「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2025」マンガ大好き芸人・吉川きっちょむが、女性部門エントリー作品をレビュー

コミックシーモア主催の「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2025」は、「次に来るヒット作品はこれだ!」と出版社が推薦したタイトルの中から、一般投票で大賞を選ぶマンガ賞。2025年1月の結果発表に向け、11月30日まで投票を受け付け中だ。

今年は6部門合わせて、計100作品がエントリー。どの作品に投票したらいいか迷っている読者のため、コミックナタリーではマンガ好き芸人として活躍する吉川きっちょむに、女性部門のエントリー作品15タイトルをそれぞれレビューしてもらった。最後には吉川が独断で選ぶ、女性部門の部門賞も発表しているのでお見逃しなく。

取材・文 / 小林聖撮影 / ヨシダヤスシ

「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2025」
「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2025」

出版社53社が「2025年にヒットしそうな電子コミック」をそれぞれ推薦し、一般投票での得票数が最も多い作品を“みんなが選んだ2025年に最もヒットする電子コミック”として発表するマンガ賞。8回目となる今年は100作品がエントリーされ、昨年に引き続き「男性部門」「女性部門」「異世界部門」「ラノベ部門」「BL部門」「TL部門」の6部門が用意されている。

投票期間

2024年9月24日(火)~11月30日(土)

部門

男性部門、女性部門、異世界部門、ラノベ部門、BL部門、TL部門

エントリー作品数

100作品

投票方法

特設ページにアクセスし、好きな作品の投票ボタンをクリック。1部門1回まで、計6部門分投票できる。投票は会員登録なしでも可能だ。

投票はこちら

女性部門エントリー作品

「生憎だが、君を手放すつもりはない~冷徹御曹司の激愛が溢れたら~」
作画:孝野とりこ/原作:伊月ジュイ
スターツ出版

「生憎だが、君を手放すつもりはない~冷徹御曹司の激愛が溢れたら~」1巻

父の勧めで、財閥の御曹司・慶と結婚をすることになった社長令嬢・美夕。慶は幼い頃から憧れていた初恋の人であり、彼との結婚生活に夢を抱いていた美夕だったが、慶は美夕に一切手を出さないどころか、自分と一緒に住むことも許さなかった。世間を知らない子供扱いをされ続け6年、美夕はついに離婚を決意するが、慶は思いもよらない反応を見せてきて……。

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吉川きっちょむ

これは心乱されますねえ。18歳で結婚したのに、夫は自分を子供扱いで、妻として求められることがないまま、自立した女性になるように育てられる。「じゃあ自立して離婚しよう!」と決めたら今度は求められ始めて……その「一体なんで!?」がゆっくり描かれていくのがよかったです。

夫の慶さんは一見冷たく見えるんだけど、奥にある愛情とか優しさが見え隠れするようになる。で、話が進み始めると積極的なんですよね。主人公・美夕の実家にトラブルが起こったときのエピソードとか好きです。美夕が心労で食事もしてなくて倒れそうになったとき、口移しでスープを飲ませるっていう……! 読みながら「キャー!!」っていう気持ちになりました。

美夕が迷ってるときに強引に引っ張っていく男らしさが見えるところなんかは、心乱されるけど「イヤじゃない!」って思っちゃいます。

「甘いお菓子の後は甘い溺愛を~婚約破棄された令嬢は辺境伯子息に溺愛される~」
七生
DPNブックス

「甘いお菓子の後は甘い溺愛を~婚約破棄された令嬢は辺境伯子息に溺愛される~」1巻

主人公はお菓子作りが得意な令嬢・リシェル。仕事が忙しくなかなか会えない婚約者のため、お菓子を差し入れようと王宮へ向かった彼女は、仕事仲間だという令嬢と婚約者のキスシーンを目撃する。お菓子作りなど使用人のすることだ、と馬鹿にされた挙げ句、婚約破棄を言い渡されたリシェル。絶望する彼女に寄り添ったのは、王太子の兄に仕える青年・ルシアンだった。

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吉川きっちょむ

いわゆる溺愛系作品になるんですかね? 主人公のリシェルの作るお菓子に癒やされていくルシアンの、リシェルに対する温かい目線がいいですよね。

そして、恋愛部分だけじゃなく、世界設定がけっこう練り込まれてるところがこの作品の面白いところだなと思います。中世ヨーロッパっぽい世界なんだけど、ファンタジー要素も入ってて、魔法なんかも出てくる。それも単純に魔法があるってだけでなく、例えば貴族社会の結婚では家格だけじゃなく魔力の釣り合いも重要という設定があったり、世界観・社会の設定にもしっかりつながってる。リシェルには実は隠された魔法の才能があるんじゃないかという伏線が張られてたりもしますしね。

