「シネマこんぷれっくす!」特集 ビリー×とよ田みのる対談|──映画を観て「つまらなかった」って話をちゃんと人とする、それも本当は面白いことなんだよ

「遊星からの物体X」がわかるのは俺だけ? めちゃくちゃたくさんいるっつの(笑)

──今日は「シネマこんぷれっくす!」のように、おふたりにいろいろなことを議論をしてもらいました。映画って1人でも楽しめますが、こうしてみんなで語る楽しさってなんなんでしょう?

とよ田 やっぱり相手の人となりがわかるからじゃないですか? 好きとか嫌いってその人がすごく出るじゃないですか。

「シネマこんぷれっくす!」1巻

ビリー 別の切り口が聞けるのが楽しいんですかね。やっぱり1人だと自分が感じた面しか見えないのが、ほかの人の目線が入ることで違う見方ができるようになる。より深く作品を理解した気になるというか。僕は東京に出てくるまで、人と感想を語り合うってことがなかったので、オタクは1人で抱えて1人で消化するものだと思っていたんですけど、こっちに来たら意外と皆さん語られるので、文化の違いにビックリしました。

とよ田 僕も昔はあんまり語ったりしてなかった。「これがわかるのは自分だけ」って感覚が、高校生の頃なんかはありました。「遊星からの物体X」とか、誰が観てるんだろうと思って観てましたよ(笑)。「僕は好きだけど、この映画の魅力がわかるやつは僕くらいだろうな」って。めちゃくちゃたくさんいるっつの(笑)。

──自分の好きなものを広めたい、みんなにもわかってもらいたいみたいな気持ちはあります?

ビリー 布教みたいなことはあんまりしないですね。DVDを買うほど映画好きな人ってそんなに多くはないので。だから、感想は基本的にTwitterに書くだけ。しかも面白かったことだけ書いてます。

──つまらなかったって感想は書きづらいですよね。

とよ田 そうですね。僕もプラスの意見しか書かないですね。でも、つまらなかったって話をするのも、本当は面白いんですよ。

ビリー 私も友達とはつまらなかったって話もします。

──自分の好きな作品を嫌いな人や、自分が嫌いな作品を好きな人と語り合うこともありますか?

ビリー 仲がいい友達同士とかなら普通にありますね。お互いの価値観を尊重し合えてる相手なら、「俺はそれはつまんなかったよ」って言える。

「シネマこんぷれっくす!」より。クソ映画を批判する際に、同じくB級として名高い「デビルマン」を引き合いに出してしまったガクト。観ていないのに他人の評価に乗っかって映画を貶してしまい、気まずい思いをする。

とよ田 踏み込み方が難しいよね。でも、本当は好き嫌いなんて優劣じゃなくて、「その人にとってはそうである」っていうだけ。自分の好きな映画をけなされても、その人はそうなんだってだけなんですよ。ただ、「シネマこんぷれっくす!」でも描かれてるけど、観ないで伝聞だけで否定してくる人っているじゃないですか。あれは許せない。どんな感想でもいいけど、観てからじゃないとダメでしょって思う。

ビリー 本当そうなんですよね。「つまんないから一回観ろ!」って思う(笑)。

とよ田 2時間の映画があれば、そこには伝聞で聞いた以上の情報が必ずあるはずなんです。想像以内で収まってることなんてそうそうないでしょ? 何かしら発見があるはずなんです。ポジティブなことでもネガティブなことでも。それを伝聞や想像だけで語るのは一番嫌いですね。それもう映画の感想ですらないし。

ビリー 「何がダメで、何がつまらないのか」というのもエンタメになり得ると思うんです。それを語るためにも観ておかないといけない。

とよ田 観ないで語るのは作品に対する最大の侮辱だと思います。

──「シネマこんぷれっくす!」が面白いのは、伝聞や誰かの批評でなく、皆が自分自身にとって面白かった、面白くなかったというのをぶつけ合ってるからなのかもしれないですね。

とよ田 そうそう。それが気持ちいいっていうのはあるかもしれない。

宮さんに擁護された時点で、その作品はダメ認定

──とよ田先生は「シネマこんぷれっくす!」で今後こんなことを描いてほしいっていうテーマはありますか?

