コミックナタリー Power Push - アニメ「コメット・ルシファー」シリーズディレクター中山敦史×コミカライズ担当chisato対談

懐かしさ溢れる本格ジュブナイルSF アニメの見どころを4コマ作家が取材

キャラの特徴を強調して生まれた、女子トイレに平気で入る男というネタ

──コミカライズをする中で、シナリオを読まれるときに特にチェックされるポイントってあるんですか?

chisatoが持参した設定ノート。コミカライズのために作った、お手製のキャラクター相関図が描かれている。

chisato なんでしょう、でもまずはロードマップや相関図を作りますね。自分が感じたことや「ソウゴ君はこういう子なんだ」って要素はメモしないと、どんどん忘れちゃうので……。ネームも相関図を元に切りますし、キャラが足りないってご指摘があったらメモして登場するバランスを考えたりします。

中山 お気に入りのキャラクターはいますか?

chisato それが……描いていると全員好きになるタイプなんです。最初はお気に入りの子がいたんですが、だんだんみんな「かわいいなあ」って。女子も男子もおじさんも楽しんで描かせてもらっています。

中山 それはよかった。登場人物のデザインは割と考え込んであって、性格と見た目が一致するようなわかりやすさを意識しているんです。

ソウゴの設定画。鉱石集めが趣味というキャラクターがデザインにも出ている。

chisato 石探しが大好きなソウゴくんは、道具入れや登山靴など格好も特徴的ですよね。

中山 ソウゴは分析や解析ができるゴーグルもつけていて、いつも炭坑に行って鉱石を集めている様子が垣間見られます。クラスメイトで幼なじみのカオンは、おてんばで元気のいいお姉さんタイプで、ロマン・ヴァロフは、ガーデン・インディゴの領主ヴァロフ家の息子。このカオンとロマンは許嫁の関係ですね。

──許嫁とは格式ばった響きですね。

中山 それだけ彼らはお金持ちで身分も高いのですが、クラスメイトのソウゴたちとも分け隔てなく接する、偉ぶらない気さくな性格です。ロマンは上流階級すぎてしゃべり方に癖があったり、洋服も貴族っぽかったり、多少浮世離れしてますけどね。

ロマン・ヴァロフ オット・モトー

chisato ロマンが一番意外でしたね。パッと見の印象で鼻持ちならないキャラかと思ったら「なんだいいヤツじゃん!」って。

中山 ガキ大将やいじめっ子的ポジションかと思いきや、みんなのことを考えるいいヤツというね(笑)。その辺、領主の息子という自覚があるんだと思いますよ。ただ名門家系の相当なボンボンだから、世間ズレしているところはある。

chisato ロマンといつも一緒にいる執事のオットが、ツッコミ役ですよね。ロマンだけだとボケのままで進んでいっちゃうから重要なキャラ。見た目もまさに凸凹コンビで、この2人はいかにも話を面白く転がしてくれそう。

──それぞれ役割が見た目に反映されたデザインということですね。でも外見からはわからない秘密があったりも?

中山 それは間違いないですね。例えば元気で明るいソウゴですが、両親がいない彼は「なぜ自分はド・モンのカフェで育てられているのか」と14歳なりの悩みを心に抱えています。育ての親であるド・モンは彼を心配しているし、ソウゴ自身も大事にされていることは知っているのに反発してしまう。それで家を飛び出して1人で旅に出てしまうわけですからね。

chisato なるほど……。

中山 おてんばそうなカオンも、本当は女らしい子ですしね。ずっと好きだったソウゴの前ではしおらしくてかわいい面が見えますよ。ロマンとオットのコンビは、先ほどおっしゃっていたような金持ち=鼻持ちならないというイメージを覆す「見た目そのままにカッコいい」という意外性のなさが、逆に新鮮かもしれません。彼らは見た目以上に活躍するので期待していてください。でも、chisatoさんが描かれるキャラクターは、ギャグでも性格がブレてないからすごいですよね。

chisato ありがとうございます。アニメ本編は比較的バトル寄りの展開になるので、マンガではロマンやカオンたちは普段こんな生活をしてるに違いないっていう、楽しい日常を描きたいと思うんですよね。ネタを考えるときも二次創作的というか、脚本を読んで頭の中で彼らが勝手に行動するようになったら、それをそのままマンガに落とし込む感じなんです。だからブレも少ないんだと思います。

中山 4コマのストーリーってどうやって組み立てるんですか?