リシェルの才能がいつみんなに知られるのかとか、甘い部分だけじゃない、話の展開が気になる作品です。

「家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら」
漫画:鷹来タラ/原作:琴子・TCB
スクウェア・エニックス

「家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら」1巻

平民出身という理由で義理の家族から疎まれている伯爵令嬢・ジゼルは、自分が妹の代わりに変態侯爵に嫁がされそうになっていることを知る。どうしても結婚を回避したい彼女は、その日が来る前になんとか1人で逃げ出そうと決意。気は進まないものの、逃げ出すための男手を確保しようと奴隷市場を訪れた彼女は、とある呪いを持つ“俺様”な美少年・エルヴィスを手に入れて……。

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吉川きっちょむ

なんといっても主人公のジゼルがいい! 伯爵家に引き取られて暮らしているけど、もともとは平民として暮らしていて、貧困も味わい、身寄りを亡くし、と若くしていろんな経験をしている。だから、人の痛みがわかる子で、とても愛情深い。見ていて心が明るくなるキャラクターです。

まだまだ子供で、恋愛的な感情を意識していないのも、エルヴィス(エル)との関係を面白くしてると思います。僕らは読者なのでエルヴィスがたぶん大魔法使いなんだろうとか、子供の姿だけど本当はもっと年齢が上なんだろうとかいろいろ見えてるじゃないですか。だから、ジゼルがエルに対して年下の子をかわいがる感じで接するところとか、ニヤニヤして読んじゃいます。

展開もびっくりしました。読み始めたときは、家から逃げ出すために奴隷としてエルを買ってくるというところから、話がこんなふうに進んでいくとは思わなかった。ジゼルに好意を寄せる第三王子など、これからどう関わっていくのかが見えないキャラクターもいるし、先が気になります。

「いつか死ぬなら絵を売ってから」
ぱらり
秋田書店

「いつか死ぬなら絵を売ってから」1巻

ネカフェ暮らしの清掃員・一希の趣味は、絵を描くこと。日々暇を見ては小さなノートに1本のペンのみで、頭に浮かんだものを描いている。そんなある日、一希の絵を熱心に覗き込む男がいた。嵐山透という名のその男は、一希の絵を高値で買い取りたいと言ってきて……。絵を描く青年と絵を売る青年を軸に、アートとお金の関係が描かれる。

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吉川きっちょむ

僕も以前から読んでる、すごく好きな作品です。アートの世界を知らない人間からすると、ぱっと見はガラクタみたいに見えちゃう作品が何億円という値段がついていたりするのってすごく不思議じゃないですか。基本的に主人公たちの成長物語なんですけど、そのなかで作品の価格がどんなふうに高騰していくかとか、アートという市場の仕組みも教えてくれる。まずそこが面白いです。

キャラクターたちの関係性もいいんですよね。中心は児童養護施設育ちでネカフェ暮らしをしている一希と、アートの価値を理解していてパトロンもできるようなお金を持っている透という、生きてきた環境がまったく違う2人なんですが、この2人が唯一絵ではつながることができる。この関係が熱い!

第1話の「きっと君はほっといたって絵を描くんだから どうせなら金にしよう」ってセリフもトキメキました。日本だと「お金を稼ぐ=何か汚い」ってイメージになりがちなんだけど、そんなことないよって。こういう考え方ってどこの業界でも大事だし、もっと浸透してほしい!

「運命の人に出会う話」
あなしん
講談社

「運命の人に出会う話」1巻

運命の人と出会うべく人生で初めてクラブを訪れた女子大学生・優貴は、1人の無愛想な金髪の青年・伊織と出会う。最初はその無愛想さに怖さを感じていたが、交流を重ねるにつれ伊織の人としての温かさに気づいていき……。高校時代の初恋の相手も登場し、優貴の運命は錯綜する。

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吉川きっちょむ

もう第1話からトキメキの嵐ですよ! クラブで出会った伊織くんは金髪にサングラスでいかつくてチャラそうだし、第一印象最悪なんだけど、再会すると黒髪の爽やかイケメンっていう……このギャップ──! もはや読んでて気持ちいいレベルです。

