TVアニメ「キャロル&チューズデイ」 総監督・渡辺信一郎インタビュー|世界中の仲間とともに作り上げた “奇跡の7分間”

偶然から生まれた21話の演奏シーン

──先ほどお話にあった「音楽からフィードバックを受けて変化したストーリー」の中で、特に印象的だったのはどんなことなのでしょうか?

例えば、21話のキャロル&チューズデイが教会で「Lay It All On Me」を演奏する場面かな。アイザック・グレイシーさんというUKの若手ミュージシャンに、どこで使う曲とか決めないままオーダーしたんだけど、デモが上がってきたらうっすらとオルガンが入ってたんですね。それを聴いて、「曲調もスピリチュアルな感じだし、この曲を教会で演奏したら、いいシーンになるかも」と妄想が広がって(笑)。それでアイザックに「この曲は教会で演奏することにしたから、オルガンをでかくしてほしい」と頼んで。向こうも「それなら」ってことでハンドクラップとかも追加してきて、それで今のシーンができた。

──新たにオルガンの設定を加えるとなると、大変な作業だったのではないでしょうか?

いや、実は2話でキャロルが教会でバイトするシーンがありますよね。あのシーンの教会の設定をよくよく見返してみたら、パイプオルガンが置いてあったんです。「これは使える!」ってことであのシーンができたんです。

──すごい偶然ですね。では同じようにモッキーが担当した劇伴が作品に影響を与えた部分はありましたか?

第1話より。2人の姿がゆっくりと映され、モッキーの劇伴を堪能できるシーンだ。

内容以前に、モッキーさんとベニー・シングスさんの参加が最初期に決まったことで、ほかのアーティストにオファーするときにも「この2人が参加してる」ってことが大きなカギになった。この2人はミュージシャンズ・ミュージシャンという、同業者がみんな尊敬するようなミュージシャンなんです。だから、「この2人が参加しているなら、ぜひ自分たちも参加したい」と思ってもらえるところがあったと思いますね。

後日譚なんて粋じゃないものは絶対作りません(笑)

──そしてクライマックスとなる最終話ではついに“奇跡の7分間”が披露されました。ここで歌われる楽曲「Mother」ですが、これまで登場したさまざまなキャラクターがパートを歌い継ぐ形式からは、1985年にマイケル・ジャクソンはじめ、一流ミュージシャンが集結して生まれた楽曲である「We Are The World」を想起しました。

もちろん意識してるけど、実は「We Are The World」ってイベント自体は功罪があると思うんですよ。アフリカの飢餓みたいな知られざる事実を知らしめたということはよかったけど、これで飢餓が解決したわけではないのに、なんかいいことした感でよかったねというふうになってしまうのはどうかなと。でも、あれだけのアーティストが集まって、自分のアーティストエゴもいったん置いて共同で何かを成し遂げようとした、という部分は今見ても感動的なんですよね。だから今回は、チャリティとかじゃなく自分たちが自粛も忖度もせずに歌いたいことを歌う、という形にした。これまで出てきたさまざまなアーティストが一堂に会して、1つのものを作り上げるというふうに。 

──なるほど。それは「キャロル&チューズデイ」を通して監督が描かれている、「共同作業」の象徴のようなものなのかもしれませんね。

そうですね。なんか「後日譚はないのか」という意見があるらしいんですけど、あれはあそこで終わるからいいんですよ。このシーンに限らずですけど、想像力をもって観てほしいんです。本編で描かれてない部分は、観る人自身が想像してほしい。例えば昔の映画って、描かれてない部分が多くて、観終わってからもそこを想像することで、長く心に残る作品になってたと思うんです。でも最近の作品はなんでも全部説明しちゃうから、観終わってハイ終わり、ってことになっちゃうし、何より粋じゃない(笑)。だから、後日譚なんて粋じゃないものは絶対作りません(笑)。

──実際に24話の放送を観て、7分間の中でキャラクターの声が重なっていくごとに魅力が増していくような、最後にふさわしい楽曲だと感じました。

「キャロル&チューズデイ」の音楽がいい、というのは、もちろん曲がいいのは当然なんだけど、ちゃんと曲を立てるような、音楽が最大の力を発揮できるような構成とか演出がされてるからなんです。セリフの代わりに音楽で語らせてる部分もたくさんあるし。だから、本当は決めゼリフで表現するような部分を音楽に取られちゃって、声優さんは不満もあったかも(笑)。

素晴らしい音楽のような、言葉にできない瞬間を

──ところで、渡辺監督は過去の作品においても劇中の音楽にこだわりをもってこられた方ですが、そもそも監督が最初に音楽の魅力に触れた原体験は、どんなものだったのでしょうか?

うーん、やっぱ小学校4、5年生ぐらいで聴いたKISSじゃないかな。友達のお兄さんがステレオを持ってて、そこでKISSの「デトロイト・ロック・シティ」を聴かせてもらったとき、頭を「ガーン!」とぶん殴られたようなショックを受けて。「今まで自分が聴いてた音楽はなんだったんだ」って感じで。それでKISSの大ファンになって、KISSのエアバンドを結成したりとか。当時は小学生だから、ギターなんか持ってないんで木材でギター作って、顔に絵の具でメイクして、近所のガキを集めて山小屋で大音量で演奏のフリ、というわけのわからないことをしてました。まったく「キャロチュー」とつながりませんね(笑)。

──(笑)。「キャロル&チューズデイ」でも各話のタイトルに60年代から80年代、特に70~80年代の実在する曲名が引用されていますが、こうした楽曲の数々も、監督にとっての思い出の曲なのでしょうか?

