「センコロール コネクト」特集 宇木敦哉×ryo(supercell)|「いつ観ても“現代っ子”っぽい」10年の沈黙を破り、待望の新作公開

むしろ音楽はなくてもいいんだよねぐらいの感覚で(ryo)

──今回「2」の音楽を制作するにあたって、具体的にどのように作業を進められたのでしょうか?

宇木 音響監督の岩浪(美和)さんに「ここからここまで音楽が入ります」という尺のわかる音楽メニューをお渡しして、あとは割とお任せでしたよね。

「センコロール コネクト」より。

ryo 作ってみて、宇木さんのイメージと違ったら「ちょっと違いますね」と全否定が返ってくるという方式で(笑)。2014年の時点で映像の大まかな部分はほぼ完成していたので、自分はそのときにBGMを作ったんですけど、メロを使おうとすると否定されたパターンが多かった気がします。

宇木 そうかもしれない(笑)。

ryo メロディで過度に感動させるのではなく、かといって前衛的すぎでもなく。なのでむしろ音楽はなくてもいいんだよねぐらいの感覚で、「そこにあっていい音」という捉え方で作ったもののほうが、宇木さんの中にあるイメージに近いのかなと思いました。「これがいい」とは思ってないかもしれないけど「こういう感じもいいのかな」という決定の仕方が宇木さんっぽいというか。

宇木 1曲だけ「煙印度」というインドっぽい曲があるんですけど、それはまさかインドでくるとは思わなかったですね(笑)。僕的にはそれが良くて「これだよこれ」と思いながら、ありがたくいただきました。

ryo あれは「つり球」の印象ですね(注:「つり球」には構成員がターバンを巻いてインド人風の恰好をしたDUCKという組織が登場する)。

宇木 「センコロール コネクト」に出てくる組織とインドは全然関係ないんですけど、その唐突感が好きなんですよ(笑)。

ryo キャラクターがポップに見えますよね。それとインド音楽というのは、後ろで小さく鳴らしたときもインドっぽいことがすぐわかるので、大きい音で主張することなくシュールさを伝えてくれるんです。自分この曲のためだけにシタールを買いましたから(笑)。ほかにも「おれらのブルース」というブルースの曲では、それだけのために平塚からブルースハープの先生をされてる方を呼んで吹いていただいたり、1曲ごとの音の強度を増すために手間はかけました。

──そういったこだわりもあってか、「1」と「2」の音楽を比較すると、「2」の音楽は生の演奏などの人肌を感じさせる曲が増えている印象がありました。

ryo そうですね。生演奏が許される環境だったということもありますし、そもそも「1」のときは生演奏という発想がなかったと思います。

宇木 「1」のときはもっと無機質というか、なるべく環境音に近いものというオーダーだったんです。

ryo それと尺の長さの問題もありました。「1」のときはテーマ曲の主題のメロディをたくさん使っていて、よく聴くと同じ旋律だったり、メロディが連なって形を変えていたりといったやり方をしていたんですけど、「2」は「1」より尺が長くなったので、そのやり方だと通して観たときに飽きてしまうかなと思ったんです。「2」は新キャラが出てきたので、キャラクターにフォーカスしたものと、戦闘シーン用に切り分けて作った記憶がありますね。

歌録りは死ぬほどやり直した(ryo)

──また、「センコロールコネクト」ではsupercell名義による久々の新曲「#Love」が主題歌として使われています。この曲はどのようなイメージで制作されたのですか?

ryo もともと2014年の時点で主題歌のお話はいただいていて、そのときからsupercellでやりたいなとは思っていて。で、結局このタイミングになったんですが、前作の主題歌は「LOVE&ROLL」という曲だったので、曲名には「LOVE」か「ROLL」のどちらかを使おうと思って、まずタイトルから考えていったんです。それで「ROLL」ではいい案が思いつかなかったので(笑)、「LOVE」を使おうと思ったときに、ハッシュタグをつけたら面白いんじゃないかとなりまして。であれば、歌詞のどこかに「LOVE」を入れないとな、といった感じで考えていきました。

