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秋田書店がWEBマンガ界に殴りこみ!? 開設記念で施川ユウキ×阿部共実が対談

ネタの巧みさより、キャラとか空気が描けてるほうが大事

──施川先生はネタ数の豊富さも魅力ですが、ネタ帳とかつけてたりするんですか?

施川 昔はすごくいっぱい書いてたんですけど、今はやらなくなりましたね。めんどくさくなっちゃって。いまだに昔のネタ帳を読み返して、使ってないネタを掘り起こしたりとかはしてますけど。

施川ユウキ「オンノジ」

阿部 普通だとネタのクオリティがどうしてもばらつくと思うんですけど、施川先生はほんとうに全ネタめちゃくちゃ面白いですよね。「オンノジ」とかは、世界観とかキャラクターの関係も作りつつ、ぜんぶ面白いっていうのがすごいです。

施川 いや、そんなことないです! つまらないダジャレとかもいっぱい入ってるし。

阿部 でもそれも不思議なもので、もしかしたら違う作家さんが同じダジャレを言っても面白くないのかもしれないですけど、施川先生だと面白い。お笑い芸人でも売れてる芸人が言えば面白いけど、まだ無名の芸人が言えば面白くないこととかあると思うんですよ。 説得力というか雰囲気というか。

施川 それはわかります。僕は深夜ラジオが好きで、特にネタメールコーナーが大好きなんですけど、大喜利的なネタを、純粋に発想力のみで評価しようとしたら、投稿コーナーのような匿名性の中でしか実現しないと思うんです。「誰々が言った」ってこと自体が、別の意味合いを持ってしまいますから。ただ、作家性ってものを考えると、そっちのほうが大事だったりしますけど。

阿部 そういうのは意識されて描かれてるんですか。例えば、これ俺が言っても面白くないネタだなーと削ることもあったり?

施川 やっぱりしゃべってるキャラクターに合ってるかってことのほうが重要ですよね。例えば「IPPONグランプリ」の(ネプチューンの)ホリケンさんとか、大喜利的な発想としては「なんだそりゃ!」ってネタでも、キャラと合っているから面白いってよくあるじゃないですか。大事なのはキャラクターで、ストイックにネタの純度だけを追求しても、限界があると思うんです。

阿部 そうなんですね。

施川 大喜利っぽいネタと、キャラクターの人間性が見えるくだらないネタがバランスよく出て、キャラとしてつながってる感じになれば理想ですね。

阿部 僕もやっぱり、マンガとしてのキャラクターの立ち方を重視するというか。その一瞬だけ切り取ると面白くないとしても、全体で見たときにキャラクターを立たせる役に立ってるなら、それがマンガでは一番大事だと思うんです。例えばオチを意外なオチにしようと思うと、どうしてもキャラクターの動きが制限されてしまうときがあって、キャラクターをとるかオチをとるかみたいな選択になるときがあるんですが、そういうときはキャラクターを選びます。

──オチの巧みさより、キャラを立たせることのほうが優先順位が上だと。

阿部 読まれるのが1回だけっていう前提だと、それはオチが強いほうがいいんですけど。僕は何度も読みたくなるようなマンガがいいと思ってるので。ネタや話の構成の巧みさより、キャラとか感情とか空気とかが描けてるほうが何度も読みたくなるんじゃないかと。

ダメなことをわかって描いてますよ

──阿部さんのマンガはすごく共感を呼ぶ内容だと思いますが、そういう読者受けみたいなものは考えられてましたか?

阿部 どうなんでしょうか。僕は意外だったなと思ってますけど。

──自分のネタに他人が共鳴するのが意外だったということですか?

阿部 はい。ごく一部にしか伝わらないかと思ってました。もちろんわかってほしいと思う部分もあるんですけど、そんなに多いとは思ってなかった。施川先生は読者にわかってもらえるかとか、そういうのを気にしてのネタ選びってありますか?

施川ユウキ「鬱ごはん」

施川 うーん。例えば「鬱ごはん」の感想とか見ると、なんか「つらくて読めなかった」とか「本当に鬱になる」とか結構多くて、それは意外でした。鬱野くんって人間関係でストレスがあるわけでもないし、ひとりで好きなことやってる感じで、ある意味理想の生活じゃないですか。世の中どれだけ孤独が恐れられてるんだろうって。

阿部 ひとりでごはん食べてるだけで、世間の人はかわいそうって思うんじゃないですか。

施川 そうなんですかね。あと自覚してるからマシっていうのは、わかってほしいかも。鬱野っていうのは要するに僕なんですけど、「ちゃんと自分のダメさは自覚してるよ」ってところは出しておきたかったですね。ダメな奴の最もダメなところは、ダメなことを自覚してないことじゃないですか。