chisatoによるコミカライズ版。トイレットペーパーが切れてしまったカオンのピンチに、ロマンが駆けつける。

chisato 全然立派なことはしていなくて……コーヒーを煎れたりする時に「あ!」と閃いたりします。思いついたセリフや場面はチラシとかの裏にメモしておいて、それを4コマに割っていくんです。そういえば、一番最初に思い浮かんだネタは、ロマンとカオンのトイレネタでした。

中山 トイレットペーパーがなくて困ってるカオンを、ロマンが助けに来るやつですね(笑)。女子が用をたしてるところに平気で乗り込んじゃうという。

chisato ロマンはいいヤツすぎて、すべてに過剰さがあるのがやっぱり気になるんですよね。カオンもロマンがいい奴だとはわかっているけれど、照れくささがあるからみんなの前では恥ずかしいのかな?ってところを過剰に表現したくて。

中山 空気の読まなさといい押しの強さといいバッチリですよ。「この世界にもトイレットペーパーはあるんだ」という細かい気づきが得られるのもいいですね。

楽しみを優先して動く、敵キャラは主人公よりも自由な存在

──ほかに気になる背景やキャラクターはいましたか。

chisato 敵側のトリオはつつき甲斐がありそうなので、この機会に性格や設定をいろいろ伺えたらうれしいです。

中山 ガスとパックとアルの3ワルトリオですね。毎回ソウゴたちの前に立ちはだかるのに、全員のクセが強すぎるがゆえに目的を忘れちゃって毎回失敗するという(笑)。

スタッフの作業机にchisatoのカラーイラストが貼られているのを発見。幼少期アニメーターに憧れていたchisatoは、スタジオに自分の絵があることに感激していた。

chisato みんなハイスペックなのに……ポンコツなんですよねー。シナリオ上ではすごい悪役なんですが、どうにも気になる部分が多すぎて。

中山 個々人のスペックは最高なのに、うまく機能しないというのが狙いです。パックとアルはリーダーのガスが個人部隊を作ろうと雇った傭兵なんですが、そのガス自身が道を踏み外しちゃってるから。

chisato ただの酔っぱらいですよね(笑)。

中山 そうそう。で、何よりも戦闘が好きというキャラなんですね。ソウゴたちを捕まえる任務よりもその楽しみを優先するから、すぐバイペダルアーマ(作中に登場する軍事用ロボット)とかで乗り出してバカ騒ぎしちゃう。彼らだけでも話になりそうな濃い3人組です。

chisato 敵なのに憎めない感じですよね。本質的な悪はいないというか。

中山 基本的にはみんな自分の正義のために戦っていますからね。ただ、ガスはもう少しハードボイルドで渋くてカッコいい男になるはずだったんだけどね。……今は僕たちも想像しなかった方向になっています。

「コメット・ルシファー」にはメカやロボットも多数登場。画像のものは敵が操る多脚モンスター。

chisato 勝手に動いちゃう系ですか?

中山 ええ。ガス、パック、アルは特にそうですね。主人公は最終的な目的に向かって進む必要があるけど敵役は自由に動けますからね。だから想像しない行動やオチになっちゃうんです。

chisato そういえば、敵役はなぜトリオが多いんでしょう。有名どころだと、「ヤッターマン」とか……。

中山 2人だと親分と子分の関係になってしまい片方が命令したら終わりですが、3人だとぶつかりあったり面白くなりやすいんでしょうね。例えば、ガスというリーダーが命令をするけれど、パックとアルの仲が悪いため作戦が思い通りにいかなかったり。ドロンジョ様とトンズラーとボヤッキーの関係と同じですよ。協力して戦えばすごい力を発揮するのに、っていうね。

chisato なるほどー、言われてみれば私もトリオのほうが話を作りやすいかも。2人だと一方通行で、なんだか逃げ場がない感じがしちゃいますね。

TVアニメ「コメット・ルシファー」
TVアニメ「コメット・ルシファー」
放送情報
  • TOKYO MX:毎週日曜22:30~
  • KBS京都:毎週日曜23:00~
  • サンテレビ:毎週火曜24:00~
  • BS11:毎週火曜24:00~
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chisato(チサト)
chisato

「THE IDOLM@STER MASTER  ARTIST 3シリーズ」(日本コロンビア)のジャケットを担当。そのほかカードゲーム、ソーシャルゲームなどのイラストで活躍中。

中山敦史(ナカヤマアツシ)

エイトビット初のオリジナルアニメ「コメット・ルシファー」でシリーズディレクターを担当。監督の菊地康仁を支える。