コミックシーモア20周年!古参の電子書籍派・吉田尚記と、歴代の人気作品を一気にプレイバック! (2/3)

2010年代初頭はマンガ市場自体のターニングポイント

──2000年代が黎明期だとすれば、2010年代はいよいよ飛躍の時代です。2010年あたりから売れ筋作品もだんだん変わってきます。

2010年には「彼岸島」(松本光司)、2011年になると、「名探偵コナン」(青山剛昌)とか「闇金ウシジマくん」(真鍋昌平)が入ってくるんですね。あ、「パラキス(Paradise Kiss)」(矢沢あい)もある! 「矢沢あいが(電子で)読めるんだ!」って思った覚えあります、そういえば。

──作品が多くなってきたのもあるんでしょうね。売れ行き上位の傾向も変わってきます。

2012年には「テルマエ・ロマエ」(ヤマザキマリ)が入ってますね。これは思い入れが強い作品です。2010年の「マンガ大賞」で大賞に選ばれた作品なんですが、当時読んだ選考員がみんな「なんだこれ!?」となって、あまりの衝撃に票を入れた。単行本1巻が出たばかりだったんですが、「マンガ大賞」から火がついたという実感がある作品です。

「テルマエ・ロマエ」

©ヤマザキマリ/KADOKAWA

©ヤマザキマリ/KADOKAWA

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──少しタイムラグはありますが、いわゆるマンガ界の話題作が入ってきた感じですね。それと、2012年は「ONE PIECE カラー版」(尾田栄一郎)も入ってます。

カラー版! この頃って電子に紙と違う付加価値をつけなきゃって意識がある出版社さんが多かったのかもしれないですね。

「ONE PIECE カラー版」

©尾田栄一郎/集英社

©尾田栄一郎/集英社

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──確かにそういう印象はあります。電子という形のないものを売るなら、電子ならではのメリットがなければというような。

当時、電子書籍は紙の売り上げを食ってしまうんじゃないかって話もよく出ていましたよね。今ではそんなことはなくて、むしろ電子書籍に引っ張られて市場全体が大きくなるというのが常識になりましたが、この当時はみんな不安だった。だから、出版社もただ闇雲に電子書籍を出すんじゃなく、いろいろ考えていたんだなと思います。

──そんな中で、いわゆるメジャー作品がどんどん増えてきます。2013年には「進撃の巨人」(諫山創)も人気上位作品に入ってきました。

アニメ化された年ですね。

──4月にアニメが始まってもともと売れていた単行本がさらに売れ、ゴールデンウィーク頃は連日重版されているのに単行本が品薄という状態でした。

やっぱりそこで品切れのない電子版を買った人は多かったでしょうね。

──この頃が電子書籍にとって大きなターニングポイントの時期だったんでしょうね。

と思います。同時にこの頃って、マンガ業界はすごく危機感を持っていた。出版社からも書店からもマンガと雑誌が売れないという話をよく聞いた。このままではマンガというものがなくなってしまうんじゃないか、と。

──作品単位ではもちろんヒット作も出ていますが、全体としては不安感がありましたよね。好転する材料が見えてきていなかった。

大きな原因として、マンガとの出会いの場がなくなってしまっていたことがあると思います。

──作品との最初の出会いの場である雑誌がどんどん売れなくなっていましたよね。

さらに、書店では単行本がシュリンクされるようになった。中身がわからないと、やっぱりみんな買うのに勇気がいるじゃないですか。

──今では当たり前になっているWeb上での試し読みや、無料で読ませる仕組み、SNS投稿も当時はまだまだ少なかったですよね。当たり前ですが、出版社によっては無料にすることへの抵抗もあったそうです。コミックシーモアでは「最初の数巻をタダで読んでもらうことで、続きの巻への購入につなげられる」と出版社を説得し、無料キャンペーンなどもいち早く行っていたと聞きました。今はコミックシーモアのように無料でもマンガを読める場所が増えましたね。

結果、電子書籍のおかげでマンガ市場は歴史上最大の売り上げを記録するようになっています。そう考えると、2010年代初頭というのは電子書籍だけでなく、マンガという市場、文化そのものの曲がり角だったと思います。

話題作、ドラマ化作品とともに若い世代も増えた?2010年代後半

──2010年代半ばになると、すっかりスマホが普及。スマホの普及率が5割を超えたのが2015年と言われています。

人気上位のラインナップもだんだん書店で見ている感覚と近くなっていますね。2015年の「キングダム」(原泰久)とか、「監獄学園」(平本アキラ)とか。「監獄学園」は2015年にアニメ化されてますよね。