部活棟で幽霊騒ぎが起き「シックスセンス部に行ってくる!」と駆け出す陶芸部の男子。実際の学校には存在しないようなマイナークラブが乱立しているのも、学園コメディの醍醐味だ。

とよ田 作中で「シックスセンス部」って出てくるじゃないですか。あれがあるなら、シャマラン(映画監督のM・ナイト・シャマラン)についても語ってほしいですね。

ビリー ああ!

とよ田 シャマランって人によって評価がまったく違うでしょ? 駄作ってこき下ろす人もいれば、最高っていう人もいる。議論のしがいがあるんじゃないかと思います。あと、僕はシャマラン作品だと「サイン」が好きなんですけど、そういうと大抵は失笑されるので宮さんに擁護してほしい(笑)。

ビリー (笑)。

とよ田 宮さんが擁護してる時点でもうダメなんですけど(笑)。あとは韓国映画かな。まだあんまり扱ってないですよね?

ビリー 「神の一手」にちょっと触れたくらいですね。

とよ田 僕もあまり観てなかったんですけど、「お嬢さん」って作品を観てから「韓国映画面白い!」ってなって、いろいろ観てます。韓国映画って超エンタテインメントしてて面白いんですよね。バイオレンス描写とかも「ここまでやっていいんだ!」ってくらい激しいものがけっこうある。

ビリー 僕もまだまだ弱いジャンルなんで勉強しないといけないですね。

とよ田 僕もまだまだなんで一緒に勉強しましょう!

本筋には関係ないアニメの野球回は、ぬるい青春感があって最高

──ビリー先生は今後こんなものを描いてみたいというのはありますか?

ビリー 野球回ですね。野球をやる話。

とよ田 映研のメンバーで? もう絵が浮かぶ(笑)。

──アニメとかマンガでも、唐突に野球をやる回ってありますよね。

とよ田 あるある! 野球とかサッカーとか。僕は「涼宮ハルヒの憂鬱」の野球回が好きなんです。野球に負けたら人類滅亡ってギャップもいいよね。「なんて楽しい野球なんだ!」って思う(笑)。

ビリー わかります。「セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん」(うすた京介)の野球回とかも好きです。

──それこそ「究極超人あ~る」でも、野球部と対決するエピソードがありましたよね。

とよ田 あった! 鳥坂先輩が「葬らん!(ホームラン)」って叫びながらバット振るやつ(笑)。

ビリー(左)、とよ田みのる(右)。

ビリー 野球自体というより、そういう本来話に関係ないのに始まる野球が好きなんです。ぬるい青春感というか。だから、「シネマこんぷれっくす!」でもやりたいな、と。野球映画から得た知識だけで野球をやる。

とよ田 いいなぁ。僕も「金剛寺さんは面倒臭い」でやりたくなってきた、野球(笑)。

「シネマこんぷれっくす!」名場面プレイバック

対談で例にあがった以外にも数々の名作、奇作が「シネマこんぷれっくす!」には登場。どんなタイトルが挙がり、どのように語られているのか、その一部を見てみよう。

「シネマこんぷれっくす!」1巻第6話より。

「HiGH&LOW THE MOVIE」

「『HiGH&LOW』はパリピが観る映画」くらいに思っているガクトに、花村がその魅力を伝えるため発した第一声が「まずHiGH&LOW THE MOVIEとはね…ドラマの続きなのだ!」。ドラマの続きなのにいきなり映画から観せられようとしていることにガクトは激しく抵抗するが……。

「シネマこんぷれっくす!」1巻第2話より。

「コマンドー」

字幕派と吹き替え派の言い争いで、花村が吹き替えの名作として繰り出した必殺の1作。「黒ちゃんの中のメイトリクスは哲章さんじゃないんだね…」と、玄田哲章の見事な吹き替えを思い出させ黒澤にダメージを与える。しかし次の瞬間、吹き替えの弱点を突かれて痛い目を見る展開に……。

