1987年にTVアニメが放送スタートした「シティーハンター」は、TVシリーズ4作、TVスペシャル3作、劇場アニメ3作が制作された北条司の代表作。そして2019年、20年ぶりの新作「劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>」が公開される。映画の公開を記念し、コミックナタリーと映画ナタリーでは特集を展開する。
映画では冴羽獠役の神谷明、槇村香役の伊倉一恵、冴子役の一龍斎春水、海坊主役の玄田哲章、美樹役の小山茉美といったオリジナルキャストが再集結することも大きな話題のひとつ。コミックナタリーでは神谷と原作者の北条にインタビューし、約20年ぶりの冴羽獠との再会や、映画の見どころなどについて語ってもらった。
取材・文 / 小林聖 撮影 / タイコウクニヨシ
“新宿の種馬”の異名を持つケタ外れの女好き、しかし凄腕のスイーパーである“シティーハンター”こと冴羽獠が、現代の新宿を舞台に、本作のために書き下ろされたオリジナルストーリーで帰ってくる──!
獠、香、海坊主といったレギュラー陣の声優は20年前と同じキャストが集結するほか、TVシリーズと同じく総監督はこだま兼嗣、制作はサンライズが担当する。依頼人の美人モデル・進藤亜衣役には飯豊まりえ、香の幼なじみでIT企業経営者の御国真司役には山寺宏一、個性的なファッションデザイナーのコニータ役には徳井義実(チュートリアル)がゲスト参加。さらに「キャッツ♥アイ」からは瞳、泪、愛の怪盗3姉妹が登場することも大きな話題を呼んでいる。
新作劇場版への第一声は「正気ですか?」
──今回、実に20年ぶりの劇場映画になりますが、劇場版新作というお話を聞いたときはどんな心境でしたか?
北条司 「……正気ですか?」と。
一同 (笑)。
北条 もともとTVアニメ30周年を迎える2017年のタイミングで「絶対アニメで何かやりましょう」って、僕らでプロデューサー(TVシリーズも担当した、読売テレビの諏訪道彦氏)にせっついていたんです。ただ、そのときは僕としてはTVアニメを想定していたんです。スペシャル枠みたいな形の。
──「シティーハンター ザ・シークレット・サービス」みたいな2時間枠のTVスペシャルですか。
北条 そうそう。そうしたら劇場版をやるって聞いて、「ええっ、マジですか!?」って。映画はリスクが高いんじゃないかと思ったんですけど、プロデューサーに聞くと、そっちのほうがリスクが低いっていうんです。「本当かな?」って思いながら(笑)。
諏訪道彦プロデューサー 低いとは言いませんが、まあいけるんじゃないかと。本当はTVシリーズでやりたかったんですが、まずは劇場1本で勝負してみようと。
北条 これが成功すればテレビも夢じゃないと。
諏訪 もちろん夢ではないと思う。夢は大きく。
──TVアニメということにこだわりがあるんですか?
北条 僕がテレビで観たいというより、ファンサービスですよね。これだけ長く応援していただいたので、皆さんに観ていただくのが一番かなと思いまして。ファンに対する感謝としてお届けできたら、と。
──神谷さんは、劇場版のお話を聞いたときの感想はいかがでしたか?
神谷明 やっぱり「嘘っ?」と思いました。「信じられない」という気持ちですね。それから「どうしよう?」という不安が襲ってきました。何しろ最後にTVスペシャルで演じてから20年経っていますから。実は声優にも経年劣化というのがありまして、「果たして当時のままに冴羽獠を演じられるのだろうか?」という心配があったのです。ですから、OKするまでに1週間ほど時間をいただきました。でも、心を決めてからは「アフレコに向けてベストコンディションを1年かけて作ろう」と。
──例えばどんな準備を?
神谷 例えば、口がよく回るようにする発声練習というのがあるんですね。基本的には口を大きく開けて「イエアオウ、イエアオウ」と(発声する)。あと、歳を取るとしゃべれなくなる“行”というのがあるんです。ラ行とかダ行とか。そういうところを重点的に練習しました。あとは字幕版の外国映画を観て声を当ててみたりとか。普段そんなことはしないんですが、今回のアフレコに向けてそういうこともやりました。
北条 へえー。
神谷 そうなんです。普通(アテレコのような練習は)しないですから。
北条 すごいなあ。
どんな演技・声も受け止める獠というキャラクター
──「シティーハンター」は原作の連載開始から今年で34年。本当に長い間愛されている作品ですが、今回の映画で初めて作品に触れる人もいると思います。そういう人に改めて説明するならどういう作品でしょう?
北条 一言でいえば「エンタテインメント」です。今では珍しい、ファンタジー系ではないタイプの。今のアニメ作品って現代劇でもファンタジー要素が入っていたりするものが多いですけど、これは「昔ながらの」といったらおかしいですが、ファンタジーではない活劇アニメーションのエンタテインメントという感じですかね。
──長年愛されているのは冴羽獠というキャラクターの存在もやはり大きいと思います。よく聞かれると思いますが、おふたりは獠がご自身と似ていると感じる点はありますか?
