劇場中編アニメーション「BURN THE WITCH」は、ロンドンの裏側に広がる“リバース・ロンドン”を舞台に、魔女と竜を描くファンタジーアクション。10月に全国35館の劇場にて2週間限定でイベント上映が行われ、同時にAmzon Prime Video、ひかりTVにて編集版も配信されている。また、A-on STORE、プレミアムバンダイ内のA-on STORE支店で販売されるBlu-rayコレクターズエディションの予約締め切りが11月17日23時に迫っている。
コミックナタリーでは「BURN THE WITCH」の特集を複数回にわたり展開中。第3弾となる今回は、原作者の久保帯人と監督を務めた川野達朗の対談をお届けする。川野監督は「自分が名前を知らないような若い人に監督をやってほしい」という久保からのリクエストによって本作に携わることになったという。久保自身が川野監督をはじめとしたスタッフの手腕に信頼を置き、「とても思い入れのある作品となった」とコメントするほどのタイトルとなったアニメ「BURN THE WITCH」。2人の出会いや制作時のやり取り、キャストオーディションの裏話などはもちろん、「BURN THE WITCH」が描かれることになった経緯や「BLEACH」との関係性まで、約1万4000字でたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 宮津友徳
若くて僕が名前を知らないような方に監督をやってほしい
──制作にあたって先生とスタッフ間でかなり綿密にやり取りをしたと聞いているのですが、初めてお会いした際どのようなお話をされたのでしょうか。
久保帯人 初めて会ったとき……僕の仕事場に来ていただいたんですよね。確か去年の5月頃でしたっけ。
川野達朗 そうですね。第1話のネームをいただいたあとくらいに。ただそのときって、まだ制作も進んでいなかったのでそこまで突っ込んだ話をしたわけではないんですけど……。あっ、でもニニーたちのマントの話はしましたね。「マントは全部手描きします」って。
久保 ありましたね。ニニーたちのマントはシェパードチェック柄なんですけど、マンガでは模様だけを別で作っておいて、マントの形に沿わせて模様を貼る形で進めようと思っていたんです。「アニメもそういうやり方で作るのがいいんじゃないですか」って話をしたんですけど、「それだと動きがわかりづらくなるんで、模様も含めて風になびいているところなんかも全部手描きします」っておっしゃられて。「正気か?」と思いました(笑)。
川野 アニメーションの難しいところで、(模様だけ)貼る形にしちゃうと立体感が削がれていくので描くっていう判断をしたんです。まあ僕は監督という立場なので、みんなに「やってね」って言うだけなんですけど(笑)。
──そもそもどういった経緯で川野さんが監督を務めることになったんでしょう。
久保 アニメ化のオファーをいただいたときに、僕から「この作品の監督です、みたいな代表作がない方でもいいから、とにかく若くて僕が名前を知らないような方に監督をやってほしい」っていう話をしたんです。それで探してもらったのが川野さんでした。
──若い人を監督にしてほしいというのはどういった理由からだったんですか?