で、そこにさらに昔の初恋の相手も登場して、「どっちが運命の人なんだろう!? 運命ってイタズラ!!!」ってめちゃくちゃ揺さぶられちゃう。

ドキドキするシーンもいっぱいあるんですよね。僕が好きなのは、優貴が歯科医の卵でもある伊織の家に行ったときに、歯の痛いところを見てもらうことになる場面。口の中を見られるって、別に性的なことでは全然ないけど、なんかめっちゃエロいじゃないですか! しかも、口の中を触られもするという。「こんなのアリなの!?」ってなりました。

僕も大学生の頃って「明日は何か楽しいことが起こるぞ!」みたいな気持ちで生きてましたけど、そういう何か起こりそうというワクワクする感覚を思い出させてくれる作品でもありますね。

「君を忘れる恋がしたい」
結木悠
集英社

「君を忘れる恋がしたい」1巻

女子中学生の志乃は、学年の人気者・瀬名が放課後の教室で1人ギターを弾く姿に一目惚れしてしまう。初恋は実り、志乃は瀬名と付き合うことになったものの、彼の急な引っ越しで別れることに。瀬名との恋を忘れられないまま大学生になった志乃は、進学先で瀬名と再会して……。中学の頃とは似ても似つかないほどチャラくなった瀬名を目の当たりにし、志乃が選んだ選択とは。

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吉川きっちょむ

第1話はすごくさわやかで甘酸っぱいんですよね。中学3年生で、まだ恋とか好きとかよくわかってないときに、夕焼けの中でギターを弾く瀬名くんに出会うという、これぞ運命の出会いという感じ。それが、引っ越しで別れることになって。その別れの場面も切ないんですけど、大学に入って東京で再会したらクズ男みたいになってるという……もう読んでる方も「何が起きたの!?」ってパニックですよ!

主人公・志乃の「変わってしまった彼の中に」「あたしが好きだった瀬名が残ってる」ってモノローグも刺さるんですよね。変わったけど、やっぱり同じ人でもある。読んでてめちゃくちゃ心が振り回されちゃいます。

瀬名はもともとイケメンだからモテてきたけど、志乃からは外見じゃなく内面、クリエイティブな部分を褒められた。それってやっぱりうれしいじゃないですか。だから、瀬名にとっても忘れられない恋だったんじゃないかな。「君を忘れる恋がしたい」ってタイトルは、志乃だけじゃなく瀬名にもかかってると思うんです。

「サレ妻の事情~理想の夫が実はクズで~」
漫画:よしおかるご/原作:貞ユリナ
祥伝社

「サレ妻の事情~理想の夫が実はクズで~」1巻

献身的な夫にかわいい子供、仲睦まじく完璧な家庭を持つOL・田中芽衣子。かつて婚約者に浮気され絶望していた芽衣子だが、彼女を救ったのが今の夫・健太郎だった。“彼が浮気をするなんて地球がひっくり返ってもあり得ない”。そう思っていた矢先、芽衣子は健太郎のスマホに表示された不穏なメッセージを目にしてしまう。

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吉川きっちょむ

女性部門も男性部門同様、主人公の年齢層が幅広くて面白いですね。この作品は35歳の女性が主人公。タイトルで全部語ってくれてる感じですが(笑)、読んでてどんどんクズ夫に腹が立ってきます。一見家族思いの夫なんだけど、“やらかす奴”のマインドなんですよ。「芽衣子(主人公)の安月給じゃなんの足しにもなんねぇし」とか舐めすぎ! 主人公にとっては、一度別の婚約者に裏切られて傷ついてるときに出会った相手で、ようやく信頼できる人に出会ったと思ってたのに、これですからね。すべてを恨んでしまいたくなる。マジでこのクズ男は不幸になってほしい!

で、夫の浮気相手の保育士もまた! 相当なもんですよ!! 最初はふんわりと関係を匂わせてるだけだったのが、だんだんあからさまになっていって……主人公の夫のことを名前で呼ぶようになった場面とかヤバいですね。

恨みたくなるポイントをきちんと提示してくれてるから、いよいよ復讐のターンというところは本当にテンションが上がります。

「そしてヒロインはいなくなった」
ばったん
双葉社

「そしてヒロインはいなくなった」1巻

3年前に別れた恋人のことを忘れられない妙子は、行きつけの居酒屋でくだをまく年上の女性・トラさんと出会う。隣でひたすらしゃべり続ける彼女の様子を見て、関わらないようにしようと思う妙子だが、トラさんもまたかつての夫に未練タラタラのようで……。おしゃれでエネルギッシュなトラさんと、ボーイッシュだけど夢見る乙女な妙子を描いた、年の差50歳のシスターフッドストーリーだ。

