コミックナタリー PowerPush - 映画「マン・オブ・スティール」
ゆうきまさみと観た「新しいスーパーマン」はドカン!と飛んで迫力重視、息もつかせぬ怒濤の展開
これ「バーディー」読んで作っただろう、って既視感ありました(笑)
──今日ご覧になられた「マン・オブ・スティール」で描かれているスーパーマンにも、そうした爽快さってありましたか。
昔のスーパーマンのほうは、たとえば飛んでるところなんかフワリとした浮遊感があって、ロマンティックな爽快感だったような気がしますけど、「マン・オブ・スティール」は溜めてドカン! って感じ。緊張感とスピード感重視の現代的な味付けで、リアリスティックな痛快感とでもいうような。だからストーリー的にも画的にも迫力はとても上がってますよね。
──確かにあの、今回の初速からトップスピード出てる感じっていうのは、「ドラゴンボール」以降というか(笑)。
僕のイメージするスーパーマンっぽさっていうのは、今回の映画で言うと、鉄塔を支えるところとスクールバスを押し上げちゃうところ。全身にじっくり力を込めて「ぬおおお」って、あの力んでる感じが僕にはスーパーマンっぽいかな。
──ははあ。わかります。
あと「ドラゴンボール」は知りませんけど、肉弾戦をやると街が粉々になりますよね。その粉々の街をリアルに描くほど、民間人が大量に死んでいくのが見える。
──映ってないけども。
映ってないけど、受け手にはわかってしまう。そこではちょっと、爽快さは削がれるかもしれない。そこは「バーディー」の最後でも悩んだところなんです。僕は描いていて、やっぱりできるだけ殺したくないんですよ。
──それは敵、あるいは悪人であっても?
そう。バーディーの場合はバーディーと同等の戦闘力を持った相手がそれほど出てくるわけじゃないので、相手を殺さなくても捕まえられるようにしてましたね。
──ちょちょいと伸しちゃう感じですね。
今回の映画でスーパーマンの敵はゾッドじゃないですか。同じクリプトン星人同士で戦っているから、同胞意識みたいなものがちらりとあってスカッと殺せないと思うんです。なにせスーパーマンは、生まれつき正義の塊みたいな人ですからね。
──アメリカ人の理想、弱きを守るヒーローですね。今作主演のヘンリー・カビルってイギリス人なんですが、割とケツあごで50年代のニューヨーカーっぽいというか、「マッドメン」に出てきそうな、ベタなアメリカ人ぽさを出してるなーと感じました。
古風で好ましいアメリカ人、っていうイメージをスーパーマンは常に持たされていたんですよね。原作者がそう思って作ったものが、受け入れられて定着していったのかもしれないですけど。だから冒頭の無精髭で働いてるところのほうが、現代的ないい男に見えたよね。
──確かに。ゆうきさんも古風な「良き日本人像」みたいのを意識することはありますか? あまりバーディーには投影されてないように思うんですが。
ないですね。つとむはもっと今風の軟弱な男だし。でも細部でね、今日「マン・オブ・スティール」を観てて、「これ、『バーディー』読んで作っただろう」みたいな既視感があるところ、いくつかありました。
──どのあたりですか?
クリプトン星の構造だとか、あと「マーカー連れてるじゃん!」とか(マーカー:「鉄腕バーディー」の作品世界で、主人に連れ添うマスコット的ロボットの総称)。あと宇宙船の中にお父さんのホログラムが……っていうのも、「あのときの宇宙船みたいじゃん!」って。
──「バーディー」から着想を得て作られた可能性も、なきにしもあらず。
やー、こういうのは往々にしてマンガ家の妄想なんですけどね(笑)。でも研究されてたらうれしいなあとは思いました。
昔のスーパーマンは説得力がないぶん「不思議力」はあったね
──「マン・オブ・スティール」ではスーパーマンの過去が明らかにされますが、ファンとしてはいかがでしたか。
クリストファー・リーヴの「スーパーマン」も、クリプトン星の崩壊から始まるんですよ。でも全然、あの頃のイメージとは違いましたね。昔のクリプトン星は氷の惑星みたいな感じで、大地も氷山のようで。崩壊までのアクションもここまでじっくりとは描かれてなかったです。
──星が崩壊するまでの描写に、結構時間を割いてましたね。
まあ、ヒーローものも大きくはSFの一種ですけどね。VFXが進化したことによって、よりSF映画に寄った感じはありました。VFXらしいところでいえば、赤ん坊のスーパーマンが乗っけられたカプセル、今回はザ・宇宙船ってビジュアルで精緻でしたね。昔のはウニのようにトゲトゲした外見だったんですよ。あれはあれで好きだったな。
──どの辺りがですか?
