「BURN THE WITCH」久保帯人(原作者)×川野達朗(監督)対談|久保帯人の“王道“を征く新作を気鋭の監督はどうアニメ化したのか?約1万4000字の大ボリュームで語り合う

「BURN THE WITCH」と「BLEACH」のつながり

──「BURN THE WITCH」はそもそも週刊少年ジャンプの創刊50周年を記念した読み切りとして発表された作品ですが、どういった経緯で発表することになったんでしょうか。

「BURN THE WITCH」場面カット

久保 「ジャンプの50周年企画で、いろいろな作家さんに読み切りを執筆してほしいんですよね」って編集長にお願いされたんです。それでその中の1つを僕が描くことになったんですけど、「新しい作品も読みたいんですけど、『BLEACH』関連のマンガも見たいんですよね」って言われて「ええっ?」ってなって(笑)。

──「BURN THE WITCH」では読み切り版のラストで尸魂界(ソウル・ソサエティ)の西梢局(ウエスト・ブランチ)が登場するなど、「BLEACH」とのつながりも示唆されていますが、そういったリクエストがあったんですね。

久保 そうですね。新作も「BLEACH」も見たいなら、両方入ってるコレをやろうと思って。もともと「BLEACH」の死神たちは東梢局(とうしょうきょく)というところにいて、東梢局という単語を出したときから「東があるってことは西もあるよな」とは考えていたんです。ただ「BLEACH」だけでもけっこう壮大な話になっていたので、劇中で西梢局にも触れたらわけがわからなくなるなと思って、本編では切り捨てていて。それを今回引っ張り出してきた形です。

川野 僕はなんで舞台がロンドンになったのかも気になっていて。

久保 なんでだろう……。西で描くならロンドンだなと最初から思っていました。

川野 イギリスって日本と同じですごく異質というか。歴史的にも侵攻を受けづらかった場所じゃないですか。

実在するロンドンの紋章も劇中に登場。紋章にはドラゴンが大きく描かれている。

久保 島国ですしね。

川野 そうなんです。どちらも独自の文化をどんどんアップデートしてきた場所でもありますし。「BLEACH」で日本、「BURN THE WITCH」でイギリスを作品の舞台にしたのは、ただ東と西というだけじゃなくて、何か設定があるのかなってちょっと深読みしていたんです。

久保 いやあ、今はとりあえず「なんとなくロンドンにした」って言っておきたいですね(笑)。

──読み切り掲載後、すぐにアニメ化のオファーが来たんでしょうか。

久保 そうですね。その時点でアニメ化したいという話が来ていると聞きました。でもさすがに読み切りだけだとできないだろうから、「(続きを)描かなきゃいけないんでしょう?」って思っちゃって(笑)。

川野 確かに読み切りだけだと尺が足らないですからね。

久保 やっぱりアニメは観たかったので「じゃあ描くよ!」って伝えて。そのときは「読み切り版と合わせて単行本1冊くらいになるように、100ページくらいの短い話を連載用に描いてください」って言われたんです。まあジャンプ側は「何ページ描いてもいいですよ」ってスタンスだったので、思いつくままに描いたら多くなっちゃったという。

読み切り版の一部シーンはアニメにも組み込まれている。

──監督にはどういった形でオファーが来たんですか?

川野 所属しているteamヤマヒツヂのTwitter経由でお話をいただいたんです。ただお話をいただいたときって、Twitterアカウントを開設してから1カ月くらいしか経っていなかったんで、突拍子もない話だと思ってしまって。懸念点としては、teamヤマヒツヂが小さいチームなのでキャパ的に無理なんじゃないかということだったんですが、スタジオコロリド内にあるチームなので、コロリドさんや別でWIT STUDIOさんの力を借りたらできるんじゃないかということで、「やらせていただきます」という話になりました。

のえるの肌が見えるシーンはやっぱり欲しい

──そこから連載版のマンガとアニメを同時進行で制作する形で進めていったんですよね?

童話竜の一頭・シンデレラ。

川野 そうですね、原稿もできあがったものから順々にいただいて。制作が始まる時点でネームは全部いただいていたんですけど、原作の第4話で童話になぞらえて名付けられた童話竜(メルヒェンズ)という7頭の竜が出てくるじゃないですか。あそこを読んだときに「最終話で話を広げてきた!」って思って。

久保 僕、ものの名前を考えるのが好きなんですよ。「童話竜」っていう設定や名前を考えたときに、「何頭か思いついちゃったから、名前だけでも出しておきたいな」って思って。結局名前は7頭とも出したんですけど。

川野 アニメでも僕は童話竜の紹介シーンが好きなんですよね。ただどうやって登場させるかをちょっと迷って。最初「シルエットにしますか?」って話もしたじゃないですか。だけど、「まだシルエットができてない」っておっしゃられていて。

久保 そうそう、シルエットはまだ考えてないんです。

川野 だからアニメでは竜の名前の元になった童話の本を並べていったんですけど、あのシーンはネームを読んでいても印象的でした。

──マンガの制作と同時進行でアニメを作っていくことで大変だったのはどんな部分でしょう。

久保 実はのえるの服が破れていたこととか、そうじゃないですか?

