フルカラーかつ縦スクロールというスタイルで人気を集め、5周年を迎えたマンガ・ノベルサービス・comico。同媒体では、プロ・アマ問わず応募可能なコンテスト「第2回comicoチャレンジGP」を目下開催している。
本コンテストの審査員長を務めるのは、小学館で30年以上の編集キャリアを積み、5月にcomicoの編集長に就任した武者正昭氏。コミックナタリーでは同氏を招き、「Gのサムライ」「うつヌケ~うつトンネルを抜けた人たち~」などWeb発のヒット作を数多く手がけ、京都精華大学の准教授でもある田中圭一との対談をセッティングした。「comico作家になるメリットは?」「Webでウケるマンガって?」といった、描き手が気になるテーマについて語ってもらっている。
取材・文 / はるのおと 撮影 / 新妻和久
縦スクロールのcomicoでシリアスな作品が多い理由
──まず田中さんに伺います。最近のcomicoの作品で印象的なものはありますか?
田中圭一 「私を笑わないで」ですね。体重に囚われた2人の女性の物語なんですけど、毎回最後に2人の体重が表示されるし「ダイエットのマンガなのかな?」と思って読んでいたんですよ。でも4、5話と読み進めるうちに、2人の生き様みたいなものを比較しながら見せていく作品だとわかった。作品を描くときって、僕は「この作品はこんなジャンルで、こんなファンに向けたものだ」と1話の時点でわかるように描いてきたし、大学でもそうするように教えてきたんですけど、いまや読者にとって縦スクロールマンガとは、第1話の時点では全容がわからなくてもいい、じっくり腰を据えて読むジャンルのものというふうに認識されてきているのかなと思いました。
武者正昭 comicoもリリースから5年が経ち、ファンの心構えもそうだし、さまざまな面で成熟してきたのかなと感じています。作家も縦スクロールマンガを描くことへの試行錯誤が減った分、余裕を持っていろんな手法や展開を試せるようになってきたんじゃないでしょうか。「私を笑わないで」なんかはかなり確信犯的で、じっくり展開させてもファンを取り込む自信があったんだと思います。
田中 ただ僕はけっこう前からcomicoさんと付き合いがあるけど、ずっと少女マンガというかティーン女子向けの作品が強くてギャグが弱いと言われていますよね。特に4コママンガなんて、縦スクロールと一番親和性が高そうだと思うのにあまりない。
──確かにcomicoのランキングの上位には、どちらかと言うと女性向け作品が並びます。その理由をどう分析されますか?
田中 僕が教えている京都精華大学で、年に2回客員教授として来てくださっている東村アキコさんが授業で言っていたんですけど、シリアスなシーンは縦長でコミカルなシーンは横長のコマで描かれているそうなんですよ。それを聞いて、僕も自分の作品で「ここは泣かせにかかるぞ」というシーンを縦長にしたらすごくウケがいい。「東村さん、やっぱりすごいな」と思いました(笑)。
武者 確かにそういうコマの使い方は一般的ですね。
田中 ただし、なぜ「縦長がシリアスで横長がコミカルか」を言語化できないと、他人に説明できないでしょう。だから1年くらいその理由を考えていたんですけど、最近になってようやく人間の視野が原因かなと気付きました。人間の視野って横長だから、映画のスクリーンやテレビを観ていても一瞬で何が起こっているかわかる。そのためテンポが早く感じるんです。ところが縦長のものを観るときは視線を下ろさなきゃいけないから、必然的に時間がかってしまう。だから間を取りたいシリアスなシーンには縦長が向く。これが縦スクロールのcomicoにおいてシリアスな女性向け作品が人気で、親和性が高いはずの4コママンガがあまりウケていない理由なんじゃないでしょうか。
──なるほど。
田中 もちろんそういった分析はcomicoさんの中でも進んでいるでしょうし、今後comicoならではの演出も増えるんでしょう。
縦スクロールだからこそできる演出へのチャレンジ
武者 今、縦スクロールでどんな表現ができるかいろいろと作家が試しているんですよ。例えばこの女刑事が主人公の「JADE」は、縦スクロールに不向きと言われていたアクションの描写に果敢に挑戦しています。
田中 確かに。何かのジャンルが人気になるといろんな作家さんが出てきて、切磋琢磨しながら新しいテクニックを生み出していくんですよね。
武者 ほかにもこの「あくまでもボクは。」では、登校シーンや教室の景色を縦長で魚眼レンズ風に描いて不気味さを増している。comicoもまだ5年だし、これからもこうした新しい技法を作る人が出てくるのが楽しみですね。
