「BOYS BE…」=都市伝説、現実的じゃないからこそ面白い
小沢 そういったページ割りのコツがあっても、毎回ハッピーエンドで600話分も作るのは大変ですよね。
イタバシ 実は1回バッドエンドもやったことがあるんです。最初のシリーズの第2話なんですけど。第1話はハッピーエンドだったから、第2話はフラれる話にしてみたら、アンケートの結果がひどいことになって(笑)。たぶん「BOYS BE…」史上ワースト。それでフラれる話はダメなんだって気付いてからは、ずっとハッピーエンドを書き続けたんです。
玉越 バッドエンド、受験、クリスマスの話は人気がないですよね。
小沢 クリスマスもですか? 毎年やってましたよね?
玉越 季節ネタなので毎年やってましたが、「このリア充が!」みたいな気持ちが入ってきちゃうんでしょうね。受験は現実的な気持ちになっちゃうのが原因かなあ。
小沢 実は、自分自身の体験を描いたものもあったりするんですか?
イタバシ まんま使った話はないけど、実話が入ってるものはあります。たとえば1stシリーズ第1話の海水浴に行くエピソードって、僕が大学の時にサークルで新島へ行ったときの話がもとになってるんですけど、現実にはかわいい女の子になんか出会ってません(笑)。
玉越 僕の体験が採用されたやつもありますね。カセットテープに自作のラジオ番組を入れて渡す話。音楽を入れたりして、最後に「○○くんが君のことを好きだと言ってるよ」って告白をするという、今思うとおぞましいことを……。でも、やっぱりマンガにするなら失敗談のほうが面白くてネタになるんですよね。
イタバシ 毎週やってるとネタなんてすぐなくなるので、いろんな人に恋の思い出を聞くんです。友達に彼女との馴れ初めを聞くんですけど、どの話も絶対そのまま使えない。「告白は?」って聞いても「いや、してないけどなんとなく付き合いだして」とかそんなのばっかり。現実の恋愛って、ダラダラッとしてるんですよ!
小沢 あー、確かに。
イタバシ それで、エピソードよりシチュエーションが大事なんだって気付いたんです。たとえば、陸上部だと男女がはっきり分かれているけど、テニス部なら混合ダブルスなんかもあるから距離が近いとか。そういう細部を生かすことで、物語の入り口をリアルにしていく。小沢さんがさっきおっしゃってた自転車の2人乗りカップルの話も、たぶん馴れ初めを聞いたら「あー、つまんね」ってなるんです。でも、小沢さんが目撃したその場面はすごくリアルじゃないですか。そういうところからはお話が生まれる。だから、「『BOYS BE…』は都市伝説だ」ってよく言ってたんです。「友達の友達が体験した」みたいな話だと思えって。
小沢 あー!
イタバシ 友達で経験したやつはいないけど、友達の友達の話として聞いたら「ああ、あるかも」って思える話。それが「BOYS BE…」なんです(笑)。
「あまーい!」じゃなく「にがあまーい!」大人の恋模様
──小沢さんは「BOYS BE… ~young adult~」をお読みになられて、どう感じましたか?