いやいや、60年代の曲とかはリアルタイムじゃないです。基本的には古今の、シングルカットされた名曲の中から本編の内容にどこかしらリンクするような曲名を選びました。昔の曲が多いのは、アイキャッチにそのタイトルの7インチのアナログレコードが出てくるから、自動的に7インチが出てた時代の曲になるということで。そういえばローリング・ストーンズの「ギミー・シェルター」もタイトル候補にしてたんだけど、意外にも7インチは本国では出ていなかったりもして。それで変更した場合もありました。

──7インチしばりでタイトルを考えるのは、意外にも棘の道だったのですね。

でも曲のタイトルなんていくらでもあるんで、何か縛りがないと決められないんです。そういや14話のタイトルに引用したザ・フーの「キッズ・アー・オールライト」では、面白い偶然もあった。制作中にチューズデイのボーカルのセレイナとスタジオで話してて、彼女のやってるラジオ番組で、ロックの日(6月9日)に偶然「キッズ・アー・オールライト」をかけてたらしくて。「その曲、『キャロチュー』の14話のタイトルだよ」と言ったら、彼女も驚いてました。

──では今回、「音楽そのもの」をテーマにしたオリジナル作品を作られたことは、監督にとってどんな経験になりましたか?

10月6日に東京・品川ステラボールで開催された「『キャロル&チューズデイ』2nd LIVE ~Army Of Two~」の様子。

音楽には「なぜかわからないけれども、感情を揺さぶられる」とか、「泣きのメロディとかじゃないのに、なぜか泣けてくる」というような、言葉にできない瞬間があると思うんです。「キャロル&チューズデイ」でも、少しでもそういう瞬間が作れていたらいいな、と。あとは放送は終わったけど、実際にリアルの現場でも「キャロル&チューズデイ」のライブが実現できたのはよかったなと。頭の中で考えてたキャラが現実化するというのは、とてもうれしいし(笑)。

──「キャロル&チューズデイ」をきっかけに、新たなミュージシャンや音楽作品を世に送り出すことができたわけですもんね。

いやいや、まだライブを2回やっただけなんで、やはり夢は大きく、いずれはフジロックとかコーチェラといったフェスに出られたら最高だなと思って。それも皆様のサポート次第なんで、よろしくお願いします(笑)。

TVアニメ「キャロル&チューズデイ」特集 TOP
「キャロル&チューズデイ」
Blu-ray Disc / DVD Vol.1
2019年10月30日発売 / FlyingDog
「キャロル&チューズデイ」Blu-ray Disc

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税込38280円 / VTZF-100

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第1話~第12話収録

三方背ケース+デジパック仕様

三方背ケース:キャラクターデザイン 斎藤恒徳描き下ろしイラスト

デジパックケース:オープニングコンセプトアート 上杉忠弘描き下ろしイラスト

映像特典
  • メイキングムービー「Story of Miracle Special Edition vol.1」(収録時間:30分)
  • オープニングテーマ「Kiss Me」Music Video
  • フラッシュアニメ「きゃろる&ちゅーずでい」第1話~第4話
  • ノンクレジットオープニング / ノンクレジットエンディング
  • 各話振り返り映像(第1話~第12話)
特典CD「CAROLE & TUESDAY Supporting Tracks Vol.1」

「VOCAL COLLECTION」未収録の劇中歌唱曲の数々を多数収録

豪華特製ブックレット「CAROLE & TUESDAY ~The Loneliest Girl~」(84ページ)

収録内容

  • メインキャラ設定/美術設定
  • キャスト座談会(キャロル役:島袋美由利/チューズデイ役:市ノ瀬加那/ロディ役:入野自由/ガス役:大塚明夫)
  • 各話ストーリー解説(第1話~第12話)
  • キャストコメント(ヨシュア役:梶裕貴/ピョートル役:蒼井翔太/シベール役:佐倉綾音/マーメイド・シスターズ役:浅沼晋太郎/GGK役:久野美咲)
  • 脚本家座談会 前編(脚本:赤尾でこ、うえのきみこ、中西やすひろ、野村祐一/アニメーションプロデューサー:天野直樹/プロデューサー:西辺誠)
  • スタッフコメント(音楽:Mocky/音楽:Benny Sings/世界観デザイン:ロマン・トマ/世界観デザイン:ブリュネ・スタニラス/美術監督:河野 羚/色彩設計:垣田由紀子/オープニング コンセプトアート:上杉忠弘/オープニング コンテ・演出:Bahi JD)
  • 窪之内英策 キャラクター原案・コメント
スタッフ

原作:BONES・渡辺信一郎

総監督:渡辺信一郎

監督:堀元宣

キャラクター原案:窪之内英策

キャラクターデザイン:斎藤恒徳

メインアニメーター:伊藤嘉之、紺野直幸

世界観デザイン:ロマン・トマ、ブリュネ・スタニスラス

美術監督:河野羚

色彩設計:垣田由紀子

撮影監督:池上真崇

3DCGディレクター:三宅拓馬

編集:坂本久美子

音楽:Mocky

音響効果:倉橋静男

MIXエンジニア:薮原正史

音楽制作:フライングドッグ

アニメーション制作:ボンズ

キャスト

キャロル:島袋美由利

チューズデイ:市ノ瀬加那

ガス:大塚明夫

ロディ:入野自由

アンジェラ:上坂すみれ

タオ:神谷浩史

アーティガン:宮野真守

ダリア:堀内賢雄

ヴァレリー:宮寺智子

スペンサー:櫻井孝宏

渡辺信一郎(ワタナベシンイチロウ)
1965年生まれ、京都府出身。アニメ演出家。主な監督作品に「カウボーイビバップ」「サムライチャンプルー」「坂道のアポロン」「スペース☆ダンディ」「残響のテロル」など。大の音楽好きとしても知られ、劇場アニメ「マインドゲーム」では音楽プロデューサーを務める。

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