──先ほどcomicoには女性ユーザーが多いという話がありましたが、武者さんが2018年5月に編集長に就かれてからは男性向け作品にも注力しているそうですね。
武者 今まさに男性マンガファンに喜んでもらえるような作品をいくつか仕込み中で、今後徐々に出せると思います。やっぱり男女ともに読んでもらって、ユーザーが増えるのが一番ありがたいですから。ただ男性向けかなと思うマンガを意外と女性が読んでいたり、その逆もあったりして、想定した通りにいかないことも多い。男性向け、女性向けという区分はあくまでこちらの心積もりの話ですね。
──話が少し逸れますが、大半のマンガ雑誌って不思議なことに男性向けと女性向けで分かれていますよね。あれが昔から不思議で。
武者 幼児誌でも男児向け、女児向けと分かれていますよね。あれって正しいんでしょうか。
田中 例えばコミックビーム(KADOKAWA)のように、男女どちら向けでもないものってあまり世間的なセンターに来ないですよね。センターに来るのは必ず男女どちらかに向けたもの。
武者 この性差の話題は本当に難しい。それだけでも大きなテーマとなり得るくらいですよ。
田中 例えばテレビのバラエティ番組って別に視聴対象を性でくくっていないですよね。今ふと思ったけど、銭湯とトイレとマンガだけが男女別にしているのかもしれません(笑)。
- 「第2回comicoチャレンジGP」
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- 部門
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少年・青年部門 少女・女性部門
- 応募条件
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- オリジナル作品
- comico形式(縦スクロール、フルカラー)
- 1話15コマ以上
- 開催期間内に1話以上投稿
グランプリを目指す人は、30コマ+3話以上の完結作がオススメ!
- スケジュール
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募集期間:2018年10月4日(木)~2019年1月31日(木)
読者投票受付期間:2019年2月4日(月)~17日(日)
結果発表:2019年3月20日(水)予定
- 各賞
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総合グランプリ(1名):賞金300万円+公式連載確約
部門グランプリ(各部門1名):賞金200万円+担当編集付き
特別賞(各部門4名):賞金30万円
読者賞(20名):5000円~20万円
- 審査員
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審査員長:武者正昭
特別審査員:夜宵草(「ReLIFE」)
- comicoとは
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縦スクロール形式やフルカラー表現など、スマートフォンに最適化した閲覧環境が特徴のマンガ・ノベルサービス。2018年11月現在、200作を超えるオリジナルマンガやノベル、外部IP作品を定期掲載中。ストアでは各出版社による約4万2000作を配信している。
- 武者正昭(ムシャマサアキ)
- 小学館にて週刊少年サンデーや月刊flowersなど数々の編集部を渡り歩き、藤田和日郎「うしおととら」、久米田康治「行け!!南国アイスホッケー部」、小森陽一原作による佐藤秀峰「海猿」、西炯子「娚の一生」「姉の結婚」といった多数のヒット作を、30年以上にわたり生み出してきた。2018年5月、comico編集長に就任。これまで手がけてきた「見開き形式」から一転、「縦スクロール形式」でのマンガ表現に挑戦する。
- 田中圭一(タナカケイイチ)
- 1962年5月4日、大阪府生まれ。小池一夫劇画村塾の神戸校に第一期生として入学し、1984年に「ミスターカワード」でデビュー。その後連載した「ドクター秩父山」が人気を博し、TVアニメ化を果たす。1995年以降は手塚治虫など、著名作家の絵柄をコピーして描くパロディ作家としての地位を確立。2014年、文芸カドカワで自身のうつ病脱出体験をもとにしたマンガ「うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち」をスタートさせると、大きな話題となり、2018年には田中直樹主演で実写ドラマ化。京都精華大学マンガ学部マンガ学科ギャグマンガコースで准教授も務めている。