけど、これが間違いなんです。料理に例えるとわかりやすくて、すごく珍しい食材が見つかったときに勝ったと思う人が多いけど、食材は食材でしかなく料理法こそがすべてであって。だから「突飛なアイデアを思いついた!」と酔ってちゃいけない。

──設定に凝ってしまうというのはやりがちですよね。

田中 弘兼憲史さんやかわぐちかいじさんのようなベテランって、スーパーで売っている特売のじゃがいもでも高級レストランで出せる料理にする力があるんです。そうした部分にこそ着目してほしい。だから設定の突飛さより、基礎的なマンガ力が優れているかどうかが、今回の賞を取って、ヒット作になるかの大きな分水嶺になるんじゃないでしょうか。

「第2回comicoチャレンジGP」
「第2回comicoチャレンジGP」
部門

少年・青年部門 少女・女性部門

応募条件
  • オリジナル作品
  • comico形式(縦スクロール、フルカラー)
  • 1話15コマ以上
  • 開催期間内に1話以上投稿

グランプリを目指す人は、30コマ+3話以上の完結作がオススメ!

スケジュール

募集期間:2018年10月4日(木)~2019年1月31日(木)

読者投票受付期間:2019年2月4日(月)~17日(日)

結果発表:2019年3月20日(水)予定

各賞

総合グランプリ(1名):賞金300万円+公式連載確約

部門グランプリ(各部門1名):賞金200万円+担当編集付き

特別賞(各部門4名):賞金30万円

読者賞(20名):5000円~20万円

審査員

審査員長:武者正昭

特別審査員:夜宵草(「ReLIFE」)

comicoとは

縦スクロール形式やフルカラー表現など、スマートフォンに最適化した閲覧環境が特徴のマンガ・ノベルサービス。2018年11月現在、200作を超えるオリジナルマンガやノベル、外部IP作品を定期掲載中。ストアでは各出版社による約4万2000作を配信している。

武者正昭(ムシャマサアキ)
小学館にて週刊少年サンデーや月刊flowersなど数々の編集部を渡り歩き、藤田和日郎「うしおととら」、久米田康治「行け!!南国アイスホッケー部」、小森陽一原作による佐藤秀峰「海猿」、西炯子「娚の一生」「姉の結婚」といった多数のヒット作を、30年以上にわたり生み出してきた。2018年5月、comico編集長に就任。これまで手がけてきた「見開き形式」から一転、「縦スクロール形式」でのマンガ表現に挑戦する。
田中圭一(タナカケイイチ)
1962年5月4日、大阪府生まれ。小池一夫劇画村塾の神戸校に第一期生として入学し、1984年に「ミスターカワード」でデビュー。その後連載した「ドクター秩父山」が人気を博し、TVアニメ化を果たす。1995年以降は手塚治虫など、著名作家の絵柄をコピーして描くパロディ作家としての地位を確立。2014年、文芸カドカワで自身のうつ病脱出体験をもとにしたマンガ「うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち」をスタートさせると、大きな話題となり、2018年には田中直樹主演で実写ドラマ化。京都精華大学マンガ学部マンガ学科ギャグマンガコースで准教授も務めている。