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吉川きっちょむ

妙子さんとトラさんの関係って、何と言えばいいんですかね。年齢差のある友情と言えばそうだけど、単に友情と言っていいのか、同志と言うのがいいのか、名前を付けづらい関係ですよね。トラさんはズバズバ言うタイプだし、妙子さんも一見クールなんだけど、2人とも昔の恋人のことが忘れられないでいる。そこの部分で年齢を超えて思いを共有している。傷を舐め合っている部分もあると思うけど、ただ一緒にいられる関係の美しさがありますね。

あと、ばったん先生の作品はセリフの刺さり方がすごい! 恋人と付き合ってたときに料理してたかって話で、妙子さんが全然してなかったって答えると、トラさんが「じゃあちょっと得だね」って言うんです。「自分を捨てるような男になんてさ」「してやったことが少ない方が得でしょうよ」って。それ自体面白いけど、そんなこと言いつつ「捨てるような男」に未練があるっていうのがまた切ないんですよね。会話劇の心地よさ、解像度の高さがあって、いろんな気持ちになる作品です。

「東郷家へ嫁いだ話」
清水奏良
シーモアコミックス

「東郷家へ嫁いだ話」1巻

物語の舞台は、神からの加護によって“天与”と呼ばれる能力が与えられる世界。幼くして松方家の養子として引き取られた少女・文は、生まれつき天与を持たない呪い子だった。家では下女のように扱われ、虐げられることもしばしば。そんなある日、千里眼の天与の名家・東郷家から文に縁談が来て……。婚姻から始まる異能力ラブファンタジーが展開される。

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吉川きっちょむ

復讐ものというか、自分をいじめていた元家族を見返すような話に、溺愛ものの要素も入っているかな。政略結婚の道具にされそうになっていたところに、サッと救いの手が差し伸べられて、嫁いだ先ではすごく大事にされるという。元の家族が圧をかけに来たときに東郷さんが「私の妻を侮辱するな」って言うシーンいいですよね。愛されてる実感がパッと芽生えるような感じ。

東郷さんって裏の顔は冷たいのかなって思わせるけど、ちゃんと文さんのことを大事にしてるんですよね。ただ、まだ秘密にしていること、裏で考えてることがありそう。何を考えてるんだろうって振り回される感じが楽しいです(笑)。

あと、主人公の文さんは、天与がない呪い子なんですけど、実は特別な血筋なんじゃないかっていうのもワクワクします。血筋の特別さをあとで知るってあるじゃないですか。男子も好きなあのパターンですよ!

「拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます」
紬いろと/原作:久川航璃/キャラクター原案:あいるむ
KADOKAWA

「拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます」1巻

代々騎士の家系に生まれた男勝りな子爵令嬢・バイレッタは、陸軍中佐で伯爵家嫡男のアナルドと結婚することになる。結婚に縛られたくないバイレッタだったが、アナルドは戦地へ赴いていることから常に留守だと聞くと、自由な生活を楽しめると結婚を承諾。しかし8年後、終戦にともないアナルドが帰還することになる。離婚を望むバイレッタに対し、アナルドが提示したのは1カ月を期限としたとある“賭け”だった。

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吉川きっちょむ

まず絵が好きで興味を持ったんですけど、読み始めたら主人公のバイレッタに惹きつけられました。いわゆる溺愛系の作品って、どちらかというと守ってあげたくなるようなタイプのヒロインが多い印象でした。でもバイレッタはめちゃくちゃ強い女性でしょう? 「男を弄んでる毒婦」なんて噂が立つくらい。どういう噂だよって(笑)。でも、そんな噂も全然気にしないんですよね。他人に振り回されないし、顔色をうかがったりしない。それが強かで聡明で高潔でカッコいいんです。

じゃあ、ずっと会ったこともなかった夫はどんな人なんだろうって思ってたら、こっちもすごいじゃないですか! とんでもない賭けを持ちかけてくる。エゴイスティックというか、Sっ気の強いタイプですよね。強い女性とSっ気たっぷりの夫という組み合わせが面白いです。ロジカルで実利を取るタイプのバイレッタの違う顔が見えてきて、それがまたエロティックなんですよね。

「花は二度咲き乱れる」
甘宮ちか
小学館

「花は二度咲き乱れる」1巻

空間デザインコンサルタントとして働く桜庭穂花は、5歳年上の幼なじみ・慧と「30歳になってもお互い独身だったら結婚する」という約束を交わしている。ついに迎えた慧の30歳の誕生日の日、彼に呼び出された穂花は胸に期待を抱き向かうも、慧から社長令嬢と結婚することになったと聞かされる。絶望しヤケクソになった勢いで、穂花は人生で初めて女性用風俗に足を運ぶが……。

