コミックシーモア主催の「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2024」は、「次に来るヒット作品はこれだ!」と出版社が推薦したタイトルの中から、一般投票で大賞を選ぶマンガ賞。その投票の一助となるべく、昨年コミックナタリーでは男性部門と女性部門の全エントリー作品を紹介していた。
結果発表は1月に行われ、橘オレコ「ホタルの嫁入り」が大賞に決定した。これを記念しコミックナタリーでは、橘オレコに受賞の思いや執筆の裏側についてインタビュー。“愛が重い”と話題の進平というキャラクターを、作者自身はどのように捉えているのかも答えてもらった。
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取材・文 / 熊瀬哲子
「ホタルの嫁入り」作品概要
時は明治時代。名家に生まれ、美貌にも恵まれるが、余命わずかと宣言されている伯爵令嬢・桐ヶ谷紗都子の夢は、家の利益になる結婚をすることだけだった。そんな中、紗都子は突如謎の悪党に命を狙われる。その場を生き延びるため、紗都子は殺し屋の後藤進平に「私と結婚してください」と提案。その場凌ぎの嘘だったはずが、進平はとんでもなく愛が重い男で……。TVドラマ化もされた「プロミス・シンデレラ」の橘オレコによる最新作だ。
作者自身が楽しんで描くことが、読者の皆さんに一番伝わる
──「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2024」にて、「ホタルの嫁入り」が大賞を受賞されましたこと、おめでとうございます。率直なご感想をお伺いできますか。
とても驚きました。まさか自分の作品が大賞を受賞できるなんて、担当の編集者さんと喜び合いました。
──今回の「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2024」は、出版社59社が“2024年にヒットしそうな電子コミック”をそれぞれ推薦し、一般投票での得票数が最も多い作品を“みんなが選んだ2024年に最もヒットする電子コミック”として発表するものです。「ホタルの嫁入り」のどんな部分が読者の支持を受けたと思いますか?
うーん……。正直どの部分を皆さんが評価してくださっているのかは、自分ではよく分析はできておらず……! ただ、作者自身が楽しんで描くことが、読者の皆さんに一番伝わると思っています。全力で描いたことで、読者さんにたくさんの反応をいただいて。「進平と紗都子の命がけのやり取りにキュンとする」というお声をよくいただきます。
──その感想、とてもわかります。紙の本でもたくさんの読者が手に取っている「ホタルの嫁入り」ですが、コミックシーモア内でも多くの読者に愛されている作品なんだなと感じました。
単行本発売前に電子書籍の単話でたくさんの方に読んでいただき、その流れで今があると思っていますので、シーモアさんには本当に感謝しております。シーモアさんは作品数が非常に豊富で、その中でも女性向け作品が多いイメージがあるのですが、数ある作品の中から自身の作品が評価いただけたということは、今後の自信やモチベーションにつながりました。
──リアルな書店のみならず、こういった電子書店で作品が大きく取り上げられることについてはどのように感じていらっしゃいますか?
ここまで大きく取り上げられることは初めてなので、喜びと同時に戸惑いもあります。電子書籍は紙の本とは違ってスピーディーにリアルな感想やコメントをいただけるので、拝見しては喜んだり参考にしたりしています。直接言葉の温度感が伝わってくる電子にも日頃すごく励まされています。
──今回の受賞をきっかけに「ホタルの嫁入り」を読み始める読者もいるのではないかと思います。作品を気になっている方に「ホタルの嫁入り」を勧めるとしたら、どんな部分に注目して読んでほしいですか。
今回、自身の作品では初めてミステリアスで危険な匂いのする男の子を描いたので、ちょっと刺激が欲しい方……とかかな?(笑) 私が描く女の子は、これまでの作品でもだいたい気が強いので、そういうのが好みな方……とか。これは私の癖ですね。
──前作の「プロミス・シンデレラ」のヒロイン・早梅も、芯が通った意志の強いキャラクターでしたね。前作と同様、「ホタルの嫁入り」もキャラクターが魅力的なことが、ここまでの人気につながっていると思います。
今作の企画中は、このキャラたちを皆さんに受け入れてもらえるのか不安でしたが、思ったよりたくさんの方に読んでいただけているようでうれしく思っています。ストーリー自体は難しく作り込んでいるつもりはありませんので、息抜き程度に読んでいただければ幸いです。
──ちなみに、コミックナタリーで展開した「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2024」のエントリー作品の特集記事において、伊織もえさんは「ホタルの嫁入り」を女性部門の部門賞として選ばれていました(参照:「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2024」伊織もえが女性部門のエントリー作品、全20タイトルを本気レビュー)。このインタビューの中で、伊織さんは「今回は男性部門と女性部門のエントリー作品を読みましたが、実際には性別関係なく読める作品がほとんど。『ホタルの嫁入り』も、まさに男女ともに楽しく読めるであろう作品」と語っていました。
まずは伊織もえさん、読んでいただきありがとうございます。私の場合は、もともと少年マンガも少女マンガもどちらも好きで読んでいたので、互いの好きな部分が(自身の作品で)ミックスしたのかと。少年誌に出てくるキャラ同士の恋愛を妄想するのが昔から好きだったんです(笑)。
──確かに「ホタルの嫁入り」も設定を見ると少年マンガのようでもありますが、キャラクター同士の恋愛描写に重点を置いていることから少女マンガとしても楽しめます。
あと、子供の頃から絵を描くことが好きで、今回はどうしてもバトルシーンを入れてみたくて。そこから少しずつ企画も広がっていきました。そういう点でも、確かに性別は関係なく受け入れていただけたのかもしれませんね。
「ピクミンに似ている」というコメントを見つけて笑いました
──「ホタルの嫁入り」の魅力の1つに“愛が重い”という、進平の個性強めなキャラクター性があると思います。進平というキャラクターはどのように生まれたのですか?