──ボーカリストについては聴いてのお楽しみということで詳しくは触れませんが、サウンド的にはいわゆるR&B調のアーバンなアレンジになっていて、これまでのsupercellのイメージから考えると意外で驚きました。

ryo 自分はいつも曲を作るときに聴いてほしい年齢層を考えるんですけど、今回は10代後半ぐらいの自分が好きそうな曲を作りたいと思ったんです。自分は高校生のときはマリリン・マンソンとかがすごく好きだったんですけど、19歳ぐらいの頃にはそれこそエリカ・バドゥとかのR&Bに激ハマりして。なので、今で言うラウブとかH.E.R.みたいなネオソウル系の層に自分を落とし込むというか、19のときの自分に戻って、今の技術力で作るみたいな感覚で制作しましたね。

──中盤では会話口調のパートも登場して、そこではトラップ系の楽曲などで多用される変則的な譜割りも採り入れるなど、今の海外のポップミュージックを意識した作風になっていますね。

ryo そうですね。これは散々言い尽くされてることですけど、ヒップホップには面白い人が多いですけど、ポップスの領域で日本語をああいう譜割りにうまく乗っけられる人はなかなかいないと思うんですよ。技術だけが鼻について肝心の面白さが要約されてないみたいな。自分はラッパーだとSALUさんがデビュー時からすごく好きなんですけど、ああいうクールで面白い印象が、今回自分の中でやりたいことだったんです。

──supercellとしては新しい挑戦ですね。

ryo だから歌録りは死ぬほどやり直して、想像しているニュアンスで歌えていないなって思ったら歌詞を全部変えたり、譜割りを変えたり、メロディを変える、ということを繰り返して。別の人が歌うと大丈夫なんだけど、その人の声には合わない、言葉が伝わってこない歌い方やメロディラインというのがあるんですよ。そうはならないよう、ものすごい時間をかけて模索したというか。だから会話しているような、歌っているような、で、出来上がったものを聴いてみるとミュージカルっぽい感じになってるんです。よく日本人はミュージカル嫌いと言われますけど、それって要するに日本語に落とし込んだ違和感だと思うんですよ。日本人の感情とすり合わせをせずにメロディに乗っけちゃったからそうなるっていう。そうなるのがすごく嫌だったので、歌詞と感情のすり合わせを何回もかけて作りました。

宇木 僕はこの曲、すごく好きなんですよ。なんというか、歌詞とか聴いても「センコ」とはまったく関係ないじゃないですか。だけどそれが「センコ」に乗ることで、もしかしたら関係あるのかも?みたいな距離感がある。

ryo 自分、この間まで「センコロール コネクト」のタイトルって「センコロール2」だと思ってたんですよ。で、一昨日ぐらいにホームページを見たら「センコロール コネクト」って書いてあったので、「えっ? コネクトって何?」ってなって(笑)。いや、なんでかって「#Love」の歌詞で「心つなげ」って書いてて。それまさに「コネクト」じゃん、と。これは完全に偶然なんですけど。

──supercell名義では劇中歌の「Nanairo Night」も提供されています。

ryo これは2014年に作っていたもので、もともとは自分の仮歌が入っていて、ボーカルを誰かに差し替える予定で提出したまま5年が経っていたという(笑)。劇伴扱いの歌もので、最初は男性ボーカルに歌ってもらうつもりだったんですけど、あまりいい人が見つからなくて。

宇木 確かに当時そんなことおっしゃってましたね。でも、劇中歌が上がってくるとは思っていなかったので驚きました(笑)。

ryo それこそ荒木(哲郎。「ギルティクラウン」「進撃の巨人」「甲鉄城のカバネリ」などで知られるアニメ監督)さんとかが、よく後半の戦闘シーンで歌ものの劇伴を使って盛り上げる使い方をしてたので、そういう流れで作った曲ですね。

──いわゆるEDM系のユーフォリック感のあるサウンドですね。

ryo この曲も映像を観ながら尺に合わせて作ったので、何気にEDMっぽい構成でありつつ、そうじゃないんですよ。普通のフューチャーベースであればドロップがくるであろうところに、そういうものを入れてないので。

自分で描きたい欲求をどう自分の中で踏ん切りをつけるか

──改めて、宇木監督は「センコロール コネクト」のどんなところに注目して観てほしいですか?