「君の名は。」「言の葉の庭」

「シネマこんぷれっくす!」2巻第9話より。

アニメに詳しくないガクトに、オタク男子たちが「オネアミスの翼」などの名作アニメを激推し。しかし、それを聞いていた隠れオタの女子・御池さんは「お前らが挙げたやつは作画も話も凄い 言う通り本物さ…」「でも初心者が心から楽しめんのかって!!」とブチギレる。男子たちはライト層向けの作品として「君の名は。」を挙げるが「新海映画は『言の葉』一択だろうが!!」と譲らない御池さん。教室がまるで映研部室のようになってしまい、ガクトは頭を抱える。

「酔拳」

「シネマこんぷれっくす!」1巻第3話より。

先輩への敬意が感じられないガクトに、カンフーバカの花村は「酔拳」に出てきた「韓信の股くぐり」を命じる。相手の言いなりになり、這いつくばって股の下をくぐる屈辱を味わえという意味だが、女子である花村の下をくぐればスカートの中が見えてしまう。テンションが上がりきっていて、そのことに気が付かない花村。ガクトは、言われるがままに「韓信の股くぐり」をしてしまうのか? どうなる、花村のパンツ!?

「マッドマックス」

「シネマこんぷれっくす!」1巻第5話より。

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」にかぶれ、ウォーボーイズになりきっているところをクラスメイトの女子・小津に見つかってしまうガクト。コスプレを見られても慌てないあたり「死ね部」らしさが身に付いてきている。この後、部室では「シリーズ何作目が傑作か」で議論に。

「ロボット・モンスター」

「シネマこんぷれっくす!」1巻第4話より。

「良いところは必ずあるものです」「私は…それを見逃さない人間でありたい…」宮川のB級映画に対する熱い思いを知ったガクトは胸を打たれ、彼女にオススメされるままにクソ映画を観まくることに。異常に気がついた黒澤が、ガクトから取り上げた映画が「ロボット・モンスター」。ゴリラの着ぐるみにヘルメットをかぶせただけでロボットと言い張る超低予算作品のインパクトに、B級耐性が低いガクトはノックダウン寸前。

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映画大好きな少年・熱川鰐人は、高校デビューで映画に出てくるような熱い青春を送ることを決意する。……のだが、学園一の変人が集まる映研(通称:死ね部)のトラップに引っ掛かり、映研に入部させられてしまう。

残念美人な映研の先輩たちにより繰り広げられる字幕派吹替派論争やB級映画議論など、映画議論に巻き込まれてドタバタな学園生活を送る羽目になるのであった……。

とよ田みのる「金剛寺さんは面倒臭い①」
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このヒロインには、付け入る隙などない!

口を開けば正論!正論!正論!
金剛寺さんはいつも正しい!
おまけに学業優秀&柔道の名手!
隙などまったくない彼女に、
樺山くんは…よりによって恋をした!
彼の運命やいかに!?

ちなみに本編とは大きく関わりのないことだがッ!!
この世界は地獄と繋がっているッ!!

「ラブロマ」「友達100人できるかな」「タケヲちゃん物怪録」のとよ田みのるが贈るロジカルピュアラブストーリー!!

ビリー
ビリー
北海道出身。2015年に読み切り「桜とつぼみは放課後ひらく!」で商業デビュー。2017年より「シネマこんぷれっくす!」を月刊ドラゴンエイジ(KADOKAWA)で連載中。
とよ田みのる(トヨダミノル)
とよ田みのる
1971年10月7日東京都大島生まれ。本名は豊田実(読み同じ)。2000年「レオニズ」で月刊アフタヌーン(講談社)の四季賞(夏)にて佳作を受賞。2002年に高校生同士の恋愛を描いた「ラブロマ」を同賞に投稿、四季大賞を受賞しデビューする。翌年、同作は連載化。そのほかの代表作に「FLIP-FLAP」「友達100人できるかな」「タケヲちゃん物怪録」、子育てエッセイ「最近の赤さん」など。ゲッサン(小学館)にて「金剛寺さんは面倒臭い」を連載中。