最初は普通の真面目な男の子を描こうと思っていたんです。作中に登場する康太郎のような。でも、なんだか少し物足りなくて。ひと癖もふた癖もあるキャラを描いてみたかったんです。自分自身、どんなマンガを読んでいても、最終的に好きになるのが癖のあるキャラなもので(笑)。
──進平はひと癖もふた癖もありますね(笑)。進平の愛が重いところ……いわゆる“ヤンデレ”と呼ばれるような性格に惹かれている読者も多いのではないかと思います。進平のキャラクター性には、橘さんにとっての“萌え”のような、何か好きなポイントが反映されているのでしょうか。
どんなキャラにも“萌え”を見出だせるタイプなので、癖があればヤンデレじゃなくてもよかったんです。でも、考えてみたら特に、危ない雰囲気のミステリアスキャラって昔から好きだったかも……。
──そうだったんですね。昨年コミックナタリーの特集記事では、俳優の橋本祥平さんにご協力いただき、進平の姿を再現してもらいました(参照:「ホタルの嫁入り」2.5次元俳優・橋本祥平、愛が重い殺し屋を完全再現)。橘さんからは「とにかく死んだ目をしてくだされば……」というアドバイスを担当編集者さんに託されたようですが。
橋本祥平さんが“少年誌を通ってきた自分でも読みやすかった”と言ってくださって。少年、少女マンガを混ぜたような作品にしたいと思っていたので、とてもうれしかったです。撮影時はこちらの無理な注文を聞いてくださって、しっかり死んだ目をしてくださって……もう完全に進平でした。眼福でした。また機会があればぜひ見てみたい……!
──前述の伊織さんのインタビューでは、伊織さんが進平の言動について「進平が『死のうかな』とか『殺すよ』とか簡単に言うのも、子供がやるような試し行動だと思っている。これまで人と深い付き合いをしてこなかったから、不安で愛情を確かめたいのではないか」と語っていまして、読者としてもその解釈に「なるほど」と思いました。以前の「プロミス・シンデレラ」のインタビューの際には、橘さんご自身が「ちょっと粋がってるような子が好き」「私自身、子供を産んでから母性本能が一段と芽生えたのもあり、(壱成を)『まったく、しょうがない奴だな』みたいな気持ちで描いてます(笑)」とお話されていましたが、今作の進平に対してもそういう思いは抱いていらっしゃるのでしょうか?
抱いてますね! 登場人物はみんな自分の子供のような感覚で見ていますが、進平に対してはより一層そういう気持ちが強いです。進平は壱成よりも、もっと不安定で、人の温かさやぬくもりを知らずに育ってきたので、自分でも気づかないうちにいろいろな方法で確認していそうだなあと思っています。
──そんなところに愛おしさを感じますね。進平について、読者からはどんな反応があるのでしょうか?
以前、「ピクミンに似ている」というコメントを見つけて笑いました(笑)。
──ピクミン! 確かに、引っこ抜かれて、紗都子だけについていく……みたいな感じがありますね(笑)。
進平は気持ち悪さも魅力の1つだと考えていて、しっかり描くようにしているのですが、そこも受け入れていただいている印象です。いや、むしろ喜んでくれている読者の方も多くいて、一緒に盛り上がってくれてこちらも興奮しています。
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