佐藤元を殺せるのは、徳留慎乃佑しかいない
──今回「ブッチギレ!」のBlu-ray / DVD-BOXに収録される第1話のコメンタリーで、サクヤ役の土岐隼一さんが「佐藤さんがこんな荒々しいキャラをやるのは初めて見た」とおっしゃっていたそうです。佐藤さんとしても一番星を演じたことで、これまでの役にはない、新たな扉を開いた部分はあったのでしょうか。
これまで演じてきた声が大きいキャラクターは、元気だけどいざというとき冷静に物ごとを考えられるタイプが多かったのですが、一番星はまあうるさいし、止まらないし、一回走り出したら全然言うことを聞かない(笑)。芝居をしている自分も制御不能というか。でも僕自身とすごくリンクするところもあって。僕もよくまっすぐだとか根気強いだとか、頑固と言われますし。だから一番星が人から言われる言葉も、自分のことのように素直に受け止めて聞いていましたね。それに彼自身いろんな人の意見を聞いて、近藤勇として覚醒していくところがあったので、とにかくほかのキャストの皆さまのお芝居をギリギリまで残って聞かせていただいて、この人はこういうふうに芝居するんだ、こういう役作りをしてこういう新選組を作ろうとしているんだというのを、自分の中に取り込んでいったというのはありました。
──アフレコ現場では感染症予防のカーテンがビリビリ揺れるほど、大きな声を出されていたとか。
周りからもうるさいと言われました(笑)。一番星というキャラクターを演じるうえでは、馬力が一番の武器になる。そこを求められているなら、マイクを壊すくらいの勢いでやろうと。そこで選んでいただけたなら、期待以上のものを出そうと思っておりましたので、頭がくらくらするくらいの大声を出しました。体力的にはすごく大変でしたが、楽しかったです。
──先ほど羅生丸役の八代さんとのかけ合いが楽しかったとおっしゃっていましたが、ほかに忘れられないアフレコ時のエピソードがあれば教えてください。
ラスボスの安倍晴明役として、事務所の同期の徳留慎乃佑くんが出演していたことですね。本当に知らなかったんです。まさか監督が僕と徳留くんのトーク番組「げんしんブラザーズ」を見てくださっているとは思いませんでしたし、監督が「佐藤元を殺せるのは、徳留慎乃佑しかいない」とおっしゃっていて(笑)。大サプライズでしたが、今の芝居を同期に見せられたのは、とてもうれしかったですね。彼も彼で、一瞬で熱量を感じ取ってすぐにギアを変えてきて。この作品の熱量ってすぐ伝わるものなんだと思いました。
僕の信念ってなんだろう、生き方ってなんだろうと考えさせられた
──作中には個性豊かなキャラクターが登場しますが、佐藤さんの“最推し”は誰ですか?
松代藩士の佐久間象山先生です。彼だけは戦争なんてしょうもない、これからはより自分の頭で考える時代になると、先の未来を読んでいた。一本槍しか考えがなかった一番星に、最も影響を与えたのは象山先生だと思うんです。一番星に「先の未来を見ろ」と道を示してくれたからこそ、弟の羅生丸に「俺たちと罪を償って生きろ、ここなら咎人でもやり直せる、新選組に来い」と言えたんだろうなと思います。一番星が未来を見据えるようになったのは象山先生のおかげですね。
──確かに一番星の世界が一気に広がった感じがしますね。
雑面ノ鬼の元帥に従い、魂を武器にして異国と戦おうとする羅生丸に対しても「お主は何がしたい、自分の意思はどこにある」と投げかける。監督がずっと「日本を革命していくような若者たちを描きたい」とおっしゃっていたのですが、「自分の意思はどこにある」というのは、この作品を通じてすごく考えさせられるところでした。
──羅生丸もその質問に答えられない自分に気付いて変わっていきました。
一番星もそうで、親の仇を取ったあとはどうするという問いに答えられなかった。もし先生がいなかったら、ただの復讐劇で終わっていたと思うんです。先のことばかり考えても仕方ない部分もあるかもしれませんが、例えば未来の子供たちのために何が残せるかとか、未来のためにこういうスキルを身に付けなければいけないとか、そういったことを踏まえたうえで動かないといけないだとか。さまざまなことを考えさせられました。
叶うのであれば続編で坂本龍馬に会いたい
──実際に幕末時代に活躍した人物の替え玉になれるとしたら、誰になりたいですか?
土方歳三さんですね。実際の歴史では、彼の仲間たちは殺されてしまうわけですが、近藤勇さんに関しては晒し首にされて、心苦しい中でも愛する妻がいて、自分の信念を貫くために、最後の最後まで政府に抵抗し続けた。そんな土方歳三さんが、最後に見た景色はどんなものだったのだろうと。希望だったのか、絶望だったのかを知りたいなと思います。
──信念を持った人物がお好きなんですね。
大好きです。勇気をもらえますし、自分自身もがんばろうと思えるので。
──最後にアニメ「ブッチギレ!」をまだ観たことのない方に、ひと言メッセージをお願いします。
とにかくなんでもアリという作品で、歴史にもきちんと沿っていてファンタジー要素も青春群像劇もラブロマンスもあって、それらを全部バランスよく描いているのがものすごいなと、いち視聴者としても感じています。1人ひとりが抱く信念の強さは、日本の歴史において幕末時代が一番強いと、僕は思っています。自分の心を貫く彼らの姿に刮目していただき、ぜひ勇気を持って、自分が成し遂げたいことはなんなのかを考えてもらえたらうれしいです。もし叶うのであれば続編ができた暁には、坂本龍馬に会いたいですね。
──アニメでは象山先生から、一番星と気が合う男として坂本龍馬が紹介されていましたね。結局会うことは叶いませんでしたが……。
坂本龍馬は僕にとって、本当に憧れの人です。そんな彼と替え玉の一番星とが出会ったら、どんな話になるのだろうと、常に気になっているんですよ。一番星は日本国内に収まる男ではないと思っていて。坂本龍馬の意思すら継ぎそうだなとも思いますし、世界を見て回りそうな気がします。こういうパターンもあるのではないかと考えられるのがこの作品の面白いところかなと思いますので、いろんな妄想を膨らませてみていただきたいですね。
プロフィール
佐藤元(サトウゲン)
3月22日生まれ、神奈川県出身。アイムエンタープライズ所属。主なアニメの出演作に「君は放課後インソムニア」(中見丸太役)、「HIGH CARD」(フィン・オールドマン役)、「よふかしのうた」(夜守コウ役)、「Dr.STONE」(クロム役)などがある。