コミックナタリー PowerPush - Championタップ!
秋田書店がWEBマンガ界に殴りこみ!? 開設記念で施川ユウキ×阿部共実が対談
秋田書店のWEBマンガサイト・Championタップ!が7月4日にオープンした。「オール新作 オール無料 チャンピオンの本気まんがサイト」というキャッチコピーが示す通り、14本ものオリジナル作品を無料配信。男臭さがイメージされがちなチャンピオンブランドとは一線を画した布陣からは、攻めの姿勢が見て取れるはずだ。
コミックナタリーではChampionタップ!の作品群を紹介するとともに、執筆陣を代表してご登場いただいた阿部共実と施川ユウキの対談記事を公開。秋田書店生え抜きの異才ふたりが、互いの作家性について語り合った。
取材/唐木元 文/安井遼太郎
チャンピオンにはちょっと鋭いギャグマンガの伝統がある
──Championタップ!の連載陣から、今日は週刊少年チャンピオンでも連載なさっていた、ちょっと毒気のあるおふたりにご登場いただきました。おふたりは新年会などで何度か面識があるそうですね。さて、チャンピオンって男臭いイメージの一方で、アヴァンギャルドというか、前衛的なショートとかギャグの土壌があるように思うのですが。
阿部 僕は昔投稿作品が色々落ちちゃって投稿先に迷っているときに、施川先生の「サナギさん」を読んで次をチャンピオンに決めたんです。それにその頃のチャンピオンってほかにも、「みつどもえ」とか「24のひとみ」とかがあって、可愛いくてひと癖あるショートギャグが充実していてすごい雑誌だなと認識していて……。
施川 確かにチャンピオンのギャグはちょっと鋭いイメージありますよね。僕が投稿したときは、おおひなた(ごう)先生が「おやつ」を描かれていて、ほかの雑誌にはこういうのはないなと思ってました。まあ僕はジャンプにもサンデーにも投稿してたんで、偉そうなこと言えないですけど。
阿部 あ、そうなんですか? ギャグマンガでですか?
施川 ギャグマンガで。ほかはダメでチャンピオンだけ残ったんですけど。
阿部 そう考えるとチャンピオン編集部ってすごいのかなって思っちゃいます。施川先生が描かれた「え!? 絵が下手なのに漫画家に?」のエッセイにあったように、ほかの数々の編集部が見抜けなかった才能を見抜いた! っていうことじゃないですか。
施川 いやいや!
阿部 僕は完全に施川先生の信者みたいなものですから。こないだ単行本3冊同時発売されて、どれも本当に面白くて。設定からしてすごすぎるなって。前線走ってるなって。
施川 いやいや、そんなに持ち上げないでください。
「サナギさん」は萌え絵で描きたかったんですよ
──施川先生は、阿部先生のマンガを読まれたときにどんな印象を受けましたか?
施川 言葉のセンスがあるなって感じました。突飛な発想だけじゃなくて、人間の弱さとか自意識の問題を切れ味鋭く描いていて、そういうのが言葉のセンスとうまくマッチしていてすごい面白いなと思いました。
阿部 ありがとうございます。
施川 ちゃんとキャラクターが前面に出ている。絵もすごく今っぽくて可愛いし、うらやましいなーと思いましたね。やっぱり絵がうまいっていうのは……。僕からしたら全員絵うまいんですけど(笑)。
阿部 でも施川先生の絵って完成されてるっていうか、いい意味で読者を選ばない絵じゃないですか。もっと絵の表現に幅があればとかって、今でも思われたりするんですか?
施川 できれば「サナギさん」は萌え絵で描きたかったんですよ。本当にすっごくうまい萌え絵の人が描いたらもっと売れたんじゃないかと……そんなことないか(笑)。
阿部 でも僕はまさにその「サナギさん」に衝撃を受けて。読む前と読んだ後で、マンガの描き方が大きく変わったんですよ。可愛い女の子にこんな先鋭的なこととか、毒々しいことを言わせていいんだと。最初のほうにおならの話とかしますよね? なんかそれもすごい衝撃で。可愛い女の子がおならするなんて……。
施川 ないですかね? それぐらいはありそうな気がするけど……。
阿部 でもそれで可愛いんですよね。そういうキャラクターの作り方について、僕の中ではすごく大きな影響があって。だから「空が灰色だから」とかでも、女の子がずっとベラベラと屁理屈を延々と言ったりするんだけど、それでもキャラとして成立するんだっていう。そのときまで女の子は天然や電波キャラか普通のつっこみキャラくらいしか幅がないと思いこんでました。そういうところで特に施川先生のマンガに強く影響を受けています。
10年後に「リア充」って言葉を見たら、古びてないかなって
──施川先生の作風に影響を与えたものってありますか?
