コミックナタリー Power Push - スエカネクミコ「放課後のカリスマ」

ナポレオンもヒトラーも同級生 前代未聞の偉人学園ドラマ

「美男美女がたくさん出てきて、人がいっぱい死ぬ学園もの」

──ナポレオンやヒトラーなど世界の偉人がクローン技術で蘇り、ひとつの学園に集結。とんでもないマンガですね。この斬新な設定は、どのように生まれたのでしょうか。

とんでもない設定で、すいません(笑)。その設定に至った背景には、「ライトノベル的なマンガを作ろう」という裏テーマがありまして……。

──ラノベ的なマンガとはまた、あざといテーマですね。

作品の構想がスタートした数年前、ラノベの勢いがぐおーっと来ていて、それを察知した担当が「ラノベっぽいマンガやりませんか?」って話を持ちかけてきたんです。けど私はラノベを読んだことがなくて、しかも言い出しっぺの担当もまともに読んでなかったという(笑)。ふたりで頭捻って出した「ラノベっぽさ」っていうのが、「美男美女がいっぱい出てくる学園もので、なんか人がいっぱい死ぬ!」という、なんだかぼんやりしたものだったんですよね……。

──その「ラノベっぽさ」から「放課後のカリスマ」が実際に誕生するまでは、だいぶ距離がありそうですが。

「いっぱいの美男美女が生き死に」って話を描くなら、まず登場人物が大勢いなきゃいけないかな、じゃあキャラクタードラマだな! って話になりまして。でもそんな、ぼんやりしたままマンガ描いてもウケる気がしない……。はっきりとキャラを立たせるアイデアが必要では!? ってことになり、そこで生まれたのが「偉人」というアイデアなんです。

──まだクローンという設定はなかった?

最初は、世界の偉人がひとつのクラスに集まってたら面白いだろうってとこだけでしたね。織田信長と聖徳太子がクラスメイトで、信長がエリザベス一世に告白してフラれるところを聖徳太子が影からジッと見てる……みたいなバカ話を担当としていて。でも次第に「違う時代の偉人が集まってるって、なんか変じゃね?」って話になって、偉人学園を成立させる理由の後付けとして「……クローンだ!」ってなったんです。

──なるほど。でもそこまでコメディ路線だった偉人学園が、なぜ現在のようなシリアスに。

ラブコメ路線で打ち合わせしてゴーサインが出たので、家に帰ってあらためて設定を考えたんです。けど、よくよく見直すとクローンって題材そのものが、生命とか尊厳とか、なんか重い……。クローンであることに当人たちは悩みは持たないのか、社会からはどう思われるんだ、とか考えてたら話がみるみる暗くなっていって。次の打ち合わせに暗い設定を持っていったときは、担当もえらいビックリしていました。

──ラブコメ路線で打ち合わせしていたのに、180度違うシリアスなものが出てきたわけですもんね。

インタビュー写真

でも結果的に「これはよりラノベっぽくなったのでは!?」と。だって生き死にがライトに扱われてこそラノベかな……なんて……。重きを置くのは、どうしたら人が死ぬ話にできるかじゃないですか? だったら、ラブコメよりSF設定のほうが人が死にそうだから……。

──わっ、過激。というか危険思想!

最近も物語の中で、幼女キャラ「パンドラ」を私がことあるごとに死なそうとするんですが、担当はパンドラがお気に入りで「やめてください、後生だからやめてください」って。打ち合わせのたび「次の朝起きたら死んでたってどうっすか?」とか言うと「読者の幼女ニーズも考えて!」とか担当が必死で阻止するんです(笑)。作家と担当編集が、幼女が死ぬ死なない問題でせめぎあいですよ。不謹慎極まりない……申し訳ない……。

──担当さんがキャラに愛を注いでて、作家さんのほうがドライ(笑)。

テーマがシリアスなので「人の命の尊厳とは」とか「クローンに対する問題提起」とか真面目なメッセージを受け取ろうとしてくださる人は、すごく多いんです。もちろんストーリーのキモはそこなんですが、意外と描いてるほうは「よっしゃ死んでもらいますか!」みたいな悪ノリもあって。残念な作者で、真剣に読んでる人にはやっぱり申し訳ない限り……。

──でも悪ノリや暴走も、ひとつのキャラクター愛では。

だと思ってもらえるといいですけど(笑)。作品の根幹にあるのはキャラクタードラマなので、「パンドラを殺さないで!」みたいなキャラへの愛着を、担当のみならず読者の方にも持ってもらえたら嬉しいですね。

IKKI COMIX「放課後のカリスマ」(4) / 2010年6月30日頃発売 / 610円(税込) / 小学館 / ISBN:978-4-09-188519-7

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あらすじ

時は西暦2×××年。ナポレオン、エリザベス一世、ナイチンゲール、一休、モーツァルト、フロイト、ヒトラーといった世界中の「偉人のクローン」のみが集うセントクレイオ学園。そこで、ひとり「非クローン」として在籍する神矢史良は、学園生活の中でクローンたちの苦悩を目の当たりにする。そんな折、学園の卒業生であるクローン・ケネディが衆目の中で暗殺された。クローンを襲う謎の勢力、その正体とは? そして、史良の行く末は……?

スエカネクミコ

スエカネクミコ

大学卒業後、株式会社カプコンに勤務。「逆転裁判」「ビューティフル ジョー」といったゲームソフトのキャラクターデザインを手がける。退社後、商業マンガ誌にて活動を開始。主な著作に「成城紅茶館の事情」「プリティ・マニア」など。