北条 性別が同じということと、スケベであるということ以外には、僕には共通点が見いだせないんですが(笑)。
神谷 (笑)。
──獠の元気な部分ですね(笑)。
北条 歳を取って元気な部分がなくなったので、今はまるっきり似てないかもしれないですよ(笑)。
神谷 僕もやっぱりアホなところとスケベなところは無理なく演じることができました。優しさに関してもそれほど無理なく。カッコいい部分とかは「こう言われたらしびれるな」という言い方を想像しながら役を作っていきましたね。なにしろ演じることでのストレスのあまりない役でした。でも、自分の思い描いたキャラクターに近づけるために、それはもう一生懸命やりました。
──神谷さんは獠について、特に思い入れのあるキャラクターだとよくお話ししていますよね。
神谷 もう本当に、獠に出会えたことは人生の中でもベスト3の中に入ります。それぐらい僕にとっては大きな出来事であるし、生きていてよかったと思えることですね。「これは僕の役だ」「僕しかできない」って思ってオーディションに臨み、ドキドキしながら結果を待っていたというのは、後にも先にも冴羽獠という役だけです。
──神谷さんの演じた役だと、たとえばキン肉マンも獠と同じようにシリアスなところとギャグっぽいところがあるキャラクターだと思うんですが、それともまた違うんでしょうか?
神谷 声で言うとキン肉マンのギャグの声は割と作ったダミ声で演じています。獠と似ている部分があるのはキン肉マンだけじゃなくて、優しくてカッコいい、強い部分は(「北斗の拳」の)ケンシロウっぽかったりもしますね。ただ、冴羽獠というのは本当に僕の持ってる声をすべて注ぎ込んでも全部受け入れてくれる。あんなにキャパシティの広いキャラクターはほかにいないです。だから、演じていても自分では「この声はおかしいだろ」「この芝居はおかしいだろ」というようなことを感じることがなかった。たぶん観ている方も違和感なく受け入れてくれていたんじゃないでしょうか。それはもうキャラクターの力ですね。北条さんには「よくぞこのキャラクターを生み出してくれた!」と感謝するしかないですね。
北条 こちらこそありがとうございます。
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誰ひとり欠けずに集まった新作
- 映画「劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>」
- 2019年2月8日(金)全国ロードショー
- キャスト
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冴羽獠:神谷明
槇村香:伊倉一恵
進藤亜衣:飯豊まりえ
御国真司:山寺宏一
野上冴子:一龍斎春水
海坊主:玄田哲章
美樹:小山茉美
ヴィンス・イングラード:大塚芳忠
コニータ:徳井義実(チュートリアル)
来生瞳・来生泪:戸田恵子
来生愛:坂本千夏
- スタッフ
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原作:北条司
総監督:こだま兼嗣
脚本:加藤陽一
チーフ演出:佐藤照雄、京極尚彦
キャラクターデザイン:高橋久美子・菱沼義仁
総作画監督:菱沼義仁
美術監督:加藤浩(ととにゃん)
色彩設計:久保木裕一
撮影監督:長田雄一郎
編集:今井大介(JAYFILM)
音楽:岩崎琢
音響監督:長崎行男
音響制作:AUDIO PLANNING U
アニメーション制作:サンライズ
配給:アニプレックス
- アニメ「劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>」公式サイト
- アニメ「劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>」公式 (@cityhuntermovie) | Twitter
- 「劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>」作品情報
©北条司/NSP・「2019 劇場版シティーハンター」製作委員会
- 北条司(ホウジョウツカサ)
- 1959年、福岡県生まれ。1980年、週刊少年ジャンプ(集英社)にて読み切り「おれは男だ!」でデビュー。代表作に3人組の女怪盗を描いた「キャッツ♥アイ」、新宿で生きるスイーパー・冴羽獠を主役にした「シティーハンター」など。2001年よりコミックバンチ(新潮社)にて「シティーハンター」の世界をベースにしたパラレルワールド作品「エンジェル・ハート」をスタートさせ、同作は2010年に月刊コミックゼノン(徳間書店)に移籍したのを機に「エンジェル・ハート 2ndシーズン」へと改題、2017年に同誌にて完結した。
- 神谷明(カミヤアキラ)
- 1946年9月18日生まれ、神奈川県出身。1970年にTVアニメ「魔法のマコちゃん」の千吉役でアニメ声優デビュー。1980年代には「キン肉マン」のキン肉マン、「北斗の拳」のケンシロウ、「シティーハンター」の冴羽獠など、週刊少年ジャンプ(集英社)作品に数多く出演。そのほかの代表作に「ゲッターロボ」の流竜馬、「宇宙戦艦ヤマト」の加藤三郎、「うる星やつら」の面堂終太郎や「めぞん一刻」の三鷹瞬など。ナレーションや洋画の吹き替えなども数多く担当する。
2019年2月7日更新