施川 僕はやっぱり「伝染るんです。」が衝撃でした。そこからの不条理ブーム、みたいなものがあって、直接的に影響受けたのが「(セクシーコマンドー外伝 )すごいよ!!マサルさん」です。「がんばれ酢めし疑獄!!」のときは不条理をそのままやってたんですけど、「サナギさん」は、そこに可愛いキャラクターを足した、みたいな感じですかね。「ぼのぼの」の影響も大きいです。
阿部 「マサルさん」や「ぼのぼの」は子供のときなんですけど、周りでも大流行しました。みんなゲラゲラ笑ってましたね。衝撃でした。ただ、いまになってそれ以上前の世代の名作ギャグマンガを読むこともあるんですが、いまいちピンとこなかったり、わからなかったりするときがあります。多分もう、後世のマンガに影響を与えすぎて、当時での斬新さがふつうのことに見えてしまうせいだと思うんですけど。なんだかもったいなく感じます。
施川 ギャグマンガってすごく時代に左右されやすいと思います。
阿部 時代って話で言うと、僕の場合、流行語とかインターネットのスラングを使うのに慎重になっているところがあります。例えば「リア充」ってすごく便利な言葉だけど、10年後に見たときに古びるのが怖いなっていうのを恐れちゃって。ほかには今の時代の人間関係を描こうとすると必ずSNSは欠かせないのですが、これもいつかは駅の伝言板のような古き良きものみたいになってるかもしれないですね。
施川 いや、すごくわかりますよ。
阿部 でもやっぱり、マンガ描き続けていて「この場は使った方が絶対面白いだろう」と思うときは使うようになりました。
施川 そうですね。デビューした頃は、最初で最後の一作だと思ってるので、普遍的なものを描こうと気負ってましたけど、最近はもう、気にしなくなりましたね。それに時代性を完全に無視してネタを成立させるのは、難しいと思います。
──じゃあいまは、雑誌に載ったときに面白ければいいという気持ちに?
施川 自分の描いてきたものを並べたときに、「この時代はこんなんだった」っていうのがあったほうが、時代と自分との関係性が見えていいかな、とも思います。
「かっこいい、きもちわるい、大好き。まんがは 全部知ってる」
秋田書店のチャンピオンレーベルから誕生した、オール新作・オール無料、登録不要のWEBマンガサイト。毎週木曜日に更新される。
施川ユウキ(しかわゆうき)
1977年11月28日静岡県生まれ。1999年週刊少年チャンピオン(秋田書店)にて「がんばれ酢めし疑獄!!」で連載デビュー。シュールで哲学的なネタを中心に作品を発表し、2004年に同誌で連載した「サナギさん」およびヤングチャンピオン(秋田書店)でスタートした「もずくウォーキング」は、女子中学生や犬の視点から日常に潜む面白さや矛盾へのツッコミを描き、ギャグマンガ界の注目を集めた。そのほか、代表作に「森のテグー」など。 2013年4月に「鬱ごはん」1巻、「オンノジ」、「バーナード嬢曰く。」の新刊3冊が同時発売された。
阿部共実(あべともみ)
週刊少年チャンピオン(秋田書店)の第74回新人まんが賞に入選した「破壊症候群」でデビュー。2010年12月~2011年2月に実験的に開設されていたWEBコミックサイト「日刊!浦安鉄筋家族 THE WEB」で「ドラゴンスワロウ」全13話を発表する。2011年、週刊少年チャンピオン38号より3話限定で連載された「空が灰色だから手をはなそう」が人気を集め、タイトルを「空が灰色だから」に改め47号から本格連載がスタート。2013年1月に「空が灰色だから」が完結した。現在は別冊少年チャンピオン(秋田書店)で「ブラックギャラクシー6」、もっと!(秋田書店)で「ちーちゃんはちょっと足りない」を連載中。