昔のほうが異世界感があるというか、説得力がないぶん、どうなってるのかわからない感じがありましたよね。
──なるほど。
クリプトン星人って僕らと同じ体格なんですね。そんな僕らみたいな形をした人たちが、遥かに進歩した世界を作ったとリアルに仮定すると、今回の映画みたいな感じになるんだと思うんです。いまの地球の技術の延長線上にあるものというか。だから説得力が持たされて、よりSFっぽくなっていると思います。
──確かに、「何十年か後にはこういうスマホ発明されてそうだな」と思うような描写もありましたよね。
はい。それに比べると昔のスーパーマンは、とにかく「不思議力」で動いている感じがするんですよ。わけのわからない力で動いているというか。物理的に考えたらこうなる、って考えられているものより、わけわからないものを見たい、という気持ちが強いんです、個人的にはね(笑)。
眠気を感じるヒマもない怒濤の展開
──総じて、今回の「マン・オブ・スティール」の満足度はいかがですか。
画的にはもう、満足度すごい高いですよ。それにクリストファー・リーヴの「スーパーマン」でいえば1、2が1作にまとめられているわけで、めちゃくちゃ見応えはある。
──2時間23分と長尺でしたが、それでも凝縮感ありました。
映画ってマンガの単位でいえばいわゆる読み切りですけど、あの物語を読み切り1本に収めることを考えると、すごいなと思います。それは脚本と監督の手腕ですね。
──特に気に入ったシーンはどこでしたか?
前半の放浪してるシーン、すごい良かったですね。無礼な奴にやり返すところとかも、昔の「スーパーマン2」でもああいうエピソードがあったのを思い出しました。スーパーマンが力を失ってさまよってるときにね、飲み屋で絡まれて、そいつに最後のほうでちょっとだけやり返すっていう。とにかく放浪シーンは、それだけもっと見ていたかったくらい。
──なるほど。ゆうきさんのように、過去の「スーパーマン」をとことん観てる人が観ても満足できそうですか。
もちろん。新解釈が興味深い一方で、オマージュ的な部分も多いので、「これはあれかな?」って楽しめると思います。ひとつだけ残念だったのは、お馴染みの悪役、レックス・ルーサーのレの字も出てこないっていうのが。
──でしたね。ひょっとしたら今後……。
そうなの?(配給会社の方に聞く) あ、すべて未定。そらそうですよね(笑)。
──最後に、これから映画をご覧になる読者の方に、ここは見逃しちゃダメってポイントなど、伝授していただけますか。
いやー、見逃すところなんてないでしょ。僕ね、今日すごく寝不足で来ちゃったんですけど、ウトウトともしませんでしたよ。尺も2時間半と長めだけど、何度も週刊連載みたいにね、ヒキの展開がぐわんぐわんと作り込まれているような。とにかく眠気を感じるヒマはなかったね。素晴らしかったです!
- 映画「マン・オブ・スティール」2013年8月30日(金)全国ロードショー
- 映画「マン・オブ・スティール」
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脚本・製作:クリストファー・ノーラン(「インセプション」「ダークナイト」シリーズ)
監督:ザック・スナイダー(「300<スリーハンドレッド>」)
キャスト:ヘンリー・カビル、エイミー・アダムス、ローレンス・フィッシュバーン、ケビン・コスナー、ダイアン・レイン、ラッセル・クロウ
ゆうきまさみ
1957年12月19日北海道生まれ。1980年、月刊OUT(みのり書房)に掲載された「ざ・ライバル」にてデビュー。同誌での挿絵カットなどを経て、 1984年、週刊少年サンデー増刊号(小学館)に掲載された「きまぐれサイキック」で少年誌へと進出。以後、1988年に「究極超人あ~る」で第19回星雲賞マンガ部門受賞、1990年に「機動警察パトレイバー」で第36回小学館漫画賞受賞、1994年には「じゃじゃ馬グルーミン★UP!」と立て続けにヒット作を輩出する。また1985年から月刊ニュータイプ(角川書店)にて連載中であるイラストエッセイ「ゆうきまさみのはてしない物語」などで、ストーリー作品とは違う側面も見せている。2012年には、1980年代より執筆が続けられていたシリーズ「鉄腕バーディー」を完結させた。
2013年8月15日更新