──「キングダム」に関しては、2015年に「アメトーーク!」のキングダム芸人の回が放送され、ここでさらにブレイクしました。

ありましたね。それにしても、面白いのはコミックシーモアはやっぱり女性向け作品が強いところですね。ドラマ化タイミングで上位に入っている「逃げるは恥だが役に立つ」(海野つなみ)や「東京タラレバ娘」(東村アキコ)、「凪のお暇」(コナリミサト)などもそうですが、2012年から2017年までずっと上位にいる「L♥DK」(渡辺あゆ)をはじめ、「アオハライド」(咲坂伊緒)、「コーヒー&バニラ」(朱神宝)、「椿町ロンリープラネット」(やまもり三香)、「春待つ僕ら」(あなしん)など、若い女性向けのヒット作がたくさん入ってる。

──2010年代通して見ても人気上位は男性向け作品と女性向け作品が拮抗している、もしくは女性向けのほうが多いくらいですね。

2000年代のように独自の生態系という感じではなくなっていますが、これだけ女性向けが強いのはコミックシーモアならではですよね。電子で女性向けマンガの市場を開拓してきたんだと思います。

──2010年代後半になると年齢的にも若い世代が増えてきたのかなと感じますね。

それで言うと2018年に入っている「転生したらスライムだった件」(原作:伏瀬、マンガ:川上泰樹、キャラクター原案:みっつばー)。これを見て思ったんですが、「転スラ」くらいまで、いわゆるオタクに受けた作品ってあまり入ってないですね。

「転生したらスライムだった件」

「転生したらスライムだった件」

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──ああ、確かに。異世界転生もののブームというのももちろんありますが、ライトノベル系作品がこの頃から人気上位に増えてきますね。

自分の肌感覚的にも、この頃ってまだオタクと呼ばれるタイプは紙の単行本を中心に買っていた人が多かったんじゃないですかね? 旧世代のオタクは古いソリューションに適合してきた人たちですから、マンガは紙で読むものだし、家には大きな本棚があるのが当然という環境を自分でちゃんと作ってきている。だから、あえて電子に移行する必要がなかった人も多いと思います。

──書庫問題はあるにせよ、紙文化でやってきていたわけですからね。紙で揃えてる作品を途中から電子にするのも抵抗ありますし。

オタク文化ってヤンキー文化っぽいところあるじゃないですか。どっちがオタクとして気合い入っているか競うみたいな。「マンガは紙だ! 電子で買うなんて気合いが入ってない!」みたいな意識もあった気がします(笑)。そういう中で、スマホでマンガを読んだり、電子に親しんできた若いオタクがこのあたりで出てきて買うようになったのかな、と。一方で、さっき触れたようにいわゆる一般女子向け作品も多い。こちらはマンガを読む文化がなかったり、マンガから離れていたりした女性が入ってきている印象です。

──今回の人気上位作品を見ると、いわゆるマンガマニアではない、ライト層をコミックシーモアが開拓してきた印象はありますね。

まさにそうだと思います。

2020年代は単話販売も定着

──2020年代はリアルと電子の差をそれほど感じませんね。大きなところではヒット作がしっかり売れている。

もう“世論”ですね(笑)。

──ただ、新しい動きもあります。例えば2020年には「わたしの幸せな結婚【分冊版】」(原作:顎木あくみ、マンガ:高坂りと、キャラクター原案:月岡月穂)が入ってきています。

分冊版、単話販売は増えましたよね。ここには入ってませんが、僕も実は「連ちゃんパパ」(ありま猛)は分冊版で読みました。「とりあえず何話かだけ読んでみよう」くらいの気持ちで買ったんですが、止まらなくなって。結局全部買ってしまった。

「連ちゃんパパ」

「連ちゃんパパ」

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──あるあるですね(笑)。

でも、マンガってもともとは単話みたいな形が多かったじゃないですか。雑誌で読むものだったし、1話完結のスタイルの作品も多かった。単行本で読むのが当たり前になったのって1980年代くらいからじゃないですか?

──古くは雑誌か貸本で読むもの、1970年代くらいだとまだ連載作品が単行本になるのが当たり前ではなかったと言いますよね。

1980年代くらいは単行本を揃えるのも大変でした。雑誌で読んで興味を持って書店に行っても、単行本が全部揃ってることってなかなかなかったでしょ?

──そうそう、そんな感じでした! だいたい歯抜けなんですよね。途中だけあるとか、一部だけないとか……。

取り寄せしようと思うと1~2カ月かかったし。

──そういうこともあって、平気で歯抜けで読んでましたよね。途中から読んでるとか、3巻と7巻だけあるとかそういう感じで。1話完結ものだけでなく、続きものでもそんなでした。

確かに。そういう意味では、単話販売って新しいようで、昔ながらのマンガの形にも思えます。

2024年6月21日更新