「ちはやふる -結び-」原作者 末次由紀インタビュー|「君たち、幸せだよ かるたを映画館で観てくれる人がこんなにいる」

富士登山で例えると、8.5合目ぐらい

──2016年当時、担当編集だった冨澤さんへのインタビューでは、「末次先生はクイーン戦が一番描きたい部分だから、『ちはやふる』を富士登山で例えたら今は7合目あたりだと思う」とお聞きしまして。現在37巻まで到達しましたが、末次先生ご自身では、本作は富士登山でいうと今何合目だと?

「ちはやふる」第1話より。

8.5合目ぐらいですかね。

──えっ!

あと1.5合。つまり完結まであと2年ですかね?

──そんな断言してしまって大丈夫でしょうか……。

でも2年前から、「あと2年ぐらいだろうな」って思ってる気がする(笑)。

──最後まで楽しみにしています。一方で千早、太一、新の恋の行方も気になる人が多いと思うのですが、この結末は描かれるんでしょうか?

うーん、まずは恋愛のゆくえよりも、この子たちがどう生きるのかっていうことを大事に描きたいなと思います。

大きい原画は“最近”がんばったものです

「ちはやふるの世界 ~末次由紀 初原画展~」キービジュアル

──3月23日からは末次先生にとって初の原画展「ちはやふるの世界 ~末次由紀 初原画展~」が東京、大阪、愛知で開催されますね(参照:初公開となる原画も多数、末次由紀「ちはやふるの世界」キービジュアル公開)。どのような展示になる予定ですか?

たくさんカラーイラストを出そうかなと。でもこれまで原画展をやるなんて想定してないでやってきたので、大きいサイズの立派な作品があまりないんです。だから原画展の話が動き出した去年あたりから、見栄えするようなものを一生懸命描き始めて。雑誌に載せるイラストも、本来なら必要ないぐらい無理やり大きいサイズで描いてます(笑)。

──会場で大きいものを見かけたら、それは最近描いたものだと。

「ちはやふる」36巻

はい、がんばったんだなと思ってあげてください(笑)。

──「ちはやふる」は単行本のカバーがきれいなことも魅力の1つです。原画展でも見られることを期待してるのですが、 デジタルとアナログ、どちらで描かれてるんですか?

アナログで描いた人物に、アナログで描いた花などをデジタルで合成してる形です。ほっぺたに青い絵の具を落っことしたとしてもデジタルだったら修正が効くんですけど、原画だとそれが残ったままなので、原画展にきてくださった方にそんな不完全なものを見せていいのかと思いつつ。

──人の手が入ってる実感ができて、ファンとしてはうれしいと思います。ちなみにお気に入りのカバーはありますか?

「ちはやふる」21巻

36巻の、おにぎりを持つ理音の表紙は好きです。いつもは単行本が発売する季節に合わせた花を描くことが多いんですけど、このときは秋発売で新米の季節だったので稲穂を。

──キャラクターと一緒に描かれてるものが、花じゃないことがたまにありますよね。衝撃だったのが、21巻の原田先生……まさかの、魚。

だって花のほうが気持ち悪いじゃないですか!(笑) あれはブリなんですけど、ブリの字は魚編に師匠の師って書くんです。それを知って、原田先生にぴったり!って思って。最新の37巻は、牡丹を描いたのに、巻末のコメントで「椿を描いた」と書いてしまいました……。

オリジナルキャラクターの“うちの子感”がすごい

──「ちはやふる」は2011年にアニメ化、2016年に2部作で実写映画化されました。アニメと映画では原作者としての心境は変わるものですか?

アニメのほうは絵もストーリーもマンガに近いので、より責任が重い感じがして。面白かったらいいけど、もし面白くなかったら私の責任……!と思って、ハラハラしてました。でもそんな心配はまったく無用で、絵はむしろ原作よりきれいで、負けてるかもってつらくなってしまったぐらい(笑)。アニメの千早のほうが無駄に美人でした。

──“無駄美人”がより増した、と(笑)。

その一方で、映画は、面白くなかったら監督の責任っていう感じで(笑)。それは冗談ですけど、マンガやアニメとまったく同じにはならないと最初からわかっていたので、もう少しリラックスして観ることができました。しかも役者さんたちの魅力も足されているので、心強いというか。

──結果、映画は「ちはやふる -上の句-」「ちはやふる -下の句-」ともに大ヒットを記録しました。作品に対する世間の注目度がより上がったと思いますが、執筆に影響を受けた部分はありますか?

