コミックナタリー PowerPush - 稚野鳥子「クローバーtrèfle(トレフル)」

読者はベタなハッピーエンドを望んでる! 女子の共感を得る王道少女マンガの描き方

沙耶は沓生と再会して芸能界入りする予定だった

──さっきの話で言うと、沙耶はコンサバで主流派のOLですよね。それが次第に稚野さんサイドに?

最初、沙耶はクールなキャラにしようと思ってたんです。でも大体どの連載も4、5回描くとほぼ自分になってきてしまう(笑)。読み切りだったら最初のキャラ設定のまま終われると思うんですけど、連載だと結局長く描いているうちに描きやすいキャラ=自分みたいになってるという……。

売れっ子俳優の沓生。

──そういえば連載当初は、沙耶の相手は柘植さんではなく沓生(ハルキ)にする構想だったと、別のインタビューで拝見しました。

そうなんです。予告カットには沙耶と沓生を描いてたんですよ(笑)。いつも予告カットとお話がズレていっちゃう。当初は柘植さんは踏み台というか、沙耶が大人になるためのステップのような感じにしようかと……。ああそうだ、 柘植さんとうまくいかなくなった頃に沓生と再会して、沓生は俳優だから撮影現場に付いていったらちょっとエキストラやってみなよって流れになって、やってみたら意外と演技の才能があって芸能界入りする……とか、そんな話を考えてたんですよ!

──そこまで考えられてたんですか(笑)。

沙耶は身長も割と高めだし、「OLなんかやってられない!」みたいな感じになるという。その前段階として柘植さんと付き合ったので、柘植さんは普通の人代表、みたいなキャラデザで適当に描いてて(笑)。それにメガネのキャラクターを主人公にしてはいけない、という暗黙のルールが集英社の少女作品にはあったし。

柘植さんのようなクールキャラは、当時まだ主流でなかった。

──そんなルールが!

昔は、ですけどね。たぶんレンズを描くと表情が伝わりにくい、というのが理由だと思うんですけど。ところが意外にも第1話から柘植さんの読者人気がすごくて。じゃあせっかくだから柘植さんを沙耶の相手役にしよう、と。

──読者のリアクションでお話を変えてしまうものなんですね。

うーん、あんまりお話を決め込んでも楽しくならないし。自分が思っていたよりこのキャラが好かれてる、とかそういうのを聞くと、やっぱりその子をたくさん出してあげたいなって思うんですよね。あと描いてみてたら意外とこのキャラが活躍しちゃった、っていうのもいっぱいあります。

沙耶は自分を持ってない子なんです

──ライブ感覚というか、かなりナマモノとしてマンガを描かれてるんですね。

しかも掲載誌が途中でぶ~けからCookie(ともに集英社)に移ったので、読者層が20代後半から平均13歳くらいまで下がっちゃって。そうすると13歳くらいの女の子に、柘植さんみたいな30歳を超えた男性の魅力は伝わりづらいかな、と思って、それで沓生をもう1度登場させました。OLの生活に芸能人が出てくるってリアリティがないけど、あえて……。

──女の子にとっては夢が見れますもんね。エリートからも俳優からも言い寄られる、ほんとに女子の夢みたいな境遇の沙耶ですけど、稚野さんから見るとどんな女の子なんでしょうか。

沙耶は自分を持ってない子なんです。「私の好きなことはこれだ」とか「私の生きる道はなんなんだろう」「私にできる仕事ってないのかな」とか、そういうことは考えない。そういう自分がこうしたいっていうタイプは、柘植さんは好きじゃないと思うんですよね。だから沙耶には自分がない。

振り回され続ける沙耶だが、一途な面が読者の共感を呼び人気を獲得。

──柘植さん人気が高くて彼を相手役にしようとすると、逆に沙耶を柘植さんに合う女性にしないといけなかったんですね。

そうなんです。でも自分がないだけで終わってるわけじゃなくて、沙耶も外からのいろんなものに反応して考えて、成長してはいくんです。ただ最初から「私はこれがしたい!」って持ってるタイプではないんですよね。

──「クローバー」が多くの女子の共感を得られた理由は、そのあたりにありそうですね。やっぱり世間のマジョリティは、人生にはっきりした目的意識とかそこまでないでしょうし、ふわふわしながら、でも日々恋したり問題を乗り越えたりして生きてると思うんです。

うん。でも、物語の主人公としてはすごく難しいタイプなんですよ。なにかを目指して突き進んでくれたりするほうが、ストーリーとしては組み立てやすい(笑)。

稚野鳥子「クローバーtrèfle(トレフル)」1巻/ 2013年1月25日発売 / 440円 / 集英社
作品解説

沙耶と柘植さんの結婚から3年後。オフィスでは、沙耶の同期で「最後の独身」と呼ばれる鈴木妃女子が黙々と働いていた。同じ会社で働く妹・花音は結婚が決まり、柚葉は彼氏が切れないモテ女子だが、妃女子はもう10年彼氏がいない。30歳の誕生日を機に人生を変えようと決意した妃女子は、思い切った行動に――!? 大ヒットコミックス「クローバー」の新章スタート!

稚野鳥子(ちやとりこ)

8月25日、東京都生まれ。1988年、ぶ~け(集英社)に掲載された「半透明の扉」でデビュー。以後、ぶ~け、コーラス(集英社)、Kiss(講談社)などの女性マンガ誌で活躍を続け、25年間でヒット作を多数発表。1997年から連載を開始した「クローバー」はシリーズ累計860万部を突破。ほか代表作に「天国の花」「天使に聞いて」「東京アリス」「家族スイッチ」など。