久保 せっかくアニメになるんだから、自分がこれまでに観たことのない処理だったり表現だったりをしてくれる人にお願いしたかったんです。やっぱり作品を作るにあたってはこれまでの経験の蓄積をベースにしていくと思うので、例えば自分と同世代や、上の世代の方に監督をしてもらうと、僕自身もその世代の方々が作ってきたアニメを観ているので「ああ、このシーンはこういう表現をするよね」っていうのがある程度想像できてしまうんじゃないかと考えたんです。もちろんそれもいいんですけど、僕の想像を超えるような新しいものを作る方にお願いしたいというお話をしました。それで「この方が監督候補です」って、川野さんがアクション作画監督として携わられた「(甲鉄城の)カバネリ」の映像をいただいて。キャラがクルンクルンと回りながらアクションをしているシーンとかだったかな。
川野 あ、それを観ていただけたんですね。
久保 よくこんなの描けるなと思って観てました(笑)。マンガ家がアクションシーンを描くときって、もちろん頭の中でキャラを動かしはするんですけど、動きがよくわからないようなところは省略して、見栄えのするところでキャラを止めて描くんです。だから自分が描いた前後の動きくらいまではわかるんですけど、それ以外の細かいところってわからなくて。
川野 アニメーターはそういう省略された部分を補完するのが、仕事の1つだったりするんですよね。
久保 そのあとに監督が描かれた「BURN THE WITCH」のイメージボードを見せてもらったんですが、キャラがすごくかわいくて。「カバネリ」は割としっかりした線で描かれていたので、「こういうタッチの方なのかな」とも思っていたんですが、イメージボードはさっぱりとした洒落た線で描かれていたので、絵柄もしっかり変えられるんだなって安心したのを覚えています。
川野 「カバネリ」は、業界内でも線が一番多いくらいの作品だったんです。これは僕の好みの話なんですが、個人的には線を抜いて少なくする絵柄のほうが好きで、自分で監督をするならその方向性でいきたいと考えていたので、イメージボードはその辺りを意識して描きました。
キャラクターのためにマンガを描いている
──本作の劇場上映時に、久保先生はジャンプで「愛もセンスもある監督、副監督、スタッフの皆さんのお陰でとても思い入れのある作品となりました」とコメントを出されていましたが、監督のどういう部分にセンスを感じたんでしょう。
久保 本人を前にして言うのは恥ずかしいな(笑)。
川野 このコメントが出たとき、「おい、これを見ろ」って、副監督が褒められていたのをうれしそうに教えてくれたんですが、僕はまだジャンプを買えていなかったのでネタバレされました(笑)。すみません、話の腰を折っちゃって。
久保 いえいえ。やっぱり最初のイメージボードをもらったときから、「いい絵を描くな」と思っていたんです。上から目線に聞こえたらアレですけど(笑)。
川野 ありがたいです。
久保 監督も言っていましたが、僕も線の少ない絵が好きなんですよ。マンガでは影とかに線を入れるタイプなんですけど、カラーのときはいろいろ試していて。時間がないときはマンガとまったく同じ線の入れ方をしたものに色を塗るんですが、時間があるときは線を少なくして色を塗ったりするんです。線って少なくするほうが難しいんですよね。
川野 そうですね。
久保 イメージボードを見たときに、少ない線で描いているのに迷いがないので「線を選ぶセンスがあるんだな」って感じて、「これは任せて大丈夫だな」って思いました。
──川野監督にはコミックナタリーで展開している「BURN THE WITCH」特集第2回のスタッフ座談会にもご出演いただいていますが、「BURN THE WITCH」の魅力として「久保先生は第一に王道作品として描いていると思っていて、そのサービス精神が魅力的」とおっしゃっていましたね(参照:劇場中編アニメ「BURN THE WITCH」特集 teamヤマヒツヂスタッフ・川野達朗(監督)×清水勇司(副監督)×山田奈月(キャラクターデザイン)座談会)。本作の魅力についても改めてお伺いできればと思うのですが。
川野 これも本人を前にして言うのはハードルが高いですね(笑)。ここで言う王道っていうのは、「こういうお話が王道のラインだよね」っていう話の内容としての「王道」ではなくて、例えばカッコいいシーンやエモーショナルな場面が出てきたときに、読者をしっかりと「おっ!」と思わせるパワーがある、説得力を持たせられるという意味での「王道」なんです。多くの人を「おっ!」と思わせることって案外難しいと感じていて、この作品にはそれができるパワーがあると感じています。
──やはり久保先生も読者を楽しませたい、という気持ちを第一に執筆しているんでしょうか。
久保 そういう気持ちがまったくないと言ってしまうと違うんですけど、個人的には劇中に登場するキャラクターたちのためにマンガを描いているっていうのがまずあるんです。次に「自分が読んで面白いか」「自分でお金を払って読みたいマンガかどうか」っていうのを基準にしていて。自分がいいと感じないものに、他人にお金を払わせるのは詐欺だと思っているので、そこは念頭に置いて描いています。
次のページ »
「BURN THE WITCH」と「BLEACH」のつながり