私、原稿の前にくるとそれに集中しちゃうタイプなんです。なので映画の評判を受けて変わることはなかったですね。でも新は(新田)真剣佑くんが演じてくれたことで、もっとイケメンに描かねばならないのではないか、という変なプレッシャーがあったりする瞬間も(笑)。あと太一の声がふと、野村(周平)くんで再生されたりすることもありました。

──そんな前作から2年経ち、続編となる「ちはやふる -結び-」が公開されます。千早たちは高校3年生になりましたが、ご覧になっていかがでしたか?

映画「ちはやふる -結び-」より、瑞沢高校かるた部。

ちゃんと千早たちの間にも2年の時が流れていたのを感じました。実際に前作の公開から2年経っているので、俳優さんたちも成長して、顔つきが大人っぽくなっている。かるたを取る演技にも熟練さみたいなものが出てきて、これまで練習を積んできた重みが画面から伝わってきました。部室の変化も面白くって、トロフィーや賞状が飾られていたり、コルクボードに貼ってある、みんなで撮った思い出の写真が増えてたりするんです。すごく細かいところまで気を使って演出してくださったのが、とてもありがたかったです。

──今作では瑞沢かるた部の新入部員として、菫ちゃんと筑波くんが新たに登場しましたね。それぞれの役を演じた優希美青さんと佐野勇斗さんについて、どんな印象を受けましたか?

映画「ちはやふる -結び-」より、優希美青演じる花野菫。
映画「ちはやふる -結び-」より、佐野勇斗演じる筑波秋博。

優希さん、ほんとにハマってましたよね。菫ちゃんの華やかなところとか、女の子らしい華奢さ。太一目当ての入部だから「かるた……? は?」みたいな今どきの感じも、すごく上手に表現してくださってるなと思いました。佐野くんは、筑波くんをやるにはカッコよすぎて申し訳なくって(笑)。この顔で“ペロリ”してくれるなんて、“イケメンもったいない選手権”のだいぶ上位に入ってくるんじゃないかと思います。でもウザキャラを演じる佐野くんということで、普段とは違う魅力を見ることができました。

──ちなみに映画では、千早たちが高校3年生になったときに、1年生として菫ちゃんと筑波くんが入ってきます。原作とは少し時間軸が異なりますよね?

そうですね。大筋は変わってないんですけど、映画では原作のエピソードがところどころミックスされていて。時間の流れが違ったり、セリフを発言した人が違ったり、そもそもマンガにはなかった描写もあるんです。でも小泉監督は原作をすごくよく理解してくださって、どうやったら面白くなるかを考えてくださっているので“新鮮だけど違和感ない”ように観ていただけると思います。

──“新鮮だけど違和感ない”のは、末次先生から見て具体的にどのあたりでしょう。

映画「ちはやふる -結び-」より、清原果耶演じる我妻伊織。

いろいろあるんですけど、一番は我妻伊織という女の子ですね。新に何度も告白して、毎度振られてしまうっていう。

──清原果耶さんが演じた、映画のオリジナルキャラクターですね。新の高校の後輩で、1年生ながらに準クイーンの実力者という役どころでした。

新の断り文句はいつも「ごめん、好きな人いる」と一言。そのうち周りも「あ、2字決まり」「1字決まり」みたいにツッコむっていう、かるたをやってる子たちならではの振り方振られ方で思わず笑っちゃいました。原作で新はひたすら千早に片思いしてますけど、もしほかに言い寄ってくる女の子がいたらどうなるの?っていうところは描けてないんです。でも伊織が現れたおかげで、こんなにかわいい子に見向きもしない新の俗世離れした真面目さを、コメディに昇華させて見せることができたんではないかなと思います。

──確かに清原さんの伊織は振るのがもったいないぐらい魅力的でした。末次先生はキャラ造形にどれくらい関わられたんですか?