小沢 俺が感じたのは、今回のシリーズでは女性のフォルムがより丸くなったということです。曲線が大人の女性の曲線に見える。
玉越 まさにその通りです。「young adult」は大学生や社会人が主人公なので、女の子も少し大人っぽくしています。
イタバシ 話もやっぱり10代の頃とは違う。「BOYS BE…」が「あまーい!」だとしたら、「young adult」では「にがあまーい!」みたいな味が出せればいいなと思ってます。
玉越 マガジンでやっていたときは「好きだ!」から付き合うまでという、わかりやすい感じだったけれど。例えば「young adult」第2話の終わり方は、ふんわりしてますよね。明確な「好きだ!」もないし、「付き合おう」もない。「大人ならわかってくれるだろう」とムードで伝えようとしています。
イタバシ 中高生だと好きな子と付き合えたらそれこそ有頂天で「ハッピーエンド!」ってなれるけれど、やっぱり社会人になると「それはそれ」になってくる。恋愛はうまくいったけど、仕事はうまくいってませんとかね。もちろん基本は甘い話なんだけど、ちょっとビターなものが入ってると、より読者に響くんじゃないかと思って。
小沢 コクが出てね。
──大人の恋愛を描く一方で、中高生の頃を回想するシーンも多く入ってきますよね。
イタバシ 昔の「BOYS BE…」の続きみたいな感じで読んでもらえるといいなって思ってます。高校生のとき恋に悩んでいた男女が、お互い社会人になって街で「お、○○じゃん!」って再会するような。たぶん僕自身が若いときに望んでいたことなんでしょうね(笑)。そういう「青春がよみがえる」みたいな感覚って、みんなどこかで期待してるんじゃないかな。
小沢 読んでて「これこれ!」って感じですよ。今の俺に足りないのは、これなんだなって。
世間の恋愛観も一周してピュアになってきている
──「young adult」は「BOYS BE…」的な青春を過ごした若者が大人になり、当時のトキメキを思い出す物語になっていると。
イタバシ 世間的にも、恋愛観が一周してピュアな方向になってきているって感じるところもあるんです。「BOYS BE…」の最初の頃って純愛の話だったんですけど、時代的に中高生でもバブルっぽい感じになっていた。だから、「2nd Season」の頃は「大学生なら車乗ってないとダメ」とか、「3高(「高学歴」「高収入」「高身長」)じゃないと」みたいな雰囲気もあった。でも、今の子ってそうじゃない。お金のことをあまり気にしないし、車なんて都内じゃあんまり持ってない。持っていても車種とかそんなに気にしないじゃないですか。
小沢 僕らは18になったらまず免許取りに行きましたからね。
イタバシ それが普通でしたよね。一度そうやって積み上がった恋愛幻想みたいなものが崩れ、フラットな方向に戻ってきたのかなって感じてます。
──そういう世間のムードも反映されて、大人だけど純愛な「young adult」はできあがったと。1巻収録の話で、小沢さんの印象に残っているエピソードはありますか?
小沢 これというのは難しいなぁ。ただ、俺は草野球をやっているので第2話のソフトボール部だった女の子のエピソードは好きですね。話もですけど、ストレッチをしているシーンあるでしょ? ああいうの見るとグッときちゃいますね。活発な感じがして好き。
玉越 扉で描いている絵ですね。このポーズは、女性特有の丸みがわかりやすく出るんです。肩の感じとか。
イタバシ 玉越くんは絵がうまくなったよね。最初に連載を始めたときなんかすごかったもん。
玉越 僕、読み切りもなしでいきなり連載だったんです。新人賞を獲ってデビューすることになったので、初代担当の人が上から「こいつをなんとかしろ」って言われたらしいんですが、「こんな絵が下手なやつ、どうしろっていうんだ」って頭を抱えて。それで「はじめの一歩」の森川(ジョージ)さんに相談に行ったらしいんだけど「これは無理だね」って言われて帰ってきたとか。
小沢 (笑)。いい話だなぁ。
- イタバシマサヒロ・玉越博幸
「BOYS BE… ~young adult~①」 - 発売中 / KADOKAWA
シリーズ2500万部超! 王道恋愛マンガ「BOYS BE…」の後継作!! かつてクラーク博士は言った「Boys be ambitious!」。この言葉は決して少年だけに向けたものでなく、大人もまた然り。これは大志を見出せない、恋愛に不慣れな“大人に成り行く者達”へ贈る、青春物語──。
- イタバシマサヒロ
- 「BOYS BE…」の原作担当として、1991年にマンガ原作者デビュー。小説家としても活動し「七不思議学園の風来坊」「月が射す夏 コバヤシ少年の生活と冒険」「エーベルージュ 魔法を信じるかい?」などの作品を発表している。
- 玉越博幸(タマコシヒロユキ)
- 1970年9月1日大阪生まれ。1991年に作画担当で連載開始したデビュー作「BOYS BE…」はヒットを記録し、現在も執筆が続く人気シリーズとなる。同作の原作を手がけるイタバシマサヒロとのタッグで描いた別作品にSFジュブナイル「A GIRLS」も存在する。
- 小沢一敬(オザワカズヒロ)
- 1973年生まれ、愛知県出身。1998年に井戸田潤とともにお笑いコンビ・スピードワゴンを結成。2002年、翌2003年と2年連続で「M-1グランプリ」の決勝に進出し知名度を全国区に広げる。独特の言葉使いや世界観を打ち出したネタが人気を集め、バラエティ番組やドラマなど多方面で活躍中。