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吉川きっちょむ

これ、もうさあ……! 30歳の誕生日に、人生の半分以上恋してきた人に「ちょっと話がある」って言われたら、「これは!」って思うじゃないですか!! 家族みたいなもんって言われてたりもしてたわけだし。それが「(別の人と)結婚する」って! 冒頭から悶絶ですよ。

穂花と慧は「30歳までお互い独身だったら」って話をしたこともあったわけですけど、この約束がまた変な呪いになっちゃいますよね。大学生とかがノリでしがちですけど、もしかしたら何かなくはないと思いながら可能性を感じさせるような態度がさあ……こういうのもう禁止した方がいい! でも、嫌いになれないんですよね。人生の半分好きだった人だもの。実際、相手の慧さんも内心はヒロインに対していろいろあった感じですし。

で、そんな心境のところに別の男が出てくるでしょ? この紫翠さんもさあ、全然本心を出さないじゃないですか。もうみんな「ちゃんと気持ちを言葉にしろ!」って思いながら読んじゃいます(笑)。

「破滅の聖女は運命の夫の溺愛から逃れたい」
漫画:まなづき/原作:顧宮ちえ
芳文社

「破滅の聖女は運命の夫の溺愛から逃れたい」1巻

聖女になれず家族から虐げられている少女・ローザ。そんな彼女を唯一大切に扱ってくれた夫・クロードは、彼女の目の前で殺されてしまった。神がいるのなら、どうか彼を救ってほしい。そんな思いで目を覚ますと6年前、まだクロードと出会う前の聖女査定の日に戻っていて……。クロードの死を回避すべく、そもそも彼と結婚しないように奔走するローザだが、むしろ2人の距離は以前より近づいていく。

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吉川きっちょむ

やり直し系、タイムリープものっていうだけでまずワクワクしちゃいます。唯一自分を大事にしてくれた夫を守り切れなかったっていう思いも共感しやすい。やっぱりやり直しで今度はうまくできるのかっていうのは気になって読んじゃいます。

そのなかでいろんな要素がある。恋愛要素もあるし、魔法とか能力ものの話でもあるし、教会派と皇帝派の勢力対立もある。いろんな要素や展開が楽しい話で、男性も入りやすいと思います。

ざまあ系の復讐の話でもあるんですよね。主人公の妹とか、キャラクターが絶妙! 狡いんだよなあ! 大事な聖女査定で魔石をすり替えたり……。でも、それが主人公の特別さの演出につながっていて爽快なんですよね。これもついつい続きを読んじゃうタイプの作品だと思います。

「夜明けを乞うけものたち」
堤翔
白泉社

「夜明けを乞うけものたち」1巻

物語の舞台は体の一部から半分以上が変異した“変異種”が現れ、100年ほど経った世界。両手の平に口を持つ会社員の絶背ぜつぜあいは、同僚の神埼に恋をしていた。ある日、彼女も変異種だと知った絶背は勢い余って告白。神埼から交際は拒まれてしまうが、ホテルに誘われセフレの関係になってしまい……。

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吉川きっちょむ

これは新感覚でした! こんな設定、世界観があるんだって。変異種同士の恋愛ものという内容ですけど、両手に口があって、それを使いこなしてるんですよね。こんなエロティックなんだ!って驚きました。

2人の関係も複雑というか、奥深いですよね。ぜぜくん(絶背)は神崎さんのことがずっと好きだったのに、告白が脅迫しているみたいになっちゃうし、ちゃんと言ったらセフレになっちゃうっていう。彼はそれじゃ不満なんだけど、でも関係は続けてたり。絵が美しいし、コメディがうまいからサクサク読めちゃうんだけど、情緒がめちゃくちゃになる。ぜぜくんの思い切りのよさもいいですね。あくまでセフレって釘を刺されたら、「じゃあ」「体からおとします」とか(笑)。

世界観の提示が小出しになってて、徐々にいろんなことがわかってくるのも面白いですね。2人の関係はもちろん、この世界のことも気になってくる作品です。

「夜の生き神様とすすかぶりの乙女」
蒔々
ぶんか社

「夜の生き神様とすすかぶりの乙女」1巻

災いをもたらす黒蝶すすを集め、村の生き神様へ届ける“すすかぶり”の少女・宵。村人からは忌み嫌われる仕事だが、彼女は村の平穏のためにと懸命に働いていた。そんなある日、黒蝶が大量発生。すすかぶりとしての仕事ぶりを責められ、村人になぶられた宵を救ったのは、いつも彼女の仕事ぶりを見ていた生き神様本人だった。