名前は私が付けさせてもらいました。かるたが強い子ということを監督から聞いていたので、千早や詩暢ちゃんと同じように、名前にある文字に身体が反応できたらいいなと。それで「わが庵(いほ)は 都のたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人はいふなり」という句から要素をもらったんです。

──へえ! 名前以外の基本的なプロフィールは監督が?

末次由紀が描き下ろした我妻伊織。

はい。千早が大事な試合で戦う強い子が1人、クイーン以外に必要だということでお話をいただきまして。実は私も、オリジナルキャラって大丈夫かなと最初は不安だったんです。物語の構成を変えるのは抵抗ないんですけど、まったくの新しい要素って、マンガを読んでくれている子たちが「なんか違う」ってフワッと心離れていく瞬間なのではないかなと思って。

──オリジナルキャラが登場するというニュースをコミックナタリーで出したとき(参照:映画「ちはやふる」続編の製作始動!新キャストに優希美青、賀来賢人ら)は、確かに読者から心配の声もありました。

ね、皆さんが思うとこなんですよね。でも実際にできあがった脚本を見てみたら、「あれ、マンガにもいたような気がする」ってぐらい“うちの子感”がすごくて(笑)。原作に出てくる新の幼なじみのポジションだったり、千早と戦ったライバルたちの強さや所作だったり、いろんな要素の複合体になってるんです。

──マンガのほうにも登場してほしいくらい。

本当にそう!(笑)「ちはや」の世界にいてまったくおかしくない、すごくキュートな子が生まれました。

──「ちはやふる -結び-」で映画は完結となりますが、キャストの皆さんに声をかけるとしたら?

みんなの青春を懸けてくれてありがとうって言いたいです。実際の撮影期間は2カ月とかなんですけど、それ以上の気持ちを込めてくださったっていうのが伝わってきました。この映画で仲間になって、きっとこれからも友達でいてくれる。そうなったらいいなと思います。

「ちはやふる -結び-」
2018年3月17日(土)公開
「ちはやふる -結び-」
ストーリー

瑞沢高校競技かるた部1年生・綾瀬千早が史上最強のクイーン・若宮詩暢と全国大会で熱戦を繰り広げ、さらに強くなることを部員たちと誓い合ってから2年が経った。個性あふれる新入部員に手を焼きながら、高校生活最後の全国大会を目指す瑞沢高校競技かるた部の面々。しかし予選を前に、部長の真島太一が突然部を辞めてしまう。一方、千早と太一を競技かるたの世界に引き込んだ幼なじみ・綿谷新は、千早たちの情熱に突き動かされ、自身もかるた部を創部して全国大会で千早と戦うことを決意する。

スタッフ

監督・脚本:小泉徳宏
原作:末次由紀(講談社「BE・LOVE」にて連載中)
主題歌:Perfume「無限未来」(UNIVERSAL MUSIC)

キャスト

綾瀬千早:広瀬すず
真島太一:野村周平
綿谷新:新田真剣佑
大江奏:上白石萌音
西田優征:矢本悠馬
駒野勉:森永悠希
花野菫:優希美青

筑波秋博:佐野勇斗
我妻伊織:清原果耶
若宮詩暢:松岡茉優
周防久志:賀来賢人
宮内妙子:松田美由紀
原田秀雄:國村隼

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期間:2018年2月20日(火)~4月15日(日)

読み放題プラン:月額562円(税抜)

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末次由紀(スエツグユキ)
末次由紀
福岡県生まれ。1992年「太陽のロマンス」で第14回なかよし新人まんが賞佳作を受賞、同作品がなかよし増刊(講談社)に掲載されデビュー。2007年からBE・LOVE(講談社)で「ちはやふる」の連載を開始。2009年に同作で第2回マンガ大賞2009を受賞するとともに「このマンガがすごい!2010」(宝島社)オンナ編で第1位となる。2011年、「ちはやふる」で第35回講談社漫画賞少女部門を受賞。単行本は2018年3月現在、37巻まで発売されている。3月23日からは、自身初の原画展「ちはやふるの世界~末次由紀初原画展~」を開催予定。

©末次由紀/講談社


2018年3月19日更新