阿部 自覚してるかしてないかでだいぶ違うだろ、と。

施川 そうそう。鬱野くんは妖精の猫に「こいつはダメだ」って言われ続けてるんです。ダメなことをわかって描いてますよっていう。そういうツッコミ部分が無いと、読んでて不快なだけなんじゃないかって。その言い訳自体が不快だって見え方もありますけど……。まあ、元々不快なマンガなんです。

タップの連載陣はけっこうWEBを意識してる

阿部 タップで「サナギさん」を描くことについて、WEB用に何か考えてることとかありますか?

施川 あっ、全然ないですね。あったほうがいいのかな。

──阿部さんはそういう意識があったんですか?

阿部 WEBだと雑誌とはまた読者層が違うのかなあと。普通ではなく何かクセを求めてたりとか。僕も描くのはまたショートなので、やることは「空が灰色だから」と大きくは変わらない気がしていますが。

施川 タップについて素晴らしいと思ったのが、予告サイトのキャッチコピー。「かっこいい、きもちわるい、大好き。」っていう。あれすごくよかったですよね。デザインも含めて、秋田書店は攻めてるなと思いました。

阿部 タップの作家陣の選出も結構WEBを意識したものでしょうか。作家性の強いタイプの作家さんが集まっていますよね。

──秋田書店の自由区、みたいになるかもしれませんね。

画像左から施川ユウキ「サナギさん」、阿部共実「死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々」。

阿部 たぶん、普通の話を描く人はひとりもいないんじゃないですか。全員、作品の中にどこか普通じゃないものを絶対入れてくるんじゃないかと(笑)。そこはすごく楽しみです。

──なるほど。お互い描いてみてほしい作品とかありますか?

阿部 施川先生のホラーマンガは読んでみたいですけどね。ギャグをまったく入れないで。

施川 何度かやってみてるんですけどね。エレガンスイブ(秋田書店)増刊のもっと!でカラスヤ(サトシ)先生が連載されてる「おとろし」を読んだら、やたら面白くて、敵わねえ……って思っちゃいました(笑)。逆に阿部先生に、普通のエッセイマンガとか描いてほしい。ギャグマンガ家の普段の生活とか気になるし。

阿部 何も起きてなくて、めちゃくちゃ面白くないですよ。

施川 でも、起きなくても、いかに起きてないかってことを描けばいいんじゃない。

阿部 それ面白くないじゃないですか(笑)。

施川 いやいや、面白くなりますよ。日常をどう解釈するか、ですから。あまり自分を出したがらない人だと思うんだけど、そういう人こそ描いてほしい。

阿部 描いたらたぶん、大して暗くないことですら、すごく暗く描くと思います (笑)。

「かっこいい、きもちわるい、大好き。まんがは 全部知ってる」

秋田書店のチャンピオンレーベルから誕生した、オール新作・オール無料、登録不要のWEBマンガサイト。毎週木曜日に更新される。

施川ユウキ(しかわゆうき)

施川ユウキ

1977年11月28日静岡県生まれ。1999年週刊少年チャンピオン(秋田書店)にて「がんばれ酢めし疑獄!!」で連載デビュー。シュールで哲学的なネタを中心に作品を発表し、2004年に同誌で連載した「サナギさん」およびヤングチャンピオン(秋田書店)でスタートした「もずくウォーキング」は、女子中学生や犬の視点から日常に潜む面白さや矛盾へのツッコミを描き、ギャグマンガ界の注目を集めた。そのほか、代表作に「森のテグー」など。 2013年4月に「鬱ごはん」1巻、「オンノジ」、「バーナード嬢曰く。」の新刊3冊が同時発売された。

阿部共実(あべともみ)

阿部共実

週刊少年チャンピオン(秋田書店)の第74回新人まんが賞に入選した「破壊症候群」でデビュー。2010年12月~2011年2月に実験的に開設されていたWEBコミックサイト「日刊!浦安鉄筋家族 THE WEB」で「ドラゴンスワロウ」全13話を発表する。2011年、週刊少年チャンピオン38号より3話限定で連載された「空が灰色だから手をはなそう」が人気を集め、タイトルを「空が灰色だから」に改め47号から本格連載がスタート。2013年1月に「空が灰色だから」が完結した。現在は別冊少年チャンピオン(秋田書店)で「ブラックギャラクシー6」、もっと!(秋田書店)で「ちーちゃんはちょっと足りない」を連載中。