ドラゴンの攻撃を回避した際に服が破れてしまったのえる。

川野 ああ、アニメ第1話の。

久保 ドラゴンとの戦闘でのえるの服が破れるんですけど、あれがネームでは伝わっていないまま制作に入っちゃったんですよね。完成原稿を渡したときに肩の部分が破れているんだってわかったらしいんですが、もうその部分のアニメができあがっちゃっていたんです。

川野 久保先生のネームってすごく描き込まれているので、ある程度はそれを参考に作業を進められるんです。ただ細かいところではやっぱり判断がつかない部分もあったりして。

久保 「直すのは無理かもしれないです」っていうのを監督から聞いていて、「残念だな」と思っていたんですけど、アフレコで映像を観たときに直っていたので、「描き直してくれたんだ」って。

川野 「直せなくもないけど大変ではあるよね」ってちょっと悩んだんですけど。でものえるの肌が見えるシーンは欲しいだろうと。

久保 ああよかった(笑)。僕も話を聞いたときに「まあ破れたほうがセクシーなんだけどな」とは思っていたので。

「BURN THE WITCH」場面カット

川野 原作を読んだ後にアニメを観て破れていなかったら、お客さんが怒るんじゃないかなとも思って。ただあの設定があとあと悪いほうに効いてしまったんですよね。2話、3話とみんなあの状態の服で描いてくるっていう(笑)。

久保 ああなるほど、ずっと破れている。

川野 だから「破れてないです」って指示を何回も書いたんです。ちょっと印象的な設定があると、みんなそっちに引っ張られて描いてしまうんですよね。

ビルの上に屋敷が建っている理由

──久保先生のほうからアニメ化する際にリクエストしたポイントはどんなところでしょう。

久保 したかなあ……。途中途中で注文つけたりはしましたけど、大きいものはなかったかもしれないです。

川野 そうですね。本当に最低限のチェックレベルというか。例えば「のえるはもうちょっと丸顔なんですよね」とか、それぐらいの感じでした。

久保 構成に関しても、ちゃんとわかって足したり削ったりしているなっていう意図を感じられて。単純に「このシーン入れたいから、ここ削っちゃうよ」みたいなことがなかったんです。

オスシちゃんとともにリバース・ロンドンの上空を飛ぶバルゴ。

川野 例えば変更点で言うと、第1話でバルゴが掃除夫のジミーに突っ込むシーンなんかがそうですね。アニメではもうちょっとリバース・ロンドンの背景を見せたいということで、少し街の中を飛ぶシーンを追加したりしているんです。ニニーやのえるがタワークレーンに避難するシーンも原作からの変更点ですね。

久保 あのシーンは原作では鉄塔だったんです。「クレーンにしたいんですけど」って言われて、「そこでアクションをさせたいんだろうな」「クレーンにエリーを着地させたいんだろうな」っていう意図がすぐにつかめましたから。自分が描くわけじゃないから「大変だろうな」って思いながら聞いてました(笑)。

タワークレーンで対峙するエリーとリッケンバッカー。

川野 どうにかしてエリーをタワークレーンで走らせようと思ったんです。

久保 エリーもそうですけど、全体を通してドラゴンの動きというか細かい部分がすごくいいですよね。街で爆発があって、「行けばいいんでしょ」ってニニーが言っているときに、マーシャルがニニーのほっぺをツンってやるんですけど、あれもかわいくて。すごく細かいところまでこだわって芝居を付けてくれているなっていう印象がありました。僕は基本的にアニメでオリジナルを足して、その分原作シーンを引かれるっていうのはキライなんですけど、「BURN THE WITCH」はちゃんと理由がわかる付け足しだったり、変更だったりしたので、基本的には安心してお任せしていました。

──制作中のやり取りって、どういう形でされていたんでしょうか。

中央に鎮座しているのがウイング・バインドの建物。

川野 基本的には担当の方に間に入ってもらって、チェックしていただくという流れでした。ただ最初に先生と連絡先を交換させていただいていたので、人をたくさん介して伝言ゲームになると難しい内容やさっと知りたいことだけは直接聞いていましたね。例えば「ウイング・バインドのお屋敷は、なんで普通のビルの上に建っているんですか?」とか。

久保 ああそうだ、聞かれましたね。

──ちなみにどういった理由でビルの上にお屋敷が建っているんでしょう。

久保 リバース・ロンドンって建物がなくならない設定なんです。新しく建物を建てるとなると、古来からある建物の下に魔法で建てていく。なのでウイング・バインドの建物は、あのお屋敷があったところの下にビルが建ったんで、ああなっているんです。これは設定的に作中でまだ言っていないことなんですけど。

リバース・ロンドンの風景。

川野 だから高層建築物なのに木とかがいっぱい生えている建物があるのも、もともと路上に大きい木があってその下に建物とか町を作っていったから残っているっていう。

久保 ちなみに、この話を聞いてから原作を読み返すと違和感に気付く人がいると思うんですが、その違和感はこの先描くとこなので置いといてください(笑)。

──なるほど。「BLEACH」のときもそうだったと思うんですが、細かく決まっているけど本編には出ていない設定がたくさんあったりするんですね。

久保 そうですね。話を楽しめる最低限の説明だけをして、後は想像で楽しんでもらえればと思っているんです。僕、小説を読んだりゲームをしたりするときも行間で読ませてくれる作品がすごく好きで、全部言われてしまうのが嫌なんですよ。だから基本的に話に関係ないことは言わないようにしようと思っていて、説明は最小限にする形で描いていますね。