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吉川きっちょむ

一言で言ってしまえば復讐系の要素も入った和風ファンタジー版シンデレラストーリーという感じなんですけど、主人公たちの気持ちの描写がすごく丁寧で面白いです。すすかぶりという仕事をしている主人公は、周りの人からはずっと差別されていて、名前すら呼んでもらえなかった。それを生き神様である夜光が大事にしてくれて、初めてちゃんと存在を許されたような気持ちになるんですよね。本当に救われた気持ちになります。しかも、主人公の宵が救われるだけじゃなくて、宵が夜光を救っている部分もある。お互いに救い合っている関係がすごくいいです。

キュンとなるポイントもしっかりあるんですよね。夜光の屋敷で暮らすことになった初めての日、「夜光様もここで寝るんですか?」って戸惑っていたら「もうひとりにはしないといっただろ」とか……! キャー!ですよ。壁ドンとかもう定番だけどやっぱりドキドキする場面もあって、切なくてキュンとなれる作品です。

「私は選ばれない」
コミック:鈴宮ユニコ/原作:碧貴子/キャラクター原案:whimhalooo
一迅社

「私は選ばれない」

常に淑女であることを求められてきた令嬢クロエは、天真爛漫な妹に婚約者を取られ、婚約破棄されてしまう。裏切られていることを知りながらも、心から彼を愛していたクロエ。失意の中、気持ちを切り替え新たな生活を営もうとする彼女の前に、名家であるシスレーユ公爵家の子息・レオネルが突然結婚を申し込んできて……。不遇な伯爵令嬢と愛を知らない小公爵の、契約結婚から始まる恋物語が描かれる。

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吉川きっちょむ

めっちゃ腹立ちますよね。ずっと好きだった婚約相手が、結婚を待たせたあげく妹とくっついちゃうって! 主人公のクロエは努力して、感情もコントロールしてるんだけど、選ばれたのが感情豊かで天真爛漫な妹っていうのもね。ちゃんと自制している人の内なる努力とか葛藤って、人からは見えづらいんですよね。だからこそ、この展開が悔しいし、そこで出てくるレオネルが、積み重ねてきた努力とかをちゃんと見てくれていたというのがうれしい。恋愛に限らず、そういう部分を見てくれる人っていいですよね。

で、レオネルは度量もある。結婚を申し込まれたクロエが「心から愛すること」を条件として突きつけて断ろうとするんだけど、レオネルは即答で「呑みましょう」って返す。クロエは顔真っ赤ですよ! そういうふうに普段は見えないクロエのかわいさや魅力を引き出してくれる度量があるのが素敵だと思います。

吉川きっちょむが独断で選んだ、女性部門の部門賞は……
「いつか死ぬなら絵を売ってから」

バディものって好きなんですよね。お互いにないものを補い合う関係で、タッグで成り上がっていくというのがとにかくワクワクします。アートの世界にあるマネーゲームの側面も面白いし、そこを2人がどう極めていくかというのが今後も気になって目が離せません。

「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞」結果発表は2025年1月頃を予定。
果たして“みんなが選ぶ”女性部門賞はどの作品になるのか──。

男性部門・女性部門のエントリー作品をすべて読んでみて
吉川きっちょむ

エントリー作品がかつてないほど新鮮でした。マンガはアワードや賞がたくさんありますけど、ノミネートされた作品や賞を取った作品ってだいたいその時点で読んだことがあるものが多い。やっぱりすでに人気の作品が上がってきますから。でも、今回のラインナップは各出版社さんが「これから来る」と思っているオススメしたい作品ということで、読んだことがない作品も多かった。ここで読まなかったら知らずにいたかもしれない作品に出会えて本当に楽しかったです!

プロフィール

吉川きっちょむ(ヨシカワキッチョム)

1988年12月11日生まれ。吉本興業所属のピン芸人。マンガ好き芸人としてさまざまなテレビ番組やラジオ、YouTube番組に出演。吉本興業所属タレントからなるよしもと漫画研究部では部長を務めており、お笑いライブ「行け!よしもと漫画研究部!」を定期的に開催。マンガをテーマにしたポッドキャスト番組「週刊マンガ獣」の配信も行っている。