川野達朗(監督)×清水勇司(副監督)×山田奈月(キャラクターデザイン)|teamヤマヒツヂの挑戦、そしてこれから

「オーディションにいっぱい呼ぼうよ」って

──今回の音楽は井内(啓二)さんがご担当されていますね。重厚なオーケストレーションがお得意な方というイメージがあります。

「BURN THE WITCH」の場面カット。

川野 井内さんは遊びがあるんです。「えっ? こんな音使うんだ」とか、「こんな楽器を使うんだ!」という驚きがあって、劇伴の幅が広がりました。

──遊びがある、というと具体的にはどういうことですか。

川野 オーケストレーションが得意な方ですし、もちろん井内さんもかっちりはしているんです(笑)。ただ「遊び」ということで言うと、例えば第1話の世界観を説明するナレーション裏でかかっている曲の太鼓の音は、実際にイギリスの楽器を買い付けて使っているんです。

──この作品用に、現地の楽器を輸入されたんですか。

川野 そうです。しかも5つも。大きすぎて奥さんから怒られたと聞きました(笑)。

清水 向こうの太鼓は牛革ではなくて、ヤギの皮なんですよね。それで音が変わってくる。

川野 それくらい、楽器に対するこだわりがある方なんです。王道的なだけではない、別の視点を持たれている。イギリスが舞台の作品とはいえ、普通は打ち込みや、生で録るにしても日本にある楽器で済ませてしまいますよね。それを生オケで現地の楽器を持ってきてしまう行動力が面白くって(笑)。

──音でいうと、当然キャストも非常に大事になってくると思います。キャスティングはどのように進められたのですか。

セシルは2度死ぬ(セシル・ダイ・トゥワイス)元メンバーのメイシー・バルジャー。ドラゴンを引き連れてリバース・ロンドンに姿を現す。

清水 僕も監督も、声優決めをする経験がほぼなかったんですよね。だから最初にボイスサンプルをいただいた段階で決め込まないといけないのかなと思っていたんです。

川野 なので1人の役に対して3人くらいに絞って音響監督の三好(慶一郎)さんに提案したのですが、三好さんから「(最初から決め打ちにしないで)もっとオーディションにいっぱい呼ぼうよ!」と言われたんです。

──それはどうしてですか。

川野 「サンプルだけじゃわからないから」と。実際の芝居を聞いて、アクションに対するリアクションや、チャンネルを合わせられるかも全部確認してから決めてほしいんだと。なので、現場で1キャラクターに対して5人、6人ぐらいオーディションしました。

──倍近くの人数を。

川野 ええ。しかも言われた通りだったんです。今回起用したキャストは、ボイスサンプルでは、そんなに目をつけていなかった人も多かったんです。

清水 あと現場で聞いて、「このキャラじゃなくて、別のキャラにしよう」となった人もいました。

──ちなみに三好さんというと、外画で多く音響監督を担当されている方という印象もあります。

川野 外画って、音響監督によって言うことや、指示が変わったりするらしくて、そこに対応する能力がすごく鍛えられるらしいんです。三好さんは「本当に手練れている人はチューニングがすごい」と言われていて。実際に現場で三好さんが、「もう少し幼く」とか「品悪く」なんてワードを言ったら、その途端、パツン!と変わるんです。これは確かにボイスサンプルじゃわからないなと思わされました。

teamヤマヒツヂが描きたい“ドラマ”

──ラストカットが、原作と違って読み切り版のラストになっていますよね。

川野 ああしないと、映画としてみた時に締りが悪いかなと。それとバルゴとのえるの関係が、それまでの流れから急にドラマチックになるので、最後は「BURN THE WITCH」らしくにぎやかに終わるということは意識しました。

──先ほど、テーマは冒頭のモノローグにあるとお話しいただきましたが、それを表現するための工夫などはありましたか。

メイシーが発見し、育てたドラゴン・エリー。

川野 ニニーとメイシーの対比は、少し気をつけました。ニニーはほとんど原作と同じですが、メイシーの考えは強調したつもりです。ニニーは出世したい、勝ち取りたいという感覚をもっている。いっぽうで、メイシーは自分を体現できなくて、ニニーやドラゴンに自分のアイデンティティを乗せてしまっている。そこに対して、「自分で歩こう、進もうよ」という差を見せて最後につなげる必要があるので、メイシーのはっきりしない感じは強調しようと。

──監督の中ではニニーやのえるは自分の足で立っていける人なんですね。

川野 のえるにいたっては、もうすでに立っている人だと思います。ニニーは何かになりたいという欲求や、苛立ちが行動原理にあってのえるに甘えている部分もあるのですが、のえるは出世するつもりなんてないわけで。そういう関係性もある種、ニニーを、そしてのえるを強調することにもつながっているのかなと。2人のキャラクターに、本質的な相性のよさがあるんですよね。

──今回この作品を制作してみて思った、今後teamヤマヒツヂとしてやっていきたいことはありますか。

川野 キャラクターのドラマを作っていきたいですよね。

清水山田 そうですね。

「BURN THE WITCH」の場面カット。

清水 「BURN THE WITCH」も、ドラマだと思うんですよ。もっと言うとコメディドラマだと思っていて、その意識は作っているときも大事にしていました。

川野 原作のシーズン2制作も発表されたので、機会があれば続編もやってみたいですね。ジャンプに掲載されたシーズン2のネームを見ても、なんとなくドラマっぽい気がしていて。今回はアクションが多かったので、次はさらにドラマをメインにしてやると、メリハリがあって面白いのかなと。

──お三方はドラマを作るのがアニメーションを制作する動機なのですか。

清水 そうですね。自分が演出するのなら、やっぱりドラマを描きたいなと思います。

──なるほど。では最後に特集第1回の取材時にキャストの方々から、皆さんに「聞いてみたいこと」をうかがっておりまして……。「第3話でのえるが胸の上に飲み物を乗せてスマートフォンをいじっているカットは清水さんのこだわりとのことですが、ほかにこだわりのカットはありますか」と(笑)。

「BURN THE WITCH」の場面カット。

川野 オーディオコメンタリーの収録時に話したやつですね。

清水 これはただ、その絵を描きたかっただけで……。

山田 確か制作時、胸の上にタピオカドリンクのカップを乗せるタピオカチャレンジが流行っていたんです。あと清水さんが描くのえるは、絵コンテだと気持ちおっぱいが大きいですよね(笑)。

清水 僕、大きいのが好きなので(笑)。ええっと……こだわりはスタッフみんなが、それぞれにあったと思うんです。でも、それは僕らが言うことでもないかなとも感じていて。映像の中にたくさん入っているので、視聴者の方々に見つけてもらえるとうれしいです!

※記事初出時、キャラクター名に間違いがありました。お詫びして訂正いたします。


2020年11月13日更新