宇木 自分で作っているので言いにくいところはありますけど、クリーチャーのデザインは自分らしさが出ていると思うので、そのへんを注目していただけるとうれしいです。僕は(アニメの)作画や動画を独学でやってきたので、あまり自信がないんですよね。この業界は上手な方がたくさんいらっしゃるから。

ryo 宇木さんはどんな年齢層の人に一番観てもらいたいんですか?

宇木 自分もそうだったんですけど、若い人に観てもらって「自分もアニメを作ってみたい」と思ってもらいたいです。その年代が音楽を聴くにしても、ゲームやアニメを楽しむにしても、一番どツボにハマる時期だと思うので。逆にプロの人にはあまり観られたくないです……(笑)。

──そして早くも「センコロール 3」の制作決定が発表されました(参照:本日公開「センコロール コネクト」舞台挨拶、supercell新曲起用と続編制作発表)が、すでに構想は練られていらっしゃるのでしょうか?

「センコロール コネクト」より。

宇木 「1」はテツがセンコを奪われてしまう話で、「2」はテツがそれを取り返す話になりましたが、「3」ではユキとテツとセンコを含め、これまでの関係性のお話の終わりを描けたらと思っています。おそらく「3」でもはっきりと言い切ることはしないと思いますけど、世界観だとかあの怪物が何なのか?ということはもう少し掘り下げたいですね。

──次作はまた10年後ということはないですよね?

宇木 さすがにそれは避けたいです(笑)。「2」で多少は分業化しましたけど、「3」ではもうちょっとスタジオさんを絡めて作業しないと終わらないと思いますし、とはいえなるべく自分で原画を描きたい欲求もあるので、その辺をどう自分の中で踏ん切りをつけるかですよね。やっぱり絵コンテまではやりたいですけど、動画まで自分で描いちゃうと終わらないので……。でも今回は上がってきた動画を、TP修正といって、作監さんや原画さんに戻さずデータ上で直したんですけど、その作業も楽しかったですね(笑)。

ryo 直しの作業まで(笑)。

──できるだけご自身でやりたいという気持ちが強いんですね。では、ryoさんはsupercellとして今後、どんな活動を予定されていますか?

ryo 基本、楽曲を89秒に落とし込むタイプのタイアップを作るのはやめようと思ってます(笑)。それってフィギュアスケートと同じで、ジャンプの点数が高いものしか取りにいけなくなるんですよ。テンポも速くなるし、極限までいくしかなくなるので、自分の音楽家としての技量は上がるけど、音楽性として音楽そのもので何かを伝えようとするには不向きだと思っていて。自分は89秒の音楽を10年作ってきましたから、だんだん89秒の職人みたいになってしまって……。

──そういう意味では、今回の「センコロール コネクト」のように、映画の主題歌や劇伴といったスタイルのほうが、音楽的な可能性は広がりそうですね。

ryo 可能性はあると思いますね。「センコロール」もまさに、これから更に発展していく可能性を秘めた作品だと思うんですが、これから観に来てくれる方達は、ぜひ今後の展開も含めて、今劇場で目撃しておいてほしいですね。

──「センコロール 3」でもぜひ宇木監督とryoさんのタッグを期待しています。

宇木 そうですね。できればそうしたいです。でも、そのときにみんながどうなってるかわからないですけどね(笑)。

